Secret relation 1



 普通科の屋上というのは、一人になりたいのなら絶好の場所で。
 秘密の隠れ家のようなものだ。
 いつだって、秘密というのは甘美な響きを持っている。
 特に背徳的なことは、快感すら齎す。
 秘密の場所。
 秘密の恋。
 秘密の関係。
 そんな言葉を考えるだけで、それに憧れる者も多いに違いない。
 まあ、僕の秘密の場所は、日野さんや土浦なんかも知っているから安いものかも知れない。昼休みに一人になりたい時、ゆっくりしたい時に此処に来ている事は、何人かの友人は知っていることだ。
 教室とかは何だかんだと騒がしいから、読書をするにも丁度良い。
 その日もそうして昼休みに読書をしていた。
 そんな、誰に気兼ねする必要も無く、誰も来るはずの無いと思っていた場所に続く扉が開かれる。あまり使われていない所為か、キイィ、と高い音がするから、人が来たらすぐに解かる。
「あ」
 扉から姿を見せた人を見て、思わず声を出す。
 吉羅理事長。
 瞬間、怒られるかな、と思う。一応、此処は立ち入り禁止の筈だ。だからこそ、人も来ない。
 しかし、吉羅理事長は、暫くこちらをじっと見つめた後、一つ溜息を吐いてまた中に戻って行った。
「えー?」
 ノーコメント?
 別に怒られたかった訳では無いけれど、まさか完全にスルーされるとは思わなかった。というか、ここは一言注意する場面じゃ無いんだろうか。
 元々、余り良い印象のある人じゃない。
 二学期に出た音楽科と普通科の分割案にしてもそうだし、今だって、突然日野さんをオケのコンミスに指名したりと、やることがいちいち生徒の意見など無視した強引なものばかりだ。そもそも、人の意見など聞くつもりも無いのだろう。
 勿論学院の経営状況は緊急を要するらしいし、早急に改善しなければならないのだろうけれど。
 日野さんを、普通科だから宣伝になると利用するようなやり方が気に入らない。
 まあ、日野さん本人もやる気になっているし、反対していた他の理事たちも納得させている以上、僕に言えることなんて何も無いけれど。
 実際、今は上手く行っているようだし。
 日野さんは、そんなに悪い人じゃないよ、と言うけれど。
 よく、解からない人だと思う。
 さっきの行動を見て、尚更、解からなくなった。
 まあ、僕が気にしたところで仕方の無い事だし、そう関わることも無いだろう。
 気にするだけ、時間の無駄だ。


 そう、思っていたのに。
 それからまた別の日。昼休みに普通科の屋上に先客が居た。
 先客である吉羅理事長は、壁に凭れ掛かって目を瞑り、眠っていた。
 開けるとキィキィと音の響く扉から僕が屋上に来たのにも関わらず、全く目が覚める気配が無いところを見ると、恐らく、かなり、結構、本気で熟睡しているらしい。
 ひょっとして、前に此処に来たのも昼寝をするためだったんだろうか。
 だけど、僕という先客が居たから、溜息一つで戻った?
 意外だ。
 こんなところで昼寝をしているのも意外だし、先客が居たからといって、一人になりたいのなら僕なんて追い払えば良いことなのに、それをしなかったのも意外だ。
 それとも、僕が一人で居ることを優先してくれたのだろうか。
 ただ自分が一人になりたかっただけなのかも知れないけれど、追い払うのも面倒だっただけなのかも知れないけれど、もしそうだったなら。
 本当に意外だ。
 とりあえず、今日は吉羅理事長の睡眠を優先して、僕は退散しよう。
 疲れているのかも知れないし、起こすのは憚られる。
 もし、また次に此処で会うことがあった時は。
 その時のことは、その時考えよう。


 そして三度目。
 僕が読書をしている時に、再び吉羅さんが現れた。目が合ってまたすぐに無言で戻ろうとしたところを、咄嗟に呼び止める。
「あの」
 声を掛けると、戻ろうとしていた足を止めて、僕を見る。じっと見下ろされて、威圧感を覚える。
 やっぱり、声なんて掛けなきゃ良かったかな、と思いつつ、黙り込んでいても仕方ないと口を開く。
「もし、昼寝しに来ているのなら、僕は気にしないので好きなところに寝て下さい。あ、吉羅さんが僕が此処に居るのを気にしないのであれば、ですけど」
 吉羅さんは少し目を見開いて、それからふと視線を落とす。
「そうだな、そうさせてもらおう」
 そう言うと、扉から僕が居るのとは反対の方向に行って座り込む。
 まさか、本当にそうするとは思わなかったから驚いた。
 自分で声を掛けておいてなんだが、他人が傍に居て落ち着いて眠れるタイプだとは思わなかったから。
 しかし、当の本人は気にした様子も無く、壁に凭れ掛かって目を閉じる。
 風が、ふわりと黒髪を揺らす。ゆるく癖のついた髪は意外と柔らかいのかも知れない。
 そんな事を考えて、あまりじっと見ているのも失礼だろうと、再び視線を本に向ける。
 三月の風は少し肌寒く、それでも日の当たる場所は暖かい。時折吹く風を感じながら読書を進めていく。
 不思議なほど、すぐ近くで眠る人の存在は気にかからなかった。まるで、そうしているのが当然のように、物語の世界へと浸っていった。


 それからというもの、時折この普通科の屋上で顔を合わせるようになった。
 殆ど言葉は交わさず、僕は読書をして、吉羅さんは昼寝をしたり、そうでなければただぼうっとしているだけの時もある。
 一人になりたくてこの屋上に来ていた筈なのに、何故か二人で過ごす時間が心地良いと思う。流れる空気が、酷く穏やかだからなのかも知れない。
 余り話す事は無いが、それでも偶に言葉を交わすこともある。
 その時もふと気になって聞いてみた。
「吉羅さんは、どうして此処に来るんです?一人になりたいなら理事長室があるし、寝るなら其処にソファもあるから、此処より快適だと思いますけど」
「一人には、なかなかなれないんだ。あそこを喫茶室か何かだと勘違いしている人が居るのでね」
「ああ、なるほど」
 金澤先生の事だろう。学生の頃の先輩後輩という関係らしいが、性格的に余り気が合うとは思えないのに結構仲が良いらしく、二人で居るところもよく見かける。むしろ、全く性格が違うからこそ、足りないところを補い合っているのかも知れない。
「仮眠をとろうとしても、何故かいつも邪魔をされる」
 偶に、仮眠どころか熟睡している事もありますけどね。
「つまり、主に金澤先生から逃げてきているんですね」
「逃げるというか……いや、まあそうだな」
 苦笑いを浮かべて、そう言う。
 そうして言葉を交わしてみると、日野さんの言っていたことにも納得する。
 初めは余り良い印象は無かったけれど、こうして会話してみるとなるほど悪い人では無いのだと思う。
 日野さんをコンミスに指名したのも、宣伝としての意味もあるのだろうけど、実際上手く行っているし、何より日野さんの才能を認めて、コンミスとしての資質を見抜いていたからなのかも知れない。
 それは逆に好意的に見すぎなのかも知れないけれど、相手の見方が変わるだけで、受け止め方も随分と変わるものだと思う。
「でも、一人になりたくて来ているのなら、僕は邪魔じゃありませんか?」
「いや、君と居るのは何故か落ち着く」
 まさか、吉羅理事長の方もそんな風に思っていたなんて、驚いた。お互いに干渉は殆どしない、会話も殆どしない、それでも気詰まりに感じない相手というのは貴重だと思う。
「そう言っていただけるのなら嬉しいですよ」
 此処に居る時の吉羅さんは、だからだろうか、穏やかな表情をしている気がする。
 普段からポーカーフェイスで、余り表情は変わらないのだけれど、何と言えばいいのか、雰囲気が柔らかいような気がする。
 この場所意外で見る吉羅さんは何処か高圧的で、それが生徒たちに良い印象を与えていないのは間違いない。元々そういう性質の人なのかも知れないけれど、勿体無いと思う。
 会話が終了したと思ったのか、吉羅さんは目を閉じてしまっている。その横顔に、思わず見蕩れた。
 純粋に、綺麗だと思う。
 伏せられている睫は決して長くは無いけれど、本数が多くて綺麗に揃っているし、鼻筋も通っていて眉も整っている。
 派手さは無いけれど、まるで彫刻のような厳しさと美しさを秘めているような気がする。
 そして気づく。
 此処で話をする時、眠って居る時、殆ど視線が合う事は無い。だから威圧感を感じることも少ないのだ。
 目が、強いのだと思う。
 彼の、赤い瞳が真っ直ぐに見つめてくると、その強さに気圧される。
 だから威圧感や厳しい印象を与えるのだ。
 そして彼は言葉も飾らない。
 恐らく必要とあればそうするのだろうが、普段そうするのを見たことが無い。常に真っ直ぐで偽らない、その言葉をどう受け止められようと気にしない。
 損をしているな、と思う。
 この人の行動基準に悪意が無くても、詳しい説明をしないから誤解される、されても構わないと思っている。
 お世辞の一つでも言えれば、もう少し敵も少ないだろうにと、就任パーティのことを思い返して。
 でもそういう人だから、日野さんや金澤先生は信頼しているんだろうか。
 横顔を見つめながら、吉羅さんがどういう人なのか、慌てて結論を出すことも無いか、と思う。
 すぐに決めなければいけないことでも無いし、時間はまだまだあるのだから。
 吉羅さんのことはまだ解からないことだらけで。
 たった一つ確かなことは、僕が吉羅さんに興味を持っていること。
 ただ、それだけだ。



 吉羅さんと普通科の屋上で遭遇するのは、別に毎日という訳じゃない。僕が屋上に行かない日もあるし、吉羅さんが来ない日もある。
 会ったとしても、言葉を交わさない日の方が多い。
 その何とも言えない距離感のある関係は、春休みが終わり、僕が三年に進級してからも続いた。
 妙に居心地の良いその場所が、前よりも気に入っているというのは誰にも言えない。
 言うのが何だか勿体無い。
 だから、僕と吉羅さんがこうして時折屋上で会っているのは、多分他の誰も知らない筈だ。
 まるで逢い引きみたいだな、と思う。
 言葉のような色気は無いけれど、こういうのも秘密の関係と呼べるだろうか。
 ただ、同じ空間を共有しているだけの関係でも。


 それだけだった筈の関係が変わったのは、綺麗な五月晴れの空が見える日だった。
 緩やかな風が気持ち良くて、僕も吉羅さんを見習ってうとうとしていた。
 だから、すぐ近くに人の気配があるのに気づいた時は、心底驚いた。近づいてきたのに全く気がつかなかったし、何よりはっきりと目を覚ました時にはすぐ目の前に吉羅さんの顔があった。
 本気で、心臓が止まるかと思った。
「き、吉羅さん…?」
 声が上ずる。一体何でこんな状態になっているんだろう。僕の足のすぐ横に右手をついて、胸元に更に顔を寄せてくる。
 完全に混乱している僕に、真っ直ぐな視線を向けてくる。その瞳に囚われて、息を呑む。こうしてここで会うようになってから暫く経つが、こんなに接近したのは初めてのことだ。
「やっぱり」
「え?」
「アルコールの匂いがする」
 眉を顰めて、ぼそりと呟く。
 何だそんなことかと言いかけて、流石にまずいかと口を噤む。吉羅さんの表情からして、あまり快く思っていないのは確かだ。
「昨日、父が飲んでいたので、制服に匂いが移ったのかも知れませんね」
 本当は僕も飲んだのだとは言えそうに無い。さっさと話の矛先を逸らした方が良さそうだ。
「でも、良くそんな匂いに気づきましたね。あんなに離れたところに居たのに。そんなに匂いますか?」
 袖口に鼻を寄せて匂いを嗅いでみるが、そんなにはっきりと匂いが解かるほどでは無いと思う。何より、香水の香りがカムフラージュしてくれている筈だ。
「いつも、君がつけているものと違う香りがしたからな」
「驚きましたね、吉羅さんが僕の香りを覚えていてくれたなんて」
「何故、今日は違う香水を使っているんだ?」
「……」
 いくつか、誤魔化すための言葉は頭に浮かんだけれど、そのどれも口に出すことは出来なかった。
 こちらを見つめてくる吉羅さんの目は、既に確信している目だ。どんなに言い繕っても見苦しいだけだろう。
「吉羅さんには敵いませんね」
 いつもつけている香水では、アルコールの匂いを上手く誤魔化せない。だから今日は違うものを使った。
 それも全部、お見通しなのだろう。
「未成年の飲酒は感心しないな」
「すみません」
 素直に謝る。
 僕の父は余りそういうことを気にしない性質だけれど、むしろ吉羅さんの反応が普通なんだろう。
 次に飲む時はバレないように気をつけよう。
「…君は、元々逸脱した行動を好むタイプか」
「えー、そんなことはありませんよ?」
「信用できないな」
 呆れた顔をして溜息を吐く吉羅さんに、苦笑いを返す。
「いけない事っていうのは確かに好きですけど、それで身を滅ぼすつもりも有りませんから」
「どちらにしろ、褒められた事じゃないな」
 吉羅さんは責める気を失くしたのか、先ほどまでの強い視線はもう無い。
「飲むなら、私が気づかないようにする事だな。仮にも教育関係者である以上、見て見ぬ振りは出来ない」
「気をつけます」
 そう言ってから、改めて吉羅さんの端正な顔がすぐ目の前にあることに気づく。
 そこで湧き上がってきたのは、悪戯心と、確かな欲だった。僕の行動で、この人がどんな顔をするのか見てみたい。
 好奇心というのが、一番正しいのかも知れない。
 すぐ近くにある顔に、更に顔を寄せて、距離はゼロになる。目を見開いた瞳が目の前にあって、触れた唇は思っていたよりずっと柔らかかった。
 腰に手を回してするりと撫でれば、体が震えて、触れている唇も震えた。
「結構、感じやすいんですね」
「加地君…」
「良いんですか?抵抗しないのなら、このまま続けますよ」
 そうして警告したのに、吉羅さんは抵抗もしなければ、そこから動こうともしない。
 殴られるぐらいは覚悟していたのに。
 だから。
 僕はそのまま、吉羅さんを抱き寄せてキスをする。
 理性を手放して、本能のままに。
 触れるたびに震える敏感な肌を撫で回して、それでも抵抗が無いから慣れているのかと思ったけれど、僕を受け入れた其処は酷く頑なで、きつくて、苦痛に顔をゆがめる様子を見て、やっぱり初めてなのだと理解したけれど、止める事は出来なかった。


 それからというもの、この普通科の屋上で会った時、読書と昼寝の他にセックスも含まれるようになった。
 何故吉羅さんが受け入れてくれるのか、何故僕は吉羅さんを抱くのか。
 そもそも、どうして僕はあの時、あんな事をしたのか。
 ただ、はっきりしているのは、吉羅さんを抱く度にこの人に嵌り込んで行っているという事だ。
 抱く度に、僕によって開かれ、慣れていく身体にどんどんとのめり込んで行っている。感じやすくて、何処に触れても反応を返してくる。そうして僕という存在に慣れていく身体に。
 そうして抱けば抱くほど疑問に思う。
 確かにあの時、吉羅さんは初めてだった筈だ。口に出してそう言った訳ではないけれど、それぐらい解かる。
 だからこそ尚更、どうして吉羅さんが僕に抱かれるのかが解からない。
 僕のことが好きなのだという、己惚れた結論には到底辿り着けない。
 それでも、それを聞くことは出来ない。聞いたら、その途端にこの関係が終わってしまいそうで、だから僕は何も言わず、この人の身体に僕を刻み付ける。
 熱い粘膜に包み込まれるのを感じながら、ゆっくりと腰を揺らす。
「ん…っ」
 熱い吐息が口から零れて、でも喘ぎは場所が場所だからか、殆ど漏らさない。
 一度思い切り啼かせてみたいとは思うけれど、流石に此処ではそれも憚られる。
 吉羅さんを膝の上に乗せて、座った状態で正面から抱く。所謂正面座位というやつで、体位も大体このパターンで、かと言って吉羅さんを固いコンクリートの上に寝かせる訳にもいかない。
 別に不満という訳ではないけれど。
「おい…っ、いい加減に、しろっ」
「何がです?」
「一体、いつまでこうしているつもりだ…、早く終わらせろっ」
「えー、もうちょっとゆっくり味わったって良いじゃないですか」
 そう言いながら眼前にある、シャツの肌蹴た胸元から見える赤く熟れた突起を口に含んで、舌で転がす。
「う…っ、や、めろ…っ、早く、しないと、昼休みが終わるだろうっ」
「別にサボっても良いのに」
「駄目だ」
 きつい眼差しでそう言われて、これ以上反抗しても良いことは無さそうだと思う。
 それにしたって、この人の基準はよく解からない。
 立ち入り禁止の屋上に来るのは良くて、飲酒は駄目、サボタージュも駄目、でもこんな関係は許している。
 解からないけれど、これから解かっていけば良い。
「解かりました」
 取り敢えず今は、言われた通り早く終わらせよう。
 吉羅さんの、下についている膝を掴んで立てさせる。
「く、ぅ…っ」
「いつもより、深くまで入ったでしょう?」
「…君はっ……う…っ」
「早く終わらせろって言ったのは、あなたですからね」
 文句を言いたげな吉羅さんを無視して、そのまま突き上げる。
「う…っく……はっ…」
「奥まで突かれて、そんなに気持ち良いですか?すごい、締め付けてきますよ」
「ふっ…う…んんっ…」
 歯を食いしばって、声を漏らさないように必死な吉羅さんが答えられないのを承知の上で、わざとそう問いかける。
 何度も遠慮なく突き上げて、深く突き入れるたびに僕の肩に手を置く吉羅さんの指に力が篭る。
「いきます、よっ」
「う……く、う…っ」
 ぐっと奥まで突き入れて、射精の快感に酔い痴れる。
 暫くその余韻に浸った後、ずるりと中から引き抜いた。つけていたコンドームを外し、服を整える。本当は中に出したいけれど、こんな場所じゃ後始末が大変すぎる。
 吉羅さんとこういう事をするようになってから、コンドームを持ち歩くようになった自分に失笑を浮かべる。
 それを一つ首を振って消し去って、未だにぐったりとしている吉羅さんに再び手を伸ばす。
「やっぱり、まだ後ろだけじゃ達けないんですね。もう少しって感じなんですけど」
 そり返ったまま、汁を溢れさせるそれに手を触れる。
「あ…っ」
「吉羅さんも、このままじゃ辛いでしょう?」
 あと、ほんの少し刺激を与えるだけで達ってしまう。そんな状態のそれを口に含んで、唇で扱く。
 そして、本当にそれだけで、あっさりと僕の口の中に放つ。
「くっ、あ、あ…っ!」
 びくりと全身を痙攣させて、荒く呼吸を繰り返す。口の中に放たれた液体をごくりと全て飲み干してから身を起こすと、丁度予鈴が鳴った。
「大丈夫ですか?」
「良いから、行きなさい…」
「はい」
 よっぽど授業を受けさせたいらしい。
 僕は素直に頷いて屋上を後にした。
 ほんのりと、口の中に残る苦味を味わいながら。



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