市内探索 長門編



 変則的に行われる市内探索の実行があった日、毎回行われている籤引きで、わたしは古泉一樹と二人で回る事になった。
 わたしと古泉一樹が二人で行動する事は極めて少ない。
 そして、わたしに慣れない者がわたしと二人で行動する時は、大抵の者が多く戸惑いを見せるが、古泉一樹はそれをわたしに見せた事が無い。
 この時も笑顔で、
「何処か行きたい場所はありますか?」
 そう問いかけてきた。そう言っても、わたしが行きたい場所と言えば、図書館しか思い浮かばない。それを伝えると、古泉一樹は微笑を浮かべた。
「其処でも良いですが、そうですね、僕に任せて貰っても良いですか?」
 古泉一樹に問いかけられ、わたしは頷く。
 図書館に行きたいとは思うけれど、それはいつでも行ける所。古泉一樹が他の場所をと言うのなら、拒否する理由は無い。
 古泉一樹の先導に任せて、わたし達は歩いた。
 そして古泉一樹がわたしを連れてきたのは、古いが、それなりに大きい古書店だった。最近チェーン店化している大型の古書店ではなく、恐らくは個人経営のもの。
「前の市内探索の時に見つけたのですが、その時は彼が一緒だったので入る事は無かったんです。長門さんは古書はお好きですか?」
 古泉一樹に問いかけられ、わたしは頷く。
 既にこの古書店にどんな本があるのか、中が気になっていた。
 わたしのその様子に気づいたのか、古泉一樹は苦笑を浮かべ、それから「中に入りましょうか」と言った。それに頷き、中に入る。
 古書特有のカビと埃の匂いが書店内に充満している。わたしはとりたててどうとも思わないが、苦手な者は嫌なのだろう。中を見て回りながら、気になった本を取り出してみる。図書館にも多くの本が置いてあるが、それとは少し違う向きの特殊な専門書も多く扱っているようだった。
 世の中には、古書を買うのは嫌だと言う者が居るらしいが、私は気にしない。例え古い物であれ、新しい物であれ、書物に記載されている内容は等価だ。
 だから私は気にしない。
 それは古泉一樹も同じようで、わたしが本棚に集中し始めたのを見て、古泉一樹も自分が気になる本の物色を始めたようだ。わたし程では無いが、古泉一樹も読書が好きらしい。此処に来た時、わたしに気を使ったのかとも思ったが、どうやら彼は本当に此処に来たかったらしく、熱心に本の背表紙を眺めていた。
 ならば良い、とわたしもまた自分の方に集中する。
 一度手に取った本を戻し、それから少し移動して、見たことのない題名の本を手に取った。相当古い英語で書かれた書物だったが、わたしの興味を惹いた。
 ページを開くと、其処からは本の内容に集中する。すると時間を忘れる。
 薄暗い店内で、埃とカビの匂いを感じながら本を読むのは、わたしにとってとても落ち着く時間だった。だから、わたしは彼がわたしに声を掛けるまで、時間の経過さえも忘れていた。
「長門さん、そろそろ時間です。戻らないと」
 そう言われ、確かにもう涼宮ハルヒが決めた集合時間に近い事を知る。
「その本が気に入ったなら、買われて行かれてはどうですか?」
 わたしが読みかけの本を手放さないのを知ってか、古泉一樹はそう言った。私は頷き、ずっと奥の席で座っていた店主に本を渡す。店主は無愛想に本の値段を告げ、わたしはその金額を支払う。
 そしてわたしは古泉一樹と共に集合場所へと戻った。
 図書館とは違う場所。けれど面白い場所。
 わたしは、またあそこに行きたいと思う。
 古泉一樹と一緒に。


Fin





小説 R-side   涼宮ハルヒ R-side