キーアとバレルの試合を見終わり、ふぅっと来栖は息を吐いた。流石に、実力者二人の試合となれば、来栖も真剣に見入ってしまう。 キーアが勝ったけれど、バレルも一月前に比べて随分腕を上げたように思える。次にまたやり合えば、どちらが勝つか解からないな、と思う。そして次は決勝戦。キーアと瀬那の試合になる。共に一ヶ月間特訓してきたのだから、相手の手の内など知り尽くしているだろう。 その分、実力の差が大きい。それを考えれば年季のあるキーアの方が有利なようにも思えるが、瀬那もそう簡単に負けたりはしないだろう。 楽しみだ、と思う。 しかし、矢張り不満なのはこの位置だ。どうせなら、もっと近いところで見たい。 「なぁ、シオン」 「何ですか?陛下」 「最後の試合なんだしさ、下に降りて見に行ったら駄目か?」 「それは…」 来栖の言葉に、紫苑が困ったような顔をする。 「いいだろ?この三日間ずーっと此処で大人しくしてたんだぜ?最後ぐらいもっと近くで見たっていいじゃん。な?」 「……はぁ、仕方ありませんね」 もう一押し、とばかりに来栖がそう言うと、紫苑は溜息を吐いて頷いた。実際、この三日間此処で大人しくしていてくれただけでも有り難い。下手をすればもっと前に此処を抜け出していてもおかしくは無かったのだから。それを思えば、これぐらいの我侭なら聞いても構わないだろう。 紫苑は来栖を案内して、下まで連れて行く。観客の何人かがそれに気づいて歓声を上げると、それが伝わるようにして会場全体が来栖に注目する。 外面用の笑みを浮かべて、来栖は試合場に一際近い席に陣取った。それでも、群集から遠ざけるように紫苑は苦心していたが。 しかし、観衆の関心が来栖に向いていたのも束の間、競技場に瀬那とキーアの二人が現れると群集の感心は当然そちらに向かった。 どちらも落ち着いていて、緊張している様子は見られない。これまでの試合で慣れて来たとは言え、普通国王が間近に見ているのならもっと緊張しても良さそうなのだが、瀬那と来栖の間柄で緊張等とは今更だし、キーアはどちらかと言えば傲岸不遜で緊張なんて言葉はこいつには無いのではないか、と来栖は思ってしまう。 審判が競技場の脇に出てきて、キーアと瀬那の二人はその中心に歩み寄る。ある程度の距離を置いて、お互いに一礼した。 剣を構え、相手を見据える。その一瞬、会場が静まり返った。 張り詰めた空気が二人を包み、其処から観衆へと伝染していっているようだった。 審判が二人を見比べ、手を上げる。 「始めっ!」 審判の大きな掛け声と共に、わっと会場の緊張が解けて歓声が上がった。 それと同時に二人は同時に相手に切りかかった。キンッと高い音がして、剣が擦れ合う。至近距離で睨み合い、また一瞬で離れる。 互いに剣を構え、互いに隙を伺う。 キーアがスピードを活かして間合いを詰めて切りかかると、瀬那はそれを受け流し、それに乗じてキーアに剣を向ける。しかし、キーアもすぐさま体勢を建て替え、それを打ち払う。 僅か数分の間に何度も剣を打ち交わし、どちらも決定打は与えられない。 そして二人の試合を見ていると、矢張り来栖は奇妙な既視感に襲われる。瀬那のあの動きは、何処かで見たことがあるような気がする。 相手の攻撃を受け流し、ミスを誘い、それに乗じて攻撃を加える。身近な人間はどちらかと言えば真っ向から突き進んでいくタイプで、どうしても瀬那の戦い方とは合わないのだが・・・それでも見たことがある、と思うのは何故なのだろう。 一体何処で…と思考はついついそちらに向かってしまう。 試合の方は、二人とも互角のように見えるが、僅かばかりキーアが押している。矢張り、年季の差だろうか。 瀬那も負けずに打ち返し、キーアの隙を突こうとするが、それを見越したようにさらりとかわす。それに合わせて瀬那に向かって剣を振るうと、瀬那もギリギリのところでそれを避けた。 このままでは埒が明かない、と二人とも感じているのだろう、急に表情が変わった。一気に決着をつけるつもりなのだろう、というのは見ている来栖にも解かった。 キーアが真っ向から切りかかり、瀬那は腰を低くしてそれを待ち構える。キーアが思い切り右下から左上へと剣を振り上げるのに対して、瀬那は相手の空いた左脇に向かって剣を振るう。動きは瀬那の方が一瞬早く、それで決まったかと思われたが振るった剣先は空気を裂き、其処にキーアの姿はなかった。自ら上体のバランスを崩して右側に倒れ込み、剣を持っていない左腕だけで身体を支えさっと体勢を立て直して、スピードを落とさずに瀬那の剣を自らのそれで弾いた。 剣は瀬那の手から離れ、空を舞って地面に突き刺さる。 勝負が決まり、ワッと観衆の声も大きくなる。 試合に見入っていた来栖も大きく息を吐いた。これは、意表をついた方の勝ち、ということだろう。 決勝戦の試合としては、充分に見物だった。 試合をしていた二人が最後に礼をする。これで一通りの試合が終了…ということだが。 来栖はそのまま、紫苑に止める間さえ与えずにキーアと瀬那の居る競技場の中へと入っていった。止めようとした紫苑の腕は空を切り、観客は何事かと静まり返る。 「陛下?一体どうかなさいましたか?」 瀬那の問いかけに、にっと笑いかけながら、来栖は観客にも聞こえるように言った。 「最後の見世物だ。優勝者は、オレと勝負をする」 「なっ」 「……俺、三連チャンなんだけどな…」 来栖の突然の言葉に、瀬那は慌て、キーアは止めても無駄だろうと思ったのか、深々と溜息を吐いた。観客も最後に国王陛下自らの試合ともなれば、俄然興味も湧き、一際大きな声援が飛んだ。 「丁度いいハンデだろ?優勝者相手なんだからさ」 「陛下、ちょっと待ってください。いきなり…」 「いいじゃん、観客もノリノリだぜ?今更無かったことにして失望させるのも可哀想だろ?」 「陛下…」 瀬那も、確かに観客の高まった興奮を萎ませるのは申し訳ないと思ったのだろう、諦めて溜息を吐いた。今更止めたって、誰も納得しない。 「解かりました。審判」 先ほどまで自分達の試合を審判していた近衛兵の一人に話しかける。引き続き、来栖とキーアの試合の審判をするように言い、振り返ってキーアを見た。 「キーア、解かっていますね?」 「勿論ですよ、セナ中将」 二人でそれだけ言葉を交わす。周りに人が居ることを配慮して互いに言葉遣いは変わっているが、その解かり合っている雰囲気が面白くない。 「陛下、キーア。次の試合は二十分後。陛下もその格好のままではいけませんから、着替えてください」 「解かった」 確かに、祭礼用の服を汚す訳にもいかないから、来栖は頷いた。それを確認して瀬那は走り去っていく。来栖のための着替えを取りに行ったのだろう。来栖も一度競技場から出たが、その際観衆の中に居る頭を抱えた紫苑を見て、思わず笑ってしまった。 最後の最後でやられた、という感じなのだろうが。 二十分後、動きやすい服装に着替えた来栖と、僅かばかりの休憩を取ったキーアが対峙する。 互いに礼をして、剣を構え、審判の合図を待つ。 「始めっ!」 審判の一声に、来栖とキーアは互いに剣を打ち鳴らす。 剣を刷り合わせながら、キーアと来栖の視線がぶつかる。 「陛下…あんまり嫉妬するのはみっともないですよ?」 「るせぇっ!」 金属音がして、来栖がキーアの剣を押し返す。 何となく予感はしていたけれど、キーアは瀬那と来栖の関係に気づいている。それで態々挑発するような物言いをするのだから、余計に腹が立つ。 「あんまり心が狭いと、セナに嫌われますよ」 「てめぇには関係ねぇ!」 来栖が切りかかり、キーアはそれを受け止め、弾く。 「大体、てめぇは言い方がイチイチムカつくんだよっ!」 「それはどうも。態とですから」 「っとーに、ムカつくな」 互いに悪態を吐きながら剣を交える。周囲の歓声は大きく、二人が何か話しているなど、当人達以外に気づいている者は居ないだろう。 しかし、剣を合わせてみれば尚更思う。半端じゃない強さだ。だが、来栖だってそうそう負けるつもりはない。 「セナは俺にとって大事なヤツですから、国王陛下といえど、そう簡単に渡す訳にはいかないんですよ!」 「そりゃこっちの台詞だ!」 「俺以下の人間に、セナは渡せません」 「…それは、この試合でオレに勝てってことか?」 「人間的にってことですよ。簡単に感情が乱して、セナを困らせるような人に渡せる訳がないでしょう」 余裕の態度が余計に来栖の癇に障る。大体、何故コイツにわざわざ認めてもらわなければならないんだ、と思う。 「そりゃー、てめぇはよっぽど出来た人間なんだろーよ!」 「陛下よりは人生経験は積んでいますから」 「よく言う…」 しかし、これだけ激しく動きながら、互いに悪態も吐いていると、流石に疲れてくる。あまり長引かせるとまずそうだった。 実力的には大差ないだろう。しかし、前にキーアが二試合をしていることも考えると、疲労度は向こうの方が濃い筈だ。 「そろそろ疲れてんだろーが、いい加減観念したらどうだ?」 「そういう訳には行きませんよ。セナとも約束しましたからね」 「…約束?」 先ほど一言ずつだけで話していた事だろうか。 ギンッ、と重い金属音を打ち鳴らし、キーアが来栖を押してくる。まだまだ力強い太刀筋に、体力馬鹿が、と心の中で呟く。 「陛下を守る近衛兵が、そう簡単に貴方に負ける訳にはいかないんです!」 「っ!」 また、微かな既視感が来栖を刺激する。そんな言葉も、以前何処かで聞いたことがあるような気がする。矢張り、何処でなのかは思い出せないが。 というより、思い出している余裕はなかった。 激しく剣を打ち合わせながら、揺るぐことの無い切れ味がキーアの経験の豊富さを物語っているような気がする。しかし、来栖もまだまだ負けるつもりはない。 守られているばかりなんて冗談じゃない。 ぐっと足を踏み込んでキーアに打ち返す。体格的にはキーアの方が力が上なのは当然だが、スピードだったら来栖も負けていない。剣の技術だって負けているつもりはなかった。 「オレだって、そう簡単に負けてられねぇんだよ!!」 強くなりたいと思うのは、近衛兵ばかりではない。自分だって強くなりたいのだ。守られるのではなく、守るために。ウィンフィールドの国民や、何より…一番大切な恋人を守るために。 キーアが来栖の剣を受け止めながら、少しずつ後退る。 「まぁ、そうこなくちゃ面白くないですよね」 「とーぜんっ!」 守りたい、と願う想いとは別に、強い相手と戦える悦びも、確かに感じている。受け止める剣の重さは腕に響くが、それが尚更闘志に火をつける。 互いに何度も剣を交わらせ、疲労もしているのだが興奮は全く収まらない。 そんな中、キーアの視線が妙に光ったような気がして、来栖は警戒する。 「確かに、面白いんですけどね、そうそう長引かせる訳にもいきませんし」 「なんだよ?」 何だか嫌な予感がして、一歩足を引くと、キーアがこちらに踏み込んでくる。切りかかってくるのを受け止めると、キーアがにやっと笑った。 「良いこと教えて差し上げますよ」 「…なんだよ」 「俺、結婚してるんですよね。子供も居ます」 「はぁ!?」 「ということで、隙アリ!」 来栖が驚いている一瞬の間に、キーアが来栖の剣を弾いて飛ばした。 「卑怯だろ!ってーか、結婚…?」 「一瞬の隙が命取り、って前に言ってたの聞いてましたよね?」 「いや、それはいいから・・・結婚して、子供居るって…?」 「ええ、美人の奥さんと、可愛い子供が五人ほど」 「…五人!?」 嬉しそうに語るキーアに来栖は唖然とする。自分の嫉妬がお門違いもいい所なのも問題なのだが、更に言われた子供の人数に驚いた。瀬那と同い年である筈のキーアの子供が五人…。 「はい。一番上の子が今十歳で。あ、今度セナにうちの子の肖像画を描いて貰う約束したんですよね。元が可愛いからきっと可愛く描けますよー」 「……しかも、すげー親馬鹿でやんの」 行き成り惚気だしたキーアに、流石の来栖も呆れる。負け方としてはかなり不満な類なのだが、それもどうでも良くなるぐらいに脱力してしまう。 「あのー、お話はいいんですが、一応、最後までお願いします…」 二人の会話に、おずおずと審判をやっている近衛兵が割り込む。 その様子に流石に二人ともはっとして、言われるがままに礼をとった。 しかし、キーアの言っていたことを考えると、この一ヶ月間ヤキモキしていたのは何だったのだろう、という気がしてきてならない。競技場から二人して離れると、溜息を吐く。 そして、ふと瀬那の試合を見ていて感じた既視感を思い出して、キーアに尋ねてみた。 「なぁ、セナの太刀筋、どっかで見たことがある気がするんだけど、お前、知ってるか?」 「セナの?ああ…だったらセシルさんじゃないですか?」 「セシルって…セナの実の父親の?」 「ええ。ウィンフィールドでも一番の剣の使い手と謳われた人ですよ。セナの太刀筋は父親のセシルさんそっくりです。腕はまだまだですし、セナも其処まで極めるつもりもないでしょうけど」 キーアは肩を竦めながら言う。 「ふーん…」 「俺、槍術に関しては右に出るものは居ないって自信があるんです。だから、今度は剣の道を極めてみようかと思いまして。その上での目標でもあるんですよ、セシルさんは。尊敬していますしね」 「セナの父親と、面識あるんだよな」 「そりゃまぁ。…セシルさんはいろんな意味で俺の目標とする近衛兵ですからね」 懐かしげにそう言ってから、今度は真剣な目で来栖を見た。 「ですから…セシルさんの忘れ形見でもあり、俺の親友でもあるセナを泣かせたら、承知しませんよ、陛下。実際、俺はあまり二人の付き合いには賛成出来ない」 「どういう意味だよ」 「セナが傷つくのが目に見えてますから」 「なんだよ、それ…」 「知らないというのは、羨ましいことですね」 「…一体何が言いたい?」 来栖がキーアを睨みつけると、さらりと受け流して肩を竦める。 「…でもセナが望んでいる以上は、無理に別れさせるつもりもありません。そんなことしたらそれこそセナを泣かせてしまいますしね」 「……オレは泣かせねーよ、絶対。セナを傷つけたりしない」 「まぁ、今はその言葉を信じます。けど、本当に泣かせたりしたら例え国王陛下といえど容赦しませんから。…それじゃ」 そう言ってキーアは歩いて行った。これから優勝者に表彰があるだろう。それにしたって… 「好き勝手言いやがって」 けれど、キーアが瀬那を想って言っているのも事実だ。だけど、何も好き好んで恋人を泣かせたいなんて、来栖は思わない。 何より、思い出したのだ。キーアのおかげで。 「……あれが、セナの父親なんだな」 ずっと、遠い記憶だ。まだ来栖が三歳にもなっていない頃の。それでも覚えて居たのは、当時国王であった父親の記憶は殆ど玉座に座っているものだったのに、その時の父親は城の裏庭で剣を握っていた。 だからだろう、剣を握っている父を見たのは後にも先にもあれ一度きりだったから、記憶の底に残っていたのだ。 「もう一回!」 「陛下、いい加減にこの辺でやめましょう」 いつも尊大で威厳のある父なのに、この時はやたらと子供っぽく剥きになっていた。 城の窓からこっそり覗いて見えた姿は、いつも着ているのとは違う、比較的軽装な格好で、その上剣を持っている。手合わせをしていた相手は、いつも父の傍に居る近衛兵だった。 来栖がその様子を見つけてから、もう何度も手合わせをしているが、一度もその近衛兵に勝てていない。だから余計に頑固になっているのだろう。 「いーや、お前に勝つまでやる!」 「それじゃあ日が暮れてしまいますよ」 「何だと!?いくらお前がウィンフィールドで一番の剣の使い手だからって、私だってそれなりの腕前だという自負はあるぞ!日が暮れる前に一本取るぐらい出来る!!」 「陛下が弱いと言っている訳ではありませんよ。ただ、私は陛下を守る近衛兵ですから、例えまぐれであれ、守るべき方に負けてしまったのでは、立場がありません。ですから、どんな自体であっても、負ける訳にはいかないんです」 低く諭すような声に、父は憮然としていた態度を少し改める。けれど、それでも未だ不満そうな様子は変わらない。 「セシルが私を守りたいと思ってくれているのは解かるさ。でも、私だって守られているばかりでは嫌なんだ。私だって、お前や、王妃や、クリス…国民達を守りたい」 「陛下…」 「まぁ、お前を守るなんて幾らなんでも無理だろうが、せめて足手まといにならないように、強くなりたいんだ」 父の言葉に、セシルはふっと息を吐いた。 「解かりました。最後に一回だけですよ。陛下も職務で疲れているでしょう、これ以上のご無理はいけません」 「ああ」 父は嬉しそうに笑って剣を構えた。それに合わせるようにセシルも剣を構える。 そうして父と手合わせをするセシルの動きは本当に綺麗だった。何処にも無駄が無く、舞っているように軽やかな動きで、あっという間に父を負かしてしまう。 剣のことなどまだよく解からない来栖でさえ、思わず見蕩れてしまう程、綺麗な動きだった。 「ああ…やっぱり駄目か」 「今日で終わりじゃありませんよ。また手が空いたらお相手しますから…いつか私を負かせてくださるんでしょう?楽しみにしていますよ」 「そうだな。今より、ずっと強くなって、お前を守れるぐらいになってみせるからな、セシル」 「はいはい」 意気込んで言う父に微笑みかけるセシルは、近衛兵と国王として以上に、父をいとおしんでいるような眼差しを向けていた。そして、父もまた、セシルには他には見せない子供っぽい表情を見せていられるぐらい、信頼しているのだと来栖にも解かった。 けれど、もう一度手合わせをしようという約束は、結局果たされることはなかった。それから間もなく、セシルは黒い翼との戦いで死んでしまったから。 その時の、父の憔悴ぶりも、僅かながら来栖は記憶に残っている。 黒い翼との争いが激しくなり、それこそ日に何人もの近衛兵が殺されるのは珍しくなくなっていたが、それでも毅然と政務を行っていた父が、セシルが死んだ時は酷く落ち込んでいた。 国王と近衛兵としてだけではない強い信頼関係が、二人の間にはあったのだ。 幼い頃の記憶を掘り起こし、来栖は溜息を吐いた。 「結局、似た者親子なんだな…」 セシルや国民を守りたい、そう言った父を思い出して、苦笑いが漏れる。 そう、守られるばかりでなく、守りたいのだ。近衛兵は確かに自分を守る人間だけれど、守られてばかり居るような者にはなりたくない。 此処一月気にかかっていた事がすっきりして、来栖は今度は大きく息を吐いた。 「陛下!」 名前を呼ばれて振り返ると、愛しい恋人の姿が見える。 「なんだ。もう用はないのか?」 「陛下を呼びに来たんですよ。最後に挨拶を何か…」 「めんどくさい。シオンに任せときゃいいだろ」 「またそんなことを…これは国王陛下主催の剣術大会なんですから、ちゃんと最後まで締めて下さい。それでなくとも、行き成りキーアと試合をしてシオン補佐官は酷くお疲れですよ」 「オレも試合してお疲れなんだけどなー」 「それはご自分の責任でしょう」 瀬那は呆れたように溜息を吐く。 何となく、こうして話すのは凄く久しぶりな気がして、このまま会話を終わらせてしまうのが酷く勿体無い気がするのだ。何より、もう剣術大会は終わった。これ以上、我慢している理由なんてないだろう。 放っておいても、紫苑が諦めてちゃんと終わらせてくれるに違いない。 そう決めてしまうと、取る行動は1つしか残っていない。 「陛下…?」 ポケットに入れておいたナイフを取り出し、指を切る。 「一体何を…」 「陛下!?」 瀬那の呟きと、更に自分を探しに来た紫苑の声が重なる。ワープゾーンが広がっているのを見て、尚更紫苑は慌てた様子で駆け寄ってくる。 「シオン!後は任せた。こいつはこのまま連れてくから」 「陛下!?」 「ちょっ…お待ちください!!」 来栖は瀬那の腕を取り、そのままワープゾーンに飛び込む。紫苑は急いでその場に駆けつけたが、その時には既にワープゾーンは閉じてしまっていた。 「…最後の最後で、全部俺に押し付けますか」 紫苑はがっくりと項垂れ、諦めた。 ワープゾーンを潜って着いた場所は、来栖の私室だった。 そのまま手を引いて瀬那をベッドの上に押し倒した。 「クリストファー様っ!」 「何?」 一応返答はしているが、そうしながらも手は瀬那の服を脱がせにかかっている。 「ちょ…ま、待ってくださいっ!」 「嫌なのか?」 「そういう訳ではありませんが……試合の後で汗をかいていますし」 「これ以上待てない。もう一ヶ月待ったんだぜ?」 ズボンのベルトに手を掛け、引き抜きながら、瀬那の首筋に舌を這わせる。汗をかいた後だからだろう、瀬那の体臭が香り、舐めた肌はしょっぱい。 「ですが…」 「オレはこのままでも全然構わないぜ。あんたの匂いがよく解かるし。あ、あんたがオレが汗臭いの嫌だって言うんなら、二人で一緒に風呂に入ってもいいけどな」 にやっと笑ってそう言ってやると、かぁっと瀬那の顔が赤く染まる。その表情が可愛くて、やっぱり止められない、と来栖は瀬那のズボンを一気に引きずり下ろした。露になったそこは既に勃ち上がり始めていて、来栖がそっと撫で上げると、瀬那はぴくっと震えた。 「なんだ、まだ全然触ってもないのにこんなになってんだな。期待してたんじゃねーか」 「そ、それは…」 「違う、訳ねーよな?」 口篭る瀬那にそう言って、勃ち上がり始めているそれを口に含む。 「あっ…クリス…っ!」 瀬那の手は止めさせようと動き、来栖の頭に乗せられるが、乱暴に引き剥がすことも出来ず逆に強請っているようにも思える。 それを根元から舐め上げ、先端を舌先でくすぐる。手は根元の方をゆっくりと扱きながら、時には太股を撫でて、ゆるやかな愛撫を繰り返す。 「はっ…あぁ…」 瀬那の口から熱い吐息が漏れる。その声を聞いて、ぞくりと背筋が粟立った。もっと瀬那の声が聞きたい。その想いのまま、瀬那のモノを口唇で扱き、括れの部分に軽く歯を立てた。 「ひっ…あ、ぁああっ」 ビクビクと身体を痙攣させ、背を仰け反らせる。来栖の頭を掴んでいる手にぐっと力が篭り、瀬那が感じている快感の強さを表している。すっかり勃ち上がったそこからは先走りが溢れ出てきていて、来栖の舌に苦味を伝えてくる。 一度口唇離して瀬那を見ると今にも泣き出しそうな程潤んだ瞳と目が合った。快感で蒸気した頬や、熱い吐息を漏らす唇、その全てが愛しくてたまらない。 「クリス…?」 問いかける瀬那に何か言ってやろうかと思ったけれど、何も思い浮かばなくて来栖はもう一度それを口に含む。 唇と手でそれを扱き、射精を促す。大きく張り詰め、絶え間なく先走りを溢れさせる其処は今にも達してしまいそうな程だ。 「クリス…もう…もう……っ」 「いいぜ、達けよ」 「あっ…あ…待って、くださいっ……」 静止をかけようとする瀬那を無視して、根元から先の方へとゆっくり手で扱きながら、先走りを溢れあせている先端を吸い上げる。 「あ…ひっ、ぁああああっ!」 悲鳴のような喘ぎを漏らして、瀬那は迸りを放つ。来栖はそれを全て口で受け止め、余さず飲み下して顔を上げる。 瀬那は息を乱しながら両腕を顔の前で交差させて、表情を見せない。何となくムッとして邪魔な腕を退けて押さえつける。顔の前を遮るものがなくなって、来栖の不機嫌に気づいたのだろう瀬那が、訝しげな顔をして見返してくる。 「クリス…?あの…」 「なぁ、キーアとは本当にただの友達な訳?」 「え?」 それこそ意外な問いかけだったらしく、驚きに目を見開いていた。その表情が何だか幼く見えて、何だか可愛い。 「どういう、意味ですか?」 「あいつとは本当にただの友達?それ以上の感情は全くない訳?」 「な…っ」 瀬那の顔が、快楽の余韻だけでなく真っ赤に染まる。それは怒りと羞恥、だろうか、などと来栖は冷静に分析する。 「そんなこと、ある訳ないでしょうっ。私にはクリスだけです!」 「どうだか。此処一ヶ月、ずっと夜の間一緒だったんだからな。何もないって方がどうかしてる…」 言っている途中で瀬那の顔を見て言葉に詰まる。こっちを見ている瀬那の瞳から、ぽとりと、涙が零れ落ちた。怒るのは予想の範囲内だったが、泣かれるのは予定外だ。 「私には、貴方だけです。貴方以外の誰かとなんて……」 「うわっ、悪い、悪かったってっ!だから泣くなよ、冗談だから!!お前泣かせたなんて知られたらあいつにぶっ殺される!!」 「じょう…だん…?」 「そうだよ、悪かった……まぁ、ちょっと疑ってたのはホントだけど。今はそうじゃないって事は解かってるから」 瀬那の瞳から流れる涙を指で拭ってそう言うと、じろっと睨まれた。上目遣いになっているその表情は、かなり可愛いのだけれど、瀬那はその自覚はないだろう。 「でも…疑ってたのは事実なんですね…?」 「だってお前…あいつにはタメ口で話すじゃねーか」 「え…?」 「あいつにだけだろ、そういうの。他の相手には年下であれ部下であれ敬語使うのにさ」 そう、それがまず、一番疑った原因なのだ。 「レオンも居ますよ?」 「レオンは弟だろうが!ていうかお前さ、士官学校の友達にはみんなタメ口な訳?」 「いえ、キーアにだけ…ですけど」 「何であいつにだけなんだよ」 実際、本気で気になる。恋愛感情ではないにしても、キーアが瀬那の特別な位置を占めているのは間違いない気がする。自分でも心が狭いと思うが、それが面白くないのだ。 「それは…士官学校でも、寮でも殆どずっと一緒に居るのに、敬語を使われるのが嫌だって……敬語を使ったら返事をしない、と言われたんです」 「それで、今も?」 「今更敬語にするのも、変じゃないですか?」 「はぁ……」 くだらない。 ついついそう思って溜息が出てしまう。まぁ、子供の時の、子供らしい理由と思えば、そうでもないのかも知れないが。 「なぁ、今度から二人きりの時はタメ口使わないと、返事しねぇって言ったらどうする?」 「え…?」 意地悪く来栖がそう言うと、瀬那は本気で困った顔をする。暫く無言で見つめあい、それから来栖の方が噴出した。 「冗談だよ。今更あんたにタメ口で話されても、調子が狂いそうだしな」 「だったら言わないでください」 少しむっとしたような顔で睨まれて、笑みが浮かぶ。 そっと頬を撫でると、ぴくっと一瞬震える。それでも離さずに何度か撫でていると、瀬那は心地良さそうにゆっくりと目を閉じた。 「悪いな。此処最近苛々してたから、その所為だ」 「キーアに嫉妬して、ですか?」 「ああ。あと一ヶ月おあずけ食らったのはきつかったな。ていうか、まだおあずけ続行中か」 来栖のその言葉に、瀬那はくすりと笑う。 「私が旅に出ていた頃は、もっと長い間会わなかった事もあったでしょう?」 「距離が離れていた頃と、すぐにでも触れる場所に居るのとでは、使う忍耐力が全然違うってことだな」 「…すみません。でも、クリスの傍に居るためですから」 「解かってる。オレの方こそ悪かったな。意地悪言って」 来栖はそっと瀬那の瞼に口付ける。其処から鼻筋、頬、唇へと段々と口付けていく。唇をぺろりと舐めると、薄く口唇が開き、其処に舌を差し入れる。 「んっ…ふ…」 口腔に潜り込み、瀬那と舌を絡め合う。暫くの間そうして互いの口唇を貪り合うと、うっとりした表情で瀬那が来栖を見つめた。 一旦瀬那の唇を開放し、もう一度、顔を下へと移動する。今度は瀬那のモノではなく、更に奥へと舌を這わせようとすると、来栖の頭を掴み慌てて止める。 「ちょっと…待ってくださいっ」 「…嫌なのか?」 「そうではなくて、私も…貴方に触れたいから」 「解かった」 瀬那の言った意味を理解して、来栖は頷く。 来栖の顔の上を跨ぐ様にして尻を向け、瀬那は来栖のモノを取り出して舌を這わせた。いつもならこんな格好になるのは嫌がるのに、進んでそうしようとしたのは、それだけ瀬那も来栖を欲しがってくれているのだと思うと嬉しくなる。 瀬那の舌が来栖のモノを舐め上げて居るのを感じて、来栖も瀬那の尻を掴んで引き寄せ、奥の窄まりに舌を這わせた。一瞬びくっと瀬那の身体が震えるが、気を取り直したように来栖のモノへの愛撫を続ける。 先ほど瀬那が放ったものと来栖の唾液でその場所は濡れていたが、来栖は舌を使って更に奥へと唾液を流し込み、舌を差し込む。 「ふっ…んんっ…」 来栖のそれを銜えて愛撫しながらも、後ろへの刺激に感じているのは、前の反応を見れば明白だった。何度も舌で其処を突付いて、奥へと差込み、何度も唾液を流し込む。窄まりを舐めて、充分に奥が潤っているのを見て今度は逆にそこに口をつけて吸い上げた。 「あっ…はぁ…ああぁ…!」 その刺激に瀬那は来栖のモノから口唇を離して頭を振り、甘い喘ぎを溢す。その様子に目を細めて笑いながら、来栖はまた奥へと舌を這わせる。 それに気づいて、瀬那もまた、来栖のモノを銜え込み、舌を絡ませてくる。瀬那のその愛撫は確実に来栖を高めていく。来栖もまた唾液を奥へと流し込んで、ちろちろと舌先で入り口を舐めたりしながら、瀬那にとってはもどかしいだろう刺激を与えていく。 その愛撫に確実に身体は高まっていって、それを誤魔化すように必死に来栖のモノに舌を絡めて、手を添え扱き上げる。 「うっ…」 瀬那の絶妙な刺激に、来栖が思わず声を漏らす。顔を離して瀬那を見ると、嬉しげに笑っているのが見えて、負けていられない、という気分になる。 もう一度、来栖はぐっと奥へと舌を差し込んだ。唾液を絡めた舌が其処を押し広げ、入るところまで押し入れると、今度はゆっくりと引き抜き、また奥まで入れる。舌先で入るのはほんの僅かな場所だが、その微妙な刺激が瀬那を確実に高めているのは、張り詰めた瀬那のものが先走りを滴らせていることからも、来栖が掴んでいる尻や足が震えていることからも解かった。 それを何度か繰り返していると、瀬那は来栖のモノを愛撫する余裕もなくなり、懇願してくる。 「クリス…もう…っ…あ…っ」 「何?」 意地悪く尋ねると、快感で潤んだ瞳が睨みつけてくる。その表情の色っぽさにぞくっと背筋に快感が走る。 「もう、これ以上…焦らさないで、ください……」 「解かった…だからセナもちゃんと口動かせよ」 「解かって…ます…あっ…」 来栖の言葉に憎まれ口を叩く瀬那に余裕を与える間もなく充分に潤った其処に指を一本押し入れる。舌で先に解されていた其処はやすやすとそれを飲み込み、熱い腸壁が来栖の指を締め付けてくる。その締め付けに煽られて、すぐに指を二本に増やした。 瀬那はまた来栖のモノに舌を這わせて、愛撫を始める。その感触を楽しみながら、二本の指で奥を掻き回しながら、既に知り尽くしている瀬那の感じる場所を刺激した。 「あ…ふっ…んんっ…」 来栖のモノを銜えて愛撫していた瀬那がその刺激に喘ぎを漏らす。それでも歯を立てたりしなかったのは偉いものだと、正直に感心しながら、来栖は奥への刺激を続ける。ぐちゅぐちゅと水音を立てながら奥をかき回し、感じるところを擦り上げ、余裕が出来た頃に指を三本に増やした。 「はぁっ…あ…っ…んんっ…」 未だに口腔に来栖のモノを歯を立てずに銜え込んでいるのに本気で感心しながらも、それを愛撫する余裕はすっかりなくなっているようだった。 そうして三本の指でまた奥を掻き回し、抜き差しを繰り返すと、瀬那の腰がたまらなげに揺れ始める。更に強い刺激を求め、指を深く飲み込もうとする腸壁をぐっと押し広げるようにすると、ぶるっと瀬那の身体が震えた。 「は…ぅ…ふ…っ…あぁ…っ…」 甘い喘ぎが瀬那の口から絶え間なく漏れ始め、来栖のモノを口から離す。それでも瀬那は手で来栖のモノを擦りながら、共に絶頂に行こうと懸命に愛撫を繰り返す。 それに答えて来栖も奥を抜き差しする指の動きを早めながら、ぐるっと中で回転させる。その予想外の刺激に、瀬那の張り詰めた其処は堰を切ってあふれ出した。 「あっ…あぁああっ!!」 「くっ」 瀬那も来栖のモノを最後に強く扱き上げる。そして、来栖も短い呻きを発しながら、殆ど同時に射精した。その白濁した液体が瀬那の顔にかかり、その綺麗な顔を汚した。 お互いにそのままの体勢で息を整え落ち着くのを待つ。 暫くして、瀬那が身体を起こすと、来栖もそれに合わせて起き上がり、向かい合って汚れた瀬那の顔を拭いてやる。 それから一度触れるだけのキスをして、来栖の上に跨ったままの瀬那が、欲に濡れた瞳で問いかけてくる。 「このまま…いいですか?」 「…ああ」 来栖は頷いて寝転がり、瀬那はゆっくりと来栖のそれを扱き上げ、充分な大きさになったと思うとゆっくりとその上に腰を下ろして行った。 「んっ…ふ…」 浅く息を漏らしながら、瀬那は少しずつ腰を落としていく。ゆっくりとしたそれが妙にもどかしい。前もって解したとはいえ、久しぶりだからだろう、キツそうだった。 中ほどまで埋まったところで来栖はもどかしさに耐えられなくなり、腰を掴んで一気に引き寄せた。 「ひぁっ…ああっ!」 苦痛と快楽の混じった嬌声を上げて、瀬那の其処は来栖のものを完全に呑み込んだ。荒く息を吐き、瀬那が来栖を睨みつけてくる。それに苦笑いを返して、ゆっくりと来栖は動き出す。 「ふっ…あ…ぁ…」 動きに合わせて、瀬那の口から喘ぎ声が漏れる。瀬那も来栖の動きに合わせて腰を動かし始める。来栖はベッドの上に寝転びながら、瀬那の前に手を伸ばした。 瀬那のものに触れ、緩く扱くときゅ、と中が締め付けられる。その心地いい快感を調節しながら微妙に腰を揺らし、前を刺激する。 「んんっ…あ…ふ……クリス……」 瀬那が来栖に向かって手を伸ばしてくる。前を弄っていた手を離し、延びてきた手を取りながら上体を僅かに起こすと、瀬那の方から口付けてくる。 そのまま来栖は身体を起き上がらせ、瀬那の頭の掴んで口付けを深めながらぐっと突き上げた。 「んっ…んんぅ…っ…んんっ!」 瀬那の口蓋を掻き乱し、腰を掴んで激しく突き上げを繰り返す。瀬那も来栖の口付けに応えながら自らも腰を揺らして快楽を求める。 響く水音と口付けの合間に漏れる熱い吐息が場を満たし、来栖の欲を駆り立てる。 「ぅんっ…ふ……ふぁ…んっ…ん!」 激しい突き上げに動きを合わせていられなくなり、息苦しさに口付けを逃れようとするが、来栖はそれを許さず、尚更激しく瀬那の舌を絡め取る。 ガクガクと身体を揺さぶられ、苦しい口付けに、来栖の胸を押して留めようとするが、大した力はなく、効果は全くなかった。 「ふっ…んんっ……ん…くる…し…ふぁ…」 キスの合間にそう訴えると、来栖の動きが止まり、激しい口付けから開放される。口唇を離すと銀糸が光ってぷつん、と切れた。瀬那の口から飲み下しきれなかった唾液が顎を伝い、流れている。 「ふぁ……は……はぁ……」 必死に呼吸を繰り返し、酸素を取り込んでいると、来栖の指がつ、と首筋をなぞる。ぴくっと身体を震わせて瀬那が来栖を見る。 動きは止まったけれど、互いのモノは張り詰めたままで、ずっとこのままという訳にもいかない。どうするつもりなのかと目で問いかけられて来栖は笑う。 「久しぶりなのに、すぐに達ったら勿体ないだろ?」 「それは…そうかも知れませんけど…時間はあるんですから…」 このまま動かないのは辛い、と言いたいのだろう。激しい突き上げで高められた体が快楽を欲して来栖のモノを締め付けている。それを感じれば、来栖もすぐにでもまた動きだしてしまいたいけれど、それを押さえつけて、瀬那のシャツの下から手を潜り込ませる。 汗にじっとりと濡れた肌は快楽の所為かうっすらと赤く染まり、胸の突起は今夜初めて触れるのに堅くなっていた。きゅっと摘みあげるとびくっと瀬那は身体を震わせ、中を締め付ける。その感触を味わいながらもう片方の突起を口に含む。 「んっ…あ…」 指で摘んだ方を押し潰すように捏ねながら、口に含んだ方を舌先で転がす。瀬那のモノは疾うに張り詰め、蜜を滴らせている。それを空いている方の手で握りこんで、先端から溢れるそれを親指でゆっくり亀頭全体に撫でるように広げていく。 「あ…クリス……お願いですから、動いて…」 激しくは無い、ゆるやかな愛撫に瀬那は焦れて腰が動く。けれど、来栖はそれには応えず、相変わらず胸と前をゆっくりと愛撫する。 瀬那は堪えきれずに腰を動かし始めるが、それを止めることはせずに胸への愛撫を続ける。 「あ……ふっ…ぁ…あ…」 甘い吐息を漏らす瀬那の肌に触れて煽りながら、けれど決して自分は動かずに来栖は胸から口唇を移動させて鎖骨の辺りに吸い付いた。 ぴくっと瀬那の身体が震えて吸い付いた箇所に紅い徴が残っている。他の場所にも次々と痕を残しながら来栖の手は瀬那の背中に回り、すっと背骨に沿って指を這わせる。強くない小さな刺激でも過敏になっている身体には充分で、瀬那の動きは段々激しくなる。 腰を揺らし、自分が感じる場所に来栖のものを擦りつける。 「クリス…クリス……あぁ…」 甘い喘ぎを溢し、瀬那が次第に絶頂へと向かっていくのが来栖に解かる。瀬那のモノからは止め処なく精液が溢れてきているし、何より瀬那の動きの余裕のなさがそれを伝えている。来栖のモノを締め付ける其処は絶え間なく脈動し、同時に来栖も高みに導いていく。 けれど、来栖はそれを瀬那のモノを掴み、根元を戒めることによって抑えた。びくっと瀬那の身体が震えて、来栖を見る。 「まだ、駄目」 「でも、もう…」 瀬那がもう限界近いことは解かっているが、それでも来栖は頷かない。 「一人で動いて勝手に達くつもり?」 「それは…」 困ったような顔で来栖を見るめる瀬那の表情を可愛いと思うけれど、でも、もうちょっと楽しみたい。まだまだ時間があるのは事実なのだけれど、何しろ、一ヶ月分だ。 瀬那の唇に自分のそれを重ね合わせ、ゆっくりと絡めとる。もう一度深く瀬那の頭を捕らえてゆっくりと、けれど深く瀬那の口唇を冒した。 「んんっ…ふぁ……んっ…」 来栖の口付けに瀬那も応えるが、根元が戒められたままなのが気になるらしい。それに気づいては居たが、来栖はまたキスを続けたまま瀬那を突き上げた。 「んぅっ!…ん、んんっ…ぁ…っ」 容赦のない突き上げに、また瀬那の快感は急速に高まっていくが、戒められているので達くことは出来ない。後頭部を抑えられ、キスを続けたまま、先ほどと同じように何度も奥まで突かれる。 「ぁふ…んっ……んんっ…ふ…」 激しい口付けに、喘ぎはその間に消えてしまい、熱い吐息だけが名残を残している。 何度も突き上げられ、深く口腔を犯され、限界はとっくにきているのに、前は戒められ達することは許されない。息をするのもままならない苦しさから、瀬那の目の端に涙が滲む。 「んっ…ぁ…ふぁ…ん…っ……ぁあっ!」 ぐっと奥まで突き上げられた時、ようやく口唇が開放されて、高い喘ぎ声が漏れた。来栖も限界が近くなり、瀬那のモノをを戒めたまま奥深く抉る。 「あっ…あぁ…ん、ぁふ…ああ…んんっ…あぅ…っ」 自由になった唇からは、これまでの分まで合わせたかのように絶え間なく喘ぎ声が漏れる。 来栖も片手で瀬那の腰を掴み、激しく突き上げる。腸壁は射精を促すように来栖を締め付け、突き入れ、引き抜くたびに纏わりついてくる心地よさに更に動きは激しくなる。 瀬那の口から絶え間なく聞こえる喘ぎ声と、腸壁の締め付けが来栖を限界まで追い詰めていく。 「クリスっ…クリス…もう…あ、ぁあっ…ん…ああ…っ」 「ああ、いいぞ、セナ…」 根元の戒めを解いて、ぐっと深く突き入れる。両手で瀬那の腰を支え、自分でも無茶かと思うほど深く突き上げ、限界まで引き抜いてはまた突き入れる。 「あっ!…ぁあっ…んぅ…っ…ふぁ…あ……クリスっ…」 「セナ…っ」 自分の限界を感じ、最後に腰をベッドに深く落としてから、ぐっと高く突き上げ、最奥へと自身を捻じ込んだ。 「あっ、あ…ぁああああっ!」 瀬那は一際高い喘ぎ声を出して達し、その収縮に合わせて、来栖も瀬那の中へと放つ。 「くっ」 「あ…はっ…あぁ…」 来栖の精を受けて、甘く蕩けるような声を出して瀬那は来栖の上に倒れ込む。 「セナ…腰上げろよ」 来栖の言葉に、瀬那は未だ荒い息が収まらないものの来栖のモノを引き出そうと腰を上げた。 「んっ」 ずちゅっ、と卑猥な水音がして来栖のモノが瀬那の中から出てくる。先程まで満たされていた場所が虚ろになり、瀬那は短く息を詰めた。 来栖のモノを出したと同時に、来栖が放ったものが足を伝い、下肢を濡らした。その様は酷く淫靡で、放ったばかりにも関わらず来栖はまた欲望が身を擡げ始めるのを感じる。 来栖は先程まで自分が入っていた場所に手を伸ばし、指を二本押し込んだ。 「クリス?…あっ…」 指を使って其処を押し広げると、白濁した液体が溢れ出し、瀬那の足を伝い落ちていく。一度指を引き抜いて、瀬那に見せると恥ずかしげに頬が赤く染まった。 けれど、それでも来栖の指を手に取り、口に含んで清めようとする。赤い舌が来栖が出したものを舐めている様に、来栖のモノは完全に力を取り戻す。瀬那の肩を押し、今度は体勢を入れ替える。 瀬那が放ったばかりの其処を手に取り、扱くと瀬那は悲鳴を上げる。 「ひっ…ぁ…待ってください…其処は…っ」 「悪いけど、待てねぇ…」 自分でも堪え性がないな、と思わないでもない。放ったばかりの其処に触れられるのが辛いだろうということも解かるが、それでも止めるつもりはなかった。其処を性急に扱き上げながら瀬那の足を抱え上げ、来栖はもう一度其処に自身を突き入れた。 来栖が放ったモノで充分に潤っている其処は柔らかくそれを飲み込んでいく。 「んっ…ぁ、あ…っ…クリス…待って…っ」 「待てねぇって、言っただろ。一ヶ月分だからな、一晩じゃ足りねぇぐらいだ」 「でも…っ…本当に…ふぁっ…」 抗議の声を上げる瀬那に、来栖は最奥まで一息に突き入れる。 前を扱きながらも腰を使い、感じる場所を擦り上げるとまたすぐに瀬那のモノも力を取り戻した。一度前から手を離し、両手で瀬那の足を掴んで開き行き着けるだけの奥まで腰を進めた。 「ひぁ…っ…あ…っ」 放ったばかりで感じすぎる所為だろう、少し腰を揺らしただけでも悲鳴のような喘ぎが漏れる。緩く腰を揺らして中を味わっていると、瀬那の手が来栖の背に回りぎゅっと掴んでくる。その動作がいとおしくて、瀬那の唇に自分のそれをそっと触れ合わせる。 「クリス…っ…は、あ…っ」 小刻みに中を掻き回していると、それでは足りなくなったのか瀬那の腰が揺れる。更に深く受け入れようと瀬那の足が来栖の腰に絡みつき、中に入っているモノを締め付ける。 「くっ…セナ…っ…」 「動いて、ください…もっと…」 瀬那の、その囁くような掠れた声が引き金になって、来栖は限界まで腰を引き、それを追いかけようとする瀬那の最奥まで一息に突き上げる。 「はっ…あ、ぁあっ…ひっ…あぁああっ!」 瀬那は来栖の背に痛いほど爪を立て、それが尚更瀬那が感じている快楽の激しさを表していた。来栖は締め付けてくる其処に煽られるまま、瀬那の喘ぎ声に触発されるまま、激しく突き上げる。 肉を打つ音と、水音と、瀬那の喘ぎ声が場を満たし、それが更に来栖を煽る。何度も何度も深く突き入れては引き抜いて、更に奥へと突き立てる。 「ぁふっ…あ…あ…んっ…ぁ…あ…っ」 「セナ…っ…セナ…」 強すぎる快楽のためだろう、瀬那の瞳からは涙が溢れて頬を伝う。その涙が酷く綺麗に見えて、来栖はそれを舌で舐め取った。 「んっ…んんっ…あ…はぁ…クリス…っ…激し…すぎ…っ…」 「あんたが、もっと、って言ったんだろ…?」 「で、でも…っ…あぁっ…おかしく…なっ…あっ…」 「いいじゃん……おかしくなれよ」 そう言って瀬那の前を握ると引き攣ったような声が漏れた。 「ひっ…ぃ…あ…っ…あ…」 止め処なく溢れる涙が瀬那の頬を濡らし、背にしがみ付いてくる手に力が篭る。爪で背を引っかかれながらも、それさえもが愛しいと思う。瀬那の感じている快楽の強さ故か、締め付けがきつくなり、来栖の動きも容赦なく激しくなっていく。 「あっ…ぁあっ……ふ、ぁ…あ…クリ…ス……も…っ…は…ぁ…っ」 「…セナ…オレも…っ」 激しく抜き差しを繰り返し、来栖は瀬那の感じる場所を擦り上げ、最奥まで突きたてた。 「あ…ひっ…ぁ…はっ…ぁあっーーーー!!」 「っ…!」 瀬那が今までになく強く来栖の背にしがみ付き、きつく来栖を締め上げて達する。それに合わせて来栖も瀬那の中にまた迸りを放った。 「あ…ぁ…熱い…」 来栖の熱を受け止めて、瀬那は身体を震わせる。荒く息を乱しながら、必死に必要な酸素を取り込もうと呼吸を繰り返す瀬那をしっかりと抱きしめる。 互いに呼吸が荒くなっているのが段々と落ち着いていくのを、密着している肌から感じる。互いにかいている汗が混じりあい、このまま融けてしまいそうだ、と思った。 「もう少し落ち着いたら、続きな」 「…まだ、するんですか…?」 来栖の言葉に、瀬那が疲れた声を出す。 「当然、一ヶ月分だからな、朝まで放さないぜ?」 「明日は、仕事が…」 「大丈夫、あんたは明日休みだから」 「そんな勝手に…」 「いいんだよ、一ヶ月休み無しだったんだろーが。休んどけ」 そう言って笑う来栖に、瀬那は諦めたように溜息を吐いて笑った。 翌朝。 来栖はキーアを執務室に呼び出していた。レイヤードは他に仕事があり、今この部屋には二人と紫苑しか居ない。 「…陛下、本気ですか?」 「ああ。お前を近衛隊副隊長兼、国王付きに任命する」 「……俺は平がいいんですけど」 「オレを守る近衛兵なんだから、オレより強いヤツを任命するのが当然だろ?剣術大会で優勝もしたんだし、平のまんまって訳にはいかねーだろーが」 「セナがもうちょっと早く負けてくれてたら、俺だって…」 キーアはぶつぶつと不平を漏らす。実際瀬那から聞いた話だが、キーアは本当に出世欲が無く、平の方でのんびりとしているのが一番好きらしい。だからこそ、嫌がらせも含めて副隊長と国王付きに任命したのだが。 だから、今度の大会でも、瀬那が勝ち進みさえしなければ、キーアも適当なところで負けていただろう、と。キーアが勝ち進んでいたのは単に瀬那が勝ち進んでいたからだ。それでもしキーアが適当なところで負けて瀬那が優勝していれば、それこそ連隊長が苦手な分野で優勝してしまう程他の近衛兵の実力は大した事がないのかと思われてしまい、近衛隊の威信にも関わる。 だからこそ、キーアは勝ち進む必要があったし、瀬那もキーアに実力出し切って欲しかったから懸命に勝ち進んだ。実際、準決勝まで行けば、瀬那は負けても何の問題もなく実力を示せていたし、それでも良かったのだが、キーアはそれを知れば最早勝つ必要もなくなり、その場で負けていたかも知れない。 それを聞いて、来栖は苦笑いしか浮かばなかったが。 「ま、諦めろよ。国王の命は絶対だからな」 「…それで、その真意は?」 「虫除け」 「そんなとこだろうとは、思ってましたけどね…」 キーアは溜息を吐いた。実際、瀬那に対して憧れている者、それ以上の感情を持つ者は近衛隊の中にも多い。副隊長になれば、キーアは殆ど瀬那の傍に居ることになるし、そうすれば、滅多な輩は近づいてこれないだろう。妻子の居るキーアはその点では丁度いい虫除けだった。 「別にいいですけどね、確かに変なのにセナが絡まれるのはオレも本位じゃありませんから」 「なら、決まりだな」 「まぁでも、一番の虫は陛下ですからね、確かにその位置は便利です」 ただでは起きない、と言うのだろうか、にっこりと笑ってキーアはそう言った。来栖は思わず顔をひくつかせる。 「オレが虫だって?」 「…誰の所為で今日セナが出勤してきてないと思ってるんです?」 「いーだろーが、セナは働きすぎだから有給だ、有給」 「自主的に休んだんじゃなくて、どうせ陛下が動けなくしたんでしょう?」 「ぐっ…」 キーアの言葉に、来栖は言葉に詰まる。 その様子を見て微笑み、キーアは言った。 「公私共に、しっかり見張らせていただきますので、よろしくお願いしますね」 「…ちっ、早まったか…」 小さく声を漏らしながらも、キーアを睨みつける。 バチバチと二人の間に火花が飛ぶ。 そしてそんな二人のやりとりを見て紫苑はふと思った。 キーアは、誰かに似ている…と。 Fin |