もう夏とも言えるような午後の窓際。 はっきり言って暑い。もうちょっと良い季節なら昼寝に最適だろうけれど、この暑さでは寝る気すら起きず、ただ机に突っ伏して授業を聞き流すだけ。 教師の言葉は右から左へと流れていくけれど、どうせ大した事は言ってないし、聞かなくたってテストで点くらい取れる。 ノートを写しもせず暇だな、と思いながら窓の外を見ると、体育をやっているクラスがあるようだった。 この炎天下の午後の授業で体育なんて、大変ね、と人事のように思う。 けれど、その中にふと見慣れた姿を見かけた。 古泉くん。 あたしが作ったSOS団の副団長で、いつもにこにこ笑っている爽やかな美少年。 あの暑苦しい男子生徒の群れの中で、彼の周囲だけは妙に涼しげだ。あれも一種の才能だろう。存在だけで清涼剤の役割を果たしているようで、彼と同じクラスの九組の男子も、それにあやかろうと妙に古泉くんに近づく。 くっつかれても嫌な顔一つせずにいるのはいっそ関心する。古泉くんだって暑くない訳ではないんだろうけど。 そもそも、普通の男子が体操服を着たって、涼しげどころか暑苦しいのに、古泉くんのその姿は妙に様になっていて、その笑顔も相俟って爽やかだ。 その様子を見ながら早く放課後にならないかな、と思う。部室に行けば古泉君が居て、あの暑さを感じさせない爽やかな笑みを浮かべてくれるに違いない。 何となく、前の席のキョンに、古泉くんの存在を教えようかと思ったけれど、止めておいた。 ただでさえ男女合同の体育のようで、五十メートルの体育を計っているのに、女生徒も男子生徒も走っている人間より古泉くんを見ている割合の方が多い。 これ以上彼を見る視線を増やす必要は無い。 彼はSOS団の副団長で、あたしの大切な仲間なんだから。 そうやって見ていると、古泉くんが走る番になったらしい。古泉くんは真面目だから、本気で走るに違いない。 しかも運動神経は結構良いみたいで、一緒に隣で走る男子生徒と比べてみれば一目瞭然だった。 すぐに走り終え、でも息を乱した様子も見せずにやっぱり爽やかだ。 そんな古泉くんが、ふとこっちを見た。 あたしが見ている事に気付いたのだろうか。教室に居るあたしの姿なんてそんなに見やすい訳ではない筈なのに、それともあたしの視線に気づいたのだろうか? 一瞬ちょっと驚いたような顔をして、それからにっこりと笑いかけてくれた。 ああもう、やっぱり。 早く放課後にならないかな。 あの爽やかな笑顔は間近で見るべきものだから。 Fin |