第五話



 所は寮監室。
 既に日常と化した光景を前に、櫂はテーブルの上に肘をついた。
「水落先生!オレ、水落先生のことが好きだっ!!」
「それは、ありがとうございます」
 翔の告白に、さらりと水落は笑顔で返す。
「あ、いや、そういう意味じゃ…なくて……」
「? ハーブティでも飲みますか?」
「あ、うん」
「じゃぁ、淹れてきますね」
 そう言って水落はキッチンへと向かっていった。翔はがっくりとテーブルに突っ伏した。
「これで十二連敗?」
「違う、十三連敗」
 直人の問いかけに櫂は正しい答えを返す。
「懲りねぇな、ホントに。最初っから全然進歩がないぜ」
「うぅ…っ」
「ちっとも恋愛対象として眼中に入ってないもんね。水落先生は僕らに保護者としての感情しか持ってないのは明白だし」
「それなのに、告白の仕方を全く変えないあたり直情型というか、学ばないというか…」
「そもそも、これだけ人が居る中で告白して真に受けてもらえると思うほうがどうかしてるね」
「あ、あの…御園生くんも青木くんもその辺にしないと……」
「…羽村くん、再起不能になっちゃうよ?」
 手加減なしにダメ出しをしていた櫂と直人に、翔がすっかり落ち込んでいるのを見ていられなくなって凪と杏里が止めに入る。
「ごめん、つい面白くて」
「何だよ、直人だって公衆の面前で凪に告白してたじゃないかっ!!」
「いいんだよ、俺の場合は通じたんだから」
「何でオレは通じないんだよ〜〜〜っ!!!」
「通じない方がいいんじゃない?」
 悔しがる翔を尻目にさらっと櫂が言う。
「何でだよ」
「例え通じたとしても今の状態じゃ振られるのが目に見えてるからね」
「確かに、全然相手にされてないもんね」
 櫂の言葉に杏里が頷く。
「うぐっ…」
「それにしても、水落先生のあれは天然なのか、わざとなのか…」
「どっちもあり得そうだよなぁ」
「どっちにしても相手にされてないのは事実だけどね」
 直人と櫂は二人してわざとらしく溜息を吐く。二人の言葉に、翔がぶるぶると肩を震わせる。
「お前ら、普段そんなに仲よくないくせにどうしてこんな時だけ息ぴったりなんだよっ!!」
「「翔の反応が面白いから」」
 さらりと二人同時に返されてふっと意識が遠くなる。
「翔くん、大丈夫?」
 杏里が心配して声をかけるが反応はない。凪も心配そうに見ているが、かける言葉を思いつかなかった。
「千倉も凪も心配しなくても平気だよ」
「でも…」
 櫂の言葉に、凪が心配そうに尚も翔を見ているところで水落が戻ってきた。
「?…何の話をしているんです?」
「あ、いえ、なんでもないです」
 さらっと直人が言う。
「そうですか?はい、どうぞ」
 そう言って直人の前にカップを置く。他のみんなにもそれぞれハーブティの入ったカップを置いていく。
「はい、翔も」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ」
 水落にカップを渡され、翔が礼を言うとにっこりと笑顔が返ってきた。
 それだけでぱぁっと翔の顔が輝き、うっとりと水落を見つめる。
「単純」
「単細胞」
「何だよっ」
 直人と櫂の言葉に、翔が言い返す。
「本当に大丈夫みたいだね」
「すごいねすごいねすごいね、青木くんも御園生くんも翔くんのことよく解かってるんだね」
 凪と杏里はにっこりと笑い合って和やかにそう言うが、よく考えてみればそんなにいいものでもない。だが、それを突っ込める人間は此処には居なかった。


「どうやったら水落先生に意識してもらえるんだろ」
 腕を組んで考え込む翔に櫂は溜息を吐いた。
「もう少し長期戦で考えたら?今すぐどうこうなんていうのは無理だと思うよ。少しずつ水落先生の僕らを見る目を変えていかないといけないんだから」
「変えるってどうやって」
 廊下を歩きながら二人は話す。
「うーん、例えば、これだけは水落先生に負けない、ってものを見せてあげるとか」
「…オレが人より上って言えるの剣道ぐらいだけどなぁ」
「じゃ、剣道の大会で優勝するとか」
「水落先生ってずっとオレたちのこと見てたんだろ?だったらオレが中学の時に全国大会優勝したのも知ってると思うけど」
「目の前で見せるのとはまた違うと思うよ」
「うーん。そうだ、櫂は水落先生に負けないって思うところあんの?」
「頭脳?」
「悪い、聞いたオレが馬鹿だった」
「まぁ、翔が馬鹿なのは間違いないけどね。全国模試で満点取ったら見直してくれるかな」
「…満点…」
 翔には気が遠くなるような話だ。絶対無理だと言い切れる。
 でも何となく櫂ならやってのけそうな気もする。それはそれで恐ろしいが。
「あと他に意識してもらうには、実力行使しかないかなぁ」
「何するんだよ?」
「それは、ほら…」
 そう言いながら櫂は此処が廊下だったということを思い出す。
「裏庭に行こう」
「ああ」
 櫂の提案に翔も素直に頷く。


 裏庭を歩きながら、二人はどうやって水落に意識してもらうかを話し合う。
「でも実力行使って言ったって何すんの?」
「うーん、抱きついたり、キスしたり、いっそのこと押し倒したり」
「いや、押し倒すのは流石に無理だと思う」
 水落は明らかに自分たちより身長も高く、力も上だろう。櫂は元々肉体労働派ではないし、翔も剣道をやって身体を鍛えているとはいえ、少年らしい未発達な部分は否めない。
「じゃ、ためしにキスしてみる?」
「それで嫌がられたら絶望的だなぁ」
「それぐらいやらなきゃ、水落先生に意識なんてしてもらえないよ」
「そうだけどさぁ」
 翔は深々と溜息を吐く。櫂もこれと言って名案がある訳でもない。最初から長期戦の構えだったが、確かに今のままではのらりくらりとかわされ続けるのは簡単に予想できる。
「それなら、薬を使って体の自由を奪って……」
「か〜い〜」
「冗談だよ」
 とんでもないことを言い出した櫂に翔が突っ込みを入れる。冗談だと言いながら苦笑いを浮かべたところを見ると、半分は本気だったようだ。
「物騒なことを言ってるねぇ、君たち」
 ふと木陰から声がして二人ははっとする。そこかしこに木が生い茂っていて他には何もない場所だから誰も居ないだろうと思っていたのに、いきなり声をかけられて驚いた。
 声がした方を見ると、一人の少年が木の根元に座っていた。黒い髪に、綺麗な青い瞳をした少年だった。その瞳の色が何処か水落と似ている気がする。
「見たことないな。櫂、知ってる?」
「いや…この学校の生徒にこんな人居なかった気がするけど」
 でも、学園の制服を着ているのだから、生徒なのだろうか。しかし、櫂はこの学校の生徒の顔名前全てを覚えているし、その中の誰と照合しても彼のような人は居ない。転校生が来るという話しも、学園長からも生徒会長からも聞いていない。
「部外者じゃないの、君」
「一概にそうとも言えないんだけどね」
「どういう意味だよ?誰かの家族とか?」
「まぁ、そんなものかな」
 はっきりしたことを言わないので、翔も櫂も少しイラつく。大体、話を勝手に聞かれていたのが何より気に入らない。
「誰?名前は?」
「うん。リョウって呼んで。サンズイに京って書いて涼」
「涼?」
「うん」
 そう言って涼と名乗った少年はにっこり笑った。確かにその容姿にしっくりくる名前だった。
「お前、こんなとこで何やってんだよ」
 不意にまた違う声がして、二人は振り返る。
「逢坂先輩」
 翔が名前を呼ぶが、来栖の視線は涼に向いている。
「一体何してんだよ、こんなところで。その服どうした」
「さぁ?」
「おーまーえーなぁ」
「カリカリしてるとよくないよ、クリストファー」
「させてるのは誰だよっ!!」
 何やら知り合いらしいが、翔も櫂も会話についていけない。
「ちょっと待ってください、逢坂さん。知り合いなんですか、この、涼って人」
「涼?ああ、そう名乗ったのか。知り合いなんてもんじゃねぇよ」
「でも、逢坂先輩の本当の名前知ってるし」
「だから、こいつはなぁ」
 そして来栖は深々と溜息を吐く。
「こいつは、いつも水落が連れてる青い鳥。ピピだよ」
「は!?」
「まさか、鳥が人間になる訳ないでしょう?」
「普通の鳥ならな。でもこいつ元はウィンフィールドの鳥だぜ?聞いた話だと、随分昔に精霊の加護を受けたとか何とかでこいつの種族は一定の年数以上生きると人間に変身できるんだと」
 来栖の説明を聞いても、翔も櫂も未だに信じられない面持ちで涼を見た。涼は微笑みながら二人を見ているだけで何も言わない。
「本当…なの?」
「うん。クリストファーには昔…ロベールがまだ人間界に来る前に一回会ってるからね」
「大体、普通の鳥が十五年以上も生きてる時点でおかしいだろうが」
 本人に肯定され、来栖にそう言われれば、確かにそういう気もする。鳥にも固体差はあるだろうけど、ピピぐらいの小鳥が十五年以上も生きるのだろうか。詳しい知識はないからよく解からないが。
「水落先生はそのこと知ってるの?」
「ううん、知らない。というか、知ったらたぶん卒倒するだろうから、言わないでね」
「まぁ、この事を知っているのはよっぽどの鳥マニアか、王家に近い人間ぐらいだろうしな」
「でも、いくらなんでも倒れたりはしないだろ?」
 涼の言葉に大げさだと思って翔が言うと、にっこり微笑んで首を振られた。
「ただの鳥だと思われているから傍に居られるんだよ。僕はずっとセナを見てきたから…多分、僕が人間に変身出来て、人間並みの知能を持っていると知ったらかなりショックを受けると思う」
「でも…」
「まぁ、知られないに越したことはないから。内緒にしといてね」
 また何かを言おうとした翔を遮ってにっこり笑う。
「で、お前なんでこんな恰好してこんなところに居るんだよ」
「そりゃぁ、決まってるじゃないか。此処、今まで瀬那が居た何処よりも危ないからだよ」
「へ?危ない??」
「そうだよっ、いつ危ないのに襲われるかと気が気じゃないっ。普通のヤツなら簡単にかわせるけど、ランとかだったらすぐに助けに行けないとまずいじゃないかっ!!」
「あー……ははは」
 全く反論できないので三人とも苦笑いを漏らす。
「クリストファーも、あんまりセナに近づくと許さないからね」
「オレも?」
「手出してたじゃないか、この前」
「あ、あれは…」
 涼の言葉に来栖は慌てる。何と言っても傍で聞いていた二人の空気が一気に氷点下まで下がっていたからだ。
「こいつらに言うなって言っただろうがっ」
「言わないって約束した覚えはないよ」
 つんっとそっぽを向いて言う涼に、来栖は冷や汗をかく。
「手を出した?」
「逢坂さん、手を出したら確か、逢坂さんの食事に下剤を混ぜるって言いましたよね?」
「ランから助けてやったんだろうがっ!」
「だからって手を出す必要はなかったじゃないか」
「オレが助けてやんなきゃ最後までヤられてただろ。いいじゃねぇか、ちょっとぐらい良い思いしたって」
 来栖はちっと舌打ちをして言う。榊原の名前を出されて、翔と櫂は少しだけ気がそれた。
「榊原先生が?」
「そうだよ、手出そうとしてたから助けてやったんだよっ。んで、辛そうにしてたからちょっと手伝ってやっただけ…」
「それが余計なことなんですっ!!」
 来栖の言葉に櫂が反論する。
「でも、榊原先生が手を出そうとしてたのは問題だよなぁ」
「だから、僕がこうして変身してるんじゃないか」
「今水落先生は?」
「授業中」
 櫂と来栖が言い争っているのを尻目に翔と涼が話す。
「オレたちが授業受けてる間に手を出されたらどうしようもないもんな」
「そう。まぁ、この前はクリストファーが一応助けてくれたからね」
「おい、此処でその名前で呼ぶなよっ」
「クリストファーはクリストファーだろう?」
「此処では逢坂来栖なんだよ。来栖と呼べ、来栖と」
「はいはい」
「逢坂さん、まだこっちの話が終わってませんよ」
「いい加減しつこい」
 四人も揃えば騒がしくなる。それでも一応小声にはしているのだ。
「あ、そうそう。ウィンフィールドの人間じゃないけど、もう一人危なそうなのが居た」
「…?誰だよ」
「誰かは知らないよ。クロトって呼ばれてた」
 涼がそう言うと櫂が考え込む。全校生徒の名前と涼の言った名前を照らし合わせる。
「この学校にクロトって名前は、副会長の畔戸弓弦(くろとゆづる)先輩だけだね」
「あー、あれか」
「でも、僕はあまり話したことはないけど、感じの良さそうな人に見えたけど…」
「馬鹿、あれは見た目善良そうでも中身は腹黒だぞ」
 櫂の言葉をあっさり否定して来栖が言う。
「腹黒?」
「そう、腹ん中じゃ何考えてるのか解かんねぇのはラン並だな。というか、ランとサシで会話出来るんだぞ、あいつは」
「…なるほど」
「それは、確かに…」
 来栖の言葉に翔と櫂が納得する。基準がランになってしまうのはどうしても仕方のないことだ。あれが一番危険なのだから。
「畔戸先輩は確か茶道部と射撃部の両方で部長をしてるんですよね」
「どっちもかなりの腕らしいな。しかも水落と接する機会も多い」
「やばいじゃん…」
「だから、気をつけないとね、そっちも」
 涼の言葉に翔と櫂はしっかりと頷いた。相手が誰だろうと水落に手を出されたらたまらない。
「危ないって言ったらこいつら二人はどうなんだよ」
「翔と櫂はセナが嫌がることしないだろうし」
「しないよ、嫌われたくないし」
 涼の言葉に頷いて翔が言う。
「でも、涼って本当にセナのことが大切なんだね」
「ずっと一緒にいたからね。あと、ロベールと真理の子の君たちも大切だよ。他はどうでもいいけど」
「そっか、父さんや母さんのことも知ってるんだよね」
「赤ん坊の頃の僕たちのことも知ってるんでしょう」
「うん」
 翔と櫂が尋ねると涼は嬉しそうに頷いた。見た目の年頃は大して変わらないのに、何だか孫を見るお爺さんのような顔をしている、と来栖はそっと心の中で思った。口に出して言うと何を言われるか解からないから敢えて言わないが。
「二人とも、セナのこと好き?」
「うん」
「好きだよ」
「可愛いなぁ、二人とも」
「何言ってんだ、可愛いって言ったら水落だろ?」
「セナは別格」
 当然のように来栖と涼が頷きあう。
「可愛い?水落先生はカッコいいだろ?」
「お子ちゃまには解かんねーよ」
「なんだよ、それっ」
 むっとする翔に来栖が笑う。その来栖を見ていて涼が問いかける。
「それはそうと、結局来栖はセナのことどう思ってんの?」
「気に入ってるけど?」
「それ以上は?」
「今のところはない」
 その答えを聞いて涼はむっとする。
「二回も襲っといてよく言う…」
「…そっちも見てたのかよ」
「二回!?」
「何したんだよっ!!」
 涼の言葉に、翔と櫂は途端に反応する。全く水落のこととなると食いつきがいい。
「寝込み襲ったんだよ、こいつ」
「せ〜ん〜ぱ〜い〜」
「いいだろ、襲った変わりに鳩尾に蹴り食らったんだぞ、オレはっ!」
「だから、今のところ要注意人物ではあるけど、制裁は加えてないだろ、僕も」
「何かあったら加える気なんだな?」
「セナを傷つけるのは誰であろうと許さないよ」
 来栖の問いかけに、涼ははっきりきっぱりと言う。
「まぁ、でもセナの寝込みを襲うのはかなり難しいと思うけどね。セナ、寝ぼけてるときは手加減なしだから」
「あ…そう。やっぱ寝ぼけてたからなのか、あれは」
「そうそう。前なんかセナの寝込み襲おうとしてあやく撃ち殺されそうになったのも居たからね」
「うげ…っ」
「すげぇ…」
 来栖は思わず身を引くが、なぜか翔は感心している。
「感心すんなよ」
「だってすげぇじゃん。寝ぼけてても銃が撃てるなんて」
「そうか…?」
「ふふ、まぁ、兎も角ね。セナの寝込みを襲って無事に済むのは一人しかいないから」
 涼がくすくす笑いながら言う。その一人とは一体誰のことかと来栖は思ったが敢えて問いかけようとは思わなかった。双子は其処にはあまり気をつけていないようだったから。
「でも、いいなぁ。涼は兎も角として、逢坂先輩も水落先生の寝顔見たんだよな。羨ましい」
「ほんと。僕も見たいな」
「まぁ、確かに寝顔も可愛いは可愛いが、やっぱイった時の顔が一番可愛いって」
「本当に…何で逢坂さんばっかり…ずるいですよ」
 来栖の言葉に櫂はかなり本気でがっかりしている。
「うん、ずるい」
「でもマジで色っぽいぜ、あの時の顔は」
「あ〜っ、いいなぁ…」
「見てみたい…」
 いつの間にか四人で円を作って妖しげな会話を始めてしまっている。
 すると、其処に紫苑がやってくる。四人が座り込んで話している姿を見て、深々と溜息を吐いた。
「話し声がするから来てみれば…お前たち、一体何をしてるんだ?」
「えー…猥談?」
「ですね」
 紫苑の問いに来栖が答えると、櫂も相槌を打つ。その答えに紫苑ががっくりと肩を落とした。
「しかも、このメンバーで話しているということは…」
「水落先生についてに決まってるじゃないですか」
「……」
 聞かなければ良かった、と紫苑はまた溜息を吐いた。その紫苑を見ながら来栖はこっそり涼に話しかける。
「おっさんは警戒しなくてもいいのか?」
「…だって、いくら頭の中が煩悩に溢れてても手を出す勇気がないようなへタレだし」
「あ、そう…」
 あんまり可哀想じゃないかと思ったが、敢えて否定もしなかった。
「何を話してるんだ、二人とも」
「別に」
 紫苑に声を掛けられ、しらばっくれる。言ったままを話せば激しく落ち込むのは目に見えている。紫苑の落ち込む顔は見たくない。かなり鬱陶しいから。
「ところでお前…ピピだろう?その制服、一体どうしたんだ?」
「これ?ちょっと更衣室から拝借してきた」
「おいっ!」
「泥棒じゃねぇか、それじゃあっ!!」
 けろりとした顔で言う涼に紫苑と来栖が慌てる。
「今すぐ鳥の姿に戻れ、俺が返してくるから」
「折角この姿になったのに?」
「騒ぎになる前に何とかしないとお前もこの学園うろつけなくなるぜ?」
「…制服なきゃどっちにしろうろつけないじゃないか」
「オレが昔着てたやつやるから」
「解かった」
 来栖の説得にやっと涼が頷いたかと思うと、ばさばさっと服がその場に落ちた。そして、青い鳥が羽ばたく。
 紫苑は落ちた服を手に取り、畳むと立ち上がる。
「それじゃぁ、俺はこれを返してくるから」
「はいはい」
 紫苑の言葉に来栖が面倒くさげに頷く。一方双子はピピを見つめてしばし呆然としていた。
「本当にピピだったんだ…」
「…目の前で見ると実感するね…」
 思わず呟いて二人は飛び立っていったピピを見送ったのだった。
 きっと、水落のところに行ったのだろう。
 何となく、これからの学園生活は随分と騒がしくなりそうだと二人とも妙に確信めいた想いで感じたのだった。



BACK   NEXT



小説 B-side   Angel's Feather TOP