寂しさの先に 2



 森の広場の奥。
 そこでヴァイオリンを弾くと、不思議と気持ち良く弾けた。練習室で弾くよりもずっと、音が良く伸びている気がする。
 それは、此処が心地良い場所だからだろうか。それとも、吉羅さんが居るからだろうか。
 あの日、お礼を言いに行っただけのつもりだった。
 それなのに、気がつけば吉羅さんと話がしたい、と言っていた自分に驚いた。
 それから晴れた日はほぼ毎日、この場所に来るようになっていた。
 何故そんな風に言ったのか、此処にこうして来るのか、最初は自分でもよく解からなかった。
 それでも、少し経てば気づく。
 俺は、吉羅さんが気になっているんだろう。
 何がどう気になるのかは、それはまだよく解からないけれど。
 ただ、知りたい、話がしたい。どんな事でも良い、どんな些細な事でも。
 それでも結局、俺の出せる話題なんて音楽のことばかりで、それ以外何も無い。そもそも、他に共通の話題など無いし、元々饒舌な方でも無いからすぐ何を話して良いのか解からなくなる。
 だから、実際に会話をしている時間なんてごく僅かでしかない。
 そんな調子だから、何も話していない時は基本的にヴァイオリンを弾いているし、吉羅さんは読書をしている事が多い。
 今も吉羅さんは木の根元に腰掛けて本を読んでいる。
 俺は一曲弾き終えた後、声を掛けようか少し迷う。いつも吉羅さんは文庫本を持って此処に来るけれど、ちゃんと読んでいる事はあまり無い。どちらかと言えば読んだ振りをしながら別の事を考えている事が多い気がする。
 だからいつも話しかける事自体を迷ったりする事は無い。
 答える気が無いのなら答えない、それだけで邪魔になっている訳では無いのだろうから。
 しかし、今日は珍しく、というのは失礼かも知れないが、ちゃんと本を読んでいる。木の根元に腰掛けて、幹に背中を預けた状態で、多分、俺が弾き終わって吉羅さんを見ていることにも気づいていない。
 だからこそ今日は声を掛け辛い。集中しているのを邪魔したくは無い。
 だが、それでも、全くこちらを見ていないというのも何だか嫌だった。
 一歩近づいても、吉羅さんは何の反応も返さない。カバーがかかっているから何の本を読んでいるのかも解からない。中身というよりは、吉羅さんをそれほど夢中にさせているものが何なのかが気になる。
 右手だけで器用にページを捲っている、その長い指を眺めて、左側に回り込んで隣に座った。
 流石にそれには気がついて、ちらりと俺を見たけれど、何も言わずに視線を戻した。
 何も言われなかった事にほっとするような、何処か寂しいような、おかしな気分になる。
 邪魔だと言われたい訳では無いし、邪魔をしたい訳でも無い。隣に居ても許されるだけ、喜んで良いと思う。
 それなのに、こちらを見て欲しい、もっと近づきたいと思う自分が居る。
 これは何なのだろう。
 あまり見ているのも失礼だと視線をそらしても、すぐに顔を伺ってしまう。そしてまたすぐに視線を落として、地に付いている吉羅さんの左手を見つける。
 触れたい。
 近づきたい。
 そう、思いはするけれど、嫌がれたら、手を振り払われたら、邪魔だと言われたら。
 そんな事を考えて動かない。
 ほんの少し、自分の右手を動かせば届く距離。それなのに、それが酷く遠い。
 大体、手を握ってどうするというのだろう。
 普通に考えれば、男同士で、手を繋ぎたい、なんて考えている事自体がおかしいだろう。おかしい筈なのに、そうして触れてみたいと思う気持ちは、一体何だと言うのだろう。


 それからも別に何か変わったという訳でもなく、広場の奥で会って、ほんの少し話をする。
 ぽつりぽつりと、落とされる言葉は俺の中に沁み込んでは、もっと吉羅さんのことを知りたいと思う。
 話がしたい。
 それはそうなのだが、隣に座っていられるだけでも嬉しいと思う。それと同時に非常に緊張する。そして、隣に座っていても、時折物足りなくなる。こっちを見て欲しいと思う。
 それよりももっと近づきたいと思う我が侭な自分も居る。
 一体この気持ちは何なのだろう。
「それは、恋じゃない?」
「は?」
 自分の気持ちがよく理解できずに、その事を加地につい洩らしてみればその返答だった。
 勿論相手が誰かということや、あの場所の事は話していないが…。
「だから、一緒に居られると嬉しくて、でも緊張するんでしょ。触りたくてしょうがなかったり、でも嫌われるのが怖い」
「…ああ」
「気がつくと相手の事を考えている」
「そんなことは言ってないだろう」
「あれ、違う?」
「……いや」
 確かに、気がつけば吉羅さんのことを考えている。
「だったら、やっぱり恋だよ」
 何故だか楽しげに加地はそう断言してくるが、認め難いものがある。
「男同士だ」
「そんなの関係無いよ」
 至極あっさりと加地はそう言ってのける。普通は関係あるし、気にすべきところだと思うのだが。
「愛の前には、性別なんて些細な事だよ、月森」
「全く些細じゃないだろう」
 加地に話したのが間違いだったのだろうか。かと言って他に話せる相手も思い浮かばない。
「そうかなあ、僕は好きだって気持ちこそが全てだと思うけどね。悩んでいる暇があればアプローチしたいし」
「だから、勝手に恋愛感情だと決め付けないでくれ」
「僕は間違いないと思うんだけどなあ。まあ良いや。ところで、相手は誰なの、僕の知ってる人?」
「教えない」
「ええーっ」
 不満そうな顔をされるが、知られたら酷く面倒なことになりそうな気がする。
 言いたくない。
「何で?別に良いじゃない、名前くらい教えてくれても。月森が好きになる相手がどんな人なのか気になるし」
「だから、勝手に決めるな」
 どうやら加地の中でそれはもう既に確定事項になっているらしい。
 結局それから後はずっとその調子だった。しかも最後には「何か進展したら教えてね」と言い捨てていってしまった。
 加地は掻き回すだけ俺の心を掻き回して、吉羅さんに対する俺の気持ちはよく解からないままだ。
 それとも、本当に加地の言う通り、これが恋なのだろうか。


 結論が出ないまま、森の広場へ行くと吉羅さんはまだ来ていないようだった。
 毎日来る訳でも無いから、今日は来ないのかも知れない。
 その事に少しほっとする。
 否定はしたものの、加地の言葉が頭から離れない。
 恋。
 それがどういうものなのかがよく解からない。
 解からないから、否定し切れない自分が居る。
 恋や愛を表現した曲も演奏したことはあるが、実感を伴って弾いた事は無い。
 だから、もしかしたら本当にそうなのだろうかと考えてしまう。ヴァイオリンを弾いていても、ついその事を考えてしまって集中出来ない。
「気もそぞろ、といった感じだな」
 急に声をかけられてはっとする。
 いつの間にか吉羅さんが来ていたらしい。
「吉羅さん…」
「どうかしたのか?また何か悩み事か?」
 近づいてきた吉羅さんに、何と言って返せば良いのか解からない。一歩近づいて来れられるごとに体が緊張で強張って、言葉は喉の奥に詰まって出て来ない。
「月森君?」
 訝しげな顔が近づいてきて、反射的に一歩下がる。
「な、何でもありません」
「そんな風には見えないが…」
 いくらなんでも白々しすぎるのか、吉羅さんは眉を寄せて俺を見る。
 心配してくれているのだろうか。
「本当です。少し、考え事をしていただけで…」
「考え事?」
「はい。でも大した事はありませんから」
 だから少し離れて欲しい。
 心配してもらえるのは嬉しいと思う。けれど、いつにも増して距離が近い。俺の言葉に嘘が無いかを伺うように顔を覗き込んで来られて。
 その近さのせいで。
 心臓が五月蝿い。
 大したことは無い、何を意識しているんだと自分に言い聞かせても、何の意味も成さない。
「月森君?」
「はい」
 吉羅さんの表情は安心するどころか、益々険しくなってきている。辛うじて返事をしても、自分がどんな表情をしているのか解からない。
「本当に大丈夫か?顔が赤い、熱でもあるんじゃないのかね?」
 そう言われて、吉羅さんの手が、俺の額に当てられて、冷やりとした感触と、その行為自体に驚いて身を竦ませる。
「少し熱いな…」
 それはあなたが近くに居るせいだ。
 そんな言葉が喉元まで出掛かって、飲み込む。
 これでは、本当に、まるで。
 いや、多分、本当に。
「本当に、大丈夫ですから」
 そう言って身を引くと、すんなりとその手が離れた。それを少し寂しいと思う自分の身勝手さに情けなくなる。
「でも、今日はこれで戻ります」
「…ああ」
「失礼しました」
 そう言って逃げるようにその場を後にする。
 ように、ではなくて、逃げ出したのだ、吉羅さんの傍から。
 おかしく思われていないだろうかと考えて、多分、思われているんだろうと結論する。
 それでも、冷静に振舞っている余裕は無かった。
 顔が熱い。
 あの人に触れられた手の感触を思い出して尚更、熱くなる。
 加地が、あんな事を言うからだ。
 そう考えて首を振る。
 違う、ただ、当たっていただけだ。
 どうしようもない程に、正しい答えを言い当てただけだ。
 そうだ。
 俺は、きっと。
 吉羅さんに、恋をしている。



 月森君の様子がおかしい。
 そう思って声をかけたし、心配もした。顔が赤いから熱でもあるのかと思って触れた額は、実際熱かった。
 しかし。
 立ち去る時に見せたあの表情は。
 ……いや、深く考えることは止めよう。
 何を言われた訳でもないし、深入りはしない方が良いだろう。
 彼は近いうちに此処を離れる人間なのだから。
 この交流も一時的なものに過ぎない。別れが来ると解かっている者に近づきすぎない方が良い。
 溜息を吐くと、騒がしい声が話しかけてくる。
「何だ、どうした溜息を吐いて。最近月森蓮と仲が良いと思っていたが、喧嘩でもしたのか?あいつもさっき真っ赤な顔で走って行ったぞ」
「……時折本当にこんな体質などなくなれば良いと思うんだがな」
「どういう意味なのだーっ!」
 騒々しく怒る小さな妖精に、尚更眉を顰めて言い放つ。
「五月蝿いと言っているんだ。お前に話しかけられたのではゆっくり考え事も出来ない。お前には関係の無い事だ、さっさと消えてくれ」
「何だと、我輩はお前を心配して声をかけたのだぞ!」
「心配してくれなくとも結構」
 むしろ一人にしてくれる方が余程有り難い。
「うぬぬ…可愛くないのだ、昔はもっと素直だったぞ」
「今も素直に自分の気持ちを言っているんだがな」
「むぅ、もう知らないのだ、勝手に悩んでいれば良いのだーー!!」
 叫んでどこかに行ってしまったアルジェントを見送って、また一つ溜息を吐いた。
 あれでもまた懲りずに話しかけてくるのだろうから図太いのか、忘れっぽいだけなのか。見習いたくは無いものだと思うが。
 そもそも、アルジェントに話したところで解決するものでもない。私より長生きしている筈なのに、思考はまるで子供染みているのだから。
 どちらにしろ、今の時点で深く考えるだけ無駄な事だ。私から出来ることなど、何も無いのだから。


 それから一週間ほど、月森君が来ない日が続いた。もう来ないかも知れないとも思ったが、一週間目に再び顔を出した。
 酷く、緊張しているような顔で。
「お久しぶりです」
「ああ、そうだな」
 頷くと、ほっとしたような顔をする。
 それからは今までと同じだった。
 月森君はヴァイオリンを弾いて、私は文庫を開いて、彼の奏でる音を聴く。二言三言会話をする。
 それが全てだ。
 同じように見える。
 少なくとも、している事は変わらない。
 けれど時折、こちらが息苦しくなるほどの視線を感じる。目を向ければすぐに逸らされるけれど、確かに。
 その視線の意味を問うのは簡単だ。
 それでも、そうする気は無い。彼が今の状態で良いと思っているのならそれで良いし、変わりたいと思うのなら動けば良い。わざわざ私から動いてやるほど親切でもない。
 ヴァイオリンの音が変わってきているのにも気づいていたし、視線の意味も何となく気づいてはいたけれど。
 それでも決めるのは彼の方だ。
 どうしたいのか、何を求めるのか、それは。
 答えを出すのはそれからで構わない。
 今はただ、こうして過ごすだけだ。
 こうして何も無くとも、一緒に居る時間を気に入ってはいたから。


 少しずつ、空気に春の匂いが混ざってくる。春の音楽祭のためのオーケストラも順調のようだったし、少しだけ、仕事の調子も落ち着いている。
 忙しい時期が一旦過ぎて、小休止のような時間。
 持ってきた文庫本を珍しく真剣に読み耽っていると、ふと隣に月森君が座る。
 そういえば少し前にもこんなことがあった。
 私は集中するとあまり周囲を気にかけなくなるから、もしかすると何度か声をかけられたのかも知れない。
 前にもあったことだから、すぐに意識を本の方に戻した。ページも後半になってきたし、一気に読んでしまいたい。
 そうしてまた本に集中しかけたところで、不意に左手に何かが触れた。
 視線をそちらに向けると、私の左手の上に月森君の右手が重ねられている。
 握っていると言えるほど強くもなく、ただ、本当に重ねられているだけ。
 当の月森君の方は、たったこだけのことに酷く緊張したような顔で、頬は赤く染まっている。
 その様子に思わず笑い出したくなるような気分になりながら、何も言わずに読書を再開することにした。
 そうすると、隣にいる彼はほっと息を吐いて安心したような顔をするものだから、尚更笑い出したくなるのを堪えた。
 彼なりの精一杯の意思表示なのだろうそれが、酷く可愛く思えて。
 こういうのまた、悪くないなと思う。
 日差しも少し暖かくなって、最初は少し冷たく感じた体温も、もう馴染んでしまっている。
 本に意識を戻してから、ひっそりと口元に笑みを刻んだ。
 胸の内に暖かなものが満ちていくのを感じて。



 日々が過ぎるのはあっという間だ。
 年を取れば取るほど、月日が流れるのは早い。
 元々時間が限られているのなら尚更。
 三月になり、卒業式を迎え、後は修了式を終えれば、彼はウィーンへと旅立っていく。
 初めから解かっていた事だ。
「このままで良いのか、吉羅暁彦」
 珍しく真面目な表情と声音で、アルジェントが問いかけてくる。
「何のことだ」
「月森蓮のことだ!あいつのヴァイオリンの音色は、お前と此処で会うようになってから変わったのだ。お前だって気づいているだろう」
「それがどうした」
 改めてアルジェントに言われるまでも無い事だ。聴いていれば解かる。
「お前は…このまま月森蓮が留学してしまっても良いのか?お前だってあいつのことを…」
「意外なことを言うな」
「どういう意味なのだ」
 私の言葉に心外だとでも言いたげな顔をして、睨みつけてくる。
 全く怖くは無いのだが。
「男同士の恋愛を奨めるようなことを言うとは思わなかったな。もし仮に私と月森君が付き合うことになれば、この学院の跡継ぎはどうするつもりだ?」
「うっ、それは…」
 返答に困ったように言いよどんで、それでもすぐに勢いよく首を横に振った。
「確かにそれは困る。困るのだが、それでも我輩はお前が幸せになる方が大事なのだ。お前を不幸にしてまで、この学院を守る意味は無いのだ、音楽は人を幸せにするためのものなのだから!」
「彼と付き合えば、私は幸せになれるとでも?」
 そうまで言ってもらえるのは有り難くはある。別に嫌いという訳ではないのだから。
 色々と五月蝿い事も多いが、私の事を想って言ってくれているのだろうということも、解かってはいるのだから。
「お前だって、月森蓮のことが好きなのだろう?」
「何故そう思う」
「我輩はお前が生まれたときから知っているのだぞ。お前は興味の無い者には優しくなどしないし、相手から好意を持たれていると解かっているのなら尚更だ。あまつさえ、好きでも何でもない相手に手を握られて無言で受け入れるなんて有り得ないのだ!」
「覗き見はよくないな」
「たまたま見かけただけなのだー!!」
 相変わらず無駄に騒がしい。
 声が頭に響く。耳を塞ぎたくなるのを一応我慢しながら、言葉の続きを待つ。
「…兎に角、お前だって月森蓮のことを憎からず想っているのは解かっているのだ。本当にこのまま分かれて後悔しないのか?」
「このまま別れるかどうかは、彼次第だな」
 月森君が動くのなら、それに答えるのも吝かではない。
「月森蓮が動かなければ何も言わないつもりか?あいつは相当奥手だぞ。留学を目前にしても動くかどうか…」
「それならそれで良いだろう」
 別に、付き合いたいと思っている訳でも無い。それならそれで、それぞれの道を歩けば良いだけのことだ。
「本当に、それで良いのか?」
「例え今、好意を持っていたとしても一時の気の迷いかも知れない。彼はまだまだ若い、未来がある。付き合ったとしても何れ後悔しないとも限らないだろう。それならそのまま思い出にした方が、余程綺麗に記憶に残るというものだろう」
「そういうのは、ずるいのだ」
「ずるくて結構」
 思い出にするか、もっと先を選ぶのか、岐路に立っているのは彼の方で、私ではない。
 恐らく、私が言い包めて付き合ってしまうのはとても簡単な事だ。しかしそれこそ、私が言うままに付き合えばお互い後悔する事になるだろう。
 それならば、私からは何もせずに待っていれば良い。月森君が、はっきり自分が何を望むのかを考えて出した結論なら、私に断る理由は無い。
 ただ少し。
「期待はしているがな」
「まあ、お前がそれで良いと言うのなら、我輩はこれ以上何もいえないが…やっぱりずるいのだ」
 不満そうなアルジェントを見て笑う。ずるいのは確かにそうなのだが。
「アルジェント」
「何なのだ」
「確かに彼は奥手だろうが、お前が思っているほどでも無いと思うがね」
 訝しそうな顔をしているのを見て、解かっていないのだろうなと思えば、おかしくなる。私の事は、必要以上によく知っているだろうに。
「彼は、大事なところは自分でしっかりと決めることの出来る子だろう。そうでなければ、私が好きになったりする筈が無いだろう」
「むう、解かった、もう何も言わないのだ」
 そう言って、キラキラと光を撒き散らして、消えた。
 本当に納得したとは言い切れないが、まあ良い。どちらにしろ、あれが何か言える相手は限られている。
 余計な事もしないだろう。
 それに、さっきも言った通り、彼は大事な事は自分で決められる。時間までに、自分で納得の出来る答えを出してくるだろう。
 付き合いたいと望むのならそれで良いし、何も言わない事を選ぶなら黙って見送るだけだ。
 相手に判断を委ねるのは確かにずるいのだろう。
 それでも、後悔しないというのなら、それが一番後悔せずにすむ。
 もし私から動くとしても、今である必要は無い。
 例え離れるとしても、二度と会えなくなる訳では無い。
 彼にはまだ、未来がある。
 時が経って、気持ちが変わらなければ、その時にまた動いたって良いのだから。
 今は、これで良い。
 彼が選ぶ結論をただ、待とう。



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小説 B-side   金色のコルダ