例えばそれは一瞬で 5



 言った後に、自分が何を言ったのか気がついて、慌てる。
「え、えっと、あの……っ、そうじゃなくて、いや、抱きたくない訳じゃないけど、でも…っ!」
 だって、さっき恋人になったばっかで、キスしたばっかで、いきなりって。
 ほんとおれ、何言ってんだろ。
 今まで、好きだなあって思っても、そういう事、考えたこと無かったのに。
「構わないが」
「へ?」
「君が、そうしたいのならすればいい」
「え、で、でもっ、おれのが年下だし、背も低いし…えーと、吉羅さんは、嫌じゃないの?」
 抱きたいって言ったのはおれだけど、でも、こんなにあっさり良いって言っても良いものなのかな?多分、普通に考えたらおれのが下、になるよね。
 だけど吉羅さんは、全然気にした様子もなくて。
「男同士という時点で不自然なことだろう。そこで年齢だとか身長だとかを気にしたところで今更だと思うが」
「それは…そうかも知れないけど」
 男だから、抱かれるのは嫌だって、思わないのかな。
「私は別にどちらでも構わない。だから、君が私を抱きたいと言うのなら、そうすればいい」
「……ほんとに、良いの?」
「ああ」
 本当に、全然気にしてないみたいで。
 おれだったら、抱かれる方はやっぱりちょっと怖いって思うけど。
 吉羅さんはいつも通りの顔をして、平然と頷く。
 だから、おれはごくんと唾を飲み込んで。
 また吉羅さんに、キスをした。


 ベッドに移動して、その上で、吉羅さんと二人。
 緊張してるけど、それよりもずっと、吉羅さんが欲しいって思ってる。
 キスをしてそのままベッドの上に押し倒して。
「んっ…」
 吉羅さんの口から、少し苦しそうな吐息が漏れて、凄く、興奮した。
 口の中に舌を押し入れて、吉羅さんの舌に絡める。
 どうしたらいいのかは、全然解からないけど、兎に角夢中で。
 吉羅さんの舌が、おれの舌に絡んできて、それに合わせるようにして、おれも絡めて。すごく、気持ちが良い。
 その合間に、吉羅さんが着ているワイシャツのボタンを外す。指が震えて、しかも人のを脱がせたことなんて無いから、すごく時間がかかった。
 ようやくボタンを外し終えて、吉羅さんの肌に触れるとしっとりと手に吸い付くようで、でもすべすべしてて、何か、感動した。
「すごい、吉羅さんの肌ってすべすべだね。おれなんか、乾燥肌だから冬場なんかすごいかさかさになっちゃうのに」
「確かに……唇もかさついてるな」
「う……、嫌、かな?」
「別に、それが君なんだから……嫌も何もない」
「そ、そっか…」
 だったら良いんだけど。
 かさかさなのが嫌だって言われたら今まで以上に体にクリームとか塗って、何とかしようとするかも。今も気をつけてるけど、やっぱりどうにもならないんだよね。
 でも、おれだから良いって言ってくれるのは、やっぱり、嬉しい。
 滑らかな肌に手で触れて、鎖骨のところにキスをする。
 ぺろってそこを舐めたら、ぴくりと吉羅さんの体が震えた。
 感じたのか擽ったかったのかは解かんないけど、それでも反応が返ってきたことが嬉しくて、そのままあちこち舐める。
「……犬みたいだな」
「えー…気持ちよくない?」
「悪くは無いが……もっと、ちゃんと触ってくれ、こんな風に」
 そう言うと、吉羅さんはズボン越しにおれの中心に触れてきて。すうって撫でられるだけなのに、すごく気持ちよくて。
「うあっ」
 思わず、声が出た。
「ちょ、ちょっと待って、触んないでっ」
「何故?」
「だって、吉羅さんに触られたら、おれ絶対もたないもん」
「なら、私からは触れるなと?」
「…だって」
 ほんとに、すぐにイっちゃいそうなんだよね。
 何か、おれ一人だけ先にイくとか、凄い、かっこ悪い気がするし。
「若いんだから、一度出したところで平気だろう」
「だ、駄目、兎に角だめ!」
 おれに触ろうとする吉羅さんの手を掴んで、押さえる。
 そんなおれの反応に、吉羅さんは呆れたような顔してる。でも、やっぱり、吉羅さんに触られたらほんとに、絶対もたないし。
 今だって、結構いっぱいいっぱいだし。
「じゃあ、君から、触ってくれ。さっき私がしたみたいに」
「うん…」
 仕方ないなって顔でそう言われて、頷く。舐めるのも、結構楽しかったんだけど。
 吉羅さんの、ズボン越しに、そこに触れる。自分以外の人のに触るのなんて初めてだけど、少し力を入れて擦ったら、体が震えて、ズボンの中のものが少し固くなったのが解かる。
「うっ……もう、少し、弱く…してくれ。痛い」
「あ、うん…ごめんなさい」
 力加減がよく解からないから、ちょっと強くしすぎちゃったのかな。
 もう少し力を弱めて、ゆるゆるとそこを擦ると、吉羅さんの口から、気持ち良さそうな声が出てきて。
「あ……ふっ……」
「気持ち良い?」
「ああ……でも、もうきついから、脱がせてくれ」
「うん」
 言われて、確かに少し窮屈そうになってて、穿いているものを、脱がせる。引き抜く時に、吉羅さんも腰を浮かせてくれたから、そんなに大変じゃなかった、けど。
 脱がせて、目の前に、吉羅さんの勃ち上がったものが出てきて、思わず自分のと比べる。
 吉羅さんのが、大きい、かも。
「何を、じっと見ているんだ」
 あんまりおれがじっとそれを見てたからか、吉羅さんが呆れたような、困ったような声で聞いてくる。でも、少し顔が赤い。恥ずかしい、のかな。
 確かにおれも、じっと見られたら恥ずかしいかも。
 あ…。そういえば…。
「どうしよう、吉羅さん」
「何だ?」
「おれ……男同士でどうするか、詳しいやり方、知らない」
「…………」
 沈黙の後、思いっきり、はあって声を出して溜息を吐かれた。此処まで来てから知らないって言ったら、そりゃ呆れるよね…。
「全く予想してなかった訳じゃないが……本当に何の知識もなく私を抱きたいと言ったのか」
「う…」
「まあ、いい。此処まできて止められても、こっちだって困る。……私が教えるから、言う通りにしなさい」
「うん」
 頷くと、肩を引き寄せられて、キスをされた。
 気持ちよくて、それに夢中になりそうになると、引き離されて。
「お預けを食らった犬のような顔をするな」
「なんか、吉羅さん、さっきからおれのこと犬扱いしてるよね」
 そりゃ、本当にそんな顔してたのかも知れないけど。
「…良いから、続けるぞ」
 もう一度、引き寄せられてキスをして。
 犬扱いでも良いかって気がした。

 吉羅さんにリードされて、教えられる通りにして。
 何とか、吉羅さんの中におれのを、入れたけど。
 すごく、狭くて、きつくて……熱い。
 ぎゅうぎゅう締め付けてきて。
「…っ」
 吉羅さんも、苦しそうに眉を寄せて、唇を噛み締めてる。すごく、痛いんだろうなって、思う。ちゃんと、言われた通りに解したけど。
 そこは普通、ものを入れる場所じゃ、ないし。
「…吉羅、さん」
「良い。大丈夫、だ…」
「でも」
「気にしなくて、良い」
 そう言って、何度も胸を上下させて、呼吸を繰り返して、それから、おれの方を見て、笑う。
「好きなように、すればいい」
「っ」
 ずるい。
 そんな風に言われたら、抑えられる訳、無い。
 引き抜いて、突き刺して。
 それだけで、気が遠くなるほど、気持ちが良くて。
「っく……う……」
 吉羅さんが、辛そうにしてるのも解かったけど、一回動き出すと、全然止まらなくて。
「ごめん、ごめん、なさい……っ、止まんない、おれ…っ」
「ふ…っ、く……いい、から……っ、気にするな…」
 吉羅さんはそう言うけど、おれは、吉羅さんにも気持ちよくなって欲しい。
 辛いからなのか、萎えてしまってる吉羅さんのものをそっと握りこむ。
「ぁ…」
 苦痛とは違う声が、吉羅さんの口から零れて。
 中が、きゅっと一瞬だけ締まって。頭がくらっとする。
 前をゆっくりと揉み扱きながら、何度も中を突き上げる。
 扱くたびに中が締まって、すごく気持ち良い。
「あ……く…っ、ふ……ぁ…っ」
「っ…気持ち、いい…?吉羅さん…」
「聞く、な…っあ…」
 言ってる途中で、吉羅さんの声が、少し高く上がる。
 少しだけ感触の違うところが、中にあって。そこを擦ると、吉羅さんの体が震えて、握っているものが大きくなった。
「は…っ……あ!」
「吉羅、さん…っ、ここ、気持ち良いの…っ?」
 今度は狙ってそこを突くと、ぎゅうっと中が締め付けられて、俺も呻き声を上げた。
「うぁっ」
「あ――っ」
 どうしよう、気持ち良い。
 気持ちよくて、何度も、何度も、その場所を突き上げる。
「…っや、め……ふっ、く……そこ、ばかり…っあ!」
 文句を言うけど、吉羅さんの前もすっかり勃ち上がって、先走りが溢れてきてる。
 それに、頬が赤くなって、吉羅さんの赤い瞳は溶けるみたいに潤んでて……それが、すごく、可愛い。
 綺麗だとか格好いいとかは、何度も思ったけど、今は、凄く、可愛いって思う。
「ひ、はら…っ……もっ…や…」
「吉羅、さん…っ」
 そんな顔で、名前を呼ばれて、もう、全然抑えられなくて。
 何度も無茶苦茶に突き上げて。
「ごめん、止まんない……好き……っ、吉羅さん、好き…っ大好き…」
「…っ、知って、る…っ」
 引き寄せられるのは、三度目。
 またキスをして。
 今度は突き放されることもなくて。深く、深く繋がるみたいにキスをして。
 吉羅さんの中に、全部、吐き出した。




 シャワーを浴びて、濡れた髪を拭きながら出てくると、呆けた顔をして相変わらずベッドの上に座っている火原君に声を掛ける。
「君も、シャワーを浴びてきなさい」
「あ、う、うんっ」
 促すと頷いて、パタパタとシャワールームの方へと走っていく。
 その様子を見て、溜息を吐く。
 体を重ねれば、少しは自分の気持ちがはっきりするかと思ったが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。
 彼の気持ちを受け入れたのも、このまま中途半端な状態ではっきりと拒絶出来ないまま居るよりは、そうした方が良いと思ったからだ。
 だが、結局のところ、未だにはっきりとしたものは湧いてこない。
 それでも、情はあるし、半端なことをするつもりは無いが。
 時計を見れば、とうに昼時は過ぎている。
 彼も腹をすかせているだろう。
 何か作るかとキッチンに向かう。
 チャーハンぐらいなら時間もかからない。
 材料を出して、作り始めると、火原君がシャワールームから出てきた。
「あれ、吉羅さん、何か作ってるの」
「ああ、昼食だ、腹がすいてるだろう」
「…うん、お腹ぺこぺこ」
 へへ、と照れくさそうに笑って近づいてくる。
「チャーハン?」
「ああ」
「…吉羅さんて、料理上手なの?」
「人並み程度には作れる」
「へー」
 頷いてから、じっとこちらが作っているのを見つめてくる。
 何となく、居心地が悪い。
 彼が私のことを見てくるのは何も今に始まったことではないが、それでも何か含みがあるというか、聞きたいことがありそうな視線だった。
「何だ?」
「……吉羅さん、気持ち良かった?」
「っ!」
 聞かれた内容に、フライパンを持った手を滑らせそうになって慌てる。
「そんなことを聞くな」
「だって…やっぱり、気になるし」
 素直すぎるのも考えものだ、と本気で思う。
 そんな事を聞かれても答えたくなど無い。状況で察しろと言ってやりたいが、それはそれで、結局答えを言っているようなもので、口に出せない。
 気持ち良かったか良くなかったかと聞かれれば良かったし、感じもした。しかし、それが良いことかと言えば、彼にしてみれば良いのかもしれないが、こちらとしては心中複雑だ。
 初めて抱かれて、それで感じた、なんてことは。
「…聞くな」
「えーと…ごめんなさい」
 二度目の言葉で、流石に何か察したのか、口ごもって謝ってくる。
 それに溜息で応えて、丁度出来上がったチャーハンを皿に盛る。
「ほら、持って、テーブルに行きなさい」
「あ、有難う」
 受け取って礼を言うと、素直にテーブルに行く。
 私も自分の分を持って彼の隣に座る。
「いただきます」
 生真面目にも手を合わせて、それからチャーハンを口に運ぶ。
「あ、美味しい」
「そうか」
 彼は、本当に美味しそうにものを食べる。少し小気味良いほどだ。
 そうして美味しいと言ってもらえれば、こちらとしても作った甲斐がある。食べてみれば、確かに自分でも悪くない出来だ、と思う。
「おれに、美味しいって言われると、嬉しい?」
「…そうだな、作った者としては、その方が嬉しいだろう」
「そっか」
 突然妙なことを聞かれて、眉を顰める。それに対して彼の方は何を納得したのか、嬉しそうに笑って、どうにもそれが不可解だ。
「吉羅さん、おれね」
「何だ」
「おれ、吉羅さんが真面目に仕事してる時の顔も、怒った顔も、呆れたような顔も、全部、全部好きだけど、笑った時の顔が、一番好きだなあって」
 本当に、嬉しそうに、幸せそうに、笑って。
「だから、どうしたら吉羅さんが笑ってくれるのかなって、そればっかり考えてるんだよね」
 その後、照れくさそうな顔をして。
 その、言葉で、表情で。
 自分でもはっきり解かるほど、顔に熱が集中する。
 こんな顔は、見られたくない、思わず片手で顔を覆って。けれど、それでは隠し切れないほどに、自分でも動揺していた。
「吉羅さん、どうしたの?」
「何でもない。良いから、食べなさい」
「…うん」
 顔を逸らせて、そう言って誤魔化して。
 納得した訳では無いだろうが、頷いて追求しないでくれるのが有り難い。
 本当に、なんて事だろう。
 こんなにも、単純で、簡単な事だと、今まで忘れていた。
 難しく考える必要なんて無い、ただ、心の赴くままに感じれば良いと。
 そうすれば、とうに答えなど出ていた事に。
 ようやく気づく。
 とっくに、惹かれていたのだ。多分、初めから。
 まさか、こんな風に気づくとは思わなかった。それは、彼にしてみれば些細な、そして素直な言葉だったのだろうが。
 全く、敵わない。
 何度か呼吸を繰り返して、ようやく落ち着いた頃に溜息を吐いて。
 彼を見る。
 チャーハンを食べる手は、途中で止まっていて。
 矢張り、こちらが気になるのか、じっと見つめてきていて。
 その様子に苦笑いが漏れた。
「吉羅さん?」
「……火原君、私は、君が好きだよ」
「え……えっ?」
 告げて、真っ赤になった顔を見て。
 笑った。


Fin



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小説 B-side   金色のコルダ