全力で走った。 息が切れても、坂道に足がガクガクと震えても止まろうとは思わない。早く行かなければ、という想いだけが僕を突き動かしていた。 夜、閉鎖空間が発生した。 しかし、それは今までのものとは全く違う。 本当に彼女は、世界を変えようとしているのだ、という事が解かった。そして、それを感じた瞬間に急いで家を飛び出していた。 校門前に着くと、長門さんと朝比奈さんが既に其処に居た。 彼女たちも事態を感じ取って集まったのだろう。 「長門さん…朝比奈さん…」 「あ、古泉くん…」 声を掛けると、朝比奈さんは涙で潤んだ瞳で、長門さんは常のような無表情で、しかし何かしらの失望をもまた感じさせる表情で、僕を振り返った。 全速力で走ってきたから、息が切れている。何とかそれを整えて、校門の前に立った。 今、この世界はこの学校を中心に作り変えられようとしている。 何故彼女がこの場所を選んだのか。 その答えは簡単だ。 彼女が彼と出会ったのがこの場所であり、そして彼との思い出が最も詰まっているのもまたこの場所であるからだ。 此処は今、文字通り世界の中心になっている。 「長門さんは、中に入れませんか?」 僕が問いかけると、長門さんは完結に答えた。 「無理。涼宮ハルヒはわたしの存在を拒絶している」 彼女が拒絶している以上、彼女が望まない存在がこの空間に入る事は敵わない、ということだろう。本来、この空間に入る力を有しているのは僕や、機関に所属する能力者たちだが、情報統合思念体が作った、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスである彼女が、閉鎖空間に入る能力を有していない、という事では無いと思う。 彼女は、自分達よりずっと強い能力を持っている筈だからだ。 けれど、長門さんは涼宮さんに拒絶されている、と言っている。 「中に居るのは、涼宮さんと、彼…ですか」 「そう」 僕の問い掛けに、長門さんは簡潔に答える。 「ふえぇ…ごめんなさい、あたしの、せいで…ひっく…」 未来人である朝比奈さんは、自分の所為だと言って泣きじゃくっている。まあ、確かに原因の一旦は彼女にもあるのだろう。朝比奈さんと彼が親しくしているのを目撃し、そして涼宮さんは嫉妬した。だから涼宮さんは、彼とだけで別の世界に移動し、そして嫉妬する必要の無い、自分の望む世界を構築しようとしているのだ。 「貴方は入れる?」 長門さんの問い掛けに、僕は門の前に立つ。 試してみなければ解からない、というのが真実だ。 本来、常に僕達能力者が侵入し、神人を狩っていた閉鎖空間は、それ程悩まずとも入る事が出来る。それは、何故かは解からないが、僕達にはその入り口が解かり、そして、僕達が通る時にだけ、その入り口が開かれるからだ。 今もそう。 実質的な入り口はこの校門にある。 けれど、それが解かっていても、その入り口自体が閉ざされていれば、僕でも入る事は出来ない。 だから試す。 僕は目を瞑り、この世界と閉鎖空間の境界に掌を当てる。微かな抵抗。 ゆっくりと中を探る。 真っ暗だ。 何も無い、進むべき道も見えないように見える。 けれど、微かな、本当に微かな光が行き先を示し、糸のように細い道がほんの僅かに僕に対して開いたのが感じられた。 他は暗闇で、その細い糸のような道しか中に入る術は無い。 その道は、見えた。 僕だけに開かれた、僅かな隙間。 けれど。 「道は見えました。でも、僕だけの力では無理です」 今の僕には、その隙間に入り込むだけの力が無い。一人では、この世界に入り込む事は叶わない。 其処で、ふと携帯が鳴った。 この空間が発生してから随分タイムラグがある。いつもなら発生してすぐにでも連絡が来るというのに、矢張りこの事態に随分動揺していたのだろう。着信相手を見れば、機関の者からだ。 閉鎖空間が発生した事を告げるのはメールが多いが、今回は電話だ。まあ、非常事態だから当然だろう。 僕が通話ボタンを押して携帯を耳に当てると、すぐに声が飛んできた。 『今、何処にいるの?』 「校門の前ですよ」 聞き慣れた声にそう返すと、電話の主は一つ大きく息を吐いた。 『そう、迎えが来る前にそちらに行ってくれた事は有り難いわ。迅速な行動ね』 「お褒めに預かり光栄ですよ」 『ふざけている場合じゃないわ。貴方も解かっているでしょう』 苛立つ彼女の言葉に、苦笑を漏らす。 まあ、今日中にでもこの世界が終わるかも知れないという事実に合えば、この動揺も理解できる。普段はもっと落ち着いている人なのだけれど。 『貴方、今一人?』 「いいえ」 『長門有希と、朝比奈みくるが其処に居るのね?』 「はい」 簡潔に答えると、そう、とまた大きく彼女は溜息を吐いた。 出来るだけそばに居る二人には会話の内容は知られたくない。長門さんは隠すだけ無駄だろうが、朝比奈さんなら誤魔化せる。相手が誰かということも、機関の人間であるという事は理解出来ても、その名前までは知られてはいけない。 『それで、閉鎖空間には入れそう?』 「…僕一人では無理です」 『打つ手は無いって事?』 「いいえ。お願いがあるんですけど」 僕も、他の能力者達も、能力者同志が交流を持つ事は殆ど禁止されている。頼むなら彼女しか居ない。非常事態なのだから、認められるだろう。 『何?』 「能力者を全員、校門前に集めて頂けませんか。僕一人では無理でも、他の能力者達の力を借りれば、中に入る事が出来ます。それ程長時間は無理でしょうが」 『…上に許可を取ってみるわ』 「それでは遅いんです。そんな事をしている間に入り口は完全に塞がれてしまいます。ですから、今すぐに能力者全員に連絡する必要があるんです」 『無茶を言うわね』 此処の内容は彼女達に隠しても仕方ない。非常事態だし、彼女達にも解かっている事だ。 「このまま、遅きに失してこの世界が消えるのと、迅速に対応して世界が救われた後でお叱りを受けるのと、どちらが宜しいですか?」 『…解かったわ、貴方を信用します』 「有難う御座います」 彼女なら理解してくれるだろうと思っていた。こういう時の判断能力は上層部よりは余程信頼出来る人だ。そもそも失敗したところで、この世界が無くなるならは叱られようが無い訳だし、上手く行けば叱られるのも軽度で済むだろう。何なら責任は僕が被っても良い。 強要したのが僕だと言えば、彼女に対する責任は軽減される筈だ。 僕が通話を終えると、長門さんと朝比奈さんがこちらをじっと見ていた。 「今すぐ機関の能力者達が此処まで来ます。そうすれば一時的ではあれ、中に入り、彼と会話する事も出来るでしょう。何か伝言はありますか?」 僕の言葉に、朝比奈さんがおずおずと言葉を発した。 「キョンくんに、謝っておいてくれますか?ごめんなさい、わたしのせいですって…」 「解かりました」 頷き、そして長門さんに視線を向ける。彼女と数秒見つめあうと、一言呟いた。 「パソコンを電源を入れて」 彼女の言葉に、何をするつもりなのか察する。直接中に入る事は出来なくとも、パソコンを通じて彼とコンタクトを取るつもりなのだろう。 「伝えておきます。お二人は、先に部室に戻っていて戴けますか。僕も終わったらそちらに向かいますから」 「…はい」 「……」 僕の言葉に、朝比奈さんはおずおずと頷き、長門さんは無言で首を僅かに上下させ、そして学校の中に入っていった。 これから能力者が来る事になっている以上、彼女達がこのまま校門前に居るのは望ましくない。出来る限り機関の仲間の顔は知られない方が良い。 実のところ、半分くらいは諦めている。長門さんには何か策があるのかも知れないが、僕自身に伝えられる事はそう多くない、彼女をこちらに呼び戻す特効薬など、僕は持っていない。 ただ、会って彼に伝え、危機感を呼び覚ます事ぐらいは出来るだろうと、そう思っているだけだ。むしろ、何も伝えない方が彼には良いのかも知れなかったが。何も知らない世界で、何も知らずにまた始まる一日を迎えれば、この閉鎖空間での出来事は夢だったと思い込み、また普通に生活出来ただろうし、その方が涼宮さんにとっても喜ばしい事の筈だ。 だから、僕が彼にそれを伝える事は、涼宮さんが望まない事。 僕自身の存在を拒絶し切っては居なくても、伝えるうちに彼女は僕をもまた弾き出すだろう。この世界とあの閉鎖空間の連結も完全に絶たれてしまうかも知れない。あの閉鎖空間では、邪魔者は排除されるだけだろう。 そんな事を考えているうちに、車が数台、校門前に到着した。 能力者だろう。 一番最初に着いた車の助手席から、先程の電話の相手だった彼女が出てきた。 「直接お会いするのはお久しぶりですね、森さん」 「よく貴方は暢気に笑っていられるわね」 そう言う彼女も溜息を吐きつつ、その表情には何処か諦観みたいなものが見て取れる。 それにしても、相変わらず年齢を感じさせない顔だ。三年前、初めて会った時から少しも変わっていない。彼女の本当の年齢がいくつなのか、僕も知らない。以前聞いたら、『女性に年齢を聞くものじゃないわよ』と、物凄く怖い顔で言っていたから、それ以後聞いた事は無い。 言えないような年でも無いと思うのだけれど。 「新川さんも、先日は有難う御座います」 「私は役目を果たしただけですよ」 運転席に居た壮年の男性に挨拶すると、流石は年の功、と言うべきだろうか、森さんほどの動揺は見られない。ただその優しげな瞳に、いくらかの悲しみが見て取れる。矢張り皆、この世界が失われるかも知れないという状況に、何かしらの感慨を抱いているのだろう。 「それで古泉、中に入る事は、本当に出来るのね?」 「ええ、仲間の力を借りれば、完全とは言わずとも中に入る事は出来ますよ」 「解かったわ、じゃあ、お願い」 その言葉を合図に、彼女は後続の車に支持を出し、中から人が出てきた。機関に所属する能力者達。会った事がある者も居れば、初対面の人間も居る。ただし、それでも何処か始めて会った気がしないのは、閉鎖空間での邂逅があるからだろう。 僕は表情を笑みに形作り、彼らにこれからすることの説明をした。 さあ、最後の悪あがきをしましょうか、と。 十分後、僕は元の校門前にはじき出されていた。 まあ、よくこれだけ持ったな、というところだろうか。彼に事態は伝えられたし、朝比奈さんと長門さんからの伝言も伝えたのだから上出来というところか。 あとは長門さんのコンタクトが成功すれば、彼次第、ということになるのだろう。 機関の人たちを校門前から見送った後、僕は部室に向かった。 僕が着いた時には長門さんの彼へのコンタクトは終了していたようで、こちらのパソコンの電源は切られていた。 「これで、もう僕達に出来る事は無い、ということですね」 「彼次第」 「正にその通りです」 長門さんの呟きに、僕は頷く。 そして朝比奈さんは、涙は止まったらしいが、しょんぼりと落ち込んでいる。無理も無いだろう。自分が原因と解かっているのに、自分だけ何も出来ていないという状況は彼女にとって、耐え難いものだろうから。 「お茶でも淹れましょう、朝比奈さんほど上手くは無いでしょうけど」 重苦しい空気に肩を竦めて、僕は三人分お茶を淹れた。長門さんの前に置くと無言で一瞥、そして朝比奈さんの前に置けば、か細い声で、「ありがとうございます」と呟きが聞こえた。 その様子を見てまた苦笑する。 椅子に座り、淹れたお茶を飲みながら、窓の外を見る。 さて、彼は今何を考え、何を行動しようとしているのだろうか。そして彼は、こちらに戻る事を望むのだろうか。 長門さんが彼に何を伝えたのかも気に掛かるが、知らなくても構わない、とも思う。 「古泉くんは…」 小さな呟きが聞こえ、朝比奈さんの方を見る。何処か非難するような眼差しだ。 「古泉くんは、平気なんですか。この世界が消えるかも知れないっていうのに…どうしてそんな風に…」 「そんな風に笑っていられるのか、ですか?」 「あ…っ、あの、ごめんなさい…」 彼女の続く言葉を僕が言えば、はっとしたように謝罪を口にする。何かを、どうにかして責めなければ遣り切れないのだろう、そして、今の僕の態度は、はっきり言えばこの現状に似つかわしくないものに違いない。 「気にしなくても良いですよ。事実ですから」 実際に、僕はこの世界が消えてしまっても構わないと思っている。 彼女がそれを望むから。 彼女が幸せならば、僕はそれで構わないのだ。例え僕が消えてしまったとしても、彼女が笑っていられる世界が其処にあるのなら、それで構わない。そして彼女が新しく構築した世界に僕が居れば、そちらの僕がまた彼女の幸せを願い、笑っている彼女を見て喜ぶのだろう。 ならば、僕が悲観する事は何も無い。 今の僕が消えても、また新たに生まれる僕にきっとそれは受け継がれる筈だから。 そして僕も今、幸せだから。 閉鎖空間との連結は完全に遮断されているが、彼女との繋がりはあの閉鎖空間に入ってから常よりもずっと増している。今、彼女が何を考え、何を思っているのかダイレクトに伝わってくる。 未知の事態への遭遇に対する驚愕、歓喜、彼が側に居る事に対する安堵、不安。神人、彼が、彼女の手を繋ぎ、駆け出す。楽しい、嬉しい、こういう事をずっと待っていたのだ。そして何より側に彼が居る、だから。 不意に、温度の違う温もりが両手に触れた。左手には長門さんの手が、右手には朝比奈さんの手が握られている。 「駄目、駄目です、古泉くん…古泉くんまでそのまま何処か行っちゃいそうです」 「彼女の精神に感応し続ければ、貴方の精神のみがそちらに飛ばされる」 泣いて体温の上がった朝比奈さんの手は暖かく、体温を感じさせない長門さんの手は冷やりと冷たく両極端で有りながらも、どちらも僕の身を案じているようだった。 けれど。 「大丈夫ですよ」 微笑む。 精神だけが彼女の側に居る事が叶うのなら、僕はそれでも全く構わないのだけれども。 「それより、僕と手を繋いでいるのなら、お二人も感じるでしょう」 彼女が今何を想い、何を感じているのか。 先程までの歓喜は、彼の態度によって急変している。 不安、不信、疑問。 何故、何故このままでは駄目なのか、と。 怒り、悲しみ、哀しみ、疑問、そして、驚愕。 驚愕、歓喜、そして。 触れたのは、彼、の…。 「……お帰りなさい」 彼女は、この世界に戻ってきた。彼も共に。 先程までダイレクトに伝わってきた彼女の心は、今ではそれ程感じられない。それは彼女が戻ってきたという証拠に他ならない。完全にこちらの世界を絶ったなら、むしろ何も感じられなくなっている筈だ。だから呟く。 お帰りなさい、と。 そして両隣に居る少女達を見つめれば、長門さんの表情には何処か安堵が見えるような気がするし、朝比奈さんは事態についていけずに顔を真っ赤にしている。 その様子が微笑ましく、笑みを浮かべた。 「涼宮ハルヒと彼がこの世界に帰還したことを確認した」 長門さんの言葉を受けて、二人の少女の手を引き、立ち上がる。 「僕たちも帰りましょうか。涼宮さんと彼も今頃はベッドで眠っている事でしょうから」 「あ、は、はいっ」 僕の言葉に、今までぽーっと頬を染めていた彼女がはっと目を見開き頷く。長門さんは既に背を向けて部室を出て行こうとしている。 「長門さん、送っていきますよ?」 「いい」 簡潔に答えられて苦笑する。 しかし、そう答えた後も、じっと僕の顔を見つめている。 「…何か?」 「貴方は、この世界が消えても構わないと思っている?」 「………いいえ」 それは思わない。 先程まではそれも良いかとも思っていたけれど。 彼女はこちらに戻ることを望んだ。ならば、僕は彼女が望んだこの世界を守るだけだ。 「そう」 僕の考えている事を読んだのか何なのか、長門さんは納得したように頷き、そして部室から出て行った。 「僕達も帰りますか。送りますよ。何ならこのまま手を引いて行って差し上げましょうか」 にっこり、と笑ってそう言って見せれば、解かりやすいくらい顔を真っ赤に染めて、朝比奈さんが僕から手を離した。 「あ、あのっ、いえ…っ」 可愛らしい反応に思わず吹き出す。肩を震わせて笑えば、怒ったようにむっとした表情をしてみせるが、未だに赤い頬はその表情を可愛らしく見せる以外の効果は発揮していない。 「帰りましょうか」 再度促せば、諦めたように溜息を吐き、 「はい」 と、彼女も小さく笑って頷いた。 朝比奈さんを送る道すがら、僕達は互いに掛ける言葉もなく、黙々と歩く。 ただ、気分はそう暗くは無い。何しろ世界が救われた後のことなのだから、当然だった。 すっかり夜も更けて、恐らくあと数時間もすれば朝日が昇るだろう。寝るには時間が足りないな、と思い、今日は徹夜だな、と決める。 「あの、古泉くん」 そんな風につらつらと取り留めの無い事を考えていると、朝比奈さんが口を開いた。 「なんですか?」 「あの、さっきは、ごめんなさい!あたし、酷い事を…」 「…酷いこと、ですか?」 さて何かあっただろうかと考え、彼女が僕を責めた事柄を思い出す。 「ああ、あの事なら気にしなくても構いませんよ。貴女の言葉は事実ですから」 「で、でも…」 彼女の非難は正等だ。実際あの時、僕はこの世界が消えても構わないと思っていたのだから。彼女が気に病む必要は全く無い。 「朝比奈さん、僕はね」 自分よりも随分背の低い、小柄な先輩を見る。彼女は純粋だ、だからこそ僕の考えは解からないのかも知れない。 「涼宮さんが幸せなら、それで良いんですよ」 「古泉くん…」 「勿論、この世界も好きですよ。出来ることなら守りたいと思います。ただ、いざという時、この世界と、涼宮さんの幸せと、天秤に掛けるような事があったとしたら、僕は涼宮さんの幸せを優先します。その行き着く世界に僕が居なかったとしても」 どうしてこんな事を話しているのか、と少し疑問にも思うけれど、それと同時にまあ構わないか、とも思う。話したところで、彼女がこの事を誰かに言うとも思えない。 そうこう話しているうちに、彼女の自宅の前に着く。 「それではまた、学校で」 「はい、送ってくれて、有難う御座います」 ぺこりと頭を下げる姿に微笑み、僕もまた、家に帰ろうと踵を返すと、後ろから声が聞こえた。 「古泉くんは、古泉くんの幸せは、何処にあるんですか?」 掛けられた問いに、僕は振り返り答える。 決まっている、そんなことは。 「彼女が笑っていてくれることです」 僕の言葉に、朝比奈さんはまだ何か言いたげな表情をしていたけれど、言葉を発する事は無かった。 そのまま僕は帰宅の途に着く。 迷う事は無い、僕の幸せ、僕の願いはそれだから。 これは、涼宮さんの憂鬱の、小さな隙間の出来事。 彼に語る必要もないほんの小さな出来事。 Fin |