次の日から圭麻は伽耶の部屋の前で護衛につくことになった。 伽耶を守ったという事実がそうなったのだろうが…圭麻本人はあまり嬉しそうではなかった。 新月の夜。 この日は決まって街で死んだ人間の死体を燃やす。 その日、街は静まり返り、殆どの人間が街を出て行く。 新月の夜は全てを闇に包む。人の善悪さえも。だから全てそれをその夜に封じ込めるのだ、罪と共に。 その夜は焼かれた死体の匂いが町を充満させる。気分の良いものでは決してない。特別今夜は多かった。殺し屋、隆臣に殺された者が多く居たから。 圭麻は宮廷の廊下の窓からその光景を見ていた。不機嫌なぐらいに夜は炎で満たされている。 「圭麻」 結姫がそんな圭麻を見て、声をかける。 「寒くない?」 圭麻は結姫を一度見て、その後また視線を戻す。 「いや…」 結姫が圭麻に近づいて手を握る。 「でも、手がこんなに冷たいよ」 「早く寝たほうがいい」 圭麻は結姫を無視する。最近特に機嫌がよくない。宮廷が嫌いな所為なのか…ひょっとして伽耶に会いたくなかったのではないだろうか…。 「今日は、火葬の日なんだね」 結姫は外を見て言う。最初、圭麻に無視されるのは堪えたが、最近はそれも慣れてきた。結姫は圭麻の行動が完全な拒絶でないことを知っている。 「もし、圭麻があたしを拾ってくれなかったら、今日、あたしもあそこで燃やされてたかもしれないんだ…」 結姫が呟く。圭麻は結姫を見る。圭麻の、何を考えているのか解からない瞳。 「あたしを拾ってくれて、ありがとう」 結姫は笑う。両親に捨てられたのに、笑う。圭麻は笑えない。泣くことも怒ることも出来ない。感情の全てに疲れていた。 「よく、笑えるね」 「え?」 「両親に捨てられたのに…」 圭麻の言ったことは結姫に話し掛けたのか、独り言だったのか。やっと聞こえるぐらいの声だった。 「だって、泣いたって仕方ないし、今は幸せだよ、圭麻が居てくれるし。お母さん達に捨てられたのはショックだけど、うちにお金がなかったから、あたしまで育てられないもん」 「えらいもんだな」 結姫の言葉に圭麻は冷たく返す。こういう時の圭麻はすごく冷たい。 「圭麻、どうして宮廷が嫌いなの?」 「結姫には関係ないことだ。気にすることじゃない」 「でも、伽耶さんは圭麻のこと……」 「関係ない」 圧倒的な重圧。やっぱり、機嫌が悪い。 「おやすみなさい、風邪ひかないでね」 そう言って結姫は部屋に戻っていった。圭麻は燃え続ける炎を見る。 「八つ当たりだな……」 圭麻は溜息を吐く。髪を掻きあげる仕草はどこか憂いがあった。 火は夜が明けるまで燃え続ける。それはいつも同じ。変わらない習慣。炎は夜を焦がし、闇を濃くして罪を薄める。だからこそこの炎は血の色に染まる。 地獄の、業火。 その夜は然程遠くなく来た。 警備の手は以前のように緩まってはいなかった。が、闇の中を駆け抜ける猛獣に誰もが恐れ、逃げ惑った。 幾人もの人間を殺して、染み付いた血の匂い。それは彼自身を象徴していた。 彼、隆臣は伽耶の部屋の前に来て立ち止まる。その前にいる人影を見て微笑する。 「久しぶりだな。ちゃんと決着をつけようぜ」 その人物は紛れもない、圭麻だった。けれど、後もう一人…。 「誰だお前?」 「オレは護衛隊の隊長、泰造だ。圭麻の前にまずオレと手合わせしてもらおうか…」 泰造はいきり立ち隆臣を睨んで言う。 「泰造、どいててください。余計な時間はかけたくありませんから」 「余計ってな…」 「次に彼を倒したら雇った人物を教えてくれると約束したんですよ。オレ以外の人間が戦っては無意味です」 「その約束、本当に守られるのかよ」 泰造は疑心暗鬼だ。 「守りますよ、絶対に」 威圧的なものを感じる。一部始終を見ていた隆臣は少し寒気を覚えた。 「それじゃ、手合わせ願おうか…」 隆臣は一気に圭麻との間合いを詰める。泰造は少し離れて見ている。 はじめは隆臣が攻めて切りかかる。圭麻はそれを受け流す。一度間合いを離し、また切りかかる。目にも留まらぬ速さだ。けれど圭麻はそれを全く意に介していないようだった。 圭麻は隆臣の攻撃の隙を見て切りつける、隆臣は間一髪のところで避けた。 「ちっ」 実力は五分だろうか。いや、圭麻はまだ本気を出していない。早く決着をつけるべきだ。 隆臣は避けた軸足をそのままに圭麻に左足で蹴りつける。圭麻はとっさに右手で受けるが隆臣は其処ですかさず右手を振り下ろす。 圭麻はそれを避けず隆臣の懐に入って左手で振り下ろされた右手を掴み隆臣の腹を蹴る。 「くっ」 隆臣は顔を歪める。思いっきり鳩尾に入った。 一旦、圭麻から距離をおく。息が乱れる。しかし、油断はしない。圭麻の方が一枚上手だ。何をしても上手く返されてしまう。 隆臣は一呼吸置き、剣を構え直す。圭麻も同じように剣を再び構える。 睨み合い、そして一瞬の間を見て、打ち合う。隆臣は剣を振り下ろす。 圭麻はすっと避けて、隆臣の背後に回る。 それで終わりだった。圭麻は左手で隆臣の首筋を掴み、右手で剣を持っている手を捻り上げる。隆臣は抵抗が出来なくなってしまった。 「負けたよ。雇い主を教えよう」 隆臣は嘆息する。圭麻はまだ腕を緩めようとはしない。 「オレの雇い主は、社だ」 「社だと?」 傍で聞いていた泰造が反復する。 「そうだ。社に依頼を受けてきた。報酬もたんまり貰う予定だったんだがな…。信じられないか?」 圭麻は隆臣の腕を放す。 「信じましょう。あなたは嘘はつかない。そうですね?」 「ああ」 「なら、もう行っても構いませんよ。あなたへの依頼は失敗した。社はこれから捕まるでしょう。その前に逃亡する可能性のほうが大きいか…。もう、あなたは姫様を狙う必要はありません」 「そうだな。此処でひかせてもらおう」 そう言って隆臣は近くにあった窓から下におりて行ってしまった。 「いいのかよ?逃がしちまって」 「依頼主さえ解かれば問題はないでしょう」 「だけど、社つったら月読が一番の信頼をおいてる配下だぜ?簡単に信じるのかよ」 「月読に知らせる前に社を捕まえて吐かせれば良いんですよ」 けれど、社の家に行ってみるとそこにもう社の姿はなかった。 「逃げ足だけは速ぇのな」 泰造は嘆息して言う。 「まぁ、社が逃げたということで十分信頼性はありますからね。オレはとっとと報酬を貰ってこの街を離れますよ」 「この街から居なくなるのか?此処は人が多くて便利だって言ってたじゃねぇか」 「それはそうですけどね、泰造も解かってるでしょう。月読にオレのことが知られた以上、此処には居られません」 「そうだけどさぁ…」 泰造は名残惜しそうに言う。 伽耶の部屋に入る。念のため様子を見る。 伽耶も結姫もぐっすり眠っていた。何も変わらない。 圭麻は結姫に近づく。安らかに眠っている。 先日彼女に言った言葉は苛々していたからだ。罪悪感があった。それを思って自分でも驚いた。まだ、自分にも罪悪感というものがあったのか。 やっぱり、どうして結姫を拾ったのか解からない。結姫のような子供なら他にもいっぱいいた筈だ。なのに、どうして結姫なのだろう。 圭麻は、そっと眠っている結姫の頬に触れる。暖かい。何年も感じたことのなかったぬくもりを結姫は与えてくれた。 懐かしさというものがまだ自分に残っているのならそうなのだろう。まだ、自分にも人間らしいところがあったのだ。 そんな圭麻を見ている泰造はなんだか変な気分だった。 今までの圭麻と全然雰囲気が違うし、ましてや、誰かと一緒に暮らすなんて有り得ないと思っていた。 (圭麻は今自分がどんな顔してるのか自覚していないんだろうな) そう思って溜息を吐く。 「圭麻、オレは月読に報告に行ってくるから、其処で待ってろよ」 「ええ」 泰造は部屋を出て行く。圭麻は静かな空気を感じた。今まで殺し屋が狙っていたとは思えない静けさ。冷たい、冬の空気が圭麻には心地よかった。 静寂はその場を浄化し、全てを夜の闇が包んだ。 「オレは、一体どうしてこの子を拾ったんだろう…」 結姫を見ても、何も答えが出るわけではなかった。ただ、暖かさが落ち着く、そう思えた。 それだけで、きっと十分なのだろう。 あの時、どうして同じ瞳をしているような気がしたのか…ただ、人が恋しかったのかもしれない、お互いに。 そう、自分自身気付かないうちに誰かを求めていたのかもしれない。そして、絶対に裏切らない存在が欲しかったのかもしれない。結姫は、裏切れないから。自分を。 「卑怯だな、オレは…」 自分自身をそうやって納得させた。ただ、今結姫を手放すつもりはなかった。それだけは確かなこと。 月読から礼金を貰い、すぐに結姫と一緒に街を出た。しばらく其処に落ち着いてはいたけれど、本当は圭麻は特に所在を持ってはいなかった。 「これから何処に行くの?」 隣を歩いている結姫が上目遣いで圭麻に訊ねてくる。 「さぁ…何処に行きたい?」 「う〜ん、あったかいところ」 「じゃぁ、南に行こう」 そうして圭麻と結姫は南に向かって歩き始めた。特に何処に行くとは決めていなかったが、おそらくこのまま行けば南の都市、『クローヴァル』につくだろう。 取り敢えず、其処でいい場所がないか探すしかないだろう。 「でも、どうしてあの街を出てきたの?」 結姫は当然の質問をしている。そう、まるで逃げるように。圭麻は誉められることはありこそすれ、追われる必要など全くないのだから。 「見つかったからね、月読に」 「見つかったら逃げなきゃいけないの?」 「逃げる訳じゃないけど、月読はオレを探していたからね。灯台下暗しと思ってあそこに留まっていたけれど、もうそういう訳にもいかない」 結姫には圭麻の言ってる意味がさっぱり解からなかった。 けれど結姫は、圭麻と一緒に居られればそれでいいと思っていた。何処に行こうと圭麻が居れば大丈夫だ。そう思えた。 「ねぇ、次の場所についたら、ちゃんと文字を教えてね」 「ああ、そうだね。教えるよ」 圭麻はいつも無表情だが、それでも結姫は圭麻を優しいと思っていた。 「結姫…この間はごめん」 「え?」 一瞬、何のことを言ったのか解からなかった。 「八つ当たりしたから…」 「あ、この間の火葬の日のこと?全然気にしてないよ、大丈夫!」 実際は多少は気にしていたのだが、圭麻が謝ってくれたのだ、それで十分だった。本当のところどう思っているのかは、表情からは読み取れないが…。 しかし、こんな時も無表情なのはちょっと怖いな…と結姫は思った。 ただ、結姫も誰かが傍にいるのが嬉しかった。自分のことを別に邪魔にしていないというのは解かっているから。だから、圭麻の傍に居たかった。 あの時、自分を助けてくれた。ただ、当たり前の景色のように忘れられていた自分を見つけて拾ってくれた。それだけで嬉しかった。 圭麻の傍にいるなら、いつだって笑っていられる。そう思えたから…。 「ずっと、そばに居てね…」 そう呟いた結姫の声は圭麻には聞こえなかった。 クローヴァルは賑やかな街だった。 市場が街を賑わして、人々は活気付いている。しかし、街の情勢は今まで圭麻たちが居たところと何ら変わりなかった。 子供が道端に捨てられていることも、新月の夜に火葬があることも。 けれど、今まで圭麻がいた北の街、ミストとは全く違うものが一つだけあった。それは気候。 暖かさの所為もあって捨てられた子供も凍死することもなく、子供達同士で集まって協力して生活している一団がいくつかあるらしかった。 捨てられた子供は何処かの一団に仲間に入れてもらうことが出来た。しかし、その子供達の生活するすべは働くとも出来ないので主に盗みだった。 大人たちはそれを疎ましがったり、哀れんだりするが、それは全て表面上のことだけであり、子供達を引き取ろうとするものは誰一人居なかった。その街の政府でさえ、その子供達を野放しにしていたのだ。 圭麻と結姫は市場を見て回り、その後何処かにいいアパートはないか探した。 其処で2DKのアパートを見つけ、値段も手ごろなので其処に決めた。風呂もトイレも完備されている。何処にでもこういう便利なところがあるものだ。 其処に住むことに決めて、翌日からすでに客が来た。どうやってこの場所を知ったのか結姫は不思議で仕方がなかった。 そしてその晩は夜遅くに帰ってきたので、結姫はすでに寝てしまっていた。 ドタッ 圭麻が倒れこむようにしてドアの近くに座り込んだ。 圭麻は怪我をしているのだ。圭麻は結姫を起こさぬように家の中に入り、傷の手当てをした。別に深い傷ではない。が、軽い怪我でもなかった。 けれどこれはよくあることだった。『仕事柄』で。 「はぁ…」 圭麻は手当てを一通り済ませると大きく溜息を吐いた。 この怪我では暫くまともな仕事は出来そうにもなかった。 「まぁ、月読からそれなりに報酬は貰っているから暫く仕事しなくても大丈夫だろうけど…」 ゆっくりしてみてもいい。怪我も十日もすれば完治するだろう。 こういうことがあるかもしれないので圭麻はわざと結姫と別の部屋を用意できるように2DKの部屋を選んだのだ。同じ部屋ならどうしても気付かれてしまう。 そうすれば話さなくてはいけなくなるかもしれない。自分がどんな『仕事』をしているか。 圭麻はその後すぐにベッドに入り眠りについた。疲れの所為もあってかすぐに寝付いた。 翌朝 仕事の依頼者は数人来たが、全部断った。結姫は不思議そうだったが単純に喜んでいた。 「結姫、約束だったからね、字を教えよう」 「ほんと!?」 「うん」 結姫は本当に嬉しそうに言った。字を覚えて損はない。生活するのには字を覚えていたほうが何かと便利だ。 結姫は一生懸命やった分だけ覚えるのが早かった。 「結姫は覚えがいいね」 「だって、早く字を読めるようになりたいし、そうしたら何か圭麻の役に立てるかも知れないでしょ?」 「オレの?」 「うん、だって、面倒見てもらってるだけじゃ悪いもん」 結姫は張り切って言う。 「あのね、あたしも料理ぐらいなら、出来るから。だから、いろいろお手伝いさせてね?」 「ああ…」 そんな風に考えていたなんて思わなかった。自分自身彼女を引き取ったのは気まぐれみたいなものだったのに。 「料理、どんなのができる?」 「えっとね、いろいろあるけど、煮物とか得意だよ、スープとか…」 「それじゃぁ、今夜作ってみてくれる?」 「うんっ」 結姫はすごく嬉しそうだった。そんなに嬉しいことなのだろうか。 「へぇ、おいしい」 結姫の作った料理は意外とおいしかった。意外というのは結姫には失礼かもしれないが。 「お母さんにね、前にいろいろ教えてもらったの」 結姫は満面の笑みで笑う。 「お母さん…」 圭麻がその単語を呟く。母親。結姫の表情が曇った。 「もう、あたしのことなんて忘れちゃってるかな…」 無理して笑っていた。痛々しく。 「忘れてはいないと思うよ。君のことを本当に好きだったのだろうから。君のことを捨てたくて捨てた訳じゃないんだろうしね」 圭麻が慰めるように言う。けれど、それは間違いないと思う。 「うん」 少し瞳を潤ませて結姫は笑う。結姫はどんなに悲しくても笑うことが出来る。一生懸命に生きているから。 「料理、今度からずっと結姫にしてもらおうか」 「え?」 「いいだろう?」 「うん、ありがとう!」 結姫は嬉しそうだった。こんなことが嬉しいのか…圭麻は結姫の気持ちが解からない。何もしなくて済むのなら、圭麻は何もしたくなかった。 自分から働きたいという結姫はなんだか自分にはないものを持っているようで羨ましくも感じた。 「明日、買い物にでも行こうか…」 「え?」 「一緒に、買出しに行こう。結姫が作りたいものを作ればいいし、材料を買いに。オレも買いたいものもあるしね」 「うん、何作ろうかな。圭麻は何が食べたい?」 「オレは得に好き嫌いはないから。なんでもいいよ」 「ええぇ、つまんないなぁ」 結姫は頬を膨らませて言う。その仕草の一つ一つが子供らしい。 「美味しいもの、作ってくれればね」 「解かった、圭麻が唸るような美味しいの作る!」 結姫はガッツポーズをして見せて張り切る。 仕事を暫く休んでよかったと思う。こんな些細なことで感情の起伏を激しく変化させる結姫は圭麻にとってある意味自分の持っていない部分を持っているから傍にいてバランスをとりたいのかもしれない。 小さなことでも精一杯の自分で受け止めようとしている結姫。些細なことはそのまま無視してしまう圭麻だけれど、結姫が居るだけで、少し心が救われた。 どうしてこの子を拾ったかなんてもうどうでもいいのだと、そう思った。 「おい、喧嘩だぞ!」 周りが急に騒がしくなった。 「女が男相手にしてるぞ!!」 野次馬が喧嘩の周りに集まっていく。圭麻はそのまま通り過ぎようとも思ったが、結姫はどうも気になるらしく、圭麻も仕方なく付き合う。 喧嘩しているのは、どちらかというとガラの悪い、粗悪そうな男と、金髪の美女…なのだが口が悪い。 「てめぇ、もう一度言ってみろ!!」 こう言ったのは金髪の美女の方だ。 「るせぇ、音痴!何度でも言ってやらぁ!」 男のほうはかなりキレかけている。 「なんだとっ、こっちだってな、お前みたいが下衆に聞かせる歌は持ってねぇんだよ!」 「んだと、このアマッ!」 男のほうはとうとうキレて女を殴ろうとする。 パシッ 予想していたよりは軽い音だった。圭麻が男の腕を掴んだのだ。 圭麻も出来るなら関わり合いにはなりたくなかったのだが、理由は簡単、結姫があまりにも心配しすぎるからだった。 「みっともないですよ、大人の男が女性に手を挙げるなんて」 「なんだと、この野郎!」 男は急に間に入ってきた圭麻が気に入らないらしく、今度は圭麻に殴りかかる。 怪我はしているが、それでも雑魚だ。圭麻は男の腕をあっさり捻りあげる。 「いて、てて」 男は苦痛に顔を歪める。 「お、オレが悪かったよ、放してくれっ!頼む!!」 「これに懲りたら、こんなみっともない真似は止めたほうがいいですよ」 「わ、解かったから、早く放してくれ!!」 圭麻が腕を放してやると、男はとっとと逃げてしまった。 「大丈夫ですか?」 「あ、ああ。サンキュ」 どうも、女らしくない。結姫は喧嘩がおさまったのを見て圭麻の近くに駆け寄ってくる。 「一体、喧嘩の原因は何なんですか?」 「そうそう、あいつさ、オレの歌にけちつけやがんの!んっとにムカつくったらありゃしねぇ!」 「それで喧嘩売ったんですか?」 圭麻は溜息を吐く。 「いいだろ、そんなこと。それより、お前強いな、カッコいいしさ。オレは那智。な、な。あんた、オレのボディガードやってくんない?」 「は?ボディガード?」 「そ、オレ、期待の新人だからさ、お姉さま方敵に回していろいろ恨み買ってんの。何されるか解かったもんじゃないだろ?頼むよ」 また厄介なことに関わってしまった。 面倒なことに巻き込まれそうな予感に圭麻は頭を抱えて溜息を吐いた。 |