生徒会長になってやってもいいと返事をした後も、古泉は何かと忙しかったらしく、次にようやく連絡が来たのは夏休みも一週間を過ぎた頃だった。 その間にいよいよ本気で前言撤回しようかと思ったが、結局しないで居る辺り俺は何なんだろうな、と思う。まあ、一度引き受けたものを撤回するのも男らしくないか、と思うしな。 そんな訳で、今俺は自分のマンションに居て、古泉も其処に来ている。 俺がやっても良いと答えた後、何をしていたのかと問いかけてみれば、また何やら訳の解からん事態に巻き込まれていて(数日行方不明になっていたコンピュータ研の部長が実は涼宮絡みの訳の解からん空間に取り込まれていたらしい)、その後始末で県外にまで足を伸ばしたらしいとか、夏休みに入ったかと思えば孤島で涼宮を退屈させないために機関の連中(あの運転手の新川さんも含めて)で、一芝居うったらしいとか、そういう話を聞かされて、俺は本気で呆れた。 「何つーか、機関ってのも、相当くだらねーとこだな。涼宮ハルヒ一人を退屈させないために孤島に別荘まで建てるって、バカか?」 「そう言わないで下さい。そうした努力のおかげで、此処最近の閉鎖空間の発生率はかなり低下しているんです。僕達としては、お金をいくら使ったとかそういう事よりも、閉鎖空間が発生しない事の方が重要なんです」 「全く、ご苦労なこったな」 機関ってのも、相当馬鹿だと思うが、その最たるのが古泉だというのは間違いない。何しろ涼宮の一番近くでご機嫌取りしているのはこいつなんだからな。更に言えばその退屈させないための一つに、俺も加えられている訳だから、尚更馬鹿馬鹿しいくらいに必死というか、苦労を厭わないと言うか。 やっぱり馬鹿か。 しかし、ひょっとして俺に会長にならないかと持ちかけて、そのくせ三週間も放置してたのは、その孤島の殺人劇の準備のためで忙しかったからか。 つーか、どんだけ忙しいんだよ、一介の高校生が。 「んで、その合宿が終わったと思ったら、今度は俺のところに来て生徒会長選の準備か?お前、休んでんのか」 「それなりに休んでいるつもりですよ」 俺の言葉に古泉はにっこりと笑みを浮かべてそう言うし、確かにその笑顔は疲れを感じさせないものではあったが、俺と古泉の付き合い自体はかなり短いから、解からないだけかも知れない。 それにしても、今まで何度と無く女を連れ込んだことはあるが、男を部屋に連れ込んだのは初めてかも知れない。しかも、三人がけのソファ一つしか無いもんだから、同じソファに腰掛けているこの状況は、はっきり言って忌々しい。 顔は綺麗だが、野郎って辺りでアウトだからな。 女だったら良かったのにと思わず考えてしまうくらいに整っているから、余計にそう考えるのかも知れないが。 申し訳程度に淹れたお茶を優雅な手つきで飲む姿もサマになっている。 なんと言うか、本当に…女に生まれときゃ良かったのにな、こいつ。男でもそういう趣味のあるヤツには好かれるのかも知れないし、学校の女生徒にも結構モテているらしいから、これは完全なる俺の認識と希望でしか無い訳だが。 そうして俺が不躾に古泉の顔を見ていたのに気づいたのか、首を傾げて問いかけてきた。 「僕の顔に何かついていますか?」 「…お前、女だったら良かったのにな」 問われたので先ほど考えた事を率直に口にした。隠してやる謂れもない。 「女だったらどうなんです?」 「今即効でこの場で押し倒してたかもな」 「では男で良かったです」 笑顔でにっこり…笑っては居るが、喜んでいないのも間違いないだろう。まあ、こいつ的には男で正解か。というか、機関の有り様次第では、これだけ容姿が整っていたら、女だった場合は色仕掛けなんて手も使わされていたかも知れないな、主にあの涼宮ハルヒの『鍵』だといわれるヤツ相手に。 「まあ、幼い頃はしょっちゅう女の子と間違えられてましたけどね。背も低い方でしたから」 「ふーん、そりゃ見てみたいな。どんな美少女だったんだ?」 「写真でも見てみたいんですか?」 「あるならな」 少し興味がある。 確かに男くさい顔ではないし、どちらかと言えば女顔とも言えるのだろうが、現在は高校生の中では結構目立つ長身で、とても女には見えない。俺がこうして古泉の隣に居ても平気な顔をしていられるのは、それでも古泉より若干背が高いからで、これがもし低かったなら、側に近寄る事すら嫌だったに違いない。 そう考えると、SOS団とかいうふざけた団体のもう一人の男子団員はよくやるな、と言わざるをえない。軽く同情するね。 「小学校の卒業アルバムくらいなら、あったと思いますけど。他の子供の頃の写真は全て処分しましたからね」 「何でだ?」 「必要ないからです」 さらりと笑顔で言うが、必要ないってどういう事だ。 と言っても、俺が考えてやる事では無いんだろう。そろそろ俺の中で何かが警告を始めていた。これ以上古泉に深入りするのはまずい、気がする。 だから、俺はその言葉を深く問い詰める事も考える事もせずに言った。 「じゃあ、アルバム持って来いよ、今度」 「そんなに見たいですかね?じゃあ探しておきますよ」 肩を竦めてそう笑って見せる。 こいつの笑顔には何の意味も無いんだな、と俺は溜息を吐きつつ思う。まあ、笑顔というのはある種便利なものだろう。 深く付き合おうとしない限り、笑顔を浮かべている相手に対して、人間は割りと好意的な印象を持つ。特にこれだけ容貌が整っていれば、女には。 古泉は俺に深いところを掴ませない様に振舞いながら、そのくせ生徒会とは関係の無い雑談を平気で受け入れている。俺に心を許している訳ではなく、むしろ逆を狙っているのだろう。俺を扱いやすいように慣らしたいのかも知れない。 だが、そう簡単に思い通りになるような人間だったなら、そもそもこいつは俺の事を生徒会長にしようなんて思わなかったに違いない。 つまるところ、短い付き合いの中で俺が古泉に対して理解した事は、こいつの中には常に矛盾ばかりが存在している、という事に他ならない。 「まあ、アルバムは今度という事で。今日は貴方にプレゼントがあるんですよ」 「プレゼント?」 一体何だと思って問いかければ、古泉は微笑んで綺麗に包装されている包みを俺に渡した。俺はそれを受け取り、ラッピングを剥ぎ取ると、中身を見て眉を潜めた。 「俺は視力は悪くないぞ」 「知っています、両目とも1.0ですよね」 中に入っていたのは眼鏡だ。何処か堅い雰囲気を漂わせるフレームの、レンズの細長い眼鏡。 「知ってるなら、何だこれは」 「伊達眼鏡です。生徒会長らしく見せるためのね」 「…成る程な」 確かに、今現在の俺の容貌では生徒会長らしくは見えないだろう。眼鏡を掛けてもう少し格好を何とかしてそれっぽく見えるようにしろ、とそういう事か。 「つけてみてくれませんか?」 「今からか?」 「ええ」 頷く古泉は、何処か楽しげだ。 ひょっとしてこいつは、俺を生徒会長に祭り上げるのも結構楽しんでいるのかも知れない。それとも、俺を改造しようとするのが楽しいのか。 まあ、確かに人を弄るのは楽しいが。外見だけ弄るなら簡単で解かりやすいからな。 「お前が選んだのか?これ」 「はい、貴方に一番似合うと思ったのを選んだんですよ」 中々つけようとしない俺に業を煮やしたのか、古泉は眼鏡を取り、勝手に俺につけて来た。耳に眼鏡の弦がかかり、鼻の両側に妙に圧力がかかった感じがする。少しつけているだけなら兎も角、長時間つけていると疲れそうだ。 「ああ、やっぱり似合いますね」 満足そうに微笑む古泉を見て、俺は溜息を吐く。 眼鏡を掛けた時の体勢のまま、顔が近く息が掛かる。そのまま引き離しても良いのだが、見ていて嫌になる程醜悪な顔な訳でも無いから放っておくと、調子に乗ったのか、今度は髪を弄り始めた。 「下ろした髪も勿論似合っているんですけど、生徒会長らしさを出すのなら、少し上げて髪を固めた方が良いですね」 「其処まですんのか?」 「まず見た目から入るのも重要ですよ。えーと、整髪料なんかは置いてますか?」 「殆ど使わないのがバスルームにあるけどな…」 「ちょっとお借りします」 今まで近づけていた顔をすっと離して立ち上がり、バスルームに向かう。そしてすぐに整髪料を持って戻ってきた。 「失礼します」 そう言いながら自分の手に整髪料をつけ、髪を整え始めた。 ああもう、なるようになれ、だ。好きなだけ弄れば良い。多少おかしくなったところで、外に出ない限りはどうでも良い。 矢張り顔を近づけて、しかし今は笑みを浮かべておらず、真剣な表情で俺の髪を整えている古泉を見るのは、何とも奇妙な気分だったが。 暫くそうして髪を弄られていると、ふと満足げな表情を浮かべて体を離した。 「はい、出来ました」 と言われても、この状態では俺はどうなってるのかさっぱり見えない。仕方が無いからソファから立ち上がり、バスルームに向かい、洗面所にある鏡を覗き込んだ。 「………」 何と言うか、まあ…これは俺なんだよなあと思わず呟きたくなる出来だった。 確かに、見るからに生徒会長だよな、と言ってしまいたくなる程の。どうやら無駄に手先が器用な人間らしい。 「似合うでしょう?」 「まあ、見れるような出来ではあるな」 俺の憎まれ口にも笑みを崩さない。 「これから毎日眼鏡を掛けて、この髪型でお願いします」 「…マジでか?」 「マジです。新学期に突然眼鏡を掛けて髪形を変えたとあれば、自分も周囲も当然違和感を感じます。ですから少なくとも、貴方自身は違和感を感じないように、この姿に慣れておいてください。そうすれば周囲の違和感も自ずと軽減される筈ですから」 古泉の言葉を聞きながら、確かにそういうものかも知れないな、とも思うのだが。 「めんどくせえ…」 眼鏡をかけるだけなら兎も角、この髪型は本気で面倒だ。これを毎朝自分でやれってのか、冗談じゃないぞ。 「仮にも生徒会長になるのを引き受けたのなら、それくらい了承してください。そもそも見た目の改造は第一段階であって、後は言葉遣いから、生活態度、成績まで、いろいろ改善していかなければいけないところがあるんですから」 「…本気で止めたくなってきたな」 「そう言わないで下さい。いくら機関が協力すると言っても、貴方に生徒会長に相応しくない態度をとられれば、全て無に帰してしまうんですから」 言っている事は解かるんだが、面倒くさい。 「まさか煙草も止めろとか言わないよな?」 「ああ、まあそれはバレなければ構いませんよ」 何となく、こいつら…というか、古泉のやり口が解かった気がする。 「つまり、周囲が見て無い、バレないところなら何をやっても良いが、周囲が見ているところならちゃんとそれっぽくしてろって事か」 「ええ。ただ、それには生徒会長らしい所作にも慣れておかなくてはいけませんから、夏休みの間は少なくともそれで通していただきます」 「ああくそ、本当にめんどくせえ…」 そう呟いて溜息を吐いた。 本当に、どうして引き受けてしまったんだろうなあ、俺は。 「今日はこのぐらいにしておきます。また明日参りますので」 「明日も来るのかよ」 「ええ、時間がありませんから、出来るだけ早いうちにスケジュールをこなしておかないといけませんしね」 「…お前な」 「いつ涼宮さんから呼び出しがあるか解かりませんからね。今は合宿が終わったばかりで満足しているでしょうし、八月の中ごろまで彼は田舎に行くと言っていたのでその後になるでしょうが、兎に角それまでにいろいろとこなしておきたいことがありますから」 こいつの多忙は俺にまで伝染するらしい。 俺の夏休みは、一体何処に行ったんだろうな。 そして言った通り、古泉は翌日にもきっちりやってきた。 「こんにちは」 昼の一時過ぎという時間帯で、ひょっとしたら不健康な男子高校生ならこの時間でも寝ているかも知れないが、俺は朝には起きて、古泉に言われた通りに眼鏡をかけ、髪を整えた。 何をやってるんだろうな、という気分にはなってくるが。 「ちゃんと言った通りにしてくださったんですね。有難う御座います」 「まあ、やると言っちまったんだから、しょうがねえしな」 無駄に爽やかな笑顔を浮かべながら、古泉は部屋へと入ってくる。 此処で最初に俺が一人暮らしなのが都合が良いと言った意味を理解せざるを得ないね。毎日押しかけるには、親兄弟が居るのは邪魔でしかないだろう。しかもこんなに急に変化を見せた家族が居たならば間違いなく不審に思うに違いない。 俺だったら気持ち悪くて近づきたいくないな。 自分で考えていて落ち込むが。 「そうそう、約束の物を持ってきましたよ」 「約束の物?」 「これです。貴方が見たいと言ったんでしょう?」 そう言って古泉が取り出したのは、小学校の卒業アルバムだった。そう言えばそんなものも見たいと言ったな。重いものをよく持って来たもんだ。 手渡されて、ソファに座りそのアルバムを見る。表紙に書いてある卒業年度を見て、俺はしみじみと呟いた。 「お前、本当に俺より一つ下なんだな…」 「どういう意味ですか」 「いや、お前なら少しくらいサバ読んでてもおかしくないかと思ってな」 「サバを読む必要も無く、涼宮さんと同い年だったんです」 それでうちの学校にわざわざ転校してきたのか。ご苦労なことだ。 アルバムを開くと、生徒の顔写真が乗っている。複数のクラスがあるから、一々探すのが面倒くさいので、俺は古泉に聞いた。 「何組だ?」 「三組ですよ」 言われて三組の所を開けて古泉を探す。五十音順だから探しやすいな。程なくして見つかった。 「成る程、美少女だな」 畏まった顔写真でですら解かる程に整った容姿は、結構目立つ。こういうのって写真撮るとおかしくなったりするもんだけどな。 「男なんですけどね」 「見た感じは美少女だろ」 呆れて溜息を吐く古泉にそう返しながら、俺はアルバムを捲って他に古泉の姿を探し、写真の何枚かにその姿を見つけた。今とは少し違う笑顔で、無邪気に笑っている。 柔らかな茶色の髪と、長い睫、大きな瞳、細い手足、言っていた通りに周囲に一緒に移っている少年達と比べても小柄で、柔らかく微笑む姿は、男子用の制服を着ているのに、少女のようにしか見えない。 「やっぱりお前、生まれてくる性別間違えたな」 「どう言われようが、僕は男ですよ」 「今のお前も、こんな風に笑えばいいのにな。そうすりゃもうちょっとマシだ」 「…マシって何がです」 古泉の抗議をさらっと無視して言った言葉に、軽く眉を潜める。 「胡散臭さが軽減されるだろ、少しは」 「別に、そんなこと気にしてませんから」 「気にしろよ…」 今度は俺が呆れて溜息を吐いた。 外向きで距離をとった付き合いをする分には構わないが、近づけば近づくほど、古泉は胡散臭くなる。女子は兎も角男子なら絶対に感じるだろう胡散臭さだ。恐らくSOS団のもう一人の男も古泉の胡散臭さを嫌というほど感じているに違いない。 しかし、古泉はそれを改善する気は全く無いらしい。 もしかしたら、それすらも態となのかも知れないが。 まあ、古泉の事をあれこれと俺が考えても仕方の無いことなのだが。 「んで、今日は何をするんだ?」 アルバムを閉じてそう問いかけると、古泉はいつもの笑みを浮かべた。これが一番胡散臭いんだがな。改善する気が無い事を何度指摘しても同じだから、言うつもりはないが。 「今日は言葉遣いの修正ですね。生徒会長らしく、尊大でありながら、堅い雰囲気を漂わせるような話し方をしてもらわなければなりません」 「もしかして、これも毎日とか言うのか?」 「出来うる限りは。そうですね、僕と二人きりならば普段の口調で構いませんが、第三者が居る時は改めた口調で生活するようにしていただきたいです」 「しかし、行き成り堅い雰囲気で話せと言われてもな・・・」 何をどう言えばそうなるのか、さっぱり解からないんだが。 そう指摘すると、古泉はさほど悩んだ様子もなく言った。 「例えば、貴方は友人と会った時に何と挨拶しますか?」 「取り立てて友人と呼べる人間は居ないんだが、『よぅ』とでも言うんじゃないか?」 「まあ、貴方ならそうでしょうね。ですから、それを時刻に合わせて朝なら『おはよう』、昼なら『こんにちは』、夜なら『こんばんは』と、親しい間柄の人相手でもきちんと挨拶する事。先生や先輩相手以外なら敬語は使わなくて構いません、出来うる限り尊大な態度で言ってみてください」 「…滑稽だな」 馬鹿馬鹿しいとも言う。 「言わなければ慣れませんから」 「解かったよ」 仕方が無い、と溜息を吐く。 生徒会長のイメージとはどんなものだろうな。堅苦しくて、偉そうで、嫌味っぽくて・・・涼宮ハルヒの望む悪役生徒会長は、兎に角そういうイメージなんだろう。まあ、堅苦しい以外は全然普通に出来そうだな、俺。 元から悪役っぽいのかも知れない。 それとも古泉に毒されたか。どちらでも良い。 兎に角そういう生徒会長だ。 「おはよう」 いつもより低めで堅い声でそう言う。しかし、言った後で猛烈に後悔が押し寄せた。 物凄く嫌な練習じゃないか、これ。 「良い感じですね。じゃあ次は…」 「ちょっと待て」 「なんです?」 「これからも毎日、お前がこうやって指導するつもりか?」 「ええ。僕も昔同じような訓練をしましたからね。貴方が良いなら『機関』からその時お世話になった方を派遣して頂いても構わないのですが」 「…それは御免被る」 これ以上訳の解からん知り合いは増やしたくない。 仕方がなく古泉に指導を任せ、言われるままに台詞を紡ぐ俺は傍から見ればかなり滑稽だったに違いない。最後の方は恥もかき捨て、自棄になってたけどな。 そして俺が古泉に開放されたのは、もうすっかり日が暮れた頃だった。 「今日はこの辺にしましょうか」 「………そうしてくれ」 俺はぐったりとソファに凭れ掛かった。 本気で疲れた。というか、これを毎日やるのか?冗談じゃないぞ。 「では、今日は失礼しますね。また明日」 「…本気で毎日来るんだな」 「ええ。昨日もそう言ったでしょう」 「じゃあ、これ持ってけ」 そう言って俺は古泉にズボンのポケットに入れていたものを放り投げた。古泉はそれを咄嗟に受け取り、そして手の中を見て軽く目を見開いた。 「俺の部屋の合鍵だ。まあ、夏休み中は暇だから大抵家に居るけどな、もし居なかったら勝手に部屋に入って待ってろ」 「良いんですか?」 「前みたいにドアの前で待たれる方がうざいだろ」 本心からそう思う。ドアの前でこいつみたいな美少年が待ちぼうけしている様子は、近くの部屋の人間に何と思われるか解からない。 しかし、古泉はその言葉を聞いて笑みを浮かべた。 それは多分、今まで俺が何度と無く見てきたデフォルト的な笑顔ではなく、本心からの。 「有難う御座います」 「……お前って」 「はい?」 「いや、何でもない」 俺は溜息を吐いて、古泉を追い出すように手をふらふらと振った。古泉はその俺の様子を見て、また笑みを浮かべ、「また明日」と言い残して部屋を出て行った。 なんと言うか、妙な感じだ。 出来れば深入りしたくないのに、否応無く深入りさせられているような感覚。 さて、夏休みが終わる頃、俺は一体どう改造されてるんだろうね。 |