〜聖域〜



   森の奥に聖域あり
   そこには綺羅という者住み、その者は不変の若さと永久の命をもつ
   クロアナの均衡を守るただ一人の許されし者
   綺羅がこの世から解き放たれし時、世界全土に迷宮の恐怖が訪れる



「ねぇ、綺羅ってどんな人なの?」
 綺羅の所に向かう途中、箕郷が聞く。
「ああ、クロアナでも知らないって人はいないぐらいの有名人だぜ」
 聖が歩きながら答える。
「クロアナの術者ですっっごい綺麗な人なんだって、年も性別も不明で変わり者って噂なんだけど…」
 聖に続いて麻希が言う。
「会った人はほとんどいないって」
「なんで?」
「う〜ん、よく知らないけど…」
 麻希が言葉につまる。
「結界が張ってあるんだ」
 箕郷のすぐ前にいた要が言う。
「結界が張ってあるからなかなか入れる人がいない。だから綺羅がどんな人物なのか知っている人はほとんどいない。ほら、目の前にもあるだろう」
 要が足元に落ちていた小石を拾って投げる。
 石は見えない壁に阻まれて途中で跳ね返ってくる。
「よーするに、この結界を壊さない限り、綺羅に会えねぇってことだよな!!」
 聖は力を使って結界を破ろうとする。他の皆も同じように結界を破ろうと力を使う。
 しかし、結界には何の変化も見られなかった。
「おい!女はいいとしても、てめーらは何かしろよ!見てないで!!」
 優は傍観していた誠と要、司に怒鳴る。
「馬鹿だなお前ら。結界には種類があるんだ」
「なんだと!?」
 聖は結界に種類があることよりも『馬鹿』と言われたことに反応した。
「まぁ聖、落ち着いて。結界には二つの種類があるんだ」
 誠が聖を宥めて説明する。
「一つは攻撃型といって、結界が張られた力よりも強い力をぶつけて壊すものです。これは破られた場合、結界を張った本人に結界の力と破った力の差額分のダメージが当たります。もう一つは中和型と言って、結界と同じだけの力を当てて、中和させるものです。これは攻撃型と違って破られ難いし、ダメージも受けたりしませんが、張るのに時間がかかるし、難しい物です。一般的に攻撃型が多いですけど、綺羅の場合恐らく中和型でしょう」
 誠は一気に説明して結界に近づく。
「これは、綺羅の大体三分の一ぐらいの力で作られてるな」
 そう呟くと、手を結界に当てて力を高めていく。すると、一瞬バチッと音がして結界が消えた。
「お前、何でそういう事を早く言わないんだよ!」
 優は怒って誠に詰め寄る。
「少し、試してみたかったんですよ」
「試す?」
 航が訝しげに誠を見つめる。
「どれぐらいの人がどれだけの知識を持っているか、それが知りたくて」
「なんか、馬鹿にされた気がするな」
「実際に馬鹿なんだから仕方ないだろう」
「てめぇ、雇われてるくせに、偉そうなんだよ!すっげぇムカつく!!」
 要の言葉に聖がキレる。しかし要は冷ややかに視線を返して言う。
「別に俺はお前に雇われているつもりは無い。俺が雇われていると思っていて従うのは誠だけだ。金も実力も無い奴に従うつもりは全く無いからな」
 聖は言葉に詰まる。事実、聖は要の殺気を感じただけで足が竦んでしまった。
「雇われてるとか、そんなこと関係無いじゃない。もう皆仲間なんでしょ?」
 箕郷は誠を見る。要が従うのは誠だけだ。同意が欲しい。
「そうですね、俺は雇うと言ってもそんな命令とかするつもりはないから」
「そうそう!喧嘩しちゃだめだよ、聖も要も、絶対!!」
 麻希が強く言い張る。聖も要もこれ以上言うことは無かった。
「この先にも、もう一つ結界があるな」
 司が言う。静かな声音。


「綺羅様、結界が…」
 静かな森の奥に立てられた純白の宮殿。広い割に中に住んでいるのは二人だけ。
 綺羅、そしてもう一人、黒髪を真ん中で分けて後の方はしっかりと一つに結わえている少年。長めに伸ばした髪は綺羅の真似をしたものだった。
「そうだね、来客なんてどれくらいぶりだろう」
 そう言って綺羅は微笑を浮かべる。その姿は窓から入ったわずかな光に当てられてあまりにも綺麗だった。中性的な、まるでこの世のものでは無いような美しさ。
「確か、一年半ぶりだったと思います。カルミナの使者が来た時に」
「ああ、彼の力はかなりのものだったね。結界を破ったらすぐに倒れちゃったけど…」
 綺羅は楽しそうにくすくす笑う。彼の性格についていける人などそういる筈もなく、少年が綺羅の処に来るまで何人か雇っていたようだが、からかわれるだけからかわれて皆、辞めてしまった。
「綺羅様はその大変な苦労をなされた方を適当にあしらって帰してしまわれましたね」
 少年は溜息をつく。
「まぁいいじゃないか。そうそう、客人を迎えに行ってもらえるかな?」
「え?まだ第二の結界は破られていませんよ?第二の結界は綺羅様の力の三分の二も使ったものだから簡単に破られる筈は無いんですから」
「大丈夫、丁度着いた頃に結界は破られている筈だよ。あの子がいるからね」
「あの子?」
 少年は訝しげな顔をする。
「とにかく、行っておいで」
 優しく綺羅は言う。少年はそれに従った。


 第二の結界が破られた。少年が結界に着く寸前だった。
(え…もう?)
 綺羅の言った通りだった。
(でも、早すぎる)
 少年が知る中では最短だった。そう、宮殿から此処までくるのに十分とかからない。そして、第一の結界が破られてから第二の結界が破られるのは普通、一時間ぐらいかかるだろう。
 けれど今回は、十五分程度しかかかっていない。
(一体誰が?)
 少年は急いで結界のあった場所に行く。
(いた)
 十人ほどの男女が。けれど…誰も疲れた様子は見せてはいない。普通、第二の結界を破ったとなれば相当な疲労が溜まる筈なのに…。倒れるのが当然なくらいだ。
 少年は彼らに近づく。
「初めまして、僕は葵(あおい)と言います。綺羅様の使いでやって参りました」
 葵はにっこり笑ってあいさつをする。すると、
「キャー!可愛いv」
「弟に欲しい〜♪」
「私より小さいー!」
「年いくつ?」
 女四人が歓声をあげつつ葵の周りに集まる。
「え、あの…」
 葵はこんな風に女の人に囲まれたことが無かったために赤くなる。
「女って…」
「なんか、俺ら虚しくねーか?」
 それを見て男は溜息をつく。
「四人とも、彼も困っているみたいだから止めてあげたらどうですか?」
 誠が四人を止める。他の男達は皆、
(よくやった、誠!!)
 と思っていた。葵も四人が離れてくれたのでふぅっと息を吐く。
「綺羅の所から来たんだよね?年はいくつ?」
 誠は優しく笑いかけて訊ねる。
「あ、はい。十二歳です。綺羅様に皆様を迎えに行くようにと言われて…」
 葵は少し緊張して言う。
「そう、ありがとう」
 誠は綺麗に笑う。葵は思わず赤くなる。
「誠!なに葵くん口説いてんの!?」
 箕郷が誠の後ろから顔を出して言う。
「別に口説いてませんよ」
「じゃぁ、何で葵くん赤くなってんの?」
「そんなこと俺に聞かないでください」
「え、あのっ、だって、凄く綺麗だから…」
「え?」
 誠はその言葉にちょっと驚く。行き成りそんなことを言われるとは思わなかった。
「何か、納得出来るあたりムカつくわ」
 由宇が言った。他の皆も同じように言う。
「だよねー。私も最初見た時そう思った」
「俺も納得してるあたりヤバイかもなぁ…」
「え…あの…」
 誠は慌てるが、皆勝手に納得してしまって口の挟みようが無い。
「あ、綺羅様の所に案内しますので、ついて来てください」
 葵が話を打ち切り、誠はホッと胸を撫で下ろす。一行は綺羅のもとに向かった。


「綺羅様、お客様をお連れしました」
 静かな広いホール。箕郷達はそこに案内された。静かな冷たい空気が気持ちいい。
「久しぶりだね、誠」
 綺羅は開口一番に言う。皆は驚いて目を見開く。
 誠は綺羅がそう言うことを解っていたように、溜息を吐く。
「お久しぶりです」
 誠は平然と綺羅を見据えて言う。
「え、知り合いなんですか!?」
 葵は二人の顔を交互に見る。
「うん」
 そう言って綺羅はくすくす笑う。
「お変わりの無いようで何よりです」
「うん、結界を壊したのは誠だろう?」
「え、そうなんですか!?」
「はい。だからといって別にどうというわけでも無いでしょう?」
「そうだね」
「ちょ、綺羅様!?」
「皆さんお疲れだろうから、部屋に案内してやってもらえるかな?私は誠といろいろ思い出話でもしたいし…」
 葵が口を挟もうとしたが、綺羅は有無を言わさず追い出した。葵は不信そうな顔をしながらも綺羅に従う。
「では、御案内します」
 葵は綺羅と誠を残して、他の皆を連れて部屋を出て行った。皆を見送ってから誠は綺羅の方に振り返る。
「本当に、お変わりの無いようで…」
 嫌味たっぷりの口調で言う。
「意地悪だな」
 綺羅は苦笑する。それを見て誠は言い返す。
「貴方に言われたくありませんよ」
「もう、八年ぶりになるか」
「全く、体良く追い出して…」
「葵のことかい?そっちの方が話しやすいだろう」
「ええ…そうですね。それよりあの子、葵は代わりじゃないでしょうね?」
「違うよ。そんな怖い顔しなくてもいいだろう?」
「させているのは貴方です」
 誠はいかにも不機嫌そうだった。
「俺が何故此処に来たかは、解っているんでしょう?」
「そうだね、ゆっくりこれから話そうか…」
 綺羅は微笑む。優しく美しく。


「誠って綺羅と知り合いだったの?」
 箕郷は護に尋ねる。
「いや、俺もよく知らない。葵の方が知っているんじゃないのか?」
 そう言って葵を見る。一番前で歩いている葵は振り向かずに答える。
「僕も知りません。僕が此処に来たのは四年前のことですから、それ以前の知り合いだと思いますけど…此処が皆さんの部屋です。そこの二部屋に男の方、向かいの一部屋が女の方の部屋です」
 葵は立ち止まって指差す。
「護や聖の方がよく知ってるんじゃないの?兄弟でしょ?」
 箕郷が言う。皆とりあえず一番広い女性の部屋に入って話す。
「何も知らねーよ、んな事!あいつ自分の事全然話さねぇし」
 聖はムッとしているようだった。
「聖、気になるんだよねー?誠ちゃんが初恋の相手だし」
 麻希がからかって言う。
「それはお前や兄貴だって同じだろうが!!」
 聖は真っ赤になって言い返す。怒りと恥ずかしさが入り混じったような顔だった。
「ちょっと、待ってよ。男同士でしょうがあんた達…」
 由宇がつっこむ。
「始めて見た時は男か女かなんて解らなかったよな。凄く綺麗だったけど」
「初めて会った時?何言ってんの?あんた達兄弟でしょ?」
 護の言葉にまた由宇が言う。
「俺達と誠はホントの兄弟じゃねーもん」
 聖が言う。その言葉に麻希が続く。
「空から降りてきたんだよね。それを私達が見つけて…」
「ああ、もう八年も前になるかな。俺達の所に来てから一度も一人で村を出てないし、綺羅とはそれ以前の知り合いなんだろう」
 護が最後にそう言うと葵が聞いてきた。
「あの、もっとよく聞かせてもらえませんか?綺羅様の結界をあんな簡単に破るなんて…」
「え?」
「普通、綺羅様の結界を破るのはどんなに力が強くても一時間ぐらいかかるんです」
「でも、誠さんは一分ぐらいしかかかってませんでしたよね?」
 美也が葵を見る。
「はい。そして、第二の結界を破った後は誰でも、まともに歩くことも話すことも出来ないんです。けれど、誠さんは息一つ乱していませんでした」
「それって、誠がすっごく力が強いってこと?」
「はい。僕には図りかねますけど、綺羅様に匹敵する程の力があるんじゃないかと…」
 葵の目は真剣だった。
「俺も知りたいな」
「え、司?」
 司が言ったので箕郷達は驚いた。司がそんな事を言うなんて思っても見なかったのだ。
「話してくれないか?」
 司にとっても誠はなんだか気になっていた。何をするにもそつが無くて完璧で…知り尽くしていた。その笑顔も仕草も性格も何もかも作り物のように思えた。それに……司にとって何よりも重要なことなのは……。
「何だ?人のこと知りたがるなんてらしくねーな。お前。いつも知らん顔した鉄面皮が…」
 優が驚きとからかいを交えて司に言う。
「別に…」
 愛想の無い声で答える。それ以上誰も言葉が続かなくて嫌な雰囲気が流れた。
「あ、あの。とにかく、誠のこと、聞かせて。ね?」
 箕郷はなんだか居たたまれなくなって話を元に戻す。
「あ、そうだな…あれは、八年前の冬のことだ。雪が降ってた」
 護が話し始める。皆静かに護の話を聞く。



 八年前の冬。
 その年は普段より寒さが厳しく、雪もたくさん積もった。
 例年、それほど寒くはないミグムでも、それは例外ではなかった。
「あ、雪が降ってきたよ!珍しいねぇ」
 窓の外を見た麻希が歓声をあげて傍にいた三人に知らせる。
「え、マジ!?外行こうぜ、外!!」
 聖も嬉しそうに叫ぶ。他の二人も同様で、四人は外に出て遊ぶことにした。
「綺麗…。積もるかなぁ」
 亜希はほうっと、感嘆の息を漏らす。息が白い。
「ね、森の方に行こうよ。あの場所に!!」
 麻希が叫ぶ。あの場所、今は咲いていないが、春になったら満開の菫の花畑。四人の秘密の場所。
「そうだな。行こうか」
 静かな場所でゆっくり見たい。
「でも、遠く行くんなら暖かくしてかなきゃダメだぞ」
 護が言う。皆は一度中に入って、コートを着てから菫畑に向かった。


「段々積もって来たねぇ」
「明日には雪合戦出来るかもなぁ」
「あ、私雪うさぎ作る!!」
「いっぱい積もったらかまくらでも作ろうか」
 珍しい雪に皆ドキドキ胸を膨らませていた。はあ、と白い息を吐き上を見上げて。
「!あれ、なんだ!?」
 聖が声をあげて指を差す。皆は聖が指を差した方向を見る。
「…人だ…」
「人は空なんか飛べないよ」
 護の呟きに麻希はそう言うが、でも、あれは紛れも無く人の形をしていた。
「…天使?」
 亜希がふっと言う。天使…もし、そうだったら。こんな雪の日にはそんな奇跡があるかもしれない。皆子供心にそう思った。
 暫くしていると、段々その『天使』は護達の方に降りて来た。その『天使』は菫畑の真ん中に降り立った。護達は『天使』に近づく。
 護達と同い年ぐらいの、黒い髪、に緑の瞳。綺麗な子供だった。けれど…。
「怪我…してるの?」
 亜希が心配そうに言う。そう、その『天使』は血塗れだった…。顔にも、服にもたくさんの血がついていた。けれど、それが何故かその『天使』を一層美しく見せた。
 その『天使』こそ、誠だった。



「血塗れ?」
 箕郷は顔を強張らせていた。
「ああ、そうだ。でも、誠は全然怪我はしていなかった。誠の血じゃなかったんだ」
「え?」
「多分、他の誰かの血だろうな。今思えば、誠は何処かから逃げてきたのかもしれない…」
 護は呟く。
「力を使って逃げてきたのかなぁ…。あの、風の力で……」
 そう、誠のあの力なら飛ぶ事だってできる。あの時、箕郷が崖から落ちたときも誠は力を使って助けてくれた。
「解んねぇよ、あいつ、何処から来たのか、どうして空から降りてきたのか、全然言わねえんだもん。名前と年以外教えてくんなかったじゃん」
 聖は部屋に置かれていたベッドに腰掛けて言う。なんだか悔しそうだった。
「ああ、それから。とりあえず、家に連れて帰って、風呂いれて。何処から来たかも言わないから俺達の親父が引き取るって言ったんだ」
「でも、あの時の誠ちゃん、ホントに綺麗だったな。普通十歳の子供に綺麗なんて使わないんだろうけど」
「俺達めちゃくちゃ一目惚れだったもんなぁ…全員あの時好きになったんだよ」
「そうそう、それで最初の一年なんて全然しゃべったり笑ったりしなくて、誠に笑って欲しくていろんなことやったんだよね」
 麻希が思い出したように楽しそうに言う。
「結局笑わせたのは俺じゃん」
「あれは笑われたんでしょ。馬鹿だよね、木登りしようとして、最初に足かけたところで滑ってそのままこけて頭打ってるんだもん。誰だって笑うよ、あれは」
「誠が笑ったのに、変わりねぇだろうが!」
 聖は過去の恥ずかしい話を出されて真っ赤になっていた。
「まぁ、だから俺達も誠のことは何も知らないんだ。話さないから」
 護が言う。ずっと一緒にいても何も知らない。それが悲しいのだろう。
「誠は、綺羅の所から来たのかな?」
「さぁな…これ以上話していても仕方ないだろうし、とりあえず各自部屋に戻ろう」
 航が話を切り上げて部屋に戻るように促す。
「じゃぁ、おやすみ」
 女の子四人を残して男達は部屋を出る。葵も自室に戻っていった。


「誠…か」
 箕郷は溜息をつく。
「誠と会ってもう八年かぁ…今でも誠を好きなのはもうお姉ちゃんだけだもんなぁ」
 麻希が呟く。そう、亜希は誠のことが好きなのだ。会ったときから、多分ずっと…。
「皆、好きな人いる?」
 箕郷がふと訊ねてみる。訊ねてみるまでも無いのかもしれないけれど。
「私は司先輩が好きだって言ってるでしょー」
 由宇は会ったときと気持ちは変わっていないらしいことは普段の態度を見ていれば解った。
「私は…航…さんが…」
 美也は頬を赤らめて言う。
「私は……」
 麻希が言葉に詰まる。
「要が好きなんでしょ」
「え!?」
「解るよ。それぐらい」
 由宇がズバッと麻希の図星をつく。
「箕郷は?好きな人いないの?」
 美也は箕郷に聞く。
「え…私は…解かんない…」
 誰が好きなのか…自分でもよく解からない。
「もう、その話は終わりにして寝ない?眠いよぉ」
 麻希はこの話が続くのも嫌なのだろうが、本当に眠いらしい。
「そうだね、寝ようか」
「おやすみ」
 話はそれで終わって、部屋に点いていた明かりを消して寝た。明日は一体どうなるのか・・・。


 翌朝、皆は綺羅が用意しておいた朝食をとった。
 誠が部屋に戻って来たのはかなり夜遅くだったらしい。一体何を話していたのか。
 こんな食事、一体誰が作っているのか気になったが、なんだか綺羅が作ったにしても、葵が作ったにしても、少し怖い気がしたので考えないことにした。
「皆さんに、少し話があるんだ、食べながらでいい」
 綺羅が徐に話し出す。
「昨日、誠と話したんだけれどね。この人数で行動するとあまりにも目立ちすぎるだろう?だからこれから三組に分かれて行動してもらいたいんだ」
「え?」
 航が聞き返す。
「十一人もの人間が集まって行動していたら目を引くだろう。そうなるのは危険すぎる。だから、三、四人ずつチームを組んでもらう。そのチームは勝手に私が決めさせてもらった。異議はないかな?」
 綺羅が皆の顔を見る。別にチームを組むという点で異議はないようだった。
「一つ目のチームは、航、優、美也、由宇。この四人で行動してもらう。もう一つは、麻希、聖、要、護だ」
「ちょっと待て!なんで俺が要と一緒なんだよ!」
 聖が文句ありありという表情で抗議する。要は別にどうでもいいというような顔をしている。
「別にどうでもいいだろう。そんなことは」
 要はやれやれという風にわざとらしく溜息をつく。
「てめぇのその態度が気にいらねぇんだよ!」
「別に気に入ってもらおうとは思ってないからな」
「喧嘩はダメだって言ったでしょ!?」
 麻希が二人の言い争いを止める。
「喧嘩の内容がくだらなすぎるぞ、聖」
 護も少し呆れていた。
「私はなかなかいいチームだと思うけれどね」
 綺羅はくすくすと笑う。楽しそうだ。誠はそれを見て溜息をつく。綺羅は完全に楽しんでいる。
「誠は決めなかったの?」
 隣にいた箕郷が聞いてくる。
「綺羅がどうしても自分で決めるって言ったんですよ」
「そうなんだ…」
 箕郷は苦笑する。綺羅が変人だというのは何となく解かった気がする。
「それで、最後のチームが誠、司、箕郷の三人。それぞれのチームにやってもらいたいことがあるんだ。まず、航達には、フロレアの内情を調べてもらいたい。この国がどんな状態なのかよく知っておかなければいけないからね。それから、要達には亜希の居場所を探ってもらいたい。そして、誠達には、アルティナ山に行ってもらいたい」
「アルティナ山?」
 司が訝しげな顔をする。
「アルティナ山はクロアナの中でも最も険しい山として知られている。そして、その山には聖獣が住んでいると言われている。聖獣が君達を認めたらきっと協力してくれるだろう。必ず力になるはずだ」
 綺羅はにっこり笑う。
「やることは解ったね?早速出発するといい。これからきっと大変だろうけれど気をつけて」
 朝食の後、すぐにそれぞれ分かれて出発することになった。
 これからどうなるのか。先行き不安ではあるけれど、でも亜希を救うために、二つの国の戦争を止めさせるためにしなければいけない。
 これから、更に辛い旅になるだろうという事は簡単に予測できた。


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