空と太陽の瞳 act.2



 軍に仮登録を済ませ、配属された先を見て、ランティスはこれは何かの策略だろうかと思わずには居られなかった。
 オートザムの軍は大きい。大きいだけあって、部隊の数も多い。
 それなのに何故、こうもあっさりとイーグルの部隊に配属されているのか、疑問に思わない訳はないだろう。
 配属先は戦艦NSX活動部隊。司令官はイーグル・ビジョン。
 自分もそうなればいいとは思っていたが、本当にそうなるとは思わなかったのだ。
 案内されるまま、イーグル部隊の活動拠点となるNSX艦内へと連れて行かれる。このNSX自体もかなり大きく、矢張りバイクでの移動が多い。
 指定された部屋に行くと、中ではジェオと、もう一人見知らぬ青年が居た。イーグルは居ないようだ。
 部屋の中に入ると、ジェオがランティスに気づき、手を上げて挨拶をした。
「よっ、待ってたぜ。来てもらったところ悪いんだが、イーグルがまだ来てなくてな」
「来ていない?」
 指定された時間通りに着いたのに、まだ来ていないとはどういうことだろうか。疑問を返すとジェオは苦笑いを浮かべながら答えた。
「寝坊だ、寝坊。今日は遅刻しないかと思ったんだが、そうもいかなかったみたいだな」
「あのイーグルが、新人が来るからって早起きする訳ないだろ」
「ランティスのことは気に入ってたみたいだから、もしかしたらと思ったんだよ。大体、これでも朝一度起こしに行ったんだぞ?」
「そのまま引っ張ってくれば良かったんだよ。寝るなら此処で寝かせとけば遅刻もしない」
 ジェオが見覚えのない青年と会話を続けている。ランティスの視線に気づいたのだろう、青年がようやく名乗った。
「始めまして、俺はセルシオ・ジャーニー。本来名乗るのはイーグルに紹介されてからの筈なんだが、ま、いいだろ。ジェオの下でファイター達の管理をしてる。有体に言えばあんたの直属の上司ってことになるかな」
「ランティスだ」
 名前を名乗って、差し出された手を握る。
 直属の上司、ということで、彼も此処でランティスを待っていたのだろう。
 それにしても、イーグルは一体いつ来るのか。
 そう思ったところで、後ろのドアが開いた。
「お早う御座います。あれ、ランティス、もう来てたんですね」
「お、ま、え、が、遅いんだっ!!」
「ジェオ、あんまり怒ると血圧上がりますよ?」
「誰が怒らせてるんだ。誰が!!」
 ジェオがいくら怒っても、イーグルは堪えた様子もなくにこにこ笑っている。先日会った時と何ら変わりない笑顔だ。
「イーグル、その辺にして、新人に挨拶しろよ」
「ああ。そうですね。もう自己紹介の必要はないと思いますが、僕はイーグル・ビジョン。この部隊の司令官です。ジェオは副司令官、セルシオは…」
「もう俺は自己紹介は済んだ。お前が遅いから」
「それはそれは、手間が省けていいですね」
 にっこり笑って言うイーグルに、セルシオは呆れた顔をしている。ただ、ジェオみたいに怒鳴り散らしたりはせず、其の分言葉に嫌味が入ってくる。それもイーグルには全く堪えていないようだが。
「あ、僕のことはイーグルって呼び捨てにしてくださいね。うちの部隊は大体みんなそう呼びますから」
「いいのか?」
 先ほどから気になっていたが、司令官となれば、普通はもっと威張っていても良さそうなものなのだが、ジェオにしても、セルシオにしても、上司と言えども呼び捨てにするし、敬語は使わない、怒鳴るし嫌味も言う。上下関係がはっきり言って解からなくなるような所だ。
「構いませんよ。大体、此処じゃ僕が最年少なんですよ?」
「そう…なのか」
 何となく、そんな気はしていたが。最年少の者が司令官というのは、いいのだろうか。そう思ったことに気づいたのか、イーグルがにっこりと笑顔を見せる。
「最年少ですけど、経歴は長いんですよ。それに、此処じゃあまり上下関係はありませんから。気楽にしてください」
「…解かった」
 それが此処の流儀なら、それに従うまでだ。
 話にひと段落がついたのを見て、セルシオがイーグルに話しかける。
「なぁ、ランティスが前に話してた、精神エネルギーの数値がやったらと高い旅行者だろ?何でこう上手くうちに配属されたんだ。普通なら各所の部隊から引っ張りだこになってるだろうに」
「ああ、それは皆さんが遠慮してくれたからですよ。僕としては楽で良かったですけど」
「おやじさんの権力に物言わせたんじゃねーだろーな?」
 イーグルの暢気な言葉に、流石にジェオも剣呑な目を向ける。しかしそれにはイーグルは首を横に振る。
「父にお願いするのは最終手段ですよ。皆さん、自分より能力の高い旅行者を扱える自信がなかったみたいですね」
「成る程な。下手したら目の上のたんこぶになりかねない、ってか」
 納得したようにジェオが頷く。
 それで上手くイーグルの部隊に配属されたという訳か。問題なく此処に配属されたというのなら、ランティスはそれで構わない。
「まぁ、雑談はこの辺にしておきましょう。NSXの中を案内します」
 此処はどうも、上下関係はあって無い様なものらしい。ただ、みんなが対等なのだろう。それがイーグルのやり方なのかも知れない。

 イーグルに案内されるままに着いて行き、そこかしこで紹介される。そうして会う人々は誰も彼もが一癖も二癖もあるような人物ばかり。当然のように皆イーグルを呼び捨てにしている。偶に『司令官』と呼ぶ声がある時は大抵からかい混じりの言葉だったりする。
 まだ17歳の少年が一個隊を纏めるには、確かに上から威圧するよりも、こうして隊の輪の中に入って信頼関係を築くことが一番重要なのかも知れない。そんなイーグルを、皆が信頼しているのを、そうして交わす言葉の端々から感じ取ることが出来た。
 広い艦内を順に案内され、最後に辿りついたのはファイターメカの格納庫だった。
 汎用機がずらりと並べられ、其の中に、FTOやGTOなどの専用機も置かれている。矢張り、その中で一際目立つのは、イーグルの専用機、FTOだろう。
 その純白の外観は、ファイターメカの中でも異彩を放っている。
 イーグルはFTOに近づいていき、その整備をしていた人間を呼んだ。
「ヴォルツさん、FTOの整備は終わりましたか?」
 声を掛けると、FTOの下から顔を真っ黒にした老人が顔を出した。イーグルの問いかけにニカッと笑みを見せて豪快に笑った。顔が真っ黒な分、笑って見える真っ白な歯がやけに目立つ。
「おーよ、コイツの整備は完璧だぜ。毎回愛情込めてやってるからな」
「有難う御座います。やっぱりFTOの整備は貴方以外には任せられませんから」
「ふふん、当然じゃい。メカニックとしての腕前は、そこらの若造なんかとは比べ物にならんからな」
 しゃがれた声で自慢げに笑う老人に、イーグルも笑顔を返す。それからランティスを示して、老人に紹介する。
「こちらはNSXのチーフ・メカニック、ヴォルツ・バネットさんです。ヴォルツさん、こちらが新しく配属されたファイターのランティスです」
「ほほぅ、がっしりしたええ体格しとるわ。イーグル、お前さんも見習ってジェオやこの兄ちゃんみたいにでっかくなれよ」
「ふふ、そうですね。努力します」
 ヴォルツの軽口に、イーグルはにこやかに答える。本気なのか冗談なのかは解からないが、おそらくは冗談なのだろう。イーグルは決して身長が低い訳ではなく、逆に自分やジェオの体格が規格外なのだ。それにまだまだ成長期。身長も伸びるだろう。
 ただ、背はあってもファイターの中ではどちらかと言えば華奢な体つきと、幼さの残る外見からそう言っているのかも知れないが。
「ヴォルツさんも、まだまだ現役で頑張ってくださいね。この前みたいにぎっくり腰になられると、FTOを見てくれる人が居なくて困ります」
「五月蝿いわい。見る人間が居ないからって自分で見とるお前さんには言われたくないわ」
 カカッと快活に笑っている様子を見るだけで、この老人がいかにイーグルを気に入っているかが解かる。イーグルも、この老人に対しては特別敬意を払っているように見える。
 しかし、見る人間が居ないとはどういうことだろう。メカニックなら他に居るのではないだろうか。
 そう思ってイーグルを見ると、そのランティスの疑問に気づいたのか、にっこりと笑って説明する。
「FTOは僕の大事な相棒ですから。下手な人には触らせたくないんです」
「そうそう。ワシ以外のモンが整備するのは絶対許そうとせんのじゃ。それぐらいなら自分でするから、とな。まっ、それぐらいの愛情がなきゃ、コイツは乗りこなせんじゃろうが」
 ヴォルツの言葉に答えて、イーグルがFTOを見る。その瞳には紛れもない、そのメカに対する愛情が見て取れる。例え機械でも、長年使っていれば愛着は湧くものなのだろう。
「ところで、ヴォルツじーさん。俺のGTOの方の整備は?」
「あ?そんなもん後回しに決まっとるだろーが」
「そりゃねーぜ。GTOだってじーさんの大事なメカだろ」
「お前さんには年寄りに対する敬意が足りん」
 ついっと視線を背けてヴォルツが言う。矍鑠とした態度が、見ていて快い。言葉はキツいが嫌われはしないタイプなのだろう。
「何言ってんだよ、尊敬してるって!」
「どうかのぅ」
「じーさん〜…」
「冗談じゃ。ちゃんと整備は終わっとる」
 ヴォルツはジェオをからかって満足げに笑う。それを見てジェオははぁっと溜息を吐く。
「だったら最初からそう言ってくれよ…」
「それじゃ面白くなかろうが」
「ヴォルツさん、それぐらいにしてあげてください」
 イーグルがにこやかに止めに入ると、ヴォルツはにやりと笑う。それから、三人の後ろに居たセルシオに目を向ける。
「セルシオ、お前さんもそろそろ専用機を持ったらどうじゃ?」
「俺はまだいいですよ」
「何を言うとる。お前さんも随分と長いこと軍に居るだろうが。そろそろ専用機を持ってもおかしくない頃合だぞ」
 ヴォルツがそう言うと、セルシオは苦笑いを浮かべた。
「本当にいいです、今は。それに下手な専用機より、ヴォルツさんが整備した汎用機の方が余程具合がいいですから」
「ワシが作ってワシが整備した専用機の方がもっと具合がいいに決まっとるだろうが」
「そりゃそうですけど…」
 心底困った、というような表情のセルシオに、ヴォルツが不満げに鼻を鳴らす。
「何じゃ、ワシが作るのじゃ不満か」
「そうじゃありません。俺はただ、まだ専用機を持つには力不足だと…」
「ヴォルツさん」
 二人が言い争う中を、イーグルが割って入る。
「その話は取り敢えずまた今度ということで。今からFTOを動かせますか?」
「おお、いつものヤツをやるんじゃな。大丈夫じゃ、いつでも動かせる。汎用機の方は今日は5号機が調子が良いのう」
 話がそれて、セルシオは明らかにほっとしていたし、ヴォルツはヴォルツで、ファイターメカの話をする時は目を輝かせている。
 それにしても、『いつものヤツ』とは何だろうか。
「解かりました。それじゃあ、ジェオはランティスを5号機のところまで案内して、使い方を説明してあげてください。セルシオは皆を見学席へ」
「「了解」」
 ジェオとセルシオが声を揃えて了承を示す。
 ランティスは訳が解からず困惑するしかない。イーグルに視線を向けると、にこっと笑顔が返って来た。
「うちの隊に入った人の恒例行事です。ファイターメカでFTOと一戦交えていただきます」
「…」
 『恒例行事』と言うからには、本当に『いつもの』ことなのだろう。
 別に反論する理由もないし、ランティスは頷き、ジェオに着いて自分が操作する汎用機のところまで案内される。
 コックピットの開け方から教わり、中に入る。広さは中に人一人がようやく入れる程度で、意味の解からない機械が周囲を取り囲んでいる。
 しかし、何の事は無い、操作に必要なのは、基本的に精神の集中のみなのだそうだ。
「ファイターメカの基本操作はようするに脳内のイメージだ。自分が動きたいように頭の中に考える。変換装置のコードをこの部分に挿せば、頭ン中のイメージに反応して動くようになってる」
 コードを挿す部分を手で示され、ランティスは自分の変換装置のコードを其処に挿し込む。内蔵されているゴーグルをつけると、画像がメカの視線に切り替わる。
「右手にレーザーソード、左手にバルカン砲が内蔵されている。基本的にそれを使って戦う。…解からないことはあるか?」
「いや」
 慣れるのに多少時間がかかるだろうが、ようするに頭でイメージしたのと同じ行動をこのメカがするようになっている、ということなのだ。
 ジェオを見ようとすると、メカの視線の画像が消えて、普通のゴーグルになる。これも頭の中で切り替えが行われるらしい。
「じゃ、閉めるぞ」
 そう言ってコックピットの扉が上から閉まってくる。完全に視界が遮られたかと思うと、暫くして、目の前にモニタが広がった。ゴーグルよりも大きな視野で周囲が見れるようになっているようだ。
 暫くすると、どうやらメカが置かれている場所自体が下降しているようで、徐々に視界が下がっていく。この下が演習場になっているのだろう。
 ようやく下まで降り切ると、其処には随分広い敷地が取られていた。以前ランティスが見学した演習施設が此処のようだ。丁度真上がファイターメカの保管庫になっているらしい。
 そして目の前に、イーグルのFTOが降りて来る。
 モニタの画面が一角だけ別の画面に縁取られ、イーグルの映像が出てくる。
『ランティス、操作の方は大丈夫ですか?試しに右腕を動かして、レーザーソードを出してみてください』
「ああ」
 イーグルの言葉に頷き、頭の中で腕を動かすのをイメージする。そして、レーザーソードを使う自分を。セフィーロも意思による世界だから、何となく魔法を使う時に要領が似ているのかも知れない。何よりも、心の強さとイメージが大切なのだ。
 メカの方の腕が動き、レーザーソードもちゃんと出たようだ。
 自分がメカそのものと一体化することが出来れば、操作はそれ程難しくは無い。
 それを見て取ったのか、イーグルも笑顔になる。
『大丈夫そうですね。それではジェオ、始まりの合図をお願いします』
『了解』
 イーグルの声とは別に、ジェオの声が聞こえる。ジェオの居る場所とも通信が繋がっているのだろう。
 画面の中のイーグルが一度すっと瞼を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。そして、もう一度目が開かれると、イーグルは紛れも無い、戦士の顔になっていた。
 この顔で、いつも戦っているのだ。
 そう思うと、ランティスの中にも、沸々と戦士としての闘志が湧き上がってきた。イーグルは強い。それは今視線を交わしているだけで充分に感じられる。
 意思の強い瞳がそれをあらわしている。
『始め!』
 ジェオの合図する言葉が聞こえた瞬間に、モニタからイーグルの画像が消え、FTOが動く。
 素早い動きでレーザーソードを使い切りかかってくるFTOの攻撃を、ギリギリのところでランティスもレーザーソードを出し受け止める。
 FTOはすぐにランティスの機体から離れ、素早い動きでランティスの視覚を翻弄する。視覚で捉えていては間に合わない。気配を感じて応戦する方がいい。スピードは明らかにFTOの方が上だから、着いていくのは無理だ。
『おい、イーグル!初心者相手に本気を出すな!』
 ジェオからイーグルへの通信が、ランティスにも繋がっている。
『手加減している余裕なんて、ありませんよ』
 冷静な声がジェオの言葉に答える。イーグルは本気だ。何度かバルカン砲が飛んできたのをギリギリで除けながら、ランティスもバルカン砲をFTOに向ける。
 FTOが居た地点に打っていては当たらない。来るだろう場所を予測して打つ。
 上手い具合にタイミングは合ったが、シールドに阻まれ、FTOには当たらない。しかし、其の間にランティスはFTOの傍まで移動する。レーザーソードでFTOに切りかかる。
 それもまたギリギリのところで受け止められるが、力ならばランティスの方が上だ。
 そのまま押していくと、不意にFTOの左腕が動く。まずいと思った瞬間、FTOから離れる。バルカン砲が発射され、あと一秒でも動くのが遅かったら完全に当たっていただろう。
 互いに本気で戦っているのが解かる。ランティスにしても、これ程本気でやり合える相手は今まで居なかった。
 例えメカ同士での戦いでも、否、だからこそ相手の心の強さがそのまま出ている。もし彼がセフィーロで生まれていたなら、かなりの力を備えていたに違いない。あそこは信じる心が全てを決める国。イーグルの心の強さは、セフィーロでさえ類稀な才能を発揮するに違いない。
 そう一瞬考えて、雑念を振り払う。
 そんなことを考えている余裕などない。
 あまり時間を長引かせるのも良くないだろう。一気に勝負に出ることにした。
 バルカン砲でイーグルの行く先を遮り、レーザーソードで切りかかる。それを受け止めたFTOから一瞬力を抜いて離れ、素早く後ろに回りこむ。除けようとしたが、ランティスの方が僅かばかり早かった。
 バルカン砲はFTOの肩に直撃した。
 FTOが着地し、動きが止まる。
『そ、そこまで!』
 ジェオの慌てたような声が聞こえ、イーグルは元居た位置に戻っていく。ランティスも、降りてきた場所に戻ると、今度は上昇していく。
 ジェオに教えてもらった通りにコックピットの扉を開け、コードを抜く。体に感じる微妙な疲れは、精神エネルギーを使用したことによるものだろう。
 ふぅっと息を吐いて外に出ると、まるで出迎えでもするかのように、隊の人間が周りを取り囲んでいた。褒めるでもなく貶すでもない、微妙な空気に、ランティスも流石に戸惑う。
 しかし、考えれば当然のことなのかも知れない。若干17歳とは言え、イーグルはオートザム最強のファイターで、それが今日始めてファイターメカに乗った初心者に負ける等ということは、本来あってはならない事なのではないだろうか。
 イーグルのプライドを傷つけてしまったのかも知れない。
 まだ会って間もないが、イーグルに嫌われるのは少し辛いな、と思っている自分が居る。何とも出来ずに、ただ囲まれて突っ立っていると、其処にイーグルが現れた。
「ランティス!」
 走って来たのだろう、息が上がっている。イーグルを除けるように人垣が割れると、そのままイーグルはランティスに抱きついてくる。
 驚いて息を詰めると、無邪気な瞳が見上げてきた。
「凄いです、僕、FTOで負けたのは初めてなんですよ?本気で戦ったのに。あー、まだ心臓がドキドキしてます。ねぇ、ランティス、もう一回やりましょう!流石にFTOは今日は無理ですけど、別の汎用機で…」
「駄目に決まってんだろうが!!」
 きらきらと目を輝かせてもう一度、と強請ってくるイーグルの肩を掴んで、ランティスから引き離したのはジェオだ。イーグルを追いかけてきたのだろう、ジェオも息を乱している。
「えーっ」
「えーっ、じゃない!あれだけ本気でやり合ってもう一回なんて、精神エネルギーの使いすぎでぶっ倒れるぞ!」
「大丈夫ですよ」
「根拠は何処にある、根拠は!」
 ジェオに叱られて、イーグルは拗ねたような顔を見せる。まるで子供そのもののようなイーグルの表情は、先ほど見た戦士の物とはまるで違う。本当に先ほど戦っていたのと同一人物なのだろうか。
 しかし、この様子だと嫌われては居ないようだ。それどころか、益々気に入られたらしい。負けて悔しいだとか、そういう雰囲気は微塵も感じない。そのイーグルの様子を見て、緊張して見つめていた周囲の人間も苦笑いを浮かべている。
「また今度すればいい」
 ランティスの言葉に、イーグルはぴくっと反応する。
「絶対ですよ?」
「ああ」
「絶対に、絶対ですよ?」
「解かった。約束する」
 ランティスがそう言うと、途端にイーグルは笑顔を見せる。その笑顔に、今まで何処か張り詰めていた自分の心が癒されているのに気づき、ランティスはイーグルの頭をそっと撫でてやる。
 ふふっと擽ったそうに笑いながら、イーグルはランティスの腕に自分の腕を絡めた。
「じゃ、今からはもう一つの恒例行事です」
「?」
「ジェオ、先に行って準備してください」
「ああもう、解かったよ」
 にっこり笑ってそう言うと、仕方ない、という風にジェオは肩を竦め、何処かに行ってしまう。
「他の皆は仕事に戻ってください。セルシオはファイターの指示をして演習を。ヴォルツさんはFTOの修理をお願いします」
「了解」
「全く、あれに傷がついたのは初めてじゃからな。きっちり治してやる」
 セルシオとヴォルツが了承したのを確認して、イーグルはランティスの腕を引っ張り、その場から離れていく。
「…何処に行くんだ?」
「着いてからのお楽しみです」
 嬉しそうに笑いながら言うイーグルに、ランティスはこれ以上問いかける気にはならなかった。『恒例行事』と言うからには、これも『いつもの』ことなのだろう。
 そうして、ランティスはイーグルに促されるまま、着いて行ったのだった。



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