授業中 みくる編



 午後の日差しが暑いくらいに差し込む窓側の席で、あたしは授業を受けていた。
 未来で習うこととは違うけれど、これはこれで良い経験だと思う。実際に過去で行われていた授業を受けられる機会なんて早々無いだろうし。
 そうして黒板に書かれた事をノートに写しながら、ふと窓の外を見ると、体育をやっているクラスがあった。
 炎天下の中で外で授業って大変だな、と思いながら見ていると、一際目を引く長身が見えた。
(古泉くん…)
 どうやら男子が二つのチームに分かれてサッカーをやっているようで、片方は何もつけず、もう片方は黄色のゼッケンをつけている。古泉くんは何もつけていない方。
 あたしのクラスからグラウンドはそれ程よく見える訳じゃないけれど、どれが古泉くんなのかはすぐに解かる。
 九組の男子生徒の中でも一際長身で、細身で、動き方が何処か洗練されている感じがして、そう、他の生徒とは持っている空気が全然違うから。
 そうして古泉くんを目で追っていると、ボールが古泉くんに渡った。
 古泉くんは運動神経が良いから、サッカーも上手みたいで、ボールを奪おうとする敵側の生徒を次々交わしていく。
 一人、二人、三人、四人…。
 思わず古泉くんが抜いた相手の数を数えてしまう。
 五人目を抜いて、其処からシュート。
 ゴールのネットが揺れるのが見えて、古泉くんが味方の男子生徒に囲まれていた。
 あたしはどちらかと言えば運動神経は無いし、どんくさいから絶対にあんな事は出来ない。涼宮さんなら出来るんだろうけど…。
 凄いなあ、と思う。
 運動神経が良くて、格好良くて、勉強も出来て。
 そんな事を思っていたら…、
「…さん、…朝比奈さん!」
「は、はいいぃっ!」
 ついつい集中して外を見てしまっていたのを先生に見つかってしまったみたいで、怖い顔をした先生が睨んでいた。
「全く、ぼーっと外を見ていないで、次の問題を解いて」
「はいっ」
 先生に言われたページの問題を必死で解きながら情けなくなる。くすくすとクラスメイトが笑っていて、鶴屋さんはお腹を抱えていた。
 其処まで笑わなくても良いのに。
 でも、さっきの古泉くんと比べると情けない。
 あたしじゃ全然釣り合わない。
 でも、でもね。
 想っているだけなら、見ているだけなら、良いですよね?
 どっちにしても伝えられない想いなら。
 見ているぐらいは…。


Fin





小説 R-side   涼宮ハルヒ R-side