「あなたが好き」 突然そう告げられた言葉に、僕の思考は停止した。 予想外と言えばかなり予想外の言葉に、一体どうしてこんな展開になったんだろうと、僕は今日起きた事を瞬間的に振り返っていた。 別に、そう御大層なことは何も無かったが。 少し頭を整理したかった無意識の産物だ。 今日は本当に取り立てて変わったことの無い一日だった。 ごく普通に登校し、ごく普通に授業を受け、そしてごく普通にSOS団の拠点とされている文芸部部室に来た。この学校に転校してきてからというもの、日課となっている行動だ。 既にこの部室に帰巣本能が働いていると言っても過言では無いかも知れない。放課後になれば無意識にこの部室に足が向かってしまうのだから。 そして部室のドアをノックし、返答が無かったのを確認してからドアを開ける。 其処には窓辺で椅子に座り、本を読む長門さん以外誰も居なかった。 「今日は他のみなさんはまだなんですね」 「そう」 僕の言葉に長門さんが顔を上げて答えてくれる。 一言答えれば長門さんはすぐに視線を本に戻すのだが、僕が定位置となっている椅子に座ってもまだ、こちらを見ていたのに思わず首を傾げる。 「何か?」 「……………………………」 「…長門さん?」 一体なんだろうか? じっとこちらを見られて、何となく視線が逸らせない。話があるのだろうが、何処と無く言い難そうにしているように思えるのは、僕の気のせいだろうか? 「あ、またオセロでもしますか?」 時折、二人きりの時だけオセロをしていたのを思い出し、そのことだろうかと思い問いかけてみるが、僅かに首を横に振るだけだった。 一体何なのだろうか。 そもそも、長門さんが言い難そうにしていること自体が珍しく、内容が全く想像出来ない。そもそも、本当にオセロのことで長門さんが声をかけてきたのなら躊躇う理由は全く無い。 「あの、本当にどうかなさいましたか?」 もう一度促すと漸く意を決したかのように長門さんが口を開いた。表情にそれほど変化がある訳ではなく、最早何となくとしか言いようのない印象ではあるが。 そして、長門さんが口にした言葉が、冒頭のあの言葉である。 思い返してみても、長門さんが僕に好意を寄せるような何がしかがあったとは思えず、というか、今日一日のことなど思い返してみたところで全く意味はなく、さて予想通りに短い回想はあっという間に終わりを告げた訳だが、言い切った長門さんはじっとこちらを見つめており、僕も何がしかの言葉を発しなければならないのは間違いない。 「あの、長門さん…その、好きというのは、どういった意味で…?」 「恋愛感情」 簡潔に答えが返って来た。 いや、改めてそれを告げるというのなら、他には無いだろうとは思ったけれど。 僕が返答に窮していると、長門さんが若干表情を変化させ、 「迷惑?」 と訪ねてきた。それに慌てて首を振る。 「いえ、迷惑という事はありません。突然の事だったので驚きはしましたけれど…」 「そう」 ほっとしたのか、表情が少し緩んだ気がする。 「えーと、長門さんが僕に好意を持ってくださっていることは理解したのですが、それはつまり、僕と付き合いたいとか、そういう意思があるということでしょうか?」 問いかけると、じっと長門さんがこちらを見つめてくる。そういえば、あれから誰も部室に来ないのはひょっとして長門さんの情報操作の力が働いているのだろうか。 「言いたかっただけ。でも、貴方が良いと言うのなら、そうしたいという意思もある」 「…そうですか」 長門さんがこういう事で嘘をつくはずもないから本心に違いないのだろう。 何故、とかどうして、とかいう問い掛けは思い浮かばない訳ではない。彼女が僕を好きになる理由など想像も出来ないのだから。しかし、そんな問い掛けなど無意味でしかないし、今重要なのは僕が彼女の気持ちに応えられるか否かということだ。 「長門さん」 「何」 「長門さんの気持ちはとても嬉しく思います。けれど、僕は長門さんをそういう対象として考えた事が今まで無かったので、すぐには答えが出せません。答えを出すまで、少し時間を頂いてもいいでしょうか?」 「……解かった」 長門さん自身は非常に魅力的な女性だと思う。勿論、彼女は情報統合思念体に作られたTFEIであり、厳密に普通の人間とは違うのかも知れないが、問題は其処では無いだろう。彼女には意思もあれば心もある、そしてその真剣な心を僕に向けてくれたのであれば、僕も真剣に応えるべきだ、と思う。 ただ、今まではそれぞれの組織の事もあり、そして同時にSOS団の仲間としてしか彼女を見ていなかったのも事実だ。 今此処で答えを出すのは、早計すぎるだろう。 「あ、それから、大変申し訳ないのですが、僕は『機関』の人間として、この長門さんとの会話を上に報告する義務があります。それでも構いませんか?」 「そうすることで、あなたの答えは変わる?」 「…いえ、それはありません。報告して、例え上からどのような指示が来ようと、僕は僕の意思で返答する事を約束します」 例え、『機関』の上層部がその点に何らかの利害を見出したとしても、それに従うつもりは全く無かった。そもそも其処までの事を僕に強制することは『機関』には出来ない。 「なら、いい」 「すみません、本当なら黙っておきたいところですけれど」 「構わない。それがあなたの義務。それに、放っておいても何れ知られる可能性があるのなら、先に報告しておいた方が良い。あなたはそう考えた。違う?」 長門さんの言葉に、思わず苦笑が浮かぶ。どうやら、僕が思っている以上に長門さんは僕を見て、僕を理解してくれているらしい。 「いえ、違いません」 実際、今この時間の事は長門さんの情報操作が働いて、機関にも知られずにいる事が出来るかも知れないが、この後、全く長門さんの僕に対する好意が誰にも知られずに居る事が出来るかというと、その可能性は限りなく低い。 何しろ、機関の情報収集能力も伊達では無いし、涼宮さんや、他の組織の末端と接する機会のある僕にはそれなりに監視もついている。何れ知られるのならば、先に僕から報告して布石を打っておいたほうが余程マシだ。 「あなたの」 「え?」 「あなたの、そういう顔が好き」 「そういう…?」 どういう顔だろうか。今一体、僕はどんな表情を浮かべていただろう。一瞬考え込んでしまう。実際僕は常に笑顔でいるようにと心がけてはいるが、ふとした瞬間の自分の表情までは解からない。しかし、どんな表情であれその表情が好きだと言われるのは嬉しいものだ。 「有難う御座います、と言うべきでしょうか」 「いい。ただ、そう思っただけ」 「返事は、少し、待ってくださいね」 「…待ってる」 其処で僕達の会話は終了した。 長門さんはまた本に視線を移し、それと同時に廊下からバタバタと大きな足音が響いてきた。涼宮さんがやってきたのだろう。 矢張り、何か情報操作の力が働いていたのかも知れない、と思いながら僕は僕で己の心の中を模索し始めていた。 そもそも、僕は誰かに対して恋愛感情というものを抱いた事が無い。 この年で初恋もまだというのは、もしかすると笑われてしまうかも知れないが、それでも無いのだから仕方ない。 ただ、そういう感情を全く理解出来ない訳でも無い。 僕自身がそういう感情を抱いた事が無いとはいえ、告白されたことなら何度かある。その度に断ってきたけれど、中々諦めない子や、泣き出す子が居たりするのを見ると何とも言えない申し訳ない気分になってくるものだ。 恋愛感情とは…いや、そもそも人間の感情とは、ままならないものだなと思う。 長門さんがそんな人間と全く同じ感情で動いているのかは解からないが、それでも僕に対して恋愛感情を抱いているというのなら、矢張り軽々しい結論は出せない。 正直、今考えてみても、僕は長門さんや、他の誰かにそれほどの執着めいた想いが抱けるかというとよく解からない。 僕にとって、一番大事な人は涼宮さんだ。 けれど、それは恋愛感情ではなく、執着というよりはただただ、彼女に幸せになって欲しいと、そういう想いばかりが強く、束縛したいという感情は微塵も無い。僕が彼女を幸せにしてあげることが出来ないのが、少し淋しくはあるけれども、だからといって妬んだりという感情は湧いてこない。 それが恋愛感情で無い事は僕自身よく解かっている。 涼宮さんを愛しいと想う気持ちが、根本的にそれと違う事は解かるけれど、恋愛感情というものは未だに誰かに対して抱いた事が無いため、それを実感する事は出来ないでいる。 そもそも僕は恋愛初心者なのだ。 スタート地点にすら立っていないのかも知れない。だから、長門さんの気持ちをどう返して良いか、解からないでいるのだった。 森さんに長門さんに告白された事を告げると、一瞬唖然とした表情が帰って来た。そんなに驚く事だろうか、森さんが此処まで表情を露にするのは珍しい。 「それで、長門有希に告白されて、あなたはなんて答えたの?」 「考えさせて欲しいと答えましたが」 「…そう」 森さんは軽く溜息を吐き、頭を押さえる。難題を抱え込んで頭痛がしてきたのだろう。何しろ、僕がこうして森さんに報告したからには、森さんは更にその事を上層部の人間に伝えなければならないのだから。 事実を事実と伝えるだけならば簡単だが、其処に機関の意思や僕の意思が介在してくるとなると、森さんの立場は難しくなる。 こういうのを中間管理職の悲哀というのだろうか。実際的に言えば、僕と森さんは立場こそ変われど、機関の中での重要度は差して変わらない。末端…というよりは中堅、というところだろうか。ただ、森さんは僕と上層部のパイプ役という、ただそれだけのことだ。 「森さんが嫌なら、僕が直接報告しても構いませんが?」 「やめて、余計ややこしくなるから」 それはどういう意味だろう。 まあ、僕自身は上層部に対しても今更遠慮するつもりも無く、長門さんと約束した以上、機関が何を言ってきたところでそれに左右されるつもりは全く無い。 それを主張すれば、上層部と真っ向から対立しなければならない可能性はどれだけのものか。解からない訳では無いけれど。 「一応聞いておくけど、あなたはどうしたいの?」 「どうしたいと言われましても、まだ何とも。ただ、僕は長門さんに、僕自身の意思で返答すると約束しましたので」 「…解かったわ」 もう一度溜息を吐いたあと、ぐったりとした様子で天を仰いだ。 「森さん、いつも感謝していますよ、本当に」 「止めてよ、今更気持ち悪いわ」 「酷いですね」 笑って肩を竦めて見せれば、森さんも苦笑いを浮かべる。 感謝しているというのは事実だ。僕が割合自由に動けるのは、森さんがこうして機関の上層部と折り合いをつけていてくれるからに他ならない。そうでなければ、僕はとうに『転校』させられていた事だろう。 「それにしても、驚いたわね。長門有希が古泉を好きになるなんて。『機関』の人間は誰一人想像してなかったわよ、きっと」 「僕も驚きました。でも、嘘を吐く方ではありませんからね、事実を受け止めるだけです」 「あなたの割り切り方もどうかと思うわよ」 「そうですか?」 涼宮さんと付き合いがある以上、多少のことで驚いていても仕方ない。そして起きてしまった事はどうしようもないのだ。ならば、ありのままを受け止めるしか無いだろう。問題は其処からどうするか、だ。 「僕も恋愛に関してはまだまだ未熟者ですので、そうすぐに答えは出せませんしね。暫くは様子見ということになるでしょう。その辺は上層部の方々とはそう意見は食い違わないと思いますよ」 「そうね。でも一応、結論を出したら長門有希に言う前にこちらに言ってよね?後のフォローが大変なんだから」 「了解しました」 笑みを浮かべて頭を下げる。 本当に、森さんには感謝している。仕事に関しては厳しい人だが、僕の行動について深く問い詰める事もせずにいつも上層部との折り合いを計ってくれるのは、助かる。申し訳ないという気持ちもかなりあるけれど。 そして、森さんがそうしてくれるだけの信頼に、何れは応えなくてはならないだろう。 僕なりの遣り方で。 そして土曜日。 長門さんに告白されてから初めての市内探索は、午前は僕と長門さんと彼の三人と、涼宮さんと朝比奈さんの二人という組み合わせになった。 長門さんが何処と無く嬉しそうに思えるのは気のせい…ではないのだろう、多分。こんな事で情報操作をくわえていたとも思えないから、純粋なる偶然、時の運に違いない。そしてその偶然で僕と組めたという事を喜んでいるのだとしたら…なんと言うか、普通の女の子と全く変わらない。 そんな長門さんを少し、可愛いと思う。 でもそれは、多分恋愛故の感情とは違う。それが例えどんな女の子であったとしても僕は『可愛い』と思うだろう。 それでも長門さんが嬉しそうにしているというのは、僕も何処と無く嬉しく思う。 「長門、今日は何か機嫌が良いな?」 その長門さんの変化は当然彼も解かるようで、そう問いかける。長門さんは真っ直ぐな瞳で彼を見つめて、ミリ単位で頷いた。 「まあ、それは良いことだけどな。一体何があったんだ?」 「古泉一樹と同じ時間を過ごせるから」 「……は?」 何気なく聞いた彼の言葉に、長門さんは戸惑う様子もなくストレートに応えた。それに対して彼は一瞬の沈黙の後疑問を発し、僕と長門さんを交互に見つめた。 僕はただただ、苦笑いを彼に返すだけ、長門さんは表面的にはいつもの無表情と対して変わらないが、何処と無く嬉しそうなままで。 「いやまて、…………え?つまりお前ら、どうなってるんだ……?」 「どうなってる…と言われましても、まだどうにもなってませんよ?」 「まだって何だ、まだって!」 「いやあ…」 なんと言ったら良いものだろう。 実際、まだどうにもなっていない。告白はされたけれど、それに対する返答は未だ返していないのだから。 「わたしが古泉一樹に好きだと言った。それだけ」 僕が返答に窮していると、さらりと長門さんが答えた。まあ、それは事実なのだけれども、何と言うか、そういう面には頓着しないのだなあと思ってしまう。 「好きって…古泉を?…長門が?」 「そう」 「で、古泉は何て?」 「返事は保留」 長門さんの説明を一通り聞いた後、じっとりとした視線で僕を睨みつける彼に、苦笑いを返すことしか出来ない。其処まで睨み付けなくても良いような気がするのだけれど。 「保留って何だよ」 「そう言われましても、僕は長門さんをそういう対象として見た事が無かったもので、考えさせて欲しいと言っただけですよ」 「ふうん」 ありのままを告げると、不満げに頷かれた。 なんと言うか、彼女の父親に詰問されているような気分だ。彼にしてみれば、長門さんの保護者気分なのかも知れないが。 「兎も角、まだどうなるも何も無いですから」 「まだって何だ、まだって」 先ほどと同じ文句を言う彼に、矢張り苦笑を返し、長門さんに視線を向ける。僕が視線を向けると、長門さんは少し嬉しげな顔をして、 「いずれ」 とだけ答えた。 それがまた彼の反応を大きくして、彼は頭を抱え込んでしまった。 「古泉なんぞに長門をやって良いものか!?いや、よくない、でも古泉なんぞに長門が振られるのも業腹だ!!」 「独り言を思い切り声に出さないでくださいませんか。というか、貴方の中で僕はどんな存在なのか少々問い詰めたい気分ですねえ」 「大丈夫、私は好き」 「あはは…有難う御座います」 長門さんは彼の苦悩もなんのその、マイペースで僕に対する好意を隠すつもりも無いらしく、どうしたものかと考えてしまう。彼は未だに頭を抱えて唸っているし、今日の市内探索はこれだけで終わってしまいそうな気がしてならない。 まあ、それでも長門さんが楽しそうならそれはそれで良いのかも知れない。唸っている彼は暫く放っておこう。 僕は僕で、こうしてSOS団の面々と居る時間を楽しんでいるのだから。 「こんな所で立ち話していてもなんですからね、歩きましょうか」 長門さんに話しかけると、じっと見ていてようやく解かる程度に頷きが返って来た。そうして歩き始めると唸っていた彼が気づき、慌てて追いかけてくる。 もう北風が冷たい季節になってきたが、それでも何だか、妙に気分は暖かかった。 空に雪がちらつく。 マンションのベランダからそれを眺めながら、手を伸ばす。白い雪の花びらが掌に舞い落ち、一瞬でそれはとけて水になる。ひやりとした感触を手に残して。 それは、まるで今日僕の手に触れた長門さんの手のようで。 簡単なことなのだと、そう思う。 思いの外早く出た答えに笑みを浮かべた。 ちらちらと降る雪を見ながら、積もりそうには無いな、と思いつつも視線を逸らせない。雪は即ち水だ。空から舞い落ちれば何れは解けて水になり、土に吸い込まれ生命の生きる糧となる。そしてまた蒸発し、雲になる。形を変えても生命に必要な何かであるのには代わりが無い。 それでも雪を見たいと思ったのは。 雨という形ではなく、雪という形を見たいと思ったのは。 「森さんに、電話をしないといけませんね」 携帯電話を取り出し、番号を呼び出す。 何回かの呼び出し音の後、応答があった。 『もしもし』 「すみません、今、お時間ありますか?」 『ええ、大丈夫だけど、何か問題でもあった?』 「問題というほどでは。長門さんの件についてです」 『ああ…。もう答えは出たの?』 森さんの問い掛けに笑みを浮かべる。 気づかなかっただけで、最初から答えは出ていたのだ。 「はい。お願いします、僕は…―――――」 僕の言葉を聞いて、森さんは一つ溜息を吐いた。 『解かりました。上層部の方は私が何とかします』 「お願いします」 通話を切り、また雪を見つめる。 ひらひらと舞い落ちる雪花は、何処までも無垢で綺麗だった。 月曜日の放課後。 部室のドアをノックし、扉を開くと、長門さんが其処に居た。 他には誰も居ない。 僕が言ったように、誰も来ないようにしてくれているのだろう。 長門さんは本も読まずに、僕を待っていた。僕が今から何を言おうとしているのか、察しているのだろう。 「長門さん、あなたの告白の答えを、させていただいても良いでしょうか?」 「いい」 簡潔な答えに笑みを浮かべる。 自然と出た答えは余りにもシンプルだ。 まず何より、最初に長門さんの告白を断らなかった時点で、出ているも同然だった。 今まで、誰に告白されてもその場で断ってきたのに、長門さんの告白は断らなかった。それだけで充分すぎるほどの答えだったのに。 そして、どうして雪を見たいと思ったのか。 それは、長門さんに似ているから。 ひやりとしたその手の感触は舞い落ちる雪のようで、透き通るほど真っ直ぐな瞳は、冷えて澄んだ空気のようで、そして名前は、おなじ「ゆき」。 それは、本当に簡単な事。 「長門さん、僕は………僕も、あなたのことが好きですよ」 「……そう」 僕の言葉に、長門さんはそう呟き、そして。 多分、誰が見てもはっきりと解かるほどの、笑みを浮かべた。 嬉しそうに。 その表情を見て、この答えは間違って居なかったと思った。長門さんに笑みを返しながら、そう確信する。 これからは、彼女の手を取ろう。 彼女が嬉しそうにしている様子が好きだから。 彼女とオセロをして真剣に向き合っている時間が好きだから。 彼女の、そのひんやりとした冷たい手の感触が好きだから。 彼女の事が好きだから。 舞い散る雪花。 それはまるで、何れ咲く桜の花びらのようで。 めぐり来る季節の中、そうして彼女と桜を見れたら良い。 多分、本当にそれだけで、充分なのだ。 それだけできっと、幸せになれる、そんな想い。 彼女と共に居る。 それが僕が見つけた幸せだから。 Fin |