Secret relation 2



 昼休み、今日もまた屋上へ行こうと廊下に出た時、土浦に声を掛けられた。
「よう、加地」
「あれ、土浦。何か用?」
「久しぶりに昼バスケでもやらないかと思ってさ」
「んー、ごめん。今日はパス」
 一瞬、どうしようかなと考えて、やっぱり首を横に振る。もし今日、吉羅さんが屋上に来ていたら、と考えると、どうしてもそちらを選んでしまう。
「何だ、付き合い悪いぞ、最近」
「ごめん、また今度誘って」
「何回目だよ、それ。最近ほんとよく屋上へ行くよな、お前。何かあるのか?」
「んー、日光浴に丁度言い季節っていうのもあるけど、今読んでいるシリーズ物の小説が面白くてさ、ゆっくり読みたいんだよね」
 自分でもよくこんな口から出任せが出てくるものだと思う。だけど屋上で吉羅理事長と会っているなんて、誰にも教えるつもりは無い。
 土浦に必要以上の興味を持たれて屋上に来られても困るし、言い訳としては上等だろう。
「ふーん、じゃあそれ読み終わったらまた付き合えよ」
「うん、解かった。その時はね」
 それがいつになるかは、解からないけれど。
 土浦と別れて、まずは購買に向かう。
 相変わらず嫌になりそうなほど混んでいるそこをすり抜け、二個ほど戦利品をゲットする。それから屋上に向かう途中、廊下で話し込んでいる人の姿が見えた。
 既に見慣れて、何度となく言葉も身体も交わした人と、金澤先生。
 思わず物陰に隠れて様子を見る。
 別に隠れる必要なんて無いだろう、と思うのだけれど。あの屋上以外で吉羅さんに話しかけることはし辛い。
 どんな些細なことで、吉羅さんとの関係が知られてしまうか解からないし、屋上以外で話し掛けても相手にしてくれないような気がするから。
 だからって別に、隠れる必要は無いのだけれど。
 そっと、物陰から二人の様子を見る。
 吉羅さんと屋上で会うようになるまでは、それ程気にも留めなかったけれど、金澤先生と一緒の時に何を話しているのか気になって、思わず聞き耳を立てる。
「ほんと、最近お前はよく行方をくらますよな。一体何処に行ってるんだ?」
「あなたに教える必要があるんですか?」
「必要ってそりゃお前……お前が居なきゃあそこでコーヒーが飲めんだろうが」
「勝手に自分で淹れれば良いでしょう。何よりあなたがそうしてあそこを喫茶室のように扱うから居たくないんですよ」
「お前が淹れたのが美味いんだろ。自分で淹れたんじゃ意味ねーって」
 随分我が侭な事を言いながら、金澤先生が吉羅さんの肩を抱いて、内緒話でもするかのように顔を寄せる。
「で、何処に行ってるんだ?」
「言いませんよ。邪魔されたくありませんから」
「邪魔ってなんだよ」
 拗ねたような表情を浮かべて見せながら、くしゃりと吉羅さんの髪を撫でる。
「止めてください」
「何だよ、つれないなあ」
「必要を感じませんから」
 何の変哲も無い、他愛無い会話だ。友人同士なら、ありふれたスキンシップだ。
 でも。
 吉羅さんの声が、表情が、違うと言っている。
 見ていられなくて、その場から離れて、普通科の屋上へと向かう。
 屋上に出ると、ドアを背にしてそのまま座り込んだ。
 さっきの吉羅さんの表情が脳裏に蘇る。
 肩を抱かれた時の、恥ずかしそうな、居心地の悪そうな顔。髪を撫でられた時の、少しはにかんだ嬉しそうな顔。多分、金澤先生は気づいていないし、他の誰が見てもそう簡単に気づくことは無いだろう。
 それでも僕は気づいてしまった。
 あまりポーカーフェイスを崩さないあの人の、それでも隠し切れない感情に。
 あんな顔で、そしてあんなに嬉しそうな声で、金澤先生と話すのだと思えば。
 どろりと嫌な感情が湧き上がる。
 そこで不意に、後ろから背中を押されて、膝を付いて二、三歩前に出る。ドアが開いたからだと気づいて振り返れば、吉羅さんが立っていた。
「あ…」
「どうしたんだ、こんな所に座り込んで。…何かあったのか?」
 僕の顔を見て、何か気づいたんだろうか。訝しそうな顔をして問いかけてくる。
 膝をはたいて立ち上がって、吉羅さんと向かい合う。僕より数センチ高い目線に視線を合わせて、口を開いた。
「さっき、金澤先生と話しているのを見掛けたんです」
「ああ…。それが、どうかしたのか?」
「あなたは、金澤先生が好きなんですね」
「っ」
 断定した口調で告げれば、吉羅さんが息を詰めるのが解かって苦々しい気分になる。解かってはいたけれど、更に確信して、またどろりとした感情が湧き起こる。
 逃げられないように、吉羅さんを間に挟むようにして壁に手をついた。
「ずっと疑問だったんですよね。どうしてあなたが僕に抱かれるのか…」
「加地君…」
「僕は、金澤先生の代わりですか?」
「ちがっ…んぅ……っ」
 言い訳は聞きたくない。唇をキスで塞いで、壁についていた手を吉羅さんの腰に回す。
 抵抗して突き放そうとしてくるのを押さえつけ、腰に回した手を下ろして尻を撫でれば、敏感に反応を返してくる。
「や、めろ…っ」
「僕にどこか、金澤先生と似ているところでもありましたか?あるなら教えて欲しいですけど……何なら、金澤さんの真似でもして抱いてあげましょうか?」
「だから、違うと、言ってるだろう…っ、離しなさい!」
 ネクタイを緩めて、シャツを肌蹴させる。鎖骨にキスをして、尻の間をなぞるように手を動かすと、吉羅さんの熱い息が耳にかかった。
 口では余裕がある風を装いながら、その実、行動には全く余裕が無い。今は、無理矢理にでもこの人を抱きたい。
「いい加減に、しろっ!」
 どんっと思い切り突き飛ばされて、尻餅をつく。呆然と吉羅さんを見上げれば、ぎっと強い瞳で睨みつけられる。
「今の君では、話にならない。少しは頭を冷やせ!」
 そう言い捨てて、吉羅さんは肌蹴られた胸元をかき合わせてドアの向こうへと行ってしまう。
 バンッ、といつになく強く響くドアの閉まる音が、そのまま吉羅さんの心が閉じられた音のような気がする。
「何、やってるんだ、僕は」
 くしゃりと髪をかき上げて、溜息を吐く。
 あんなのは、ただの嫉妬だ。
 解かってる、解かっていても止められなかった。
 僕を見て。僕だけを見て。金澤先生じゃなくて、僕を。僕を好きになれば良いのに。
 そんな事を考えて、あの人の事が好きなのだと自覚した。
 自覚した途端に失恋なんて、ついてない。
 でも。
 不意に、僕に抱かれて居る時の、あの人の姿が頭を過ぎる。
 思い返して、あの人の目が、僕を見ていたことに気づく。
 いつも、いつも。
 他の誰かじゃなく、ちゃんと僕を見ていた。真っ直ぐに、ちゃんと、僕だけを捉えて、僕の名前を呼んでくれていた。
 気づいて、鳥肌が立った。
 僕の方こそ、あの人の何を見ているんだろう。
 失恋しているのは変わらない。
 吉羅さんが金澤先生を好きなのは間違いない。
 それはどうしたって覆らない。
 それでも、だからこそ尚更。
 あの人がどうして僕に抱かれたのか、確かめなければいけない。
 そこに、一片の希望があるのかも知れないから。


 放課後、理事長室の前に立つ。
 周囲に人が居ないのを確認して、ドアをノックする。出来れば余り、人には見られたくない。
 何で理事長室に行ったんだと詮索されると面倒だ。言い訳なら、いくらでも言える自信はあるけれど、そうならないに越したことはない。
「はい」
 返事が聞こえてドアを開ける。
 吉羅さんは僕を見て、ほんの少し目を見開いた。僕が来たのが、意外だったんだろうか。
 仕事中だったのだろう、執務机に書類を広げて、椅子に据わった状態で、視線だけをこちらに向けてくる。
 こうしてみると、屋上での姿とは全く雰囲気が違う。
「何の用だ?」
 ドアをしっかりと閉めてから、吉羅さんに歩み寄る僕にそう問いかけてくる。
「謝りに来たんです、昼休みのことを」
「別に、わざわざ理事長室まで来る必要は無いだろう」
「だって、来なければあなたはもう屋上には行かないでしょう?」
「――…」
 この沈黙は肯定だ。やっぱり早めに来て良かった。
「謝らせてください。あなたを疑ったこと、無理矢理、話も聞かずにしようとしたこと。すみませんでした」
 頭を下げて、謝る。許してもらえるまで、何度でも謝るつもりだった。
「もう、いい。別に怒っている訳でもない」
「吉羅さん…」
 一先ずほっとして、顔を上げる。そして、これからが勝負だと気を引き締める。
「もう一つ、言わなければいけないことがあります」
 吉羅さんの、真っ直ぐな瞳が、僕を見る。
「僕は、あなたが好きです」
 その目が、大きく見開かれるのを見て。
「あなたが金澤先生のことを好きなのだとしても、僕はあなたが好きです」
「加地君…」
「だから、ちゃんと聞きたいんです。どうして、あなたが僕に抱かれたのか」
 机越しに手を伸ばして、肩を掴んで引き寄せる。間近で見る顔は、やっぱり綺麗だ。
 触れ合うほど、近くにある唇が動いて、吐息がかかる。
「解からない。……だが、相手が君でなければ、受け入れたりはしなかっただろう」
 それなら、今はそれで十分だ。
 これから、少しでもこちらに気持ちが向くように変えていけば良い。
 吉羅さんを更に引き寄せてキスをして。
 抵抗が無いことに安堵した。



 普通科の屋上の壁に背をつけて座り、腕の中に吉羅さんを抱きこんで。シャツの裾から腕を差し入れて、胸の飾りを弄ぶ。
 きゅっと摘んでやれば身を強張らせて、優しく擽れば、ふるりと快感に身体を震わせる。
「本当に、吉羅さんは敏感ですよね」
「うる、さい、耳元で、話しかけるなっ」
「話されて、息がかかると感じてしまうから、ですか?」
「っ!」
 わざと息を吹きかけるように話せば、声を詰まらせて顔が赤く染まる。
「君は…っ」
 振り返って睨みつけてくるけれど、熱を帯びた瞳では怖くも何とも無い。むしろそれを好機とばかりに唇を寄せれば、すぐにふいと顔を背けられた。
 残念、もうちょっとでキス出来たのに。
 仕方ないから、また胸を触る。両手でそれぞれの乳首をきゅっと摘めば、吉羅さんの手が僕の腕を掴む。
「いい加減に、しろ。そこ、ばかり…っ」
「ちゃんと感じてるじゃないですか、ほら」
 片方の手でそっと前の膨らんで硬くなっているところを撫でる。
「ふ…っ、く…」
「胸を触っているだけなのに、もうこんなになってるじゃないですか。本当に、やらしいですよね。普段は性欲なんてありません、て感じの顔しているのに」
 また同時に乳首をそれぞれ刺激して、首筋を舐める。本当に、何処に触れても敏感に反応してくれて、面白いぐらいだ。
「ねえ、吉羅さん。右と左、どっちの方が感じます?」
「知る、かっ」
「そんな事無いでしょう?自分の事なんですから」
 爪を立てて、親指でぐりっと押し潰す。
「あっ…ん、ん…っ」
「どっちの方が良いんですか?教えてくれないと、答えるまでこのままですよ」
「なっ…あ……っ」
 きつく摘んで、引っ張って、手触りだけでも硬く立っているのが解かる。きっと真っ赤になっているんだろうな、シャツを着たままだからよく見えないけれど、その分想像するのが楽しい。
 きっと赤く熟した果実のように甘いに違いない。
 舐めて、舌で転がして、味わいたい。
 そうすれば吉羅さんも今以上に甘く啼いてくれるだろう。
 想像するだけで、口の中に涎が溢れてきて、それをごくりと飲み込む。
 今は、一先ず我慢だ。
 それはまた今度の機会でも良い。今は吉羅さんを焦らして、自分から恥ずかしい台詞を言わせたい。僕が耐えられなくなったのでは本末転倒だ。
 吉羅さんの唇から紡がれるいやらしい言葉は、それでも美しく、清らかに僕の耳には届くんだろう。そしてそんな言葉を言ってしまったことに羞恥で顔と言わず全身を赤く染めて、潤んだ綺麗な赤い瞳で僕を見て誘うのだ。
 蝶を甘い蜜で惹き寄せる花のように、僕をその色香で捕まえてしまうのだろう。
 その甘美な想像を現実の物とするために、僕は言葉を紡ぎ、滑らかな肌を愛撫して、首筋にキスを落とす。
「良いんですか?このままだと昼休みが終わるまでずっと此処を触り続けることになりますね。それはそれで、僕は楽しいですけど」
「このっ、悪趣味…っ」
「何と言って下さっても結構ですよ。昼休みが終わるまでこのままか、それとも素直にどっちが良いか言ってくれるか。ああ、吉羅さんが自分で自分のを触っても良いんですけどね」
 それはそれで、僕は楽しい。
 僕の目の前で、顔を真っ赤に染めながら自らを慰める吉羅さんは娼婦のように艶やかで色っぽくて、清純な乙女のように清らかで美しいのだろう。
「どうしますか、吉羅さん」
 耳元で囁きかけると、ぴくんと身体を震わせて横目で睨みつけてくる。本当にこの人は、どんな顔をしていても綺麗だ。
 何もかも、貪り尽くしたいと、そう思うのを堪えて二つの胸の頂を、今度は交互に刺激する。
「う…っ、ふ…あっ」
 もどかしそうに足が動いて、腰が揺れる。
 もうそろそろ、限界、かな。
「どっちの方が、良いですか?」
「………っ、だ」
「え?何て言いました?」
 ぼそりと何事か呟いたけれど、聞き取れなかった。問い返せばまた睨みつけられたけれど、本当に意地悪じゃなくて、聞き取れなかっただけだ、と言い訳してみても仕方ないか。
 どちらでも、大して変わりない。
「もう一回、言ってください。ちゃんと聞こえるように」
「……みぎ…っだ…」
「右?……こっちの方が良いですか?」
「うあ…っ」
 殊更強く右側だけを摘んでみせれば、背を撓らせて、甘い声を溢れさせて、これ以上無いと言って良いほど顔と言わず全身を赤く染めて、頷いてみせる。
 触れている手から、体温が上昇するのが解かる気がする。
 想像通り…いや、それ以上の艶やかな表情で。
「確かに、こっちの方が反応が良いみたいですね。このまま、胸だけで達けるか試してみますか?」
「な…っ、無理だっ」
「えー、何事も試してみないと解かりませんよ。吉羅さんって、本当に感じやすいし、いけそうな気がしますけど?」
「馬鹿…、試さなくても良い!」
 流石に嫌がって、吉羅さんが僕の腕の中でもがく。本気で言った訳ではないけれど、冗談には聞こえなかったらしい。
 本気で抵抗されると体格的にもちょっと厳しい。
 吉羅さんの身体を押さえて、硬くなっている其処を布越しに握り込む。
「あ…っ」
 瞬間、身を強張らせて大人しくなる。
「冗談ですよ、流石にそこまではしません。冗談だって、解かりませんでした?」
「君は、本気でも冗談みたいに言うだろう」
「……それは、確かに」
 吉羅さんの反応を見るのが楽しいから、ついついからかい混じりの言葉を投げかけてしまう。
「さっきのは、本当に冗談ですよ。ちゃんと、此処も触ってあげますから」
 握り込んだ其処を、スラックスの上から揉み扱く。
「あ、あ…っあ……」
「本当にもう、かちかちになってますね」
「あ、やっ…ま、て…っ」
「待て?どうしてです、触って欲しかったんでしょう?」
 そのまま刺激を繰り返しながら、右の乳首も弄る。吉羅さんの手が僕の腕を掴んで止めさせようとしているのだろうけれど、大して力が入っていないから、添えられているのと代わらない。
「駄目、だ……っ、う…」
「何が、駄目なんです?」
「もっと、直接……触ってくれ」
 ああ、本当になんて、可愛いんだろう。
 恥ずかしそうに声を絞り出すこの人は、この上なく可愛くて、いやらしい。
 そんな風に言われたら、逆らえる訳が無い。
 希望通りにベルトを外して、スラックスの前を緩めて、直接、それを握り込む。優しく、壊れ物を扱うように。
「あ…っ」
「もう、濡れてますね。こんなに溢れて、我慢出来なかったんですか?」
「っ、うぁ…っ」
 指でそっと撫で上げて、溢れている先走りを指に絡めて撫で下ろす。わざと濡れた音を立てながら、それでもすぐに達してしまわないように気をつけて。
「はっ、あ…あ、あ……っ」
 控えめに漏らされる甘い声が、僕を興奮させる。
 もどかしそうに腰を揺らして、僕の手に擦り付けて来る仕草が、いやらしくて色っぽくて、たまらない。
「本当に、いやらしいですね。自分から、こんなに腰を振ってきて」
「っも…、これ以上、焦らすな…っ」
「僕としては、もっと見ていたいんですけど…でも、そうですね。そろそろ時間もなくなってきましたし」
 ぎゅっと強めにしごくと、びくびくと身体を跳ねさせる。焦らした甲斐もあって、いつもより更に反応も良くなっている。
「んっ、あ、あ……ああ…っ」
「気持ち良いですか?」
「あ……良い…、良いから、もっと、強く…っ」
 本当に限界らしい。
 余りにも素直に強請られて、僕も思わず息が荒くなる。
 手の動きを早めながら、首筋にキスをする。
 今日は吉羅さんに触るだけにしようと思っていたのに、これじゃあ、我慢が出来なくなりそうだ。
「は…あ……加地っ……もう…」
「…っ」
 名前を呼ばれて、ずくんと身体が疼いた。
 もう、それだけで達けそうだ。でも、それじゃあ余りにも情けない。
 そうなる前に、本当に早く終わらせた方が良さそうだ。
 射精を促すように手の動きを変えて、もう片方の手で右の乳首に触る。首筋にキスをして、舐め上げて、耳を甘噛みする。
「ふ、あ…あ…っ、加地……っもう、いっ…」
「ええ、達ってください」
「ああ…っ!」
 どくん、と手に握り込んでいたものが脈打って、放たれたものが僕の手を白く汚す。
 吉羅さんはぐったりと僕に凭れ掛かってきて、それを抱き締めながら、手についた液体を舐め取る。
「いっぱい出ましたね」
「…」
 その言葉には答えず、横目で僕を見て、それから目を閉じる。
 やっぱり、相当疲れたらしい。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だと思うのか?」
 疑問を疑問で返されて、苦笑いを浮かべる。
「すみません」
「反省もしていないのに、謝られたところで意味が無い」
「してますよ」
「嘘を吐くな。君は、また同じ事をするだろう」
 確かに、否定は出来ないけれど。
「…させてくれるんですか?」
「もう少し、手加減をしてくれ。君ほど若くないんだ」
「はい」
 僕に凭れ掛かったまま、吉羅さんは息を吐く。その重みが、僕の行動を許してくれている証のようで、思わず顔がにやけてくる。
 こんな顔を見られたら、気持ち悪いとか、不気味だとかぐらい言われそうだ。
 後ろ向きでよかった。
 そんな事を考えて、吉羅さんを抱き締めながら予鈴が鳴るまでの数分間、その幸せに浸っていた。



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小説 B-side   金色のコルダ