いつものことですが、夜、劉鳳とかなみは二人だけのお茶会をしています。 そんな二人のお茶会に、前回はシェリスが来てくれました。 さて、今日のお客様は? 二人とも大歓迎でその人を招き入れました。 「いいんですか?僕がお邪魔しても」 礼儀正しく、形式的に言うが、あくまでも社交辞令でちゃっかり橘は椅子に座っている。 劉鳳もかなみもそれに不快な気分は示さず、劉鳳は頷き、かなみは言う。 「どうぞ、ゆっくりしていってください」 まるで新婚夫婦に水を差しに来たような気分だったが、前もってシェリスに聞いていた分驚きはない。そもそも、かなみは八歳だというのにそんな気がしないのは何故だろう? 橘は劉鳳の奥さんになるであろうかなみをじっと見つめる。 「それで、橘、何か用があったのか?」 「いえ、シェリスに劉鳳とかなみさんの仲を聞いて、真実を確かめに来ただけですよ」 橘はにっこりと笑い、劉鳳に言う。 「真実?」 「ええ、劉鳳とかなみさんが恋仲だと聞いたのですが?」 「ああ、そのことか」 劉鳳は思い当たる節があるのか、納得する。 橘は、シェリスの嘘や勘違いではないと確信し、ある意味劉鳳がロリコンだったという事に楽しさすら憶えていた。 「何時からそんな仲に?」 橘はにっこり笑って突っ込んで聞く。 「た、橘さん、お茶を…」 かなみは二人の会話に照れながらお茶を差し出す。真っ赤になっている様が可愛い。 恋愛対象となると、また別だが、劉鳳の趣味は悪くはないだろうと思う。(そういう問題でもないが) 「ありがとうございます」 橘はにっこり笑ってお茶を受け取る。 「橘、そんなことを聞きに来たのか?」 「ええ、興味があったので」 素直にそう言う橘に、劉鳳はどう返していいか解からない。 「確かにかなみさんはとっても可愛い方ですし?お茶も美味しいし料理も出来るし、奥さんにするには最適ですけど、年齢差を考えると普通は恋愛対象から外すものですよね?そう考えると劉鳳の好みがどういうものか一層興味深いんですよ」 橘はにっこり笑ってさらっと何となくすごいことを言う。 劉鳳はどう答えたらいいか解からず、というか答えられなくて何も言えなくなる。 そこで、橘は劉鳳から視点を外し、真っ赤になって俯いているかなみに焦点を変える。 「かなみさんは、劉鳳の何処が好きなんですか?」 「え、それは、その……。劉くん、優しいし、かっこ良いし…えと……」 その様子に橘はくすっと笑う。 「可愛いですね」 「え?」 橘に言われて、かなみの顔はさらに赤くなる。 「橘、からかいに来たのか?」 「いえ、純粋に興味があって」 橘はにっこり笑う。 「で、劉鳳はかなみさんの何処を?」 「え?」 橘に言われて劉鳳は戸惑う。少し照れているような気がするのは橘の気の所為だろうか? (本当にからかい甲斐があるなぁ、二人とも) あまり表情には出ないが、こういう時の劉鳳はいたって素直だ。素直以上に反応が正直すぎるので、隠せない。そして、結局橘は二人をからかいに来たらしい。 「そ、それはだな…」 真面目に答えようとしている劉鳳に、橘は無言で先を促す。 「やはり、いつも一生懸命で、がんばってる姿が可愛いというか…」 終いには思いっきり顔を紅くして答えられなくなっている。 (どうしよう、本気で笑い出してしまいそうだ…) それでも、声には出さず、橘は微笑みだけに抑える。シェリスに聞いた時は驚いたが、まぁ、今更劉鳳の趣味がまともだなんてことは思っちゃいない。というよりも、まともだなんて有り得ないとさえ思っているのだ。 そもそも、すぐ傍に居るシェリスや、水守という幼馴染が居るのに、タイプの違う美人の二人にすら恋愛感情を抱いていないというのだから、かなり妖しいものだ。しかし、相手がかなみということもあって、橘は逆に少し安心している。 (デブ専とかブス専だったら洒落になりませんからね) というのが橘の見解である。 そして、この二人相手ならいい玩具、というのが最終的な橘の結論であった。 「ありがとうございます、よく解かりましたよ」 橘はにっこり笑って言う。照れている劉鳳も見物だが、苛めすぎると次に警戒される可能性がある。そして、やっぱり一言言わなければ済まないのが橘あすかという男である。 「つまり、かなみさんが可愛くて可愛くて可愛くて……∞、仕方ないってことですね♪」 そう最後に結論付けられて、ある意味間違いないので劉鳳は反論も出来ずにただ顔を紅くする。かなみはもう紅くなったまま固まってしまっている。 「かなみさん、お茶、おいしいですね」 「あ、ありがとうございます…」 照れてるかなみを、橘は微笑ましく思う。本当に劉鳳がデブ専じゃなくて良かった。もしそうだったら世の中の女性が可哀想だ。夢を見るのはデブの女だけ、というのはあまりに哀れで。 同情しているのかしていないのか解からない橘の思考を、誰にも理解する事など出来はしない。 「劉鳳もかなみさんも、早く飲まないとお茶が冷めますよ?せっかく美味しいのに」 「あ、ああ」 「…はい」 劉鳳は頷き、湯飲みを手に取る。かなみは小さく返事を返して椅子に座る。 二人とも反応が初々しいことこの上ない。ひょっとして、劉鳳はこれが初恋なのではないだろうか?しかし、初恋の相手が九歳も年の離れた子供だというのだからまた凄いものだ。 「そう言えば、二人は一緒のベッドに寝ているんでしたっけ?」 「?」 橘はにっこり笑って今思い出したように言う。 「シェリスがショックを受けてましたよ。恋人同士が同じベッドに寝るなんて、曲解してもおかしくないですからね」 「…それは?」 「恋人同士が、夜同じベッドで寝てやることなんて一つしかないでしょう?」 橘はゆっくりとお茶を飲みながら言う。 「誤解だっ!!」 「そうでしょうね」 「だったら…っ!!」 「客観的立場から見れば曲解も有り得ると言う事ですよ。僕は劉鳳の性格は理解しているつもりだし、かなみさんとは結婚するまでろくに手出ししないだろうということも簡単に想像できますからね」 あっさりと言い放つ橘に劉鳳は放心する。 「しぇ、シェリスは誤解していたのか?」 「どうでしょうね?彼女も劉鳳の性格は解かっているでしょうから、そこまで誤解はしないでしょう。まぁ、それでも一緒のベッドで寝ているという次点で彼女にはショックでしょうけど?」 「そ、そういうものか?」 「そういうものです。相変わらずそう言うところは鈍いですね、劉鳳」 「うっ」 橘はにっこり笑ってあっさり劉鳳がショックな事を言う。かなみは上目遣いで二人のやりとりを見ている。 かなみに着いていけないところまで話が進んでしまっていて、見ていることしか出来ない。 「まぁ、今更どんな噂を立てられようが平気でしょう?それよりこれからの問題は、貴方とかなみさんの保護者ですよ」 「かなみの保護者…はまぁいいとして、俺の?」 「水守さんのことですよ。あれ?違いましたか?」 「違う、水守は幼馴染で…。というか何で俺の保護者になるんだ!?」 「そんな感じに見えますけどね、僕には。水守さんはとても劉鳳のことは気にかけているし、劉鳳もそれに甘えているじゃないですか」 お茶を飲みながら、橘は冷静に言う。 「甘えている?」 「自覚ないんですね?」 「……」 その言葉に劉鳳は本気で悩む。 「まぁ、水守さんは劉鳳がそれで良いというのなら、何も言わないでしょう。問題はかなみさんの保護者の方ですよ」 橘は溜息を吐きつつ言う。 劉鳳もその点は納得してしまう。確かに、あの男となると話は別だ。 まず、相手が劉鳳などという時点であの男は認めないだろう。さらに、年の差もある。 「どうしたらいい?」 「ま、自分の意思を徹底的に貫き通すつもりでいけば大丈夫じゃないですか?」 橘のいい加減な、それでいてやけに説得力のある言葉に劉鳳は納得せざるを得ない。 「それじゃぁ、僕はこの辺で。お茶、ご馳走様でした」 橘はにっこり笑って二人の部屋から出て行く。 後に残された二人は、何処か気まずいまま、就寝を迎えましたとさ。 Fin |