合宿の夜



 合宿一日目は問題無く過ぎた。
 本当に、面倒が無くて良かったと心から思う。
 生徒には既に消灯指示を出しているし、後はこちらもゆっくり出来る。本当は酒の一つでも飲みたいところだが、引率だからそれは我慢してコーヒーを飲む。
 窓の外は当然のように真っ暗で、それでもぽつぽつと見えるのは、別のコテージの明かりだろう。外の様子もすっかり静まり返っている。もしこれが夏場だったならば賑やかな虫の音でも聞こえてきたのかも知れないが、今の季節ではそれもない。
 ただただ静かに夜が更ける。
 自宅のアパートとは違う場所で、こうして静かに過ごすのも、たまには悪く無いかも知れない。
 まあ、いつもになったら、面倒なことこの上無いのだが。

 そんな感慨に耽っていると、不意に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
 一体、こんな夜更けに誰だ。
 生徒たちはとっくにお休みしていなければいけない時間だが、素直に大人しく寝ているような奴らばかりでもないだろうし、もしくは王崎か都築が明日の予定の確認でもしに来たか、そう思いながらドアを開けると、全く予想していなかった相手が目の前に来た。
「なんだあ、吉羅、結局お前も来たのか」
「人を目にした第一声がそれですか。…まあ、合宿の成果がどの程度出るか、確認しておきたいですから」
「素直に心配して来たって言えばいいのに」
「別に心配なんてしていませんよ」
 まったくもって、こいつはいつもこんな調子だ。だからすぐ人にも誤解されるというのに、全く改める気が無いらしい。
 それも今更と言えば今更で、結局こういうこいつと何だかんだで付き合っているんだから、そういう所も含めて気に入っているって事だろう。
 それにまあ、だからこそ素直になった時は格段に可愛い訳だし。
「取り合えず、挨拶しに来ただけですので。今日はもう消灯も過ぎていますし、適当な部屋で休ませてもらいますよ」
「おいおい、まあ待てって、折角来たんだからもう少しゆっくりしてけよ。学生たちは兎も角、大人の消灯にはまだちょいとばかり早いだろ」
 すぐに踵を返そうとする吉羅の腕を掴んで引き止める。
 吉羅は少し眉を顰めて、俺を見る。俺の表情に、下心を感じたのだろうか、少しだけ腕を引いて身構える。
「今日は、早めに、ゆっくり寝ようと思っていたんですが」
「ここで寝ればいい」
「寝るの意味が、違うでしょう」
 まったくもって、その通り。だがそれには答えず、掴んだ腕を強く引き寄せる。
「っ、金澤さん!」
「良いだろ、別に。それこそ、随分ご無沙汰なんだし」
「急がしいんですから、仕方が無いでしょうっ、大体だから今日はゆっくり…っん…」
 反論の内容は大体想像出来たから、全部出てしまう前に唇を塞ぐ。すぐに離してしまうが、そのほんの一瞬のキスだけでも、効果は絶大だ。
 口を閉じ、僅かに頬を染めながら、それでもきつく睨みつけてくる様子がたまらなくそそるんだってことを、きっとこいつは解かってないんだろうが。
「お前だって、溜まってんだろ?」
「あなたは…っ」
 挑発する言葉に、再び文句を言おうとする吉羅の腕を今度は更に強く引いて、ベッドの方へと押し倒す。
 スプリングが勢いよく跳ねて、吉羅は息を詰める。その上に多い被さり両腕を掴み、抵抗を封じると、きっと強く睨みつけられた。
「離してください、大体、此処を何処だと…っ」
「合宿所になってるコテージだな。心配しなくても子供は眠ってる時間だし、割合防音もしっかりしてるから、ちょっとぐらい声出したってバレないって」
「そういう問題じゃ、んぅ…っ」
 またキスで反論を封じ、今度はすぐには離さず、無理矢理舌を口腔内に押し込む。
「んんっ…ぅ…、だ、め……ん、ふ…」
 背けようとする顔を片手で掴んで固定すると、開放された方の手が抵抗しようと俺の胸を押すが、当然上になっているこちらの方が有利だ。
 そのままキスを続行し、差し入れた舌で、逃げようとする吉羅のそれを絡め取り更に深くへと侵していく。
「ふっ、…ん……っ……んっ……」
 口の端から漏れる吐息は甘く、貪る口内も甘い。歯列をなぞり、口蓋をくすぐればぴくりと押さえつけた体が震える。もう一度舌を絡め、唾液を吉羅の口腔へと流し込めば、こくりと音をたててそれを飲み下す。
 そうして深いキスを続けていれば、次第に吉羅の方もキスに応えてくる。
 抵抗しようとしていた腕も、今では俺の服を掴んでもっと欲しいと引き寄せているようにしか思えない。こちらが舌を引こうとすれば名残惜しむように追いかけてくるそれを、もう一度絡ませ存分に貪る。
「は……あ……っ、ん……」
 本当に、こいつはキスが好きだ。
 さっきまであんなに鋭い視線で駄目だと言って睨みつけていたくせに、今ではそれもとろりと溶けて潤んだ瞳で物欲しげな顔をしてくる。
 もっと、もっとキスして欲しい、そんな表情で。顔を掴んだ手をそっと動かし、親指で頬を撫でてやると、気持ち良さそうに目を閉じる。
 そういう顔が、たまらなく可愛い。
「あ……」
 唇を離せば、残滓が糸を引き、切れる。そして吉羅は名残惜しそうな声を出して、俺を見る。
 そんな様子を見て思わず笑いながらそっと唇をなぞる。
「その気になったか?」
 問いかければ、すっかり抵抗を失くしていたことに気づいたのだろう、かっと頬を紅潮させて、再び俺を押し返そうとするが、キスですっかり力の抜けた体ではそれも大した抵抗にはならない。
「そういうのは、無駄な抵抗って言うんだぜ、ほれ」
 膝を股間に押し付けてやれば、びくりと体が大きく跳ねる。
「あ…っ!」
「キスだけで、もう勃って来てるな」
「やめ…っ、あ……ぁあっ…」
 ぐりぐりと膝でそこを刺激してやれば、身体を震わせながら、喘ぎ声を漏らす。その刺激を続けながら、ジャケットのボタン、ネクタイ、そしてワイシャツのボタンを次々に外していく。そして見えた素肌に手を這わせればまたぴくりと震えた。
「相変わらず、感じやすいなあ」
「そんな、こと………うっ…」
「あるだろ」
 乳首を摘んでやれば、押し殺した声を漏らす。何度か摘んで擦ってやればすぐに赤く立ち上がってくる。
「っ……ぅ、……っ…やめて、くださいっ」
「全く強情だな。今更止めたってお前もつらいだけだろうに」
「そんなことは、ありません…っ」
「嘘つけ」
 お仕置きとばかりに乳首をきつく摘んで爪を立ててやる。
「やっ…あ!」
「ま、それでも構わんがな。結局やることは変わらないんだから、とっとと諦めた方がいいぞ」
 股間を刺激する膝と、乳首を嬲る指を同時に動かしながら、もう一度キスをする。
「ふっ、あ………あ……ん……っ…」
 身をよじり、逃れようとするが、膝が当たっているせいで逆に動けば動くほど、そこを刺激する結果にしかならない。
「ん、んっ………は……金澤、さん…っ…」
「ん?何だ」
「も、う……」
 吉羅が視線を下の方に向ける。スラックスを穿いたままの状態のまま、膝の下のそれはガチガチになっていて、窮屈で辛いのだろうことは、見ていても解かる。
「もう、何だ?」
「……っ」
 解かっていて、敢えて問いかければ、唇を噛み締め、視線を泳がせた。
 嫌だと言っていたのに、次を強請るような言葉は口に出来ない、そう思っているのだろうが、どうせならちゃんと言わせたい。
 膝に力を入れ、股間をぐい、と強く押し潰すとびくんと体が跳ねた。
「あ、あああっ!」
「もう、何だって?」
「あ、あっ……も……脱がせて……」
「脱がせるだけでいいのか?」
「達かせて、ください…」
 搾り出すように口にするのを聞いて思わず笑ってしまう。しかし、其処まで言ってもらったのだから、それを拒否する理由は無い。
 ベルトを外し、スラックスのボタンとチャックを外す。その作業の間でも俺の触れる指が刺激になるのだろう、吉羅が押し殺した喘ぎをこぼす。
「ふ…っ……う……」
「腰上げろ」
 俺の声に応えて、ほんの少し腰を浮かせたのを見て、一気に下着ごと脱がせてしまう。露になったそこは、すっかり勃ち上がって、先走りを溢れさせている。
「下着の方も濡れてるな」
「それは、あなたがっ」
「ああ、はいはい。俺のせいだなあ」
 話半分に流しながら、ペニスを握り込む。
「あ…っ」
「すぐにでも達きそうだな」
 握ったそれを扱きながら、胸の突起を啄ばむ。
「は…あ……あっ……か、な…ざわ…さ……っ」
「一回出しとけ」
 今にもはちきれんばかりのそこを強く扱き上げ、乳首に歯を立てると、身体を痙攣させながら、俺の手の中に迸りを放った。
「んっ、あ、ぁあっ!………は、ぁ……」
「にしても、結構早いな。やっぱり溜まってたか?」
「な、にを、馬鹿な!」
「嘘つくなって。お前だって、まだ足りないだろ?」
 そう言って吉羅の精液に濡れた手で後ろに触れると、それだけでひくりと蠢く。そのもの欲しげな様子に、くっと喉を鳴らして笑う。
「ほんと、体の方は素直だよな」
「…っ」
 俺の言葉に、吉羅は言葉を詰まらせ、顔を真っ赤にして睨みつけてくる。それが羞恥でか怒りでかは解からないが、達したばかりで潤んだ瞳では全く迫力が無い。
 人差し指をぐっと中に押し入れれば、僅かな抵抗の後、熱い粘膜が包み込んでくる。その熱さと狭さに、すぐにでも中に押し入りたい衝動に駆られるが、流石にそれは酷だろう。
 ゆっくりと抜き差しを繰り返し、解していく。
「……ん……っ、……ぅ……っ」
 まともに抵抗することは諦めたらしく、文句は出てこない。ただひたすらに、漏れそうになる声を押し殺す。いや、文句を言っている余裕が無いのかも知れない。
 指を二本に増やし、ぐっと奥へと突き入れれば、きゅうっと中が引き締まり、もっと欲しいとでも言うように絡み付いてくる。
「あ…っ…く、ぅ……っ」
「すごい、物欲しげにひくついてるな」
「っ……な、こと……ぅあっ…!」
 そんなことないなんて否定の言葉は、もう今日一日で何度聞いたか解からない。これ以上聞く必要も感じないから、中に入れた指をくいと折り曲げて一番感じる場所を突いてやると、また大きく身体を震わせて声を上げる。
 一度達して、萎れていた吉羅のモノもまた硬度を増してきている。
 引き締まった太ももをゆっくりと撫でてやると、それだけでも反応して身体を痙攣させる。そんな、どこまでも敏感な体に触れるのが楽しくて仕方ない。
 指を三本まで増やし、ぐちぐちと卑猥な音を立てながら何度も抜き差しを繰り返す。
「……あ……っ……ああっ……」
「随分、柔らかくなったな」
 そろそろ、良いだろう。こっちもすでに我慢の限界だ。
 中に入れた指を引き抜くと、名残惜しそうに絡み付いてくる。それを、もっと感じたい。
 すでに随分前から固くなっている自身を取り出して、入り口に押し当てる。ゆっくりと先端だけ入れると、絡み付き、締め付けて、誘うように蠢く。
 もっと欲しいと言われているようだ。
 それは勝手な俺の思い込みかも知れないが、それでも俺を熱く包み込んで迎え入れてくれるだろうということは、間違い無い事実だ。
 その感覚を早く感じたくて、片足を抱え上げ、一気に奥まで貫いた。
「はっ…あ、ああああっ」
「っ…う」
 熱い粘膜に包まれ、締め付けられて、思わず呻き声を上げる。相変わらず、こいつの中はたまらなく気持ちが良い。今まで、色んな女を抱いたりもしたけれど、こいつ以上に気持ちが良いと思う相手は居なかった。他の男を抱いたことが無いから、それが男だからなのか、こいつだからなのかは解からないが。
 それでも多分、吉羅だから、なんだろう。
 中を味わうために、ゆっくりを抜き差しを始めると、それに合わせて吉羅の口から喘ぎ声が漏れる。
「あっ……あ………く、ぁ…あ……っ」
「っ、相変わらず、お前の中は熱いな…」
「あ、……か、なざ、わ…さ……んっ……」
 こちらに手を伸ばしてくるのを見てそれを掴み背に回させる。唇を寄せれば、今度は吉羅の方から貪るように俺の口内へと舌を押し入れてくる。
「んぅ……んっ……ぅ、ふ……っ」
 俺の舌へと絡みついてくるそれに応えながら、ゆるりと腰を回せば背にしがみ付いてくる手にぎゅっと力が篭る。
 動きを小刻みに出し入れするように切り替えて、前の方を握りこむと、固くなったそれはまた先走りを溢れさせ、震えている。
「あっ!……は、ぁ……っ。…もっと…」
「もっと?」
 何だ、と問いかければ、とけて潤んだ赤い瞳が俺を見つめてくる。その目が、好きだ。俺を求めてやまないんだと、確信できるから。
「もっと……動いて、ください……もっと、強く……抱いて…」
「んとに…」
 素直になると、途端にこれだから堪らない。
 要望通りにギリギリまで抜いた後に一気に深くまで貫く。
「ぁあああっ!」
 何度も、何度も、吉羅が望んだ通りに激しく、奥深くまで。
「あ、ああっ……はっ、…や……んあっ……ああっ……!」
 こうなれば、感じていることを隠すことも、声を殺すことも無い。生理的な涙を溢れさせて、俺の背中に爪を立て、もっと欲しいとばかりに腰を揺らす。
 たまらない。
 こんな風に、こいつが乱れるなんて、一体誰が想像出来るだろう。
 激しく腰を打ちつけながら、握りこんだ前を扱く。
「ぁああっ……ああっ……ふっ…ぁ…」
「気持ち良いか?」
「は……っい……いい……っ、金澤、さ…っ」
 ぎゅっと、俺の背に回された腕が強く引き寄せてくる。されるままに顔を近づければ、もう一度キスをしてくる。
「んんっ……ふっ…」
 今度は誘うように開いた口に俺の舌を押し入れる。
 貪るように口腔を犯し、何度も深く突き入れて、どこまでも繋がりあう。
 本当に、気持ちが良い。
 そして目の前の吉羅も、本当に気持ち良さそうな顔をしている。
 やっぱりこいつは、キスが好きだな。
 いつまでもこうして居たいと思うが、それでも終わりはやってくる。
「は…っ、んんっ…ぁ……も…っ…い……」
「っ、俺も、限界っ」
「…ぁ、は…、ぁあああっ!」
 最後に奥深くまで突き入れて、搾り出すように前を扱いてやると、吉羅は一際高い声をあげて達した。そして俺も、強く締め付けられて、中に精を放つ。
「くっ…」
「ふ……はっ……は、あ…」
 互いに呼吸を繰り返し、息を整える。俺の背に回された手はするりとすべり、ベッドに落ちた。完全に脱力している。
 気だるげな表情で、普段は鋭く一瞥する赤い瞳が潤んで涙さえ浮かんでいる。熱に染まった頬と、呼吸を繰り返す赤い唇。
 赤が、溜まらなく色気を醸し出す。
「っ……金澤さん……?」
 吉羅が驚いた、伺うような視線で俺を見る。中に入っている俺のモノが再び硬度を増しているのに気づいたからだろう。
「もう一回」
「ちょ…っ、だ、駄目です、無理です…っ!」
 力の抜けていた手で慌てて俺を押し返そうとするが、この状態でこいつに勝機がある訳もない。少しだけ引き抜いてぐっと押し入れると、俺を押し返していた手が縋るように服を引っ張る。
「あっ……や…、だめ、で…っ」
「駄目じゃない無理じゃない。ほら」
「ふぁっ…あ、あ……っ」
 達したばかりの過敏な身体はあっという間に流される。
 そんな吉羅を見て少し笑いながら、再び行為へと没頭した。




 結局、寝たのは明け方近くだった気がする。
 俺が起きた時は、当然吉羅の方は起きられる状態ではなく、ぐったりと眠っていたが、俺自身はかなりすっきりとした目覚めだった。
 矢張り溜まったものを出したのが良かったに違いない。

 起こすのは流石にしのびなく、朝はそのまま寝かせて来たが、流石に昼には練習の成果の発表もある。昼食を作っている途中で、一旦起こしに行くと、朝と何ら変わらない様子で眠っていた。
「おーい、吉羅ぁ、起きろー」
 ゆすって名前を呼べば、ぎゅっと眉を顰めてぐずるような様子を見せる。
「ほら、起きろよ、もう昼だぞ」
「う……ん」
「昼メシ食えよ、折角生徒たちがカレーを作ってくれてんだぞー」
「……要りません、食べれません」
 薄く不機嫌そうに目を開けた後、短くそう言ってもう一度目を閉じた。
「朝も昼も抜いたら身体に悪いぞー」
「…っ、誰のせいでこうなってると思ってるんですか…」
 不機嫌極まりない表情で睨みつけられる。
 流石に怖い。
「俺のせい?」
「解かってるなら、もう少し寝かせてください……生徒の、演奏の前に、起こして…」
 言っている途中でまた寝てしまった。
 流石に無理をさせすぎたかなあという、反省が無い訳でもない。
 言うとおりにするか、と息を吐いて、再び生徒たちのいる庭へと戻ることにした。


 その後、生徒の発表を見た後吉羅は早々に帰ってしまい、その後も何だかんだと仕事以外では避けられることになった。


Fin





小説 B-side   金色のコルダ