〜エピローグ〜



 静かだったダリスの家は一気に賑やかになった。
 急に七人もの人口が増えたのだから当然だろう。貴族の家は部屋が有り余るほどあって助かる。
 そして毎日其処にたくさんの人が訪れる。
「普通の生活とは程遠いな」
 エリヤは苦笑しながら言う。
「…でも平和な生活だわ」
 マリアは微笑んで言った。
「エリヤ、私、ペトロのお墓参りに行こうと思うの」
「ああ」
「皆で一緒に行かない?いろいろな事、報告したいわ」
「そうだな、皆で行こう」
 エリヤも笑って言う。
「おい、エリヤ!ジルの奴、また逃げたぞ!!」
 ユダが走って来て言う。
「…またか」
 ジルは、当主になったのはいいが、仕事をするのはどうも苦手らしく、いつも逃げ回っている。
 ユダの役目はそれを捕まえる事になっている。
「がんばれよ」
「誰か手伝えよ!」
 ユダは文句を言って走って行った。
 見張りの彼はすっかり養育係りになっている、あまりに嵌りすぎて笑いを誘う。
 そして何故かイザヤとユダは対立を深めていた。
 何故か、というより、根本的な理由ははっきりしているが、言い争っている事がくだらない。
「ヨハネ、また勝手に俺の部屋漁ったな!」
「何のこと?」
「俺のアルバムダリスの写真だけなくなってたんだよ!こんなことするのはお前しか居ない!!」
「何言ってるのさ、今更。そもそも君のアルバムはダリスの写真ばかりじゃないか。予防しておくのは当然の事だよ」
「俺は何かの病原菌か!」
「持ってそうだよね」
「持ってない!」
 酷くくだらない会話だが、本人達には重要らしい。
 ダリスの頭痛の種だという事は言うまでもない。
 ダリスはジルの手伝いをしているが、今はほとんど押し付けられている。
「苦労性だな」
 エリヤは溜息混じりにダリスに言う。
「まぁ、前にやっていた事をするだけだからな。それに今はエリヤが手伝ってくれるから前よりは楽さ。それに一番大変なのはマリアだろう」
「確かにな」
 マリアは今や慈善事業に勤しんでいる。
 日々助けを求めに来る人を救っているのだ。
 怪我は勿論、病気まで治せるらしい。
「ペトロの墓参り、行こうって。マリアが…」
「そうか、今度暇を作って行こうか」
「ああ」
「ところでエリヤ、マリアの事はどう思ってるんだ?」
「…ダリス」
 エリヤはダリスの肩に手を置く。
「別にヨハネと同じ趣味な訳でもないだろう」
「それはそうだけどな…」
 エリヤは溜息を吐く。
「言わなければ何も変わらない」
「解かってる」
 エリヤはまた溜息を吐く。
「おい、ダリス!」
 イザヤがそこに駆け込んでくる。
「聞いてくれよ、ヨハネの奴が…」
「ふん、別にいいじゃない。本当のライバルが僕だと思ってるの?」
「じゃぁ、誰だって言うんだよ」
「ダリスのお父さん」
「はぁ!?」
 イザヤは訳が解からないといった顔だが、ダリスは頭を抱えている。
「ダリスがあそこまでしたのは誰の為だと思ってるの?全て父親の為だよ!彼を越えなきゃ無意味だね」
「そ、そうなのか?」
 イザヤもヨハネも本気で言っている。
 ダリスは頭痛がした。
 エリヤは苦笑する。
 これが平和と言うものだろう。
 やっと今から始められるのだ。皆と一緒に。


Fin


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