例えばそれは一瞬で 4



 次の日からもまた、理事長室に行った。
 振られたことは、柚木たちには言ってないけど、多分気づかれてるんだろうな。
 ただ、聞いてこないで居てくれるのが、嬉しかった。今は、あんまり聞かれたくないから。
 それに、おれは結局諦めてないし、まだまだ、これからだって思うから。
 吉羅さんにも、また会いたいって思うから。
 柚木は、おれがおれらしく頑張れば良いって言ってくれたし、おれもそうする事しか出来ないから。
「こんにちは、吉羅さん」
「ああ」
 挨拶すれば、短くそう返って来る。
 仕事中みたいで、視線も合わない。でも、それでも全然良かった。
 やっぱり仕事している吉羅さんは、かっこいいから。
 ソファに座って、吉羅さんが仕事している姿を見て、それから、ほんの少しだけ話をして。
 それだけ。
 本当は、すぐにでもまた、好きだって言いたいけど、多分何度も言ったって吉羅さんを困らせるだけだから。
 おれは、吉羅さんを困らせたい訳じゃ、無いから。
 少しでも好きになってもらいたいって思うけど、本当にどうしたら良いのかなんて解からないから、ただ、少しでも一緒に居て、その間に、少しずつでも好きになってもらえたら良いなって思う。
 だから、今は焦らないで、ただ、傍に居ることを大事にしたい。
 吉羅さんも、出て行けって、言わないでいてくれるから。


 そんな風に、理事長室に通ってたら、あっという間に卒業式の前の日になってた。
 ……卒業する前に、もう一回、告白したいな、って思うけど。
 その日は、理事長室に行ったら、吉羅さんと金やんが何か話し込んでて、中に入れそうに無かった。
 どうしよう。
 今日か、明日中に、ちゃんと告白したいけど、やっぱりこういう日って、忙しいのかな。
 今日や明日でなくても、また、来ようと思えば此処にも来れると思うけど、卒業した後に、そう何度も来るのも変、だよね。
 だから、その前に、って思うんだけど。
「……何してるんだ、お前さん」
「あ」
 こっそり吉羅さんと金やんが話してるのを覗いてたら、金やんに気づかれた。
 すぐに帰ってれば良かったかな。
 吉羅さんに見蕩れちゃうと、他に何も考えられなくなる。
「ご、ごめんなさい、話の邪魔するつもりは、無かったんだけど…」
「あー、いや、いいって。こっちの話は終わったから。なあ、吉羅」
「ええ、一通りは」
 話が終わったのなら、良いのかな。
「何か吉羅に話があるんじゃないのか?」
「え、うん。そう、だけど……」
 そう言う金やんがすごいニヤニヤした顔してるんだけど。
 何で?
「じゃあ、まあ、頑張れよ、若者」
 そんな顔のまま、ぽんっとおれの肩を叩いて理事長室から出て行く。
「全く、あの人は…」
「え?何?どういうこと?」
 吉羅さんは何か解かっているみたいだけど、おれは全然解からない。頑張れって、何のことなのかな。
 ちらっとおれの方を見て、そのままソファに座った吉羅さんが呟くように言う。
「君は解かりやすい、ということだ」
「…え?」
「意味ぐらいは解かるだろう」
 それって、つまり。
 金やんに、おれが吉羅さんのこと好きだって、知られちゃってるってこと?
 だから、そういう意味で頑張れってこと?
「……そんなに、解かりやすいかな、おれ」
「何度も言っていると思うが」
「うう…」
 やっぱり、そうなのかなあ。
 まあ、別に知られたからって、反対されてる訳じゃないなら、良いけど。
 ていうかむしろ、応援されてるみたいなんだけど。
 それはそれで、良いのかなあ。
「それで、私に何か話があるのか?」
「あ、うん。…そう、なんだけど、吉羅さん、今日何か、疲れてる?」
 何となく、疲れてるみたいに見える。
 気のせいじゃ無いと思うんだけど。
「ああ、最近少し、忙しかったからな」
「吉羅さん、おれが出来ることなんて、全然無いかも知れないけど、もし、おれに出来ることがあったら何でも言って!仕事手伝ったりとかは出来ないけど、あ、肩揉みとかならで出来るし!」
 吉羅さんのために、何か出来るなら、何でもしたいって、そう思って言ったんだけど、そう言ったら笑われた。
 そんなに変なこと、言ったかなあ。
「…肩揉みは別に必要ないな」
「そ、そっか…」
「ただ…そうだな。疲れがとれるような曲を、吹いてくれないか」
 吹いてって、トランペット、だよね。
 おれの、トランペットが聞きたいって、言ってくれてるんだよね。
 それって、凄く嬉しい。
 何の曲にしよう。
 疲れが取れるっていうんなら、清麗な曲がいいかな。でも、パーって元気になるように彩華系の曲の方がいいかな。
 吉羅さんは、何かリクエストあるのかな。
「えと、何か、聞きたい曲とか、ある?」
「何でも良い」
 何でも、何でもって……うーん、やっぱり、おれが吹くなら彩華の曲かなあ。
 元気になるようにって思って吹くのが、多分一番良いよね、おれだったら。
 そう決めて、トランペットを吹く。
 気持ちよくて、楽しい。
 元気になるように、楽しくなるように。
 疲れなんて、吹き飛ぶように。

 そうして一曲演奏し終えて、吉羅さんを見る。
「えーと、こんなんで、良かった?」
「ああ……君らしい、良い音だった」
 そう言って、笑った顔が、すごく優しくて。
 初めて、吉羅さんが笑った時みたいな、金やんに、笑いかけてた時みたいな、顔で。
 引き寄せられるように、おれは、吉羅さんに近づいて。
「火原君?」
 訝しそうに、おれを見上げる吉羅さんの肩に、手を、置いて。
 キス、した。
 した後に、はっと気がついて、大きく目を見開いた吉羅さんと目が合って、何してんだろうって、驚いて。
「わ、わっ、ご、ごめんなさい!」
 思わず勢いよく離れて、後退って、ガツンって机に足を引っ掛けて、尻餅をついた。
 前にも、こんなことあった気がする。
「何故、君の方が驚いてるんだ?」
「え、えーと、ああああ、ごめんなさい!」
 そのまま、がばって床に手をついて謝る。
 そうしたらまた、笑われた。
 でも、怒ってはいない、のかな。
「本当に君は、見ていて飽きないな」
「うう…」
「良いから立ちなさい」
 言われて立ち上がる。
 何かもう、本当に駄目だなあって思う。
 気がついたらキスしてたとか。
 でも、凄く、優しい顔だったから、つい、やっぱり、好きだなあって思ったら、体が勝手に動いてた。殆ど無意識で、キスしたんだって気づいて、すごくびっくりして。
 …やっぱ、おれの方が驚くのは変、だよね。
 何やってんだろ。
「それで、何か私に話があるんだろう?」
「うん。あの……明日、卒業式が終わってから、会えない、かな?」
 今日もう言っちゃおうか、って考えたけど。
 やっぱり、明日が良いかな。今日は、吉羅さん疲れてるみたいだし。
「明日、か」
「駄目?」
「…………いや、解かった。明日、式が終わった後は此処に居る。話があるなら来なさい」
「うん、有難う、吉羅さん!」
 良かった、これで駄目だって言われたら、どうしようって思った。
 だって多分、吉羅さんは明日、おれが何を言おうと思ってるかって、気づいてるよね。本当に、全然聞きたくなかったら、多分、駄目だって言うから。
 とりあえず、今は、言われなくてほっとしてる。
「じゃあ、明日、また来るね」
「ああ」
 明日、卒業で、それから、もう一度、吉羅さんに告白する。
 廊下を歩きながら、また緊張でドキドキしてきた。
 それから、さっきの吉羅さんとのキスを思い出して、唇が、思ってたより、ずっと柔らかかったなって思って。
 今度は、違う意味で、凄くドキドキした。



 無意識に、指が口唇をなぞる。
 ほんの少しかさついた唇の感触を思い返して、思わず溜息を吐いた。
 あれは、避けようと思えば避けられた。
 本来なら、避けなければならないところだ。
「何をしているんだ…」
 自分の事ながら、解からない。
 驚いたのは、彼の行動ではなく、拒絶出来なかった自分自身に対して。
 思えば、最初からそうだった気がする。
 肝心なところで、拒絶出来ていない。
 一番の問題は、私自身の言動だ。
 理性ではどうするべきか解かっている。基本的にはそう思う通りにしている。
 それなのに、本当に受け入れるつもりが無いのなら、ここで確実に拒絶しなければならないという時に、結局私は、曖昧な態度で受け流す選択をしてしまっている。
 何故、と。
 考えても、答えは見つからない。
 ただ、もしかしたら、それが答えなのかも知れないとも思う。
 彼にキスされて、嫌だとは思わなかった。
 本来は、怒らなければ、拒絶しなければならないところだというのに。
 真っ直ぐに好意を伝えてくる眼差しや、素直な言葉を、心地良いと、何処かで思っている。
 だから、駄目なのだろう。
 受け入れることも、完全に拒絶することも出来ない、中途半端なままでは、どちらにしろ良くない。彼のためにもならない。
 どちらにしろ、明日。
 もう一度、彼は告げて来るのだろう。
 それまでに、ちゃんと答えを見つけなければならない。
 迷わないように、拒絶するにしろ、受け入れるにしろ。
 これ以上、中途半端な状況で流す訳にはいかない。
 考えなければいけない。
 どちらを選ぶか。
 明日までに。




 卒業式が終わって。
 みんな写真撮ったり、家族と帰ったりして。
 おれも、家族が来てたけど、先に帰ってもらって、理事長室に行く。
 何でだって変な顔されたけど、柚木が「友人たちと卒業祝いをするから」ってフォローしてくれて、でもそんな約束してないから、きっと、これから吉羅さんに会いに行くって、解かってたんだろうな。
 頑張ってって言われて、おれもそれに頷いて。
 走って、理事長室に行く。
 校舎の中は、凄く静かだ。
 みんな、外に居るからなんだろうけど、足音とか、おれの心臓のドキドキとかが、凄く響いてる気がする。
 ドアをノックすると、すぐに吉羅さんの声が聞こえた。
「入りなさい」
 低くて落ち着いた声に、またドキっとして、緊張して、手に汗が滲んだ。
 ゆっくりとドアを開けると、吉羅さんは窓から外を眺めていた。そこから多分、卒業生や、他のみんなの姿が見えるんだろうな。
「失礼します」
 喉がカラカラで、凄く掠れた声が出た。
 一回目は、殆ど勢いだったけど。
 今回は、心の準備もしてたのに、やっぱり凄く緊張する。
 吉羅さんが振り返って、おれの方を見る。
「あ、あの、吉羅さん」
 目が合って、またドキドキする。
 やっぱり吉羅さんは、綺麗で、かっこいい。
「おれ……前にも言ったけど、やっぱり…」
 本当に、心臓が五月蝿くて、苦しいくらいで。
 ぎゅっと、拳を握り締める。
「やっぱり、吉羅さんが好きで……吉羅さんの、恋人になりたい」
 多分、今の俺、すごく顔が赤いんだろうな。
 吉羅さんは、真っ直ぐにおれを見て、ゆっくり近づいてきて、目の前に立った。
「君は、諦めないと言ったな」
「う、うん」
「……そうか」
 ふと目を伏せて、少し考え込んだ後、もう一度おれを見て。
「君と、付き合ってもいい」
「え……?」
 一瞬、何を言われたのか解からなくて。
 一回振られて、もう一回告白したけど、こんなにあっさり、良いって言われるとは思わなくて。
「ほんとに…?」
 信じられなくて、思わず聞き返す。
「ああ。ただし…」
「ただし?」
「……いや、後でいい」
 何だろう。
 何となく、煮え切らないっていうか、吉羅さんにしては、らしくない感じがする。
「君は、明日は何か予定があるか?」
「え、特に、何も無いけど」
「だったら、明日、午前十時に、此処に来なさい」
 そう言って、メモ用紙を渡される。
 其処には住所と、マンションの部屋の番号が書かれてる。
「此処は?」
「私の住んでいるマンションだ。これからは理事長室に入り浸ったりはしないでくれ。会うのなら、此処で会う」
「……行って良いの?」
「私は此処に来いと言ってるんだが?」
 それは、そうだけど。
 吉羅さんの家って……何か、すごい、やっぱり、信じられない。
 本当に良いのかなって、思っちゃうのは、仕方ない、よね。
「えと、明日、十時、だよね、解かった」
「すまないが、今日はこれ以上時間が取れそうに無いんだ。詳しい話はまた明日だ」
「詳しい話って?」
「君は付属の大学に行くだろう。此処を卒業しても、矢張りまだうちの生徒だ。軽々しく人に話されても困るし、出切るだけ人には知られないようにしなければならない。解かるね?」
「う、うん」
「そのことも含めて、話がある、という事だ」
 そりゃ、そうだよね。
 知られたらいけないっていうのは、おれにも解かる。
「でも…柚木とか、おれの相談に乗ってくれた友達とかには、ちゃんと言いたいんだけど…」
「……それも、明日以降にしてくれ」
「うん」
 付き合ってくれるって言ってくれて、嬉しくて。
 でもなんか、まだ全然実感が湧かない。
 それは多分、吉羅さんがそう言いながら、まだ何処か、悩んでるような顔をしてるから。
 本当に、良いのかなって気になる。
 おれのこと、本当に好きになってくれたのかなって。
「では、また明日」
「あ、うん、また」
 何となく追い返されるように理事長室を出て。
 ほんとに何も実感が湧かないまま、おれは家に帰った。



 午前、十時。
 相変わらず、実感は湧かないけど、渡されたメモの場所に来て、此処が吉羅さんの家なんだなって思ったら、やっぱり嬉しくて、緊張する。
 自動ドアから中に入ったら、またすぐ自動ドアがあって、その前に、数字の書かれた機械が置いてあった。
 えーと、こういう高そうなマンションって来たこと無いんだけど、多分、吉羅さんの部屋の数字を押せば良いんだよね?
 間違ってたらどうしよう、って思いながら番号を押す。
 すると、機械についてるスピーカーから声が聞こえた。
『はい』
 吉羅さんの声だ。
 たった二文字の言葉でも、それはすぐに解かった。
「あ、あの、おれ…」
『…君か、上がってきなさい』
 吉羅さんがそう言ったと思ったら、自動ドアが開いた。吉羅さんが、開けてくれたって事だよね。
 言われた通りに中に入って、吉羅さんの部屋に行く。
 部屋の前に行けば、そこにまた別のインターホンがあって、それを押しら、今度はすぐにドアが開かれた。
「入りなさい」
 吉羅さんが、おれを見て、言う。
 いつもは、高そうなスーツを着てるのに、今日は白いワイシャツ姿で、何となく新鮮だなって思う。
 中に入って、すぐにリビングに通される。
 物はそんなに多くなくて、シンプルで落ち着いた感じの色合いの家具が多い。
 何か、吉羅さんらしい部屋だな。
「そこのソファに座りなさい。コーヒーと紅茶、どちらが良い?」
「えーと、紅茶が良い、です」
「そんなに緊張しなくても良い」
 かちこちに固まってソファに座って答えたおれを見て、吉羅さんが苦笑いを浮かべる。
 そんなこと言われたって、やっぱり緊張するんだけど。
 吉羅さんはそのまま続きになってるキッチンに行って、紅茶を入れてくれる。
 その間にぐるりと部屋を見回す。
 やっぱり、凄く高い部屋なんだろうなあ。
 窓も凄く大きくて、広いし。
 今おれが座ってるソファとか、目の前にあるテーブルとかも、なんていうか、やっぱり高そう、って思う。良いとか悪いとかはおれには解からないけど、それもやっぱりなんか、吉羅さんらしい感じがして。
 高そうなんだけど、派手じゃないっていうか。
 落ち着く感じがする。
「待たせたな」
「あ、ありがとう」
 吉羅さんがおれの前に、紅茶の入ったカップを置く。それから、おれのすぐ隣に吉羅さんも座って、どきっとする。
 そりゃ、ソファはこれ一つしか無いから、当たり前なのかも知れないけど。
 吉羅さんが座った時の振動が伝わって、また、緊張した。
 何かすごく喉が渇いて、紅茶を飲む。
「あ、美味しい」
「そうか」
 おれがそう言うと、吉羅さんが少し笑う。
 そんな横顔に思わず見蕩れて。
 やっぱり、好きだなあ。
「それで、君と付き合う、という話だが」
「うん…」
「一つ、条件がある」
「…条件?」
 人に知られちゃいけない、とかそんな感じのことかな。
 それだったら、全然、言うつもりは無いんだけど。
 だけど、吉羅さんが言ったのは、全く別のことだった。
「もし君が、私と付き合っていく上で、不安や、不満に思うことがあったら、隠さずに言って欲しい」
「え?」
「君はすぐ表情に出るから解かりやすいが……それでも何か不安に思うことがあるのだろうということは解かったとしても、その中身が何かまでは解からない」
 確かに、それは、そうなんだろうけど。
「それが、条件?」
「ああ。別に、何もかも全て話せという訳じゃない。ただ、私に対して、不安や不満を感じたりしたら、言って欲しいということだ」
 吉羅さんと付き合っていくのに、不満なんてある訳無いって、そう思うけど。
「うん、解かった。ちゃんと言う」
 確かに、不満はなくても、不安になることは、あるかも知れないし。
 吉羅さん、かっこいいから、きっとモテるんだろうし。
 そういうことで不安、なら多分ある。
 それを、ちゃんと話せって事だよね。
「なら、良い」
 おれが頷いたのを見て、吉羅さんが、ほっとしたように笑う。
 良いってことは、これで恋人として付き合うってことなのかな。やっぱり全然実感が湧かなくて、何か確信出来る事が欲しくて。
「あの、キス、しても良い?」
 一昨日した時は、完全に不意打ちで何も聞かなかったし。
 これで吉羅さんが良いって言ってくれたら、実感が湧くような気がして。
「聞かなくて良い。好きにしなさい」
「…うん」
 吉羅さんは、全然気にした様子も無くて。
 何か、やっぱりおればっかり好きなのかなって気にもなったけど。
 良いって言ってもらえたから、隣に座る吉羅さんの肩を掴んで、キスをする。
 触れた唇は、やっぱりすごく、柔らかくて。触れてるだけで、凄く幸せで、ドキドキして。でもやっぱりもっと欲しくて。
 ちゃんとしたやり方なんて解からないけど、舌を、吉羅さんの口の中に入れると、吉羅さんの舌が、絡んできて、舌も柔らかいな、なんて思ってたら、舌先に歯を立てられて、何か、痺れるみたいに、気持ち良くて。
「は…っ」
 一旦、唇を離すと、間近に吉羅さんの顔があって。
 吉羅さんの、赤い瞳が、優しく笑ってて。
 ほんとに、恋人になったんだなって、そこでようやく実感が湧いた。
「……下手だな」
「だって……ファーストキスだって、一昨日したのが、初めてだし…」
「別に、悪くない。これから上手くなれば良い」
「うん」
 そう言われて、おれもそうだなって思って。
 また、吉羅さんにキスをした。
 今度はおれからちゃんと、舌を絡めて。
 そうして、キスをすると、もっともっと、吉羅さんが欲しくなって。
「おれ……吉羅さんを、抱きたい」
 気がついたら、そう言ってた。



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