インナーの生活にも大分慣れた頃。 劉鳳とかなみは集落での生活にかなり染まっていた。 そう、ほのぼのと、安穏とした暮らしに…。 一件の小屋。それがかなみと劉鳳の住む居住地だ。 他の家族も一緒に住んでいる分、広いとはとても言えない。 しかし、そんなことを気にする二人でもなかったので、二人ともかなり仲良く暮らしていた。 「ただいま、かなみ」 「おかえりなさい、劉くん」 かなみのその呼び方に、劉鳳はずるっとこけそうになる。 「…頼むからその呼び方は止めてくれ…」 「なんで?」 「…いや、もういい」 劉鳳は頭を抱えたくなるのを抑えながら、かなみの方を向く。 「夕食の準備をしているのか?俺も何か手伝おう」 「本当ですか?ありがとうございます。つかれてるのに」 「気にしなくてもいい。それで、俺に何か出来ることはあるか?」 「あ、それじゃぁ、もやしの根っこと芽を取ってもらえますか?」 「ああ」 劉鳳は微笑んで頷いた。 劉鳳は黙々ともやしの根っこと芽を取っていく。そう、黙々と。 やけに真剣に。 もやしの根っこ取りなんて時間がかかるから、とにかく誰かとしゃべりながらやった方が楽しいのだが、何事にも真剣な劉鳳は、そんなことはしない。 「劉くん、真剣だね」 となりでキャベツを切りながらかなみが言う。 「え?あ、そうか?」 「何もそんなに真面目にならなくてもいいのに」 かなみはくすくす笑う。 「…そういうものか?」 「こういうのって、人とおしゃべりしながらやった方が楽しいでしょう?」 「あまり料理とかもしたことがないからな…」 真剣に考え込む劉鳳にかなみは笑みを隠せない。 かなみは再びキャベツを切り始める。 何気に、かなり量が多いのだ。なにせ、集落の皆の分をまとめて作ってしまうから。 だからもやしもざるに1、2杯は軽くある。ので、時間は当然かかるのだが、それを黙々とやっている姿はかなり異様だ。 しかし、それを笑って見ていられるかなみも大したものだ。 「キャベツがきり終わったら私も手伝うね」 「ああ」 劉鳳は微笑んでかなみに答える。 かなみの傍だと劉鳳は自然に笑みが漏れてくる。不思議なものだ、この少女の力は。 そうして、かなみがキャベツを切っている間、劉鳳はまた黙々と作業を始める。 周りで料理しているおばちゃん達も、あんまりに劉鳳が真面目にやっているので思わず一緒に感情移入して見つめてしまう。 ある意味微笑ましいのかもしれないが、異様だった。 かなみだけが平然といつも通りにキャベツを切っている。 「あ、田中さん、キャベツ、切り終わりましたよ」 かなみは笑顔でひとりのおばちゃんにキャベツがこんもり詰まったざるを二つ渡す。 じぃっと劉鳳を見ていた田中のおばちゃんは、はっとしてかなみの切ったざるを受け取る。 「ありがとう、かなみちゃん」 「どういたしまして」 かなみはぺこりとお辞儀して劉鳳のところへ向かう。 「劉くん、手伝うよ」 「ああ、かなみ。ありがとう」 そうして、今度は二人で黙々ともやしの根っこと芽を取り始める。 二人で並ぶと、今度はやけに微笑ましい。かなみが何か声をかけると、劉鳳は律儀の答えるものだ。 そうなると、おばちゃん達もまた料理をし始める。声を低くしながら二人の話をするのだ。 「本当にあの二人は仲がいいねぇ」 「兄弟っていうよりは新婚夫婦みたいだよ」 「かなみちゃんはしっかりしてるからね」 「お似合いじゃないか。劉鳳くんも、優しくて正直者だしね」 「見ていて安心するさね」 「本当に、ずっとここに居てくれるといいね、あの二人…」 そんな噂話をされているとは露知らず、二人は親睦を深めていくのであった。 「劉くん、今度一緒に寝ようね」 「ああ」 こんな爆弾発言をのこして、さぁ、今日も二人はほのぼのライフをすごしていくのであった。 Fin |