殆ど恒例になっている市内探索で、あたしは古泉くんと二人で回る事になった。 涼宮さんは、キョンくんと一緒になれたから上機嫌みたいで、嬉しそう。そんな涼宮さんを古泉くんは優しげな目で見つめている。 それを見ると、少しだけ胸が痛いけど、この間だけでも二人きりで居られるんだから、喜ばなきゃいけない。 そもそもあたしは、想いを伝えることさえ出来ないんだから、涼宮さんにやきもちを焼く権利なんてない。 涼宮さんがキョンくんと長門さんを引っ張っていくのを見送ってから、古泉くんはあたしに視線を向けた。 「では朝比奈さん、何処に行きましょうか?」 「そうですね…。あ、お茶の葉が切れてたから、買いに行くの付き合ってもらって良いですか?」 「構いませんよ」 市内探索の本当の目的は、不思議なものを探すことだけど、そう簡単に見つからないのも解かっているし、本当にあったら、きっと長門さんの方が反応している。だから多分、本当に真面目に不思議な物を探しているのは涼宮さんだけ。ううん、涼宮さんも、心の何処かでは多分無いと思ってて、今はもう、皆で探し回る事が楽しいんだと思う。 だから、涼宮さんと離れたときは、みんな好きなところに行く。適当にぶらぶら歩いたり、お買い物をしてみたり。 あたしは今回はお茶の葉が切れてたから、それを買うためにデパートに入った。 いつもお茶の葉を買うお店に行くと、おじさんが気前良く挨拶してくれた。 「こんにちは。おや、今日は彼氏と一緒かい?」 「ち、違いますっ、彼氏だなんて…」 開口一番にそう言われて、あたしは真っ赤になって否定する。いくら気さくな人でも、そういう事は言わないで欲しいな。本当に彼氏だったら良いけど、違うし。 「そうですよ、僕なんかでは、到底彼女には釣り合いませんから」 「そうかね、傍から見たら美男美女でお似合いだけどねえ」 おじさんは何を納得しているのか、うんうんと頷いている。 古泉くんはいつも浮かべている微笑のまま、あたしに視線を向けた。気にしないで、と言っているみたいだけど、あたしは困ってもいたけど、少し嬉しかったんだけど。きっと、古泉くんは気づいてないよね。 恋人同士に見えるって言われて、嬉しかったの。 「おじさん、これとこれ、ください」 いくつかあるお茶の葉の中から二つ選ぶと、おじさんは頷いてそれを渡してくれる。それから、美味しい淹れ方をいつも教えてくれて、それが凄く勉強になる。 おじさんの話を一通り聞いてから店を離れると、古泉くんは何も言わないままあたしに着いて来る。 「ごめんね、長話しちゃって…」 「別に構いませんよ。僕としても興味深い内容でしたしね。勉強になります」 「古泉くんも、自分でお茶淹れたりするんですか?」 「自分の家ではね。でも、部室ではやっぱり朝比奈さんが淹れてくれるお茶が一番美味しいですから」 そう言って褒めてくれる古泉くんに思わず頬が熱くなる。きっと古泉くんは本当に何気なく言っている事だから、意識しちゃうのはおかしいんだろうけど、でも、嬉しい。 「また部室で、頑張っておいしいお茶を淹れますね」 「ええ、楽しみにしています」 涼宮さん以外には誰が相手でも同じように優しいけれど、それでもこうして優しさを向けられるのは凄く嬉しい。 こうして隣を歩いていられる事も、嬉しいから。 もう暫く、集合時間まではこのままで。 隣を歩いていられる幸せが続きますように。 Fin |