Secret relation 4



 ソファに座ったまま、何度か口付けを交わした後、吉羅さんを抱き締める。
 がっつかないようにしようと思っていたのに、駄目だ、これ以上は無理だ。
「すみません、もう、我慢出来ない」
「我慢されても困る。何のためにスペアキーを渡したのか、解からない訳じゃないだろう」
 そう言われて、吉羅さんからのキスを受けて、理性や自制なんてものは、全て吹き飛んだ。


 ベッドの上に吉羅さんを押し倒して、貪るようにキスを繰り返す。舌を絡めて、上顎をなぞり、何もかも奪いつくすように、激しく。
「ん…っ、ん、んぅ…っ」
 息を吐かせる暇さえ与えないようなキスに、吉羅さんが苦しげに息を漏らす。それでも足りずに、漏れる吐息さえも逃したくなくて、そらすら飲み込むように口付けながら、服の裾から手を差し入れて、肌を撫でる。
 滑らかな手触りを味わいながら、キスをしていた唇を移動させて、頬に、額に、瞼に、そして首筋にと口付けを落としていく。
「ふっ…あ…」
 首筋を舐めると、ふるりと身を震わせて喘ぐ。
 きゅっと目と閉じた後、ゆるゆると開いて、僕を見る。ああ、何て幸せな瞬間なんだろう。
「こうして、ベッドの上で時間を気にせずにあなたを抱けるなんて、夢みたいですよ」
「…夢じゃない」
「そうですね、こうして触れているあなたは、夢じゃない」
 柔らかいベッドの上で押し倒すのなら、こうして普通の体位で抱けるし、タイムリミットが無いから、昼休みが終わるから早くしろ、なんて急かされることもない。
 それがどんなに嬉しい事か、吉羅さんは解かっていない。僕が吉羅さんにしたいことを、どれだけ我慢していたか、なんて。
 唇を首筋から耳へと移動して、甘噛みして、耳の穴へ舌を押し入れて舐める。
「や、め…っ」
「吉羅さんって、耳、弱いですよね」
 息を吹きかけるようにしてそう囁くと、嫌だとでも言うように首を振る。
「ああ、でも吉羅さんはどこも弱いですよね。何処に触っても敏感で」
 肌を撫でていた手を滑らせて、胸の突起に触れる。
「っ…」
「声、出してください。別に、抑える必要は無いでしょう?僕以外に聞く人なんて居ないんですから」
 喘ぎ声を抑えるように手で口を塞ぐ吉羅さんにそう言って、手を掴んで退ける。
 その手を掴んだまま、もう片方の手で下肢に触れる。膨らみかけているそこを揉みしだきながら、胸の突起を啄ばむ。
「あ…、うっ」
「こっちの方が、感じるんですよね?」
「は……あ…」
 右側の乳首を敢えて選んで舐めながら言う。そこは、まだ殆ど触っていないのにもう赤く尖っている、本当に美味しそうだ。
 歯を立て、舌で転がして、味わう。
 吉羅さんがもどかしそうに身を捩って、次を強請る言葉を口にするまで、飽きることなく。
 こんな美味しい果実に飽きる事なんてことが、そもそもある筈も無い。
 触れて、焦らして、この人の全てを味わうための、その下準備なら、何も苦になることは無い。それどころか、それさえも楽しいものなのだから、この人に飽きるなんてことは、きっと一生ないのだろう。
 この人の奥深くへ入り込む快感を知っているのなら、尚の事。
 足を抱えて、深くまで押し入って、腰を揺する。その動きに合わせるかのように、ひくりと内壁が動いて、締め付けてくる。
「あ…あ、あっ…」
 突き入れる度に零れる声に煽られて。潤んだ瞳が、快楽に染まった頬が、僕の理性を溶かしていく。
「吉羅さん…気持ち、良いですか?」
「は…あ……加地…っ」
「聞かせて下さい。気持ち良いですか?」
 腰の動きを焦らすように緩めて、中をゆっくりと掻き回す。僕の先走りとローションが交じり合って、ぐちゃりと濡れた音がする。
「良い、から…っ…もっと…」
 動け、と密やかに口にして、きゅうっと締め付けてくる。
「了解、しました…っ」
「あ、あ…っ」
 腰を掴んで、深く突き刺す。もっとと望まれて、嫌だと言う理由があるはずも無い。
「う…っ、あ、あっ、あ…っ!」
 僕の動きに合わせて嬌声を上げて、身体を撓らせる。全身を快感で染め上げて、僕の肩を掴む手に力を込める。
 その、全てが。
 僕を魅了して、放さない。
 表情も、声も、身体も、何もかも、この人の全てが。
 その全てを見逃したくなくて、目を逸らさず、じっと吉羅さんの反応を見詰めながら、この人の全てに煽られていく。
 その瞳が、濡れた綺麗な赤色が、僕を真っ直ぐに見て、赤い唇が、僕の名前を呼ぶ。
「加、地っ……あ、ん…っ」
 普段は『加地君』なんて、どこか距離を置いて僕を呼ぶのに、セックスの時だけは呼び捨てにしてくる。
 ずっと、距離が近くなった気がする。
「も…っ、あ…あっ…」
「もう、達きそう…?」
 尋ねると、こくりと頷いて、潤んだ瞳で、求めるように僕を見る。
 ああ、まずい。
 こんな風に、不意打ちで可愛い反応をするんだから。僕よりも十以上も年上なのに、普段は、全然敵わないって思うほど格好良いのに。
「ねえ、今日は、後ろだけで達って下さいね」
「な…っに、あっ…あう…っ」
 だから、つい意地の悪いことも言いたくなるし、したくなる。それでなくても、そろそろ後ろだけで達けそうかな、とは思っていた。時間が無かったから、試せなかったけれど、今日はそれも気にしなくて良いし。
「んっ…あっ…あ、も……やっ…」
 すっかり勃ち上がって、先走りも次から次へと溢れ出して、腹を濡らす程になっていて、それこそ今すぐ達ってもおかしくないぐらいだけれど、それでもまだ、達けないようだ。
「加地……っ、ほん、とうに……もう…っ」
 多分、前を触れば、すぐにでも達けるのだろう。触って欲しいのだと訴えているのは解かっている。
 でも、後ろで、僕を中に受け入れている其処だけで、達って欲しい。吉羅さんにとっては、辛いことだとしても。
 焦れて、自分で触れようとした手を、掴んで止める。
「駄目ですよ」
「あ…っ」
 両手を纏めて掴んで、頭の上に押さえつける。普段なら片手で抑えるなんて到底無理だろうけれど、身体に力の入っていない今なら簡単に出来る。
「加地…っ」
「後ろだけで、達って下さいって、言ったでしょう?」
 そう言って、吉羅さんが感じる場所を狙って突き上げる。
「ああ…っ、や…もう…っ、本当に、駄目、だ…っ」
「大丈夫ですよ。時間もたっぷり…ありますから…達けるまで、何度だって、してあげます…っ」
「大、丈夫、じゃ…な、あああああっ!」
 ぐっと、突き入れた拍子に、今までに無く強く締め付けられて、中に射精する。
「う…っ」
「あ…あぁっ」
 全部中に吐き出して、息を吐く。
「加地…、もう、良いだろう…っ」
「良くありませんよ。吉羅さんはまだ達ってないでしょう?それに、あなたを見ればすぐに復活しますから」
 実際、さっき出したばかりなのに、もう既に硬くなってきている。
 感じて、感じすぎてつらそうな顔が、凄く色っぽくて、もっともっと、感じさせたいと思う。
 ゆっくりと腰を動かせば、中はぐちゃりと音を立てて、また締め付けてくる。
「うっ…あ…」
「ほら…、ね、もう一回、出来ますから」
 吉羅さん相手だったら、何度だって出来る…気がする。それこそ、干乾びるまで。
「や、あ、あっ…ああっ」
 感じる場所を、再び殊更に狙って突き上げる。辛そうに首を振り、身を捩る身体を押さえつけながら、何度も、何度も。
「あ、あ―――っ!や、あ、あぁ…っ」
 ろくな言葉も発することも出来なくなって、喘いで、全身を赤く染めて、目尻からは生理的な涙が零れ落ちて、何度も僕を締め付ける。煽るように。
 熱くて、いやらしくて、見ているだけでまた達けそうな程に、僕を煽り立てる。
「好き、大好き、です…吉羅さん…」
「んっ、あ…っ、も、あ、ああ――――ッ!!」
 何度目かの突き上げに、吉羅さんはとうとう、身体をびくびくと痙攣させて、溜まった熱を解き放つ。
「後ろだけで、達けましたね」
「は…あ、あ……」
 荒い呼吸を繰り返しながら、ぐったりとした様子の吉羅さんの目尻に滲んだ涙を舐めとって、キスをする。
「ん、ん…ッ、ま、って……は…ぁ…」
 苦しげに顔を背ける吉羅さんの身体を反転させて、腰をぐっと押し付ける。
「な、に…っ、あっ…」
「次は、一緒に達きましょうね」
 耳元でそう囁きかけると、焦ったように首を捻って、こちらを見る。
「ば…っ、何言って…っ」
 けれど文句は聞こえない振りをして、再び吉羅さんの身体を味わう。背中にキスをして、太股を撫でて、そのまま没頭していく。
 吉羅さんの全てに。


 吉羅さんが気を失うまで抱いた翌朝、ベッドの上で全裸で正座することになったけれど。
「君は、加減というものが解からないのか?」
「……すみません」
 実際、今、吉羅さんもベッドの上にやっとのことで身を起こしている状態で、多分まともに歩くことも出来ないだろう。流石に、僕もやりすぎたかなとは思う。
 冷ややかな、反論を許さない視線は、やっぱり怖い。
「もしまた、無茶な事をしたら、鍵は返してもらう」
「はい、すみません、二度としませんっ」
 手をついて、頭を下げる。
 今の自分が如何に間抜けな姿なのかは承知の上だけれど、鍵を没収させれる方が嫌だ。
「…本当に、次からは気をつけてくれ」
 硬い声が諦めを滲ませた声になったのを聞いて、顔を上げる。
 その吉羅さんの言葉に頷いて、キスを一つ、吉羅さんの唇に落とした。
 誓いを立てるように。



 それからは屋上で会った時に、時間を決めて、吉羅さんの都合の良い日に会いに行く。
 屋上では相変わらず吉羅さんは昼寝をして、僕は読書をしたりする。それも梅雨の季節に入ってからは、屋上に出るドアの前で二言三言と言葉を交わして、約束をするだけ、という日が増えたのだけれど。
 まあ、その分吉羅さんの部屋でゆっくり出来るし、話も出来るから良いんだけど。
 吉羅さんの裸の背中を見詰めて、抱き寄せる。体温を感じて、ほっとする。
 そんな事にも気づかず、吉羅さんは寝息を立てていて、そっと覗き込んだ顔には疲れが滲んでいる。
 また、無理をさせたかな。
 吉羅さんが疲れているのは解かっているのに、それでもなかなか止められない。初日の時ほどの無茶は流石にしていないし、吉羅さんも怒ったりはしないけれど。
 吉羅さんの綺麗に引き締まった身体に頬をすり寄せて、目を瞑る。こうして抱き締めて、くっついているだけでも気持ちが良い。
 しばらくそうして浸った後、背中にキスをする。最初は軽くちゅっと音をたてて、その後少しきつめに吸い付いて痕を残す。
「ん…っ」
 流石に気づいたのか、吉羅さんが吐息を零して身じろぎする。
「…何をしているんだ」
 少し不機嫌そうな声で問われて、僕はその身体をぎゅっと抱き締める。
「何って、ちょっと触ってただけですよ」
「そうじゃない、痕をつけるなと言っているんだ」
「良いじゃないですか、こんな所誰も見ないでしょう?」
 人前で着替えたりすることも無いだろうし、誰も見る機会なんて無い筈だ。こういうことをする相手が他に居ない限りは。
 居ない筈だけど。
「……私が、ジムに通っているという話はしたことがあったか?」
「あ、はい。そういえば、前にちょっと聞いた事が」
「私は主に、プールを利用しているんだ」
「あ…」
 確かに、水着になれば、そりゃあ、見える。
「不特定多数の人間に見られるのは避けたいというのは、解かるだろう」
「…はい」
 そりゃ、吉羅さんの通うジムならそれなりに高級なところだろう。そういう所は大抵の場合、上流の、何だかんだと横だとか縦だとかの繋がりのある人間が多い。
 キスマークなんて見られたら、どんな風に話が広まるか、解かったものじゃない。
「解かりました。次からは水着になっても見えないところにつけることにします」
「おい」
 悪びれずにそう言って、内股に手を滑らせれば、低い声で止められる。でも、これくらいではまだ止めない。
「この辺なら、見えないでしょう?」
 そろりと内股を撫でてそう言えば、振り返って頭を掴まれ、思い切り引き離された。
 痛いし、ちょっと扱いが酷い気がする。
「そういう問題じゃない。どさくさに紛れて盛るな」
「そんな犬猫みたいに言わないで下さいよ。僕が触りたくなるのは吉羅さんだけだし、吉羅さんを前にしたら触りたくなるんです、仕方ないじゃないですか」
「何が仕方無いんだ」
 呆れた顔をして身を起こして、それからキスが一つ、僕の唇に落ちる。
「今日はもう無理だ。我慢しろ」
 そのままさっさとバスルームに向かって行った背中を見送って、溜息を吐く。
「煽られたようにしか、思えないんですけど」
 吉羅さんからのキスなんて、滅多にしてもらえないのに。それで我慢しろなんてあんまりだ、もっと触りたくなるに決まっているのに。
 それでも結局言われた通りに我慢するのは、惚れた弱みって事なんだろう。


 そんな風に吉羅さんに振り回されつつ、それでも好きでいることは止められない。どころか前よりももっと好きになっている。
 吉羅さんにしてみれば振り回しているつもりはないだろうし、むしろ僕の方が振り回してるって言われそうだけど、無自覚な分、吉羅さんの方が、絶対性質が悪い。
 でも、そういうところも好きだな、なんて思う僕は、本当にどうしようもない。
 振り回されてしまうのだって、結局吉羅さんのことが好きで、好きで、仕方無いからだ。
 吉羅さんの部屋で、料理を作る吉羅さんの後ろ姿を見ながら、そう思う。
 シャツの袖を捲り上げているのが良い。普段は見えない部分がちらりと見えて、引き締まった筋肉がついているのが解かってそそられる。
 後ろから抱き締めて、首筋にキスをして、そのまま吉羅さんを食べてしまいたい。実行に移したら思い切り拒絶されて、折角作ってくれた料理さえ食べさせてもらえなくなるのは、一度試してみて解かっているからもうしないけれど。
「何をじっと見てるんだ」
「えー、吉羅さんが好きだなあと思って」
「……」
 ハートマークさえ飛び出しそうな感じで言ってみれば、沈黙が返ってきた。
 いつものことだけれど、それでも少し反応が変わってきたような気がするのは、勘違いじゃないと思いたい。
「よく飽きもせずに言えるな」
「吉羅さんが好きだってことに飽きることなんてありませんから。素晴らしい音楽に飽きることが無いのと同じように」
「そんな言い回しも、よく出てくるな」
 あ、この言い方は少し呆れてるかな。さっきはもう少し良い反応だったのに、やり過ぎは良くない。
「吉羅さんこそ、言わないんですか?」
「何を?」
「金澤先生に、好きだって」
 僕の言葉に、会話をしながらも迷わず動かしていた料理を作る手が止まる。
 我ながら、自分で自分の首を絞めるような発言をしているなと思う。
 僕って、マゾなのかな。
「…言える訳が無い」
「どうしてです?言えば案外上手く行くかも知れないでしょう?」
「上手く行って欲しいのか?」
 振り返ってこちらを見てそう問われれば、嘘なんて吐ける筈も無い。格好つけることさえ出来ない。
「そういう訳じゃ、無いですけど」
「だったら別に良いだろう」
 そう言われれば、僕もそれ以上、あまり言えないけれど。
「本当に、良いんですか?言わないままで」
「……。今更だ」
 今更。
 それはどういう意味なのだろう。
 今更言ってもどうしようも無いということだろうか。それとも、長い間言わなかったから今更言えないって事だろうか。
 どちらにしても、余り踏み込みすぎて嫌われたくは無いから、意味を問うことはしないけど。
 僕がそれ以上問わないのを察したのか、再び吉羅さんが料理を再開する。そう言えば何を作っているんだろう。
 でも、出来上がるのが何かを想像して待つ方が楽しいから聞かない。
 何が出たって美味しいのは間違いないし。
 初めて手料理を振る舞われた時は驚いたけれど、吉羅さんはかなり料理が上手い。
 自分の健康にも他人の健康にも気を遣う人だから、ある意味当然なのかも知れないけれど、最初は意外だと思った。
 多分、家にはお手伝いさんとかが居て、吉羅さんが何をしなくても何不自由なく暮らせるだけの経済力が実家にも吉羅さん自身にもある筈で、自分で作る必要なんてきっと、何処にも無い人だから。
 それでも、割と何でも器用にこなせる人だから、すぐに納得はしたけれど。
「…ほら、出来たぞ」
「わっ、美味しそう」
 そう言って吉羅さんが皿に盛り付けたのは本当に美味しそうなパエリアだった。良い匂いが胃を刺激して、急速にお腹がすいてくる。
 早く食べたい。
 吉羅さんから皿を受け取って、急いでテーブルの上に置いて、食べられるようにと準備する。
「そんなに慌てる必要は無いだろう」
「だって、早く食べたいですから」
 苦笑いを浮かべる吉羅さんにそう答えて、椅子に座る。
「ほら、吉羅さんも早く」
「…解かった」
「それじゃ、いただきます」
 手を合わせて、食べ始める。
 うう、やっぱり美味しい。
「本当に美味しいです。吉羅さんの手料理なら毎日でも食べたいなあ」
「全く、君は何に対しても大袈裟だ」
「そんなことありませんよ」
 本当にそう思っているから言っているのに、心外だ。吉羅さんの手料理なら本気で毎日食べたいのに。
「あ、そうだ。今度僕にも料理を教えてくれませんか?前に合宿でカレーを作った時は評価が散々だったんですよね」
「カレーで失敗するのも珍しいな…」
 あ、呆れてる。何か、吉羅さんには呆れられてばかりのような気がするなあ。
「教えるのは別に構わないが、これだったら作れるという物はあるのか?」
「うーん、玉子焼き、とか?」
「……まずそこから作れ。疑問形で答える辺りで既に怪しい」
「じゃ、作ってみますよ、今度。ちゃんと教えてくださいね」
 念を押すと、吉羅さんが頷く。
 それを確認して、楽しみだな、と思う。
 こうして少しずつ、吉羅さんの事を知っていって、吉羅さんに僕の事を知ってもらって、僕を好きになって欲しい。
 僕と話すのを、吉羅さんが少しでも楽しいと思ってくれたなら。
 それだけでも僕は、嬉しくてたまらない。
「次はいつ会えます?」
「…気が早い」
 気が急いて尋ねれば、あっさりとした答え。
 それでも。
「また、時間が出来たらちゃんと教える」
「はい」
 決して、ただの一方通行では無いと思えるから。
 どうしたって、止められないんだと思う。
 吉羅さんに、心に想う人が居ると、解かっていても。



BACK   NEXT



小説 B-side   金色のコルダ