箕郷達三人に挨拶した少年は黒い髪に焦げ茶の瞳。人懐こい笑みがよく似合う。 けれどそれとは別の威圧感もあった。不思議な気迫。 「年は十六、力は先に言っておくと、人の心が読めます」 祐という少年は、服から鎖を下げていて、その先に十字架がついている。十字架の中心には何か淡い緑色の石がついていた。 「人の…心?」 「そう、今貴方が何を考えているのか、全て解かる」 祐が誠に向けた笑みは何処か挑戦的だ。 「綺羅の知り合い?」 「ああ、私の友人だよ」 綺羅の友人…というには若すぎる気がする。 「まぁ、友人というよりは天敵かもしれないけどね」 「て、天敵ぃ!?」 声が裏返る箕郷。司と誠は何とも言えない様な顔をしている。 「失礼だな。それじゃぁ俺、悪者みたいじゃない?」 「そういうつもりは無いんだけれどね」 綺羅は苦笑する。 「綺羅とため口きいてるし…」 聖がぼそっという。 「だから、友人だと言っただろう?」 箕郷は説明を求めようと、葵を見たが、目が合っても肩を竦めるだけだ。 「綺羅、彼と俺達をひき会わせてどうするつもりなんですか?」 誠が綺羅に問う。 「彼にも、協力してもらおうと思ってね」 「ちょっと待てよ!何で行き成りそんな訳の解からない奴を仲間にしなきゃいけないんだよ!!」 聖が怒鳴る。 「訳の解からない?心外だな。さっきので結構解ってもらえたと思ったんだけど?」 「言い負かされたばかりなのに突っかかるな」 祐と要の二人に言われて聖はぐっとつまる。 「大丈夫、邪魔になる事はしないから」 祐はにっこり笑う。 「文句はもうないね?何かと役に立つはずだから」 綺羅は微笑した。 「聖、言い負かされたんだ?」 箕郷が聖に聞く。 綺羅が今日はゆっくりするようにと言って退室した後だ。祐もこの場に居る。 「全員な」 航が言う。 「ぜ、全員?航も?」 「ああ」 「言い負かしたって、そういうつもりは無いんだけどなぁ」 「人の心が読めるってどんな気持ち?」 麻希が祐に聞く。祐はじっと麻希を見つめて言う。 「気分のいいものじゃないけどね。それが俺の力だから否定するつもりはないよ」 麻希は一瞬どきっとする。心が読める。それは彼に嘘は通用しないということ。自分がどいういうつもりで尋ねたのか、お見通しだということ。 嫌味だと解っただろう。でも、そんなことは気にしないという顔で祐は言う。 「いいことばかり考えてる人間なんていないでしょ。妬み、憎しみ、羨み。綺麗なものなんてない」 瞳を逸らさない、何者にも負けない強い瞳。 そんな感情が渦巻く中で、彼はどうして生きてこられたのだろう。 醜い、人間。 「俺はもともと嫌なことはすぐ忘れる性質なんでね」 祐は誠と司を見る。 「仲良くしたいな、特にお二人とは」 祐はまた、人懐こい笑みを浮かべた。 「……ああ」 司は戸惑っていながらも同意する。誠は何も言えないでいる。 「誠…って呼び捨てでいいかな?貴方に訪れる未来が幸せであるように。貴方が出会うであろう人が、何より幸せであるように」 祐の言葉に誠は彼と視線を合わせる。 「君は……」 「言っただろ?俺は人の心が読めると」 「ああ、そうか…そうですね」 「おいおい、なんで勝手に二人で解かり合っちゃってんのっ!」 優が二人に言う。 「これぞ俺の特権っしょ」 祐は笑って優に言う。 「うっわ、ナマイキッ!」 祐と優がじゃれ合うのを見て皆笑う。 「溶け込むのが早いな」 護が祐を見て言う。 「ああ…人の心を掴むのが上手いんだ」 航が微笑する。 「ひょっとしたら、大きな戦力になるかもしれないな。いろんな意味で」 「何、くやしいの?」 麻希が要に言う。 「別に…」 言葉の割に表情はぶすっとしている。 「仕方ないよ。祐には誠の表面上のバリアなんて通じないんだから」 箕郷が言う。 「誠が何を考えているのか、何を思っているのか、あいつには解かるんだ」 司が言う。 「あれ?司…何か変わった?」 麻希が気付いて言う。 「司せんぱ〜い」 由宇が猫撫で声を出して司に走り寄ってくる。 「優ってばひどいんですよぉ、私のこと人間として扱ってくれないんですっ!」 「ちょっと待て!お前、何で司は先輩で俺は呼び捨てなんだ?」 「だって、年上っぽくないんだもん」 「確かに年上っぽくないよな、兄貴は」 司が笑う。由宇は呆然としている。 「だからナマイキなんだよなぁ、お前、俺の弟だろ?」 優はそれに気がつかない訳でもないのに普通に司と接している。 「私、優の見方変えようかな…」 麻希が呟く。 「うん。尊敬する」 箕郷も言う。あの司を見てどうして普通に話せるんだろう。 「優っち、あんまり女の子苛めちゃだめっしょ?」 「げっ、祐。こいつは女じゃねーよっ!」 「え―――っ!ひど〜い!!」 「俺はお前みたいな女子高生なんて好みじゃないんだよ」 「誰もお前の好みなんて聞いてないって」 「こらっ、祐!そういうのはこの口か?ええ?」 「うわっ、止めろ。助けて司っ!」 祐は司の後ろに逃げる。 「どけよ司」 「おい、祐。俺は巻き添えは食いたくないんだ」 「ええ〜っ!ひどいなぁ、見捨てるんなら俺、あること無いことばらしますよぉ。例えば霧の中で箕郷にこっ!」 言いかける祐の口を塞ぐ。 「解かったからそれ以上言うな…」 「何?司が霧の中で何したって?」 聖が興味津々と言う顔で司に尋ねてくる。 「うるせぇ、お前は関係ねーよっ」 「優こそ関係ないだろ?」 「俺は司の兄貴なの」 「ろくでもないけどな」 司がぼそっと言った一言に皆大笑いする。 「皆さん、食事の用意が出来たんですけど…」 葵が皆を呼びに来る。 「待ってましたぁっ!」 聖が嬉しそうな声を上げる。そして皆次々と部屋から出て行く。 出て行く時に祐と葵の目が合う。それに祐は微笑んで言う。 「大丈夫だよ」 何が大丈夫なのか、とは聞かなくても解かる。自分が心配していたことだから。 綺羅が何を考えているのか、祐には解かるだろう。そして、もし祐が綺羅の敵に回るようなことがあれば…。 考えすぎだということは解かっている。しかし、不安を抱かずにはいられないのだ。 祐の、表面的なものと内面的なものが噛み合っていない気がしてならなかった。 『大丈夫だよ』。その一言にすごく安心した。 なんて単純なんだろう。だけど、その言葉の中にひどく信頼できるものがあったのだ。 「大丈夫…」 葵が低く呟くと視界の端に人影が映る。 「箕郷さん?どうかしたんですか?」 一人だけ部屋の中に佇んでいる。 「えっ?ううん、何でもないの。ただこういう雰囲気懐かしいなぁと思って」 「懐かしい?」 「うん。賑やかなのって懐かしい。だって、一緒なのが司と誠だもん。あんな馬鹿騒ぎしないでしょ?」 「そうですね」 そこで葵ははっとする。 「早く行きましょう。綺羅が皆さんに話があるそうです」 「うん」 「三日後に、城下の方に行って欲しいんだ」 「城下に?何故」 美也が尋ねる。 「人を雇いに行って欲しいんだ。『法学貸出所』にね」 「『法学貸出所』?何ですかそれ?」 「力を持つクロアナの人間の中でも特に万能な人間を集めて期限付きで貸し出している場所だよ」 綺羅は説明を始める。綺羅の綺麗な声がすっきり頭の中に整理されていく。 「要達に亜希を探しに行ってもらったね?亜希は城の東の塔の最上階の部屋にいるらしい。城に入り込むには航の力を使うのも良いんだが、逆に力の強い者には見つかりやすい。だから、万能な法学所員が必要なんだよ。人を眠らせたり、浮遊したりも出来る。皆で行って、自分達に相応しいと思う術者を雇ってきてくれ」 「金は?あそこって結構金が掛かるんじゃなかったか?」 聖が綺羅に問う。 「大丈夫。金銭面は全額、私が責任を持つよ」 それだけ言うと綺羅はまた説明を続ける。 「航達に情報収集をしてもらったが、おそらくこの件にに関して大臣が関わっているだろう。大臣の悪政は住民も不満の声を漏らしている。ひょっとしたら大臣同士が繋がっているかも知れないな。あと、謙という軍の総司令官」 その言葉に一瞬、誠は肩を揺らした。しかし、それには誰も気付かない。 そう、祐以外は。 祐は誠の感情の変化を敏感に感じ取っていた。 「彼には聖も対面しているね。ある意味大臣は取るに足らないかも知れない。私達にとって一番の強敵は彼かも知れない。必ず戦う時が来るだろう。近いうちに」 誠の心理は揺らいでいた。 『強敵』『戦う』『近いうちに』綺羅の言葉に予感していたものが確信に変わっていく。 敵となることに迷いを感じているのだ。 まだ何を選べば良いか解からないというのに。 「とにかく、今日明日はゆっくりするように」 綺羅の話が終わると皆食事を始める。 夕闇の中、綺羅の神殿を取り囲む森の中、誠は大木を背に座り込んでいた。 「誠」 話し掛けられて誠の視線が泳ぐ。 「祐…何か?」 「謙…」 祐の言葉に誠はびくっと反応する。 「何が言いたいんですか?俺は……」 「人の心が読めるのってさ、良い事だとは思えないよね」 祐の話が突然飛ぶ。 「でも、その人の想いを知ることによって、何か言葉を掛けることは出来る。そう、思わない?」 「?…ああ」 「貴方の力も同じようなものだ。人の事を知りすぎてしまう」 祐は誠の瞳を逸らさずに言う。 「けれどそれは決して、間違っている事とは限らない。そして、誰にも貴方の想いを変える事は出来ない」 「祐っ」 誠が何か言おうとするのを手で塞ぐ。 「貴方は貴方の思うようにすればいい。迷うのはどちらも手放したくないからだ。だったら、両方手に入れる方法を考えればいい」 誠は目を見開く。 「両方手に入れる…?」 口から離された手を見つめてしまう。 何を言っているのだろう。両方手に入れる方法なんて…。そんなもの、あるとは思えない。 「考える前に諦めてどうすんの」 「だけど…」 「大切だから手放したくないんだろ?だったら、もっと貪欲になるべきだ」 「どうしてそんな風に考えられるんですか?」 「欲さなければ何も手に入らないから」 祐は誠の心を揺さぶる。 「欲しいと思うものは手に入れようとしなければ何も変わらない」 「……」 「誠ってさ、綺麗だよねー」 「え?」 「俺は、誠も欲しい」 祐は誠に手を差し伸べる。誠は祐の手を掴んで立ち上がる。 「考えてみます、あの人に会うまでに」 その言葉に祐はにっこり笑う。 「何かしなければ何も変わらない」 「貴方にしか出来ないことがある筈だよ」 祐は人好きのする笑顔を浮かべる。 「そうそう、謙も俺の好みなんだよなぁ」 「え?」 「俺、美形なら男でも女でも好きなの」 その言葉に誠は苦笑する。 「箕郷も好きだよ。可愛いから」 「それは、司の前では言わないほうがいいですね」 「皆、結構好きだよ。馬鹿正直で」 「ははっ」 誠は笑う。こんな風に笑うのは久しぶりだ。 「帰ろう。待ってるのは悲しみばかりじゃない」 「ああ」 微笑むと誠は歩き始めた。 これからの事を考えよう。過去ばかりに囚われず。 聖は夕食も取らず、神殿の上に座って夕暮れの空を眺めていた。 「もうすぐ…か」 聖は溜息を吐いた。 会いたくない。出来るなら、会いたくなんて無い。もし、会ってしまったら…。 「聖…」 呼ばれて振り返る。 「何だってこんな所に居るんだ…」 自分の名前を呼んだ人物は溜息を吐いた。あまり話した記憶は無い。 「何の用だよ、航」 「いや、もうすぐ夕飯だから呼んで来いって…」 聖は大袈裟に溜息を吐く。 「………あんた、最近パシリになってねぇ?仮にも俺らの中で一番年上だろ?」 「いや、そうなんだけど…」 「ま、年上には見えねーけどな、顔」 「止めてくれ、気にしてるんだ」 航が嫌そうな顔をするのを見て聖はにやっと笑う。 「いいじゃん。それで八歳も年下の子落としてんだからな」 「あのなぁ…」 航は溜息を吐く。 「その見た目なら二十四歳と十六歳には見えねーよ」 「いくつに見えるんだ?」 「せいぜい…十七…八?俺と同じくらいだな…。まぁ、護は逆に老けて見えるけど…」 くっくっと聖は笑う。 「あんた、これでも王子サマなんだよなぁ…。しかもあの国の…」 「……ああ。戦争始まったのは俺の所為だ。何とかして止めたい。馬鹿だったんだ。何も解かってなかった」 「仕方ないんじゃないか?まだ子供だったんだし…」 「そんなこと、言い訳にはならない。結果的にたくさんの人が苦しんで…それを知らずにのうのうと生きてきたんだ」 「そうなることを考えられなかったのはあんたが悪いのかも知れない。だけど、全てがあんたの責任じゃない」 そういうと聖は立ち上がる。 「いいよな、兄貴ってさ」 「?」 「責任感があって、優しくて……。でも、自分一人の責任にしてたら、逆に弟は苦しいんだよ」 「一体何を?」 「だっからさぁ、もっと頼れよ、弟って奴を信用しろよ、それから…使いっ走りにされんな!」 びしっと航を指差して言う。 「んじゃ行くか、夕飯なんだろ?」 「ああ」 航は聖の後ろに着いていく。 自分は、遠慮していたのだろうか、皆に…。もっと自然に付き合っても良いと…。 聖は子供っぽく見えながら周りをよく知っている。 自分の事も周りの人間の事にも決して手を抜いたりしない。明るく交わしながら、人が一番言って欲しい事をさらりと自然に言ってしまう。 勘の鋭い男だ。 「あ――っ、聖!遅いよ!!」 麻希が怒りながら言う。 「悪い悪い。ちょーっとこのお兄サマと語り合っちゃってたんでな」 「もう、何言ってんの」 聖はふざけて笑う。 「兄貴?どうかしたのか?」 司が航に言う。 「いや、何でもない」 航は微笑む。なんて優しい時間なんだろう。なんて暖かい……。 いつかこれが崩れてしまうのだろうか?そんな事あってはならない。 そこまで考えて、はっと祐に目が行く。視線が合った。祐はにっこりと笑う。彼にはもう自分が何を考えていたのか解かってしまっただろう。それでも、不思議と嫌な感じがしなかった。 此処に居るのは強者ばかりだ。 「司、箕郷に言ったのか?」 「…ああ」 そう、だから。俺も強者の仲間入りをしてやろう。 「答えは聞いたのか?」 「いや、まだだ」 「何故?」 「迷ってるから…」 「箕郷が?それともお前が?」 「兄貴…」 司は溜息を吐く。航は微笑する。 「変わったな。誰のおかげだ?箕郷か?それとも…」 「意地が悪い」 「良い方に変わったんだから、俺はどちらでもいいさ」 「良い方に…か。そうなのかな…」 「お前は違うと思うのか?」 「いや…」 「ならいいさ。食事にしよう」 「……ああ」 気に入らないような顔をしていたが、司は頷く。 「良い答えが貰えるといいな」 「どうかな…」 そう言って司は箕郷を見た。 不思議な巡り合わせ。肝試しの日から、自分達の日々が変わってしまった。 全てが変わり、出会うはずの無い人達と出会い、今こうして一緒に食事をしている。もし、箕郷が肝試しに誘ったりしなかったらどうなっていただろう。もし、箕郷が誘ったのを断っていたら…。 此処には居なかった。 誠や要、聖…。他の皆と出会う此処も無く、何も知らないまま、一生を終えていたのだろう。 それが良い事なのか、悪い事なのか、終わらなければ解からないけれど…。 夕食後、以前と同じ部屋に箕郷達は泊まった。(祐は別の部屋らしい) そして以前と同じように(葵も一緒に)その部屋に集まった。 「皆集まるのって久しぶりだね」 葵に言ったのと同じようなことを箕郷は言う。 「だよなぁ、三ヶ月、別々だったんだし」 「でも皆無事に帰ってこれて良かったよねぇ」 「おいっ、ちょっと待て。結局危ない目に会ったのって俺だけじゃねーのか!?」 聖が言う。 「当然だろう」 「なんだと!?其の所為で俺は寿命が縮まったんだぞっ!」 「大袈裟な」 「大袈裟じゃないっ!!」 「まぁまぁ、いいじゃないか。ちゃんと戻って来れたんだし…」 護が止めに入る。 「俺って絶対損な役回りだよなぁ」 聖がぶつぶつ文句を言う。 「それは否定しない」 「兄貴っ!」 聖がギャーギャー文句を言っているのを見て皆笑う。 そう、まるで何年も会ってなかった友人を懐かしむように。たった数ヶ月前、初めて会った人達なのに。 「まるで其の時の事が目に浮かぶようだな」 航は言う。周りの皆もこれを聞いて苦笑する。 「ああ、聖っそれ俺の荷物だぞっ!踏むんじゃねぇっ」 優が聖に掴みかかる。 「止めろ、二人とも」 やはり護が止めに入る。 「こんばんはーっ」 祐が明るい声を出して部屋に入ってくる。 「祐っ、何だよ?」 「何?ひっどいなぁ、其の言い方」 優の言葉に祐は傷ついたような言い回しをするが、顔は笑っている。 「でも、本当に何か用が?」 美也が祐に尋ねる。 「ううん。ただ、どーしてるかなぁと思って…。ああ、美也ちゃんって美人だね」 祐は美也に近づいて手を握る。 「離れろ、放せっ」 航は祐を両脇から掴み上げる。 「やだなぁ、俺なんかに嫉妬するなんてダメですよ、航さん。男前が台無し」 甘えた声を出して航に言う。 「ふざけるな」 航は溜息を吐く。 「航さん、ヤキモチ妬いてくれたんですか?」 「え?…いや、その……」 美也が目をきらきらさせて航に尋ねる。航はどう答えるべきかしどろもどろしている。 「いやぁ、熱い熱い」 「祐っ!」 祐の言葉に航は怒るが他の皆は大笑いする。 「んじゃ、俺はこれで。様子見に来ただけだしね」 そう言って祐は部屋を出て行く。 「何なんだ、あいつは」 航は溜息を吐く。 「面白い方ですよねぇ」 「面白いかぁ?何考えてるか解かんねーからなぁ」 美也と優はそれぞれ意見を述べる。 「悪い人ではないと思いますけど…」 葵は呟くように言う。 「人の心が読める…か」 麻希が呟く。 「麻希の嫌味も鼻にも掛けてなかったよな」 「聖っ!」 「本当の事だろ」 「まぁ、それは置いといて、其の心が読めるっていうのがどの程度かってことだな」 護が二人を止めながら言う。 「人の心、考えてる事が全て解かるのか、それとも考えている事のごく一部が解かるのか…」 要が呟く。 「たぶん、全て解かるんだと思います」 誠が言い、航も頷く。 「ああ、俺もそう思う」 「人の心を細かに捉えて、其の上で其の人間に一番良い行動をとっている。そんな気がするんです」 誠は口元に手をあて、考えながら言う。 しばらく、不思議な沈黙が部屋に圧し掛かる。 「で、今のところ奴は、少なくとも俺達に害を与えるようなことはしてない訳だよな」 聖が言う。其の言葉に皆、ほっと息を吐く。 「ああ、それどころか、俺達を助けてくれている」 航が言う。皆はそれに頷く。 「しっかし、俺らの考える事は皆奴に解かるのに、俺らには全く解からないなんてせこいよなぁ」 「綺羅の友人っていうんだから只者じゃないのは確かだろう」 「そりゃ言えてる」 優は苦笑する。 不思議な少年祐。彼は何を思って自分たちに協力しようというのだろう。 「どうだい?彼らに会った感想は」 「皆それぞれ面白いな。気に入ったよ。特に、そう。誠と司、それに要と聖。後は箕郷だね」 祐はにっと笑う。 「司はまだ変化途上で興味深いし、要の想いの行く末も見てみたいし、聖は…そうだな、単純で単調で奥が深い。あそこまで自分の事を理解している奴はいない。箕郷は将来的に大きく変化しそうだな。何より、周りの環境がいい」 綺羅は面白そうに聞いている。 「誠は?」 「誠はこれから一番大きな変化を見せるだろう。彼と会う事によって。そして綺羅、貴方が望む日も、彼に会う事によって歯車が回り出す。それを目の前で見れるんだから、嬉しい事この上ない」 「気に入ったようでほっとしたよ」 微笑を浮かべて綺羅は言う。 「気に入ると解かっていたじゃないか。俺は、人の心の変化や葛藤を見ていくのが好きなんだ。それはあんたも知ってる事でしょ」 「そうだね」 二人は密かに笑い合う。 これから起こる事を仄めかして。 「何年の時が掛かってもお前の望みは叶うよ。きっとね」 祐の言葉は綺羅にしか聞こえず、闇の中に吸い込まれていく。 何があっても変わらない願いを胸に秘める綺羅にとって祐の言葉は何より心強いものだった。 そう、何よりも…。 |