Female dog



 その姿を見つけて、遠山は思わず笑いを洩らした。
 遠山に会いたいと言って連絡してきた彼は、表情も仕草もいつも通りの様子だ。あまり櫛を通していないような髪や、さして頓着していない服も。
 しかし、確実に常と違うところがある。その証拠に、彼とすれ違うと振り返ってしまう人間が居る。それも男ばかりだ。前髪と眼鏡がいつも通り顔を隠しているのだから、人間離れした容姿に驚いているわけではあるまい。
 原因は今の彼が持つ空気だろう。男を惹きつける匂いを放っている。だから、訳の解からぬまま惹かれて男どもは振り返り隣を歩く女性は眉を潜める。しかし、それも一瞬の間、顔を見た瞬間に夢は解ける。男は何故惹かれたのか解からず首を傾げ、女は何故男が彼を見たのか解からずまた首を傾げる。
 一種のフェロモン、だろうか。
 簡単に形容を問わずに言えば発情期の雌犬に近い。
「遠山さん、待ちましたか」
「いいや。それにしても、この台詞は本当にデートみたいだな。お前とこんな会話できる日が出来るとは思わなかったよ」
 ふざけて言ってみれば京介はあからさまに眉を潜めた。
 …結構本心も混じっていたりするのだが…。
「で、これからどうする?」
「さっさと用を済ませましょう」
「用ってお前な…もう少し色気のある言い方出来ないのか?」
 京介の言いように、流石の遠山も呆れ返る。これからしようとしている事を考えると、それを「用」ですませてしまうのはどうかと本気で思うのだが。
 まぁ、今までも事務的に何処かで相手を見繕って「処理」してきたのだろうから、仕方が無いのかも知れない。そう思うと、遠山は溜息を吐いた。
「僕にそんなものを求めないでください」
 京介は憮然とする。
「どうして。今まではどっかの見知らぬ男どもを餌食にしてきたんだろうが。そんなんじゃ折角引っかかった獲物も逃げてくだろうに」
「そういう言い方は止めてくれませんか」
 事実だけに反論はしない。
「引っかかる数は多いだろうがな」
 少し周りを見れば、矢張り京介を振り返る男たちが居る。京介は意味を察したのか顰め面。遠山は京介の肩を掴んで引き寄せる。
「行こう」
 小さく笑って言うと、京介も頷いた。何処かホテルに行くのが適当だろう。ラブホテルは個人的に好かないから、ビジネスホテルが良いか。
 京介を余り人目には晒したくないな、と思う。危ないのがいつ引っかかってくるか、解かったものじゃない。今までよく問題が起きなかったものだと、遠山は再度溜息を吐いた。



 ホテルで部屋を取り、遠山はどっかとベッドに腰を下ろす。一応ツインにしてある。まぁ、部屋の掃除をすればバレない訳はないが、その点は気にしない事にする。
「シャワー浴びるか?」
「いえ」
 京介は所在なげに立ち尽くしている。此処まで来て後悔したのだろうか。
「後悔してるのか?」
「いえ。後悔するのなら、貴方の方でしょう?」
「どうして俺が?」
「貴方には朱鷺が居る」
「だから?」
「…」
 黙りこんでしまった京介に遠山は苦笑する。
「そんなの、とっくに割り切ってると思ったけどな。そうだよ、俺には朱鷺が居る。朱鷺を愛してるし、これからも大切にしていく。だが、お前との間にそんなことは一切関係ない」
「関係ないって…」
「納得出来ないか?モラリストぶるのはよせよ。納得できないなら言い替えてやる」
 遠山は立ち上がり、京介の腕を掴んで引き寄せ、そのままベッドに押し倒した。突然の事に京介は抵抗できず、乱れた髪から除いた眼が見開かれている。
「気にするな」
 そう低く呟き、口付けた。京介は慌てて抵抗しようとするが、どんなに遠山が押さえてくる手を退けようとしたところで、叶わない。
「ふっ…ん……っ」
 開いた唇から舌を割り込ませて、口内を蹂躙する。舌を絡めて吸い上げればびくりと身体が震える。そんな京介に笑いながら遠山は更に深く口付けた。京介が息を出来なくなるほど。
「…ぅ…ぁっ……んぅ……」
 鼻に掛かった息が漏れ、それがやたらと官能的だ。
 ようやく解放してやる頃には、殆ど酸欠状態の上に快楽で緩みきった身体はぐったりとしている。
 息を乱しながら、京介は潤んだ瞳で遠山を見つめる。遠山は、京介のかけている眼鏡を外して、サイドボードに置く。
 遠山は京介の上に覆い被さるようにして、耳元で囁く。
「なぁ、桜井。何がいけないんだ?俺が結婚していることか?なら、聞かせてもらうが、お前の相手をした連中の中に妻子持ちが居なかったと言い切れるのか?」
「……っ」
 京介はびくっと震える。押しのけようと、胸元に手を当てるが、力の抜けた身体ではそれも叶わない。キスだけでも十分に快楽を感じている身体に、耳元で息を吹きかけられるように囁かれれば、ただ快感を助長するだけだろう。だが、それを解かっていて遠山は意地の悪いやり方をした。
 それでも、応える事は可能だ。それも返ってこないところを見ると、本当に相手がどんな人間だろうが頓着しなかったらしい。
 耳を噛んで、それからねっとりと耳の穴に舌を這わせる。
「…ぁっ…やめっ…」
 京介は拒絶の声を上げるが、遠山は止めない。耳の後ろにまで舌を這わせ、其処に吸い付いた。
「―――っ!!」
 震える手が、思い切り遠山の胸を付いた。
 息を乱しながら、京介は急いで遠山から距離を置き、睨みつける。普段の状態の京介が睨んだのなら、あるいは効果があったのだろうか。しかし、今の潤んだ瞳で睨みつけられたところで、オスの嗜虐心を煽ることにしかならない。
 それにしても、と冷静にそれを判断している自分に、遠山は失笑した。
 遠山は改めてベッドに座りなおす。それを見て、京介はほっと気を抜いた。随分、苛めすぎたのだろうか。どうも調子に乗ってしまっていけない。
「なぁ、桜井。今日、お前が俺の前に現れた時に何て思ったか、教えてやろうか?」
「え…?」
 行き成り話が変わって、京介は驚いたのか、遠山を凝視する。
「雌犬」
「な…っ!」
 思い切り揶揄を含んで居るのも京介には解かるだろう。カッとその白い頬に血が昇る。
「定期的に男を誘って、色気振りまいて、喜んで腰を振る。そのまま、雌犬のようじゃないか」
 口惜しげに京介は睨みつけてくるが、遠山はその視線を真っ直ぐ返す。
「一つだけ忠告しておいてやる。一度俺と関係を持つ覚悟をしたんなら、俺だけにしておけ。見ず知らずの相手とこんなことを繰り返してたら、悪い病気を貰ってくるぞ」
「そんなこと、貴方には関係ないでしょう」
「だから、忠告だと言っているんだ。受けるかどうかはお前次第だろう」
 遠山は京介との間を詰める。京介は警戒も露に遠山を見つめた。
 逃げられないように腕を掴む。
「まぁ、兎に角今日の相手は俺だろう?今更逃げるなんて言わないよな?お前から誘ったんだ」
 後悔したって遅い。
 遠山は、再度京介に口付ける。今度は触れるだけの啄ばむ様なキス。
 京介は遠山から視線を逸らせた。
「ごちゃごちゃした事は気にするな。今は全部忘れてしまえばいい」
 遠山はもう一度京介を押し倒す。不安そうにその瞳が揺れている。そんな瞳を以前にも見たことがある気がして、今更ながらに多少の罪悪感が頭を掠める。
 今から自分がしようとしていることは、京介を戻れないところまで追い詰める事になるかも知れない。でも、それでも構わないと思ったのだから。
 遠山は京介の白い首筋に口唇を寄せる。舌を這わせればびくりと身体が跳ねた。京介の服に手を掛けながら、顔中にキスをしてやる。警戒心によって強張っていた身体から少しずつ力が抜けていく。もう一度、耳の後ろを強く吸ってやる。
「っ…ぁっ…」
「此処が弱いんだな?」
 楽しくなって其処ばかりを刺激していると、京介は睨んでくる。それが面白くて余計に強く吸ってやると、京介が遠山の腕を掴んで引っ張った。遊んでいる間に、京介の着ていたシャツのボタンを全て外し終えて、今度は下肢に手を伸ばす。
「ああ、もう勃ってきてるな」
「や…め…っ…」
 随分と感じやすいらしい。遠山が胸の突起を摘んでやると、甘く高い声が漏れる。どうせやるからには楽しみたい。遠山は其処に舌を這わせ、もう片方も指で愛撫する。
「うっ…んっ……やっ……」
 京介は掴んだままの袖を引っ張ってくる。声を押さえてしまったのが勿体無い。赤く熟れたように立ち上がった其処を噛んでやると一際高い声がした。
「…ぁあっ…!!」
「そう。声を出せ。何も考える必要なんてない」
 そう言いながら、京介の着ているものを全て脱がせてしまう。痩せているが、それでも綺麗な身体だ。京介の感じる場所を探るように、体中隈なく手を這わせ、口唇が探る。肌は滑らかで触り心地がいい。男相手によく出来るものだ、と自分でも感心してしまう。
 まぁ、それも相手が京介だからだろう。
 唾液で指を湿らせて、狭い場所に一本指を入れてやる。やんわりと広げていきながら、二本、三本と増やしていく。問題なく入るようになって、此処かと思われる場所を指で引っ掻く。
「やぁっ…やめっ……」
 今までにない大きな反応に当たりらしい、と検討をつける。其処を集中的に攻め立てれば、息も絶え絶えに甘い声を零し続ける。
「…うっ…ぁ…ぁあっ……ゃっ……ぁああっ!!」
 悲鳴のような声を上げて、京介は射精してしまう。生理的なものだろう、涙がその薄い色の瞳から次から次へと溢れていた。
 荒い息の中、微かに嗚咽も混じっているようだ。
「ぅ…っ、ふ……」
 そんな京介を見ながら、遠山は殊更溜息を吐く。
「あ〜あ、汚れちまった」
 その声につられて、京介は遠山の衣服を見る。確かに、先程京介の放った白い飛沫が、遠山の服についてしまっている。そして、今更ながらに自分だけが全裸であることに気づいたのだろう、羞恥でか、ただでさえ火照っていた顔がさらに赤くなる。
「…クリーニングに出さないとだめかな…」
 遠山は本気で考え込む。朱鷺にバレないようにクリーニングに出さなければ。遠山は今度こそ本当に溜息を吐いて上着を脱いだ。高いものを着ていなくて良かった。
「遠山さん…もう……」
「もう、何だ?止めたいのか?」
「……っ」
 京介は遠山の視線に怯えている。今の京介が、完全に遠山のペースに巻き込まれているからだ。遠山に逆らえない空気が出来てしまっている。
 わざと作ったというのもある。京介がこの行為に何を求めているのか、遠山は本当に理解している訳ではない。何かを求めて、何かを吐き出したがっているのだろう事ぐらいしか。京介にとってそれは事務的な物だったのだろう。相手が強く求めてきても、京介の視線に相手はたじろいでしまう。
 きっと、今まではそうだったのだろう。
「逃げるな、桜井」
 びくっと震えて、視線が遠山を捉える。それを見ながら、遠山は京介の肩をシーツに押さえつける。そして、慣らした場所へ、自分のものを押し進めた。
「うっ…―――――っ!!」
 京介は震えながら何かに掴もうと腕を伸ばす。遠山はその腕を取り、京介の身体を引き寄せた。膝の上に乗せるような格好になり、さらに深く繋がる。
「あっ…ぅ……っ…」
 京介は遠山にぎゅっとしがみついた。身体が強張り、中がキリキリ締め付けられる。遠山は眉を潜めた。
「おい…っ、緩めろ、桜井」
「…ふっ…ぁ…」
 遠山の声が耳に入っているのか、いないのか。聞き入れられる様子は無い。辛いのだろう。遠山は、落ち着かせるように京介の髪を撫でてやる。縋り付いて肩口に顔を埋められているのが嬉しいような、嬉しくないような。
「桜井…」
 名前を呼んで、しがみ付いていた京介を顔が見えるように引き離す。ぽろぽろと涙がこぼれているのを見て、それを舐め取ってやる。
 そして口付ける。舌を絡めて、深いキスをするが、先刻のよりは余程優しく。
「ふっ……ぅん……」
 少しずつ、力が抜けてきたのを確認して、口唇を離す。
 ぼうっと濡れている瞳が、どこか可愛らしい。
「動くぞ?」
 確認のように聞いてはみるが、それを意識しているのかしていないのか解からない。遠山が律動を始めると、それに合わせるように甘い声が漏れる。
「…ぁっ……ぁぁっ…やぁっ……ぁあ…っ!…」
 すがり付いてくる手が、髪に絡んで掻きまわす。いつも整えられている髪が乱れて、遠山は苦笑する。前髪が垂れてくるのは少し鬱陶しい。
 京介の腰を引き寄せ、更に深く穿つ。先程見つけた感じる場所を擦ると嫌々と首を振る。
「…やっ…嫌っ……やめっ…もう……っ…ああ…っ!」
 荒い息を吐き出し、頬は涙で濡れて、掴んだ肩は汗でじっとりと濡れている。そんな姿がたまらなく淫靡で、遠山は尚も攻め立てる。
「うっ…やっ、だ……ふっ…ぅっ…く、ぁ…」
 そろそろ限界だろうか?疲れたように息を吐き出している姿を見て思う。
「もうイきたいか?」
「…ぅ、んっ…あっ…」
 遠山の問いかけに、京介はがくがくと首を縦に振る。
 それを見て遠山は律動を激しくする。最後に京介の感じる場所を思い切り擦り付けてやる。
「あっ…ぁあああっ!!」
 京介は、一際高い声を上げて二度目の精を放ち、遠山も締め付けられて、そのまま中に出す。
 遠山は中から自身を出すと、気絶してしまった京介をゆっくりと横にしてやる。それから、シャワーを浴びよう、とゆっくりと立ち上がる。乱れた髪をゆっくりと掻き上げて、ほっと息を吐いた。



 シャワーから出てくると、遠山は汚れてしまった服をホテルのクリーニングに出すことにした。帰る頃には出来上がっているだろう。バレるとかそういう点ではもう開き直る事にした。
 そもそも、部屋に備え付けてあるのが白のガウン。趣味がいいのか悪いのか疑ってしまうところがある。此処はビジネスホテルじゃないのか?浴衣の方がまだマシだろうに。クリーニングの手配を済ませると、下に落ちてしまっている京介の衣服を拾い、畳んでやる。
 する事がなくなってしまうと、京介の顔を覗き込む。寝顔は比較的穏やかだった。くったりと眠り込んだ姿は幼げですらあり、自然と手を伸ばして梳いてやる。ぱらぱらと長い前髪が零れ落ちるのが面白い。思わず笑みが誘われた。
 愛しい、という想いは、遠山にとっての恋愛とは何処か違う。朱鷺のことは紛れもなく愛しているし、傍に居て、大切にしたい、と思う。そして、自分だけのものにしたい独占欲。だが、京介への想いはそれとは違う。愛していると思うけれど、朱鷺への感情とは全く違う。
 だが、それがまた楽しいのだ、と遠山は思う。愛しいと思う気持ちは紛れもないし、傍に居て、大切にしてやりたい、と思う気持ちもある。だけれど、自分のものにしたいとは思わないのだ。其処に居て、幸せにしていれば、それでいい。他の誰のものになろうと、彼が幸せになるのならそれはそれで構わない。きっと、これは恋愛ではないのだろう。
 それが何なのかは解からないが。
「んっ…」
 京介が声を洩らし、遠山はずっと髪を撫で付けていた手を離す。
 薄っすらと瞳が開かれて、視線が周りを巡り、そして遠山へ焦点が結ばれる。この瞬間が、京介が遠山を見る瞬間が、好きだと思う。
「もっと寝ていてもいいんだぞ?」
「いえ…」
 京介は起き上がろうとするが、途中で眉を潜めた。それでもゆっくりと身体を起こす。そして髪を掻き上げた。その様子は不機嫌そのものだ。
「楽しかったか?」
「…本気で言ってるんですか?」
「本気だぜ」
 京介はあからさまに溜息を吐いた。
「僕は、貴方が何を考えているのか解かりません」
「それは光栄だな。俺が今考えてるのは次もあるかどうか、って事なんだけどなぁ」
 にやにやと笑いながら言ってみせると、京介はきっと睨みつけてくる。何だか少し殺気も混ざっている気がするが。
「どうして……」
「ん?」
「本当に、朱鷺のことは良いんですか?」
「良いって、言っただろう。俺は朱鷺のことも愛してるが、お前の事もちゃんと好きなんだけどな」
 肩を竦めて見せても、京介はじっと遠山を見つめる。
「俺は朱鷺を愛してるよ。それは間違いのない事実だ。だけど、お前とこういう風になるのは、俺なりに覚悟したんだから、お前さえよければこれからも続けるつもりだぜ。そのうちろくでもない男に引っかかって刺し殺された、なんてのは嫌だしな」
「裏切っているとは、思わないんですか?」
「裏切ってるって?どうかな…バレたら怒るだろうし、離婚しろって言われるかも知れんが…でも、お前を抱いたからって俺の朱鷺に対する愛情は微塵も揺らぎはしないんだ。そりゃ、一緒に居てくれた方が嬉しいが、そもそも見返りが欲しくて好きになった訳じゃないからな。それにほら、最初俺達、お互いにいい印象持ってなかっただろ?そういうのが逆転して愛情に発展すると逆にその想いは燃え上がる、ってのが少女漫画の王道だろ?」
「…どうして少女漫画なんて知ってるんですか」
「高校の時に結構流行ってたんだけどな。漫画の回し読み。男女とも少女漫画だろうが少年漫画だろうが問わずに読んでたな」
「それにしたって、気持ち悪くは無いんですか」
「今更な質問だな。俺は気の強い美人が好きなんだよ」
 京介は呆れきった顔をしている。その顔を見て、遠山は微笑む。
「で、お前はどうしたい。俺はとっくに答えは出してるんだぜ?」
 京介は諦めたように溜息を吐いた。
「気が向いたら、また電話しますよ」
「そうこなくちゃな」
 遠山の顔に笑みが零れる。
「シャワー、浴びてきた方が良いぞ。中に出したからな。…何なら俺が洗ってやろうか」
「遠慮しておきます」
 京介は顔を顰めて立ち上がった。ふら付いたのを支えてやると、いい、とばかりに押しのけられる。矢張り先程のは恨まれているらしい。
 まぁ、それでもいい。
 京介との関係を繋ぐ糸が増えたのだから。



 京介が出てきたら、またからかってやろうか。
 怒るだろう。わざと言ってるんだから。
 でも、それが楽しい。からかって、怒られて、普通の人間として過ごす時が、何よりも大切なのだと、京介だって解かっているだろう。
 だから。

 きっと、また電話は掛かってくるだろう。



Fin





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