ひろみ様
「だーから、放っといてくれっつってンだろ?」 俺はそう言って、水落センセ…瀬那にレポート用紙を突っ返した。 瀬那は困ったような顔をして、「逢坂くん…」と力無げに呟く。 俺はそんな瀬那を見て苛立ちを隠せないでいた。 恋人同志の俺達に、遠慮は不要。 しかも、ここは学園で、立場的に偉いのは明らかに先生である瀬那だ。 レポートを提出しねえ学生なんざ、とっとと怒鳴ってやらせるか、放っておくかすりゃあいいのに、やつはそれをしない。 それは…俺が、ウィンフィールドの王子だからか? 「…東堂先生もご心配でしょうから…」 そして、二言目にはオッサンの名前を出す。 「おっさんは関係ねーだろ」 俺はわざと、低い声で不機嫌さを表に出す。横目で瀬那を見たら、マジで困った顔をしてた。 …バッカじゃねーの? 今日が何の日か、わかってんのかよ? …お前の…誕生日…だろ? 自分の誕生日にまで、俺の進級の心配してんじゃねーっての。 「ほら、よこせよ」 「え?」 俺は、さっき突っ返したレポート用紙をひったくる。 「しゃーねーから、やってやるよ。今日は特別………お前の誕生日だから」 瀬那は、まるで今言われて初めて気づいたように驚いた。 …おいおい、忘れてたとか? 「レポートが誕生日プレゼント…なのですか?」 「なに?いらねーって?」 俺はからかうようにニヤリと笑うと、背伸びをして瀬那の顔に近づく。 「いえ。…いただきます」 瀬那の唇が重なる。俺からしたのか、それとも瀬那から触れたのが速かったのか。 白紙のレポート用紙を横目に、口付けたまま、もともと少しだけ緩んでいる瀬那のネクタイをはずす。 俺の手の動きに気づいた瀬那が、無意識に身体を強張らせる。 生物室だからか? 唇を離してやると、瀬那はごく小さな息を吐いた。 頬は、俺の気のせいではなく、ほんのり赤く染まっている。 それでも、レポートのことを忘れてはいなかったらしく、「先生」の顔に戻ろうとする。 「私の誕生日プレゼントに、レポートを下さるのでしょう?」 つまり、学校ではこーゆーことをすんなっつーことか。 それなら俺にだって、考えがあるぜ? 「だから、書くっつってんだろ?」 「私の誕生日に下さるのでしたら、もう書き始めないと、時間がありません。今日中にお願いします」 さっさと生物室を出て、レポートを書け、って事だろう。 期待してるくせに、教師の仮面をつけたまま、そんな事言う口をまた塞ぐ。 「動物の行動についてのレポートだっけか?」 強引なキスのあとに平然とレポートの話をしてみせると、瀬那が物足りなさそうな瞳を必死で隠して続ける。 「…はい。図書室に行くと資料もありますし、教科書や参考書にも興味深いものが載っています。 特に実験などしなくても、単純にまとめるだけでも立派な物が出来ますし」 俺はふうん、と聞き流しながら、瀬那のベルトを緩めた。 「じゃあさ、俺の題材はあんたにする」 首筋に息を吹きかけながら、囁くと、瀬那は驚いて後ずさった。 「動物の行動…だろ?人間だって動物なんだからいいじゃん」 「それは…」 我ながら、ガキみてーな発想だとは思うが、もちろん本気じゃない。 …これからすることは、本気だけど。 「水落センセの行動レポート」 「生物のレポートにはなりませんね」 瀬那は俺の冗談を見透かして笑う。 「『水落センセは、恋人から触られると…感じる』……今からレポート用紙に書こうか?」 冗談だってわかっているのに、期待してるから、赤くなるんだろ? ほんとに、可愛いよ…あんたは。 「逢坂くん」 遠くの廊下を通る生徒の声が近くなってきて、瀬那が少し焦ったように俺の名を呼んだ。 「なに?」 気づいていて、わざとらしく、瀬那を見つめる。 瀬那の顔は「水落先生」のそれではなく、恋人の「瀬那」の顔になりつつあった。 「人が…生徒が…来ます…から」 いつも冷静な瀬那が、めずらしく焦っているところが可愛くて、俺はわかっていながらゆっくりとその顔を楽しむ。 「それで?」 「…ですから、その…」 まじまじと自分を見つめる、俺の視線に耐えられなくなったのか、俺を見ないようにしながら言う。 そうしてる間にも、生徒が生物室の前を通り過ぎようとしている。 生徒が見えるか見えないか、の瀬戸際で、ようやく俺はドアのカーテンを閉めた。 「こーしたら、いいだろ?」 もしかしたら、生徒が不審に思って、ドアの前をうろうろするかもしれない。 けど、もしそうなっても、俺は構わない。 瀬那が喘いで声を出せば、水落先生が誰かと付き合っている…という噂がたつ。 そして俺が瀬那と生物室から出てくれば、その相手は俺。 あの優しい水落先生が、生物室でいやらしい声をあげる。 それをさせているのが、俺だという優越感が、沸々と俺の中で沸きあがってくる。 あんたを狙ってる生徒はたくさんいるだろうからさ。 実験をする時のための黒いカーテンを、そのためじゃなく引くと、生物室が暗くなる。 僅かに入る日光に照らされた瀬那の白衣が、いやに艶かしい。 ゆっくりと、ビーカーやら試験管やらが入っているガラス棚に瀬那をおいやり、口づける。 さっき味わったばかりだけど、先刻よりも甘い感じがするのは、俺の気のせいなのかもしれない。 口の中を味わうように、舌を舐めて絡めとる。 貪るようなキスは、瀬那を感じさせるにはじゅうぶんだった。 長い時間、唇を塞いでいたから、離したときには瀬那の息が上がっていた。 「感じてんの?水落センセ」 返事の変わりに顔を赤くした瀬那のシャツのボタンを、ひとつずつ、見せ付けるようにはずしていく。 少しずつ露になる肌は、じんわりと熱くなっていた。 つつ、と肌を指でなぞると、瀬那は小さく声を漏らした。 「…っ」 もっと声が聞きたいから、胸の先端を焦らすようになぞる。 「…ぁ…」 強く摘むと、瀬那の身体がほんの少しだけ跳ねた。 「……『水落センセは、乳首を触られるのが好き』……これも書いた方がいい?」 あまりにも可愛いから、既に忘れてるだろうレポートの事を引っ張り出した。 「……レポートは、違う題材にしてください」 さっきみたいに流すのではなく、半ば懇願するような声色だった。 冗談として流さなかった……じゃなく、流せなかった…のだろう。 ……感じすぎて。 そんな瀬那が可愛くて、俺はしつこく胸ばかりを撫で回す。 時には舐めて、甘く噛む。 そのたび、瀬那の身体は喜びに跳ね上がり、そうすると「やめてください…」と気弱な声が響く。 「やめてください」と言う瀬那の声は、俺の脳内で「もっとしてください」に変換される。 誘ってるとしか思えない、震える声は、俺に反応するたびに高くなる。 「瀬那…」 「ん…ぁ……クリストファーさま…」 学校では絶対呼ばないその名を、口にするほど瀬那は切羽詰っていた。 「さま?」 恋人にさま、はねーだろ…?の意味もこめて、ズボンと下着を一気に引きおろす。 声にならない声を漏らした瀬那自身は、すでに俺を求めて育っていた。 「やらしいな?水落センセ」 瀬那がクリストファーさま、って言ったから、俺も水落センセ、で返す。 その「水落センセ」は、生物室で、はだけたシャツと取れたネクタイに白衣、下は野郎とは思えない位美しい足だけ。 中心からは先走った精が流れ、勝手に俺を手伝おうと瀬那の秘部にながれていく。 俺は瀬那の脚をひらいたまま、舐めるように全身を眺めた。 生物室で、脚を開くあんたは、最高に美しいから。 「……クリス…」 小さく呟いた瀬那の瞳の蒼が、揺れた窓際のカーテンから差し込む日差しに照らされて光る。 少しだけ汗ばんだ額に、赤い前髪がはりついて色っぽい。 「…何」 言わなくてもわかる。瀬那の前は、もうはちきれるほどに張り詰めて、俺の愛撫を待っているから。 けど、俺は瀬那の口から聞きたい。 いつもなら、言わなくてもするところだが…… 今日は、特別だろ? 「言えよ…」 至近距離で囁いたから、瀬那のものに息がかかってそれだけでも苦しそうに震える。 こういう時じゃなくても、いつだって瀬那は自分の欲求は後回しだった。 何もかも、王子様のワガママが先。 そういう性格なんだって知ってるし、ウィンフィールド育ちだから、近衛兵だから、俺が王子だから…。 あんたのそーゆうとこは、嫌いじゃねーけど、やっぱり俺としては対等でいたい。 恋人同士だから。 「…誕生日だろ?何が欲しい」 いつもは言えないかもしれない。 けど、今日は特別。 「誕生日」って言い訳があったら、あんたは俺に、何か頼めるだろう? しゃーねーから、俺から「誕生日」の切り札を使うから………だから、言えよ。 「瀬那」 促して、ようやく、形のいい薄い唇が動いた。 「……あなたが…欲しい…です」 「瀬那……!」 恋人同士になったばかりで、欲を言わない瀬那。 ほぼ初めて聞いた欲求は、震えるほどの良い声で、聞いた瞬間、俺の中で血が波打った。 次の瞬間にはもう、瀬那の身体を抱きしめ揺さぶり、突き上げていて…。 愛しさが溢れ出す。 俺が瀬那の中で動くたびに出てしまう声や濡れた白衣が、俺を追い詰める。 可愛くて愛しくて、仕方無い。 綺麗な髪も、しなやかな身体も、すべて俺の物。 瀬那が達った瞬間に締まった中で、俺も瀬那の中に放っていた。 生物室を出て、一緒に寮に帰る。 そのまま寮監室に入ろうとしたら、瀬那のやつ、ドアを閉めようとしやがった。 「ああん?」 「レポート…楽しみにしています」 ホントのプレゼントが恋人との時間だってことに、気づいているくせに……意地悪なあんたは、気づかないふりで微笑む。 …生物室で襲った仕返しか? もうあと数時間で、4日ですよ…と微笑んだ瀬那は、俺の手にレポート用紙を持たせてくる。 身から出た錆…。 でもま、瀬那の笑顔が清清しいから…。 こんなんもたまにはいいか、と思ってしまう自分に苦笑しながら、俺は数年ぶりに参考書を開いた。 素敵な来栖×瀬那です。 瀬那と来栖の掛け合いが大好きです。そして色気溢れる二人。 さり気に一番セクシュアルなカップルな気がします。 快く掲載許可を下さり、有難う御座いました。 |