ぼーっと空を見上げているのが多い人は誰ですか? じーっと地面を見ている事が多い人は誰ですか? どちらも、何か大切なものを見つけようとしているみたいに見えて、思わず視線を追ってしまいませんか? それは、きっと貴方も大切なものを見つけたいから。 「あーーっ!!この間せっかく買った髪飾り無くしちまった!!」 那智が叫び声を上げるので、皆思わずそちらを振り向く。 「何処に置いてたか憶えてないの?」 「憶えてたら苦労しねぇってっ!何処いったんだよぉ、気に入ってたのになぁ…」 那智ははぁ〜っと溜息を吐いた。 「何処かそこら辺に落ちてないのか?」 泰造が辺りを見回しながら言う。 「仕方ないな、皆で探してみるか。那智の無くし物はいつも高いものばかりだからな」 颯太が溜息を吐いて言うのに、皆頷く。 隆臣と圭麻は二人で水浴びに行っていていないが、4人と1羽居れば探し出せるだろうと、辺りの捜索を始める。 しかし、いくら探しても見つからない。 「何処いったんだぁ?」 「というより、何時なくしたか覚えてないのか?」 「昨日の夜にはあったんだよ、絶対!!だから此処ら辺に落ちてると思うんだけど…」 那智は雑木林や草をがさがさと掻き分けて探す。 そう言えば、今日の那智は機嫌が悪い。髪飾りをなくしたのと、それから、隆臣と圭麻が水浴びに行くのに一緒に着いて行く、と聞かなくて、隆臣がそれを頑なに拒否したからだ。 男同士ならまだしも、那智は此処では女な訳だから、さすがに一緒に水浴びは出来ない。それでなくても隆臣は那智が苦手なようだった。 他の皆もこれ以上那智の機嫌を悪くして癇癪を起こされたら堪らないと、必死に探すが見つからない。 「何してんだ?お前ら…」 水浴びから隆臣が戻ってきて、尋ねる。 「あ、隆臣…。那智が髪飾り無くしちゃったんだって…。そう言えば圭麻は?」 「もう少ししたら来る。それより、また無くしたのか?」 隆臣は溜息を吐いた。 その言葉に那智以外の皆は苦笑せざるを得ない。 那智はよく物をなくすのだ。 いつもいつも、散々探して見つかったら見つかったで騒ぎまくるし、見つからなかったら泣き喚くしで、はた迷惑限りない。 それでも憎めないのは天性の持ち味なのだろう。 散々大騒ぎして、結局カバンの中に入っていたなんてこともあった。 「今日は何処にもないんだよっ、カバンの中にも、飛空船にも!!」 見てみれば、カバンの中身はめちゃくちゃに放り出されている。颯太は溜息を吐いてその中のものを仕舞いはじめる。 なかなか苦労性だ。 泰造は泰造でしっかり探している。 「なんつーか、此処に居る奴らってお人好しというかなんというか…」 「う〜ん…」 隆臣の言葉に結姫は苦笑する。 「どうしたんですか?」 今度は圭麻が声を掛けてくる。 「あ、おかえり…。那智が髪飾り無くしたんだって…」 「髪飾り?ひょっとして此れですか?」 「アーーーーーーーーっ!!それそれ!!」 圭麻が出したものを見て那智が声をあげる。 「何処にあったんだ、それ!!」 「え?此処に来る途中の木に引っかかってましたよ?」 「あ、そうか!今朝散歩した時に髪が引っかかってそん時に髪飾りだけ忘れたんだなっ!!」 勝手に納得している那智を見て回りは呆れる。 「普通忘れるか?其処で…」 隆臣の呆れた声に泰造は頷く。 「普通は忘れねぇだろ、大事なら尚更」 「那智は無くすんだろ、大事だろうがなんだろうが…」 颯太は溜息を吐いた。 そのやり取りを聞いて怒るのは那智。結姫と圭麻は苦笑する。 「探して下ばかり見てたんでしょう?だから気づかないんですよ。上も見ないと」 「だけどさぁ、てっきり落ちたと思ったから、下探しちゃうじゃん」 ぶすっとした顔で那智は言う。 「結構上にあったりしますよ。本当に見つけたいものは」 そう言って圭麻は空を見上げる。 「上に?」 「今、オレ達が一番探したいものは何ですか?」 「それは…伽耶さんと………天珠宮」 「探したいものは、空の上……か」 颯太は吐息をもらして言う。探したいもの、見つけたいもの。それは空の上のもの。 「そう言えば、よく圭麻は空を見てるよね?」 結姫の呟いた言葉に皆頷く。 「どっかに座ってぼぉっとしてる時は絶対空を見てるよな」 「ゴミ拾ってる時は流石に下向いてるけどな」 那智と泰造が言うと、皆は笑う。 行き成り自分が話題にされると思っていなかった圭麻はただただ苦笑するしかない。 「何で空を見るんだ?」 隆臣が尋ねると、圭麻は首をかしげる。 「さぁ、どうしてでしょうね?」 それは解からない。何故、ふと考える時は空を見てしまうのだろう。空の向こうには何かがあるのだろうか。 探しているもの、探している人。 大切なもの。 大切な人はもう居ない。死んだ人は星になるというけれど、それはただの迷信でしかなくて。 それとも、何処かに帰りたいと思っているのだろうか? 「ただ、空を見ると何か答えが見つかる気がするんです」 「答え?何の?」 「さぁ?オレにも解かりませんよ」 気がつけばいつも何かを見失っていた。 大切な人を傷つけたこともあった。大切なものを守れなかったこともあった。 抱える想いは人それぞれだけれど、空を見上げると、その蒼が、悲しみや、いろんな負の感情を吸い取ってくれるような気もする。 引き込まれるほどの蒼。 その先に見つけるものは何だろう。けれど、忘れてはいけない地面の下に眠るもの。 上と下を両方見て、それで丁度いいのだから。 どちらかを見すぎるとバランスを失ってしまうから。 見失わないように。自分の位置を。だから、その為に空を見上げる。 いつも、いつも……。 何かを探して。 Fin |