近江恵様
とある午後、瀬那は本を読んでいた。久しぶりのゆったりした時に時間が経つのも忘れ、熱中していた。 ふと、慣れた気配が近づいてくる。ただ、そのままページに目を落としていると、不意に暗くなり、 同時に額に温かいものが触れた。 「?」 顔を上げると目の前には『いつもの』表情の相馬がいた。だが、瀬那が顔を上げても相馬は言葉を 発しない。ただ瀬那の顔を見つめているだけだった。 「どうしたんです、相馬さん?」 苦笑しながら瀬那が問うと、相馬は面白くなさそうな表情で 「別に。ただしたかったから、しただけだ。」 そう言い、瀬那が座るソファーに腰をかけた。隣に感じる温もりに不思議な気持ちになる。 以前、共に暮らしていた時とは明らかに違う。 それは、離れていた年月なのか、それとも互いに歳を重ねたからなのか・・・ 多分それは『二人の関係』なのだろう。以前の関係は『囲うものと、囲われるもの』適度にお金は 与えらてはいたものの、相馬が居れば本など読んでいる時間はなかった。 でも、今は違う。相馬は瀬那に「側に居て欲しい」と望み、瀬那は心からの希望で相馬の「側に居たい」と願う。 だからこそ、今は瀬那が読書に熱中していても、相馬は何も言わないし、瀬那も慌てて本を閉じることはしない。 「なんだよ」 瀬那が微笑むと、相馬は少し不機嫌そうな顔をする。でも、本当に不機嫌なのではないことを瀬那は今の暮らしでよく知っている。 前の暮らしではただ、ただ大人だと思っていた相馬という人物が今は時々、違って見える。 それを新たな発見として日々、幸せだと思うし、前の暮らしで見せたほんの僅かな優しさが今も変わらずにあるのを嬉しく思う。 そしてそれを見つけて行く度にこの人を本当に好きだと思う。 「好きです。相馬さん」 そう言って唇にキスを贈ると、相馬は少しだけ表情を和らげる。 「なんだよ。急に」 いつもの口調に笑いを堪えると 「『したいから、しただけ』です」 そのまま、さっきの言葉を送り返す。そんな瀬那に相馬は呆れた顔をしたが、そんな事は気にせず 瀬那は読んでいた本を閉じて脇のテーブルに置く。 「なんだ、もう読まないのか?」 相馬の問いに言葉ではなく、キスで答える。 「なんだ?」 言葉とは違う少しだけ優しげな瞳の色に瀬那は安心をして、そっと身を預ける。 そんな瀬那を相馬はそっと、抱きしめた。 叶うことならば、こんな穏やかな生活が続くよう、瀬那は静かに瞳を閉じた。 end ラブラブでほっとするような雰囲気が素敵です。 こんな関係があったらな、という夢ですね。 |