空と太陽の瞳 act.1



 オートザムに数刻前降り立ったばかりの黒衣の青年は、軽く溜息を吐いた。
 今まで、ファーレン、チゼータと諸国を回ってきたが、何処にも居場所がなく、目的も見つけられず、そうして流れるようにオートザムに来た。
 ファーレンは言うまでもなく穏やかで豊かな国。満たされた国だった。チゼータも、領土は狭いものの、取り立てて何の問題も無く、王族も国民を想い統治している。
 何かをなしたく、しかし何をなせばいいのか解からず祖国であるセフィーロを出てきたランティスは、そんな穏やかな国々にはどうしても居場所を見つけることは出来なかった。
 否、自分のなしたい事は解かっている。
 祖国セフィーロの『柱制度』の廃止。しかし、現在の柱が生きている以上、何者にも手出しは出来ない。そして、開放する術も見つからない。
 敬愛する祖国の姫君と、兄の二人に幸せになって欲しいと思っても、今の現状では何も出来ないのが事実。それが歯がゆくてたまらず、他国にそれを成し遂げる手がかりはないものか、と旅を始めたのに、セフィーロを出て二年ばかり経っても、それは見つからない。
 半ば、諦めかけていた。
 今居るオートザムは、高度に機械化された国だ。ファーレン、チゼータとは全く違う、淀んだ空気と、灰色の空が重々しい雰囲気を与えている。環境破壊がかなり進んでいるのだ。
 ランティスはオートザムに降り立ってまず、旅行者専用の施設に行き、精神エネルギーの測定テストを受けさせられた。
 この国では、機械の操作も全て精神エネルギーの変換で行われるため、その数値の測定は必要事項なのだ。そして、その個人に合わせた精神エネルギーを動力に変換する装置を渡される。ランティスも、其の為に測定テストを受けたのだが…。
 事態は思わぬ方向に進んだ。

 ランティスの精神エネルギー測定を行った係の者が、その数値を目にした途端慌てた様子で何処かに通信機で連絡をし、それから間もないうちに、軍部の人間という者が現れたときには、あまり物事に動じないランティスも流石に驚いた。
 その測定結果を見たところで、未だオートザムのことに然程詳しくは無いランティスには解からなかったのだが、その精神エネルギーの測定で、破格の数値が弾き出されたらしい。その事で最初係の者は機械の故障かと思ったらしいが、調べてみても何の異常もなく、だから余計に驚いて、急いで軍部に連絡したというのが実態らしい。
 軍はこの国の大統領が直属して治める機関であり、高い精神エネルギーを持つ旅行者を見つけた場合、何処の国の出身であれ、連絡されることになっているのだ。
 ようするに、それだけの精神エネルギーを持つ者をスカウトしよう、ということらしい。
 そしてランティスはほぼ強制的に(断る理由もなかったからだが)、軍の内部を見学しないかと誘われ、今その廊下を歩いているのだった。


 軍の内部をバイクで移動する。ランティスは運転免許を持っていないため、必然的に二人乗りのものに乗せて貰う形になる。しかし、何より驚くのは、こうしたバイクで移動しなければ回れない、軍施設の広さだろう。
「いや、すまないな。上の連中は精神エネルギーの高い人間を見ると目の色変えてスカウトするから。随分無理に誘われたんだろ」
 気さくで明るい男の言葉に、何と返していいものか解からず、ランティスは沈黙で答える。しかし、相手は気にした風でもない。
 ランティスはかなりの長身だが、相手は更に身長が高く、がっしりとした体つきをしていた。名前はジェオ・メトロというらしい。エネルギー測定施設に迎えに来た軍部の人間の仰々しい態度と比べると、随分拍子抜けするような対応だ。
「ま、俺も資料見せてもらったが、あんたの精神エネルギーの数値は相当なもんだな。オートザムの人間でもこんな高い数値を出すのはうちの司令官ぐらいだろ。そりゃお偉方も目の色変えるってもんだ」
 そのジェオの説明に、ランティスも納得する。自分が見ていても解からなかったが、この国内でも珍しい数値が出たとなれば何となく納得出来る。
 オートザムは、祖国のセフィーロやファーレン、チゼータと違い、内乱や近隣の国との争いが絶えず、使える人材は他国の者でも使う、というのを聞いた覚えがある。
 それだけ切迫しているのだ、この国は。
 今まで旅してきた国と比べると、大分違う。
「あんたは旅人だ。俺は案内を任されただけだし、無理に引き止めるつもりもねーよ。上のヤツらは五月蝿いだろうけど、うちの国民でない以上、強制する権利もない。ま、滅多にない機会だと思って気楽に見てってくれや」
 明るい声でそう言われると、僅かながらに安心する。
 ランティスは、この国でも別に長居をするつもりはない。この国はどう見てもセフィーロと同じくらい…否、それ以上に切迫している。その国でランティスが求めるものが見つかるとは思えない。
 引き止められても困るだけだ。

 暫く軍の内部を案内されていると、ふと周囲が騒がしいのに気づく。ジェオもそれに気づいたようで、顔を顰め、慌てて走り回っている人間を一人捕まえた。
「おい、一体何の騒ぎだ?」
「副司令官!それが……また司令官が行方不明になりまして」
「…またか。大方どっかで昼寝でもしてるんだろうが……」
 頭を抱えて溜息を吐いて見せる様子から、それが珍しくないことが伺える。しかし、司令官が行方不明とは一体どういうことだろう?
 ランティスがそう疑問に思っているのに気づいて居るのか居ないのか、ジェオはランティスの方を見て言う。
「あー…悪いんだが、暫く一人で見て回ってくれないか。このキーで入れるところなら、好きに見てもらって構わない。バイクもあんたが使ってくれて構わない」
「運転の仕方が解からない」
「あ、そうか。まー、無免許で運転させる訳にもいかないしな……この辺は割りと施設が密集してるから、歩いても回れると思うが…構わないか?」
 ランティスが頷くと、本当に申し訳なさそうに謝って、ジェオはそのままバイクに乗って走り去って行った。
 それを見送ってから、軽く溜息を吐いて辺りを見回す。
 本当に広い。この広さだけでも、軍がこの国において重要な役割を担っていることがよく解かる。
 ランティスとしては、このまま帰っても構わないのだが、歩いて帰るには出口は遠く、迷わずに行けるかどうかも解からない。方向感覚は鋭い方だと思うが、何しろ似たような景色が延々と続いているのだ。初めてで迷わない方がどうかしているだろう。
 仕方がないので、もう暫くこの辺りを見学することにした。
 ジェオに渡されたのは見学者用のカード型キーなのだろう、軍の重要機密に関わるような部屋には入れないようになっているらしいが、この辺りの部屋はどちらかと言えばファイター用の娯楽施設が主になっているようで、入れない部屋はそうなさそうだった。
 余り歩きまわる気にもなれず、何処かに落ち着ける場所があれば、其処で待っていればまた迎えが来るだろう、と適当な部屋のドアを開けた。
 開けた瞬間、差し込んできた光に、思わずランティスは目細めた。
 そして、中を見てもう一度驚く。太陽の光が差し込み、辺りには木々や草花などが植えられている。オートザムに着いて以来、こんな場所を見るのは初めてだった。
 しかし、よく見てみれば太陽光と思しきものは人工で作られた物で、木々や草花もセフィーロのものとは違い、人工的に管理されているのが解かる。それでも、このオートザムでは珍しい風景だ。恐らくはファイター用の休憩施設や公園に近い機能があるのだろう。
 自然は何処の国の人間であろうとも、安らぎを与えてくれるものだ。例え、人工的に作られたものであっても、無いよりは余程いい。
 ランティスは中に足を踏み入れて、周囲を見回す。中は広いが、今は皆職務中なのだろう、人の姿は見られない。
 此処でなら落ち着いて座っていられるし、ジェオが戻ってくるまで待っていても支障はないだろう。何処か座れる場所はないだろうかと、辺りを見回す。
 そして、ふと部屋の奥に植えられた、大きな木が目に入る。
 自然と引き寄せられるように足を向けた。
 ある程度まで近づいて、不意に驚いて足を止めた。
 誰も居ないと思って居たが、中には人が居た。しかも、その人物は木の上で気持ち良さそうに寝息を立てている。
 不意に『大方どっかで昼寝でもしてるんだろうが…』と言ったジェオの言葉を思い出し、まさか…と思う。しかし、どうにも目の前の人物は『司令官』という役職にはそぐわない。
 此処に居るからには軍の人間なのだろうが、年の頃は精々17、8だろう。まだ少年と言っても差し支えない、あどけない面差しをしている。薄茶色の髪は柔らかそうで、伏せられた睫は長い。すっと通った鼻筋も、微かに寝息が漏れる口元も、誰もが惹き寄せられてしまいそうな程綺麗な造作をしている。
 人を見かけで判断するのもどうかとは思うが、どうにも軍、というものには似つかわしくないように思える。
 ただの迷子、と言った方がまだ説得力がある気がする。
 そんなことを考えながら、じっと少年を見つめていると、ふっと綺麗に伏せられていた睫が揺れた。
「んっ…」
 口元から吐息が漏れ、ゆっくりと瞳が開かれる。そしてまたゆっくりと、その瞳はランティスに向けられた。その、透き通った琥珀色の瞳に一瞬、ランティスは捉われ、息が止まる。
 ただのあどけない少年だと思っていたのが、その瞳を見た瞬間に、違うと解かる。少年の瞳は、強い心を持った者の瞳だ。祖国の柱、エメロード姫や、神官の兄のように。
 どれだけの間見詰め合っていたのだろう、少年がふっと微笑んだ瞬間に、ランティスも呪縛が解けたかのように息を吐く。
「こんにちは」
 穏やかで優しい声。
「見学者の方ですか?」
 問いかけに頷くと、にっこりと笑って、少年は木から降り立った。
 まだ成長期ではあろうが、ランティスに比べればかなり身長が低く、細身だ。
「はじめまして、僕は…」
「イーグルッ!!てめぇ、こんなとこに居たのか!!!」
 何か言いかけた少年を遮るように、怒声が飛んできて、ランティスは思わず入り口を振り返る。相手は、先ほどまでランティスの案内役をしていたジェオだ。
「お早う御座います、ジェオ」
 にっこりと悪びれた様子もなくそう言う、イーグルと呼ばれた少年にジェオは毒気を抜かれたように、はーっと溜息を吐いた。
「やっぱり眠りこけてやがったな。お前が居ないってんで、みんな探し回って大変だったんだぞ」
「すみません」
 一応謝っているが、本当に悪いと思っているとは到底思えない。しかし、ジェオの言葉からすると、どうやらこの少年が先ほど話していた『司令官』らしい。
 ジェオはふとランティスの存在に気づいたように、視線をこっちに向ける。
「あんた、悪かったな。案内の途中で抜けちまって」
「そうですよ。見学者の方をこんな所で一人にするなんて、いけませんね」
「誰のせいだ、誰の!!」
「僕ですね」
 にっこりと笑って言い切るイーグルに、ジェオはもういい、とばかりに首を振る。
「兎に角、仕事に戻れ。これから演習があるから」
「解かりました」
 そう言ってイーグルは素直に頷き、ランティスに視線を向けた。
「騒がせてしまってすみません。自己紹介が遅れましたが、僕はイーグル・ビジョン。司令官で、戦艦NSXの責任者です」
「イーグル……ビジョン?」
 少年の名前を聞いて、思わず問い返す。イーグルは意味を察したのか、頷いて答える。
「ええ。この国の大統領は僕の父です」
 この国の大統領の名前は、ランティスも知っている。何よりビジョン家はオートザムのことを学んだ者ならば知らない者はないだろう、歴史的にも重要な位置を占めている家系であり、ビジョンを名乗ることを許されるのは、当主と跡継ぎのみなのだ。
 他の『ビジョン』は有り得ない。
 そのビジョン家の次期当主となれば、軍の内部で大きな力を持っていてもおかしくは無い。がしかし、だからと言ってお飾りの司令官では、オートザム最強の戦艦、NSXの責任者に若干17歳程度の少年がなれる訳がない。恐らくは、それに足りえる実力もあるのだろうが、矢張り見ている分には信じ難いものがある。
 その瞳の強さを知って尚、少年は若すぎる。セフィーロの人間と違い、オートザムの人間は見たままの年齢の筈なのだから。
 そのランティスの戸惑いに気づいてはいるようで、イーグルは優しげに笑い、会話を進めた。
「貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
「…ランティス」
「ランティス。貴方はこの国の人ではないですよね?その服はファーレンやチゼータのものとも違いますし…」
「俺は、セフィーロの出身だ」
 そうランティスが言った瞬間に、少年はぱっと瞳を輝かせた。
「セフィーロ!?」
「ああ…」
 あまりの勢いに、ランティスは驚いて目を見開く。
「セフィーロの方に会ったのは初めてです。そうだ、もしよろしければ、今度セフィーロのお話を聞かせてくださいませんか?」
 頬を紅潮させ、瞳を輝かせてそう言うイーグルの表情は、年相応の少年のもので、気がつくとランティスは首を縦に振っていた。
「有難う御座います」
 無邪気に笑ってみせる少年に、思わず目を細める。
「イーグル、セフィーロの人間に会えて嬉しいのは解かるが、仕事があるんだがな?」
「解かってますよ、ちゃんと行きます。そうだ、ランティスも演習を見に来ませんか?見学と言うのなら、どんな訓練をしているかも見て行くのも悪くないでしょう?」
 そう提案するイーグルに、ランティスは僅かばかりの時間考えて、頷いた。
 このまま帰らせて貰うのも構わないだろうが、この少年がどの程度の実力を有しているのかが気になった。演習を見ればそれが解かるかも知れない。
「それじゃあ、行きましょう」
 にっこりと笑うイーグルに促され、そのまま三人は演習場へと向かった。


 演習場が見渡せるガラス張りの部屋に通され、イーグルはそのまま準備をするから、と出て行った。
「悪いな、イーグルの気まぐれに付き合わせて」
「いや」
 そう短く答えると、何処までも無口なランティスに流石に呆れ返ったのか、ジェオは溜息を吐いた。
「セフィーロの人間ってのは、みんなそんなに無口なもんなのか?」
「性格だ」
 またもや簡潔に答えると、今度は肩を竦めて、会話を成立させることは諦めたようだった。
「ま、いい。本当は演習場に連れて来るのも許可が要るんだがな、ま、イーグルが言い出したんだから構わんだろ」
 そうこう言っているうちに、同じ型のロボットが数台と、一際目立つ白い機体が一台出てきた。
「あの白いのが、イーグルの専用機、FTOだ。イーグルは戦艦NSXの最高司令官であり、また最強のファイターでもある。この国に、イーグルに勝てるヤツはいない」
「まだ、十代だろう?」
「今年で17だったかな。俺は今年で20歳なんだが、軍での経歴は俺より長い」
 何故、と問いかける前に、演習が始まったようだ。汎用機が一斉にイーグルの機体に襲い掛かる。しかし、その白い機体は素早く攻撃を除け、的確に相手を攻撃していく。無駄な所など一片もない、鮮やかな動き。
 ものの1分で、20台以上居た汎用機を全て戦闘不能にしてしまっていた。
『ジェオ、貴方もGTOで入ってください』
「了解」
 ジェオは頷くと、ランティスに此処で待っててくれ、と言って其処から出て行った。確かに、あれだけ短い時間で終わっては、演習も何もあったものではない。
 暫くすると、汎用機ともFTOとも違う機体が演習場に出てきた。恐らくはあれがジェオの機体なのだろう。
 合図もなく演習が始まり、二機は動き出す。
 GTOは他の汎用機と比べれば随分と動きが良いが、矢張りFTOの方が機動力は上なのか、それともイーグルの実力が上なのか……試合はしばらく続いたが、それでもFTOは無傷のままGTOを追い詰めた。
『流石にGTOに傷を付けると、メカニックが怒りますよね…』
『俺は傷つけるつもりでやってるんだがな…』
 二人の通信が、そのまま放送として流れてくる。さっきまで激しい動きで応戦していたにも関わらず、二人の会話は暢気だ。
 しかし、オートザム最強のファイターと言うだけあって、並の実力ではないようだ。まだ、若干17歳のあどけない面差しの少年が。
 いつの間にか、イーグルに興味を抱いている自分に気づく。
 まだ、それ程多く会話を交わした訳でもないのに。会話をした数ならば、ジェオの方が圧倒的に多いのにも関わらず。
 ランティスは、暫くその白い機体に見入っていた。
 あの中で彼は、一体どんな表情をしているのだろう。


 FTOとGTOが引いて、汎用機ばかりが演習するようになって暫くすると、イーグルとジェオが戻ってきた。
「ランティス。どうでしたか?」
 そう問いかけながら歩いてくるイーグルだが、突然こけて倒れそうになった。反射的にランティスがそれを支える。
「大丈夫か?」
「はい、すみません」
「…どうして何もないところでこけるんだ?」
 イーグルがちゃんと体勢を整えて、それからうーん、と唸って考え込む。
「どうしてでしょう?偶にあるんですよね、こういうこと」
「偶にじゃなくて、しょっちゅうだろうが」
 呟くイーグルにジェオが突っ込む。
 この少年が本当に先ほどのあの白い機体に乗っていたのだろうか?どうにも実感が持てない。
「そうそう、演習はどうでしたか?」
「ああ」
 感想を求められるが、何と言ったものか解からない。ただ、あの白い機体の圧倒的な強さだけが印象に残っている。
 イーグルはランティスにしっかりと視線を合わせて、にっこりと笑った。敢えてこれ以上答えを促すつもりは無いようだ。
「興味は持っていただけたみたいですね。どうです、軍に入ってみませんか?」
「おい、イーグル!」
 イーグルの誘いの言葉に、ジェオは驚いたように名前を呼ぶ。
「俺はただの旅行者だ」
「でも、何処に行くにしてもお金はあった方がいいでしょう?ファイターとして仮登録してみては如何ですか?仮登録なら、一年ごとに無期限で更新出来ますし、好きな時に辞められます。ね?」
 確かに、旅を続けるには資金は必要だ。
 ランティスはセフィーロでは魔法剣士であったし、戦う事には慣れている。確かにお誂え向きではあるのだろう。
「ジェオに資料を見せて貰ったんですけど、ランティスの精神エネルギーの数値は本当に高いですね。オートザムにこれだけ高い数値を出せる人は居ませんから」
「…お前は?」
「僕ですか?僕は幼い頃から軍で精神エネルギーを高める訓練をしてきましたから。何もせずともそれだけの数値が出せるランティスなら、もっともっと高い数値が出せるようになりますよ。ぜひ一度、ファイターメカで手合わせしてみたいです」
 無邪気に語ってみせるイーグルに、ランティスもこのまま暫く此処に留まるのも構わないか、と思い始めていた。何よりランティスも、一度イーグルと手合わせをしてみたい、と思ったのだ。
「解かった。仮登録でいいんだな?」
「はい!今後ともよろしくお願いしますね、ランティス」
 満面の笑顔を浮かべて、イーグルは手を差し出した。ランティスもそれに答えて、その掌の小ささに少し驚く。
 そして、また気づく。
 イーグルは、ランティスがそれ程多く言葉を語らなくとも、正しく意味を汲み取っている。いつでも無口で無愛想という評価を下されていたから、酷く珍しい事だ。何より、こんなにも無邪気に自分に接してくる人間は、少ない。
 そうして握手を交わしながら、この少年とは長い付き合いになるのだろうな、と予感めいたものを感じていたのだった。



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