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自然の理の中 それに背くのが人間 弱肉強食の世界 それから外れたのが人間 全ては 人としての有り方 だけど 自然としての有り方を捨てて生きていけるものだろうか? 「エリヤ、これからどうするんだ?」 皆が敢えて避けていた未来への問いをイザヤが口にする。 さっきまで賑やかに話していた皆は一瞬で静かになる。 「……まだ考えてる。皆はどうしたい?」 エリヤは皆を見回す。 「俺は、教皇が何もしないで俺達をそっとしておいてくれるのなら、後は平和に暮らせれば…」 ペトロが言う。 「甘いな。あの教皇が大人しく引き下がるとでも思うのか?」 「そうだぞ!きっぱり謝るぐらいさせないと気がすまないぜ!」 イザヤとユダが反論する。 「まぁ、反省もしていなかったようだしな」 エリヤは呟く。 「でも、教皇様が謝るとは思えないわ。それよりも何もかも忘れて平和に暮らした方が…」 「お前ら兄妹は本当に甘いな」 マリアの言葉にイザヤは笑う。 「何もかも忘れるなんて本当に出来るとでも思っているのか?両親の死を?そんなこと出来る訳がない。それに教皇が俺達を放っておくわけが無い」 「…俺は、もう教皇はどうでもいいんだ。ただ、教皇の言ってた事が気になって…」 「不思議な力があるってことか?」 ペトロの言葉にエリヤが反応する。 「…確かに、俺達にはそれぞれ不思議な力があるかも知れない。いや、きっとあるんだろうな。でも それよりも大切な事は、教皇が俺達とその力を使って何をしようとしていたかって事だ」 「え?」 「とても正しいことをしようとしていたとは思えないな」 エリヤの言葉にマリアは疑問を持ったのに対してイザヤは的確に判断する。 「もし、何か悪い事を企んでいるとしたら?」 ペトロがエリヤを見て言う。 「そう簡単に諦めるとは思えないな」 エリヤが答える。 「だから今は判断しかねているところだ。それより今は、ゆっくり休む方がいいだろう」 エリヤは笑って言う。 「よっしゃ、また騒ごうぜ!」 ユダが立ち上がる。 「ペトロ、買出し行こうぜ!ちょっち酒でも買ってさ。な、エリヤ。いいだろ?」 「ああ」 エリヤは微笑む。 ユダはペトロを引っ張って行った。 静かに佇む教会。先日の騒ぎが嘘のようだ。 ヨハネは教皇の部屋に入る。 「ヨハネ、やはりエリヤ達は見つからんのか?」 「はい、申し訳ありません。市内に居るとは思うのですが…」 ヨハネは一際、申し訳なさそうに見せかける。 「そうか。これからもがんばって探してくれ。私の部下も何人か探しに出しているのだが…」 夕暮れ時のこの部屋は薄暗い。蝋燭の明かりも意味をなさない不思議な時間だ。 「全力を尽くします」 「ああ、この前はせっかくのチャンスなのに逃してしまったからな」 「申し訳ありません。僕がもっとしっかりしていれば…」 「いや、お前の所為じゃない。ヨハネ、ゆっくりお休み」 「はい。ありがとうございます」 そうしてヨハネは部屋から出るが、其処から動きはしないで耳を澄ませる。 教皇の話し声が聞こえる。 「他の子供達の居場所は確認できたか?」 「はい。ほとんどの子供が親のいた場所に帰っています。彼らは如何しますか?」 「もう放っておいてもいいだろう。必要なのはエリヤ達だけだ」 「エリヤ達はどうしましょう?」 「探して生け捕りにしろ。害を加えてはならん」 「それからヨハネは、やはりエリヤ達と通じているのでは?エリヤ達が此処に来た時、セキュリティが何者かによって止められていました。内部の者がした事です」 「…しかし、証拠も無い。それに変に疑って、もしヨハネにまで逃げられたりしたら…。それだけは絶対にいかん!」 「しかし、教皇様…」 「それ以上言うな!ヨハネのことはいい。早くエリヤ達を探すのだ!」 「は、はい」 ヨハネは部屋の扉の前から離れて物陰に隠れる。 教皇の従者が慌てて部屋から出てくる。 教皇の従者は走り去っていくが、何やらぶつぶつと言っている。何を言っているのかまでは解からないが…。 「馬鹿だな。ああいう従者こそ大切にしなければいけないのに…」 ヨハネは呟く。 「まぁ、僕には関係ないけど…」 自室に戻りながら、すっかり暗くなった外を見る。 広大な敷地。緑。 今の人間の全てが望んで止まないもの。それを教皇は自らのために使う。 「地獄に行くのは誰かな…」 小さな小さな呟きは闇の中に消えていく。 「イザヤ、明日の天気はなんですかぁ〜?」 「晴れだよ」 すっかり酔っ払っているユダにイザヤは答える。 「よーっし、景気はいいぞ〜っと」 「オヤジみたいな酔っ払い方する奴だな」 「ペトロも酔ってるでしょ、顔が赤いわ」 「ああ」 ペトロはマリアと一緒に笑う。 イザヤもエリヤも飲んでいる。 「ホントに元気な奴だな。お前がそのノリで居てくれると安心するよ」 イザヤはグラスを片手に言う。 「ノー天気なんだろ」 「う〜ん、そうかも知れない」 エリヤの言葉にイザヤは笑う。 暫くするとユダは眠ってしまった。 イザヤもペトロもすっかり熟睡している。 エリヤが立ち上がって部屋を出て行こうとするのをマリアが呼び止める。 「何処へ行くの、エリヤ」 「酔い覚ましに屋上に」 マリアは三人に毛布をかけてやる。 「そう、後で暖かいミルクでも持っていくわ」 「ああ」 そうしてエリヤは部屋から出て屋上に行った。 マリアはホットミルクを持って屋上に行く。 着いてみるとエリヤは壁にもたれて寝ていた。 「エリヤ、エリヤ」 マリアはエリヤを起こす。 「こんな所で寝ていたら風邪をひくわ」 「ん・・・ああ」 エリヤは目をこすり、目を覚ます。その姿がやけに子供っぽく見える。 「はい。これ飲んで中に入りましょ」 マリアはエリヤにミルクを渡す。暖かい湯気が立ち上る。エリヤはそれを手にとってゆっくり飲む。 「目は覚めた?」 「ああ、悪いな」 「いいのよ、そんなこと。星を見てたの?」 「いや、今日は星を見る前に寝てしまった。俺も相当酔っていたみたいだな」 エリヤは立ち上がると中に入っていく。その後にマリアも続いて中に入っていった。 空が見える。 ヨハネはいつものように自室で星を見た。 星が知らせてくれる色んなことを見逃さないために。 「?」 星が動くのが見えた。 ヨハネはその跡を視線でたどっていく。 「……ダリス?」 名を呟き、その人の姿を思い出す。 星の中でその人の意志が光った。 よく晴れた日だった。 その日、ユダとペトロは二日酔いであまり動けなかった。 「たまに飲むとこうなるんだよな」 イザヤは二人を見て言う。 「もう平気だよ!」 ユダは言い返す。 「昼間アレだけ大人しくしてたんだ。治ってなきゃ逆に変だろう」 「治ってない俺は何なんだ?」 「ペトロはお酒に弱いんだから飲まないほうがいいのよ!」 「何かいつも勢いに乗せられるんだよ」 マリアの言葉にペトロは苦笑する。 「イザヤがあんまり勧めるから…」 「俺の所為か〜?お前、流されやすいんだろ」 イザヤはからかって笑う。 「しっ、静かにしろ。足音が聞こえる」 ユダが皆に言う。確かに足音が聞こえた。 「教皇達か?」 「まさか…」 足音はだんだん近づいてくる。そして、部屋の前に止まる。 その足音の主は扉を開ける。 「誰だ!!」 ユダは叫ぶが、足音の主は顔色も変えずにこう言った。 「行き成りですまないが、此処にエリヤはいるか?」 |