生まれた理由



 どうして人は生まれたのだろう?
 あたしはそう思った。
 生き物を殺したり、憎んだり、泣いたり、何のために生まれてくるのだろう?
 あたしには解らない、どうして生まれて来たのか。あたしだけでは答えが出せない。
 あたしは何のために生まれてきたんだろう?


 みんなは、どうして生まれてきたのか解っているんだろうか。


「ねぇ、隆臣は何のために生まれてきたんだと思う?」
「は?そんな事考えたこともねぇな」
 あたしはまず、隆臣に聞いてみた。
「そうだな、女を口説くためじゃねぇの?」
 ボカッ!
 その答えにあたしは腹が立って隆臣を殴った。
「もう、隆臣はそういう事ばっかり!」
「冗談だって、そうだな、おまえらに会うためじゃねぇの?」
「ふ〜ん…」
 隆臣の答えを聞いたけど、あたしの答えじゃない。どうして、人は生まれてきたのか…。


「颯太はどうして生まれてきたんだと思う?」
「え?そんな事考えた事もないな、でも、きっと神官になってたくさんの人を救うために生まれてきたんだとオレは思いたいな」
「そう」
 これも違う。あたしの探している答えじゃない。


「那智は何のために生まれてきたんだと思う?」
「えー?そうだな、全然考えたことねぇけど、踊り子になるためだな!」
「そっか」


「泰造は何で生まれてきたんだと思う?」
「はぁ?そうだなぁ、気にしたことねぇけど、賞金稼ぎになって金儲けするためだろ?」
「…」


 結局答えはわからない。圭麻にも聞いてみようか。でも圭麻だったら「ゴミを拾うため」とか言いそうだな。
 みんな解るのにあたしには解らない答え、どうして生まれてきたのだろう?…やっぱり、圭麻にも聞いてみよう。


「圭麻は、何のために生まれてきたんだと思う?」
「何のために?どうしてそんな事聞くんですか?」
「え?なんとなく」
 あたしはなんとなく誤魔化してしまった。
「他のみんなにも聞いたんですか?」
「うん、でもみんな考えた事ないって言ってたけどね、いろんな答えがあったけど結局よくわかんなかった」
「オレはありますよ」
「え?」
「どうして、人は生まれてくるのかって…。森林を伐採し、生き物を殺して、憎しみや悲しみ、欲望のためにどんな事も厭わない。そんな風に生きて何の意味があるんだろうって」
 圭麻は、そう言って今まで見た事のない、酷く寂しそうな悲しそうな顔をした。
「結姫もそう思ってるんじゃないですか?」
「うん、何のために私あたしは生きているのかとか、よく解らなくて、圭麻は、どう思う?」
 圭麻があたしと同じように思っていたことが少し嬉しかった。
「オレは、他の生き物達もみんな同じで、生きるために生まれてくるんじゃないかと思います」
「生きるため?颯太たちは、自分のなりたいものとか、したい事とか言ってたよ」
「ようするにそれが生きるってことなんだと思います。自分のしたいように生きて、笑って、自分の望みのために、時には人を犠牲にしても自分のしたいようにして後悔しないように生きている。みんなそうやって生きるために生まれてきたんじゃないでしょうか?」
「なんか、答えが見えてきたような気がする」


 自分がしたいように生きるために、自分の望みのために、今あたしがしたいこと。それがあたしの生まれてきた意味だ。天照様を助けて二つの世界を救う事。それから、隆臣とずっと一緒にいたい。それがあたしの生きている意味だ。


「あたし、圭麻はゴミを拾うことって言うと思ってた」
「よく解かってるじゃないですか」
「え…」
 それから二人で大笑いした。考えていた事が共有できたのは凄く嬉しかった。
「したいようにする、どんな事があっても諦めずに。そうすればきっといい事が起こるんですよ」
「うん、そうだね」

 あたしはふと隆臣が言った事を思い出した。
「おまえらと会うためじゃねぇの?」
 圭麻の言った答えがそうなら、あたしたちといる事が嬉しいってことだよね。だったら、凄くほっとする。

「何考えているんですか?」
「え?」
「なんか、顔がにやけてますよ」
「え?え!?」
 あたしは思わず赤くなって顔を抑えた。 圭麻はそれをみてクスクス笑った。
「冗談ですよ、なんだか嬉しそうだったのは本当ですけどね」
「もう!圭麻ってばそうやって人からかうの止めてよっ」
 あたしは顔を真っ赤にして抗議した。
「こういうのもオレの楽しみですよ」
「そういう事を楽しみにしないでよ!!」
 そうやって怒ってはいたけれど、結局圭麻のペースに流されてしまう。
「本当に、圭麻ってよく解かんない」
「人の心なんて誰にもわかりませんって」
「圭麻は何考えてるか解からないんだよ」
「いいじゃないですか、これがオレですからね。自分を忘れずにいれば、自分の望みも見えてくるってもんですよ」
「〜〜〜っ!!」
 いつも圭麻の言ってる事は正しい。本当に人の嫌がることは言わない。いつも圭麻のペースに流されてからかわれているけれど、それもどこか安らげる。
 でも、一番よく解らないのは圭麻。優しいけど何を考えているかも解らない。さっき見せた寂しそうな表情はあたしの知らない圭麻の感情の一つなんだと思う。
 結局の所はぐらかされてよく解らない。
 でも、一つだけ共有できた物があることがうれしかった。人はなぜ生まれてくるのか。生きるため。生きて人生を精一杯楽しむため。そして、自分の生まれてくる意味はいつも自分の心の中にあるって事。圭麻が教えてくれた答えはそのままあたしの気持ちに当てはまった。これがあたしの望んでいた答えだった…。



Fin





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