一夜の悪夢



 翔と櫂が寮監室を訪れたのは、突然と言えば突然だった。
 けれど、それはいつもの事。瀬那はそれを大して気にも留めていなかった。
 二人にハーブティを入れてやると、徐に櫂がこう切り出した。
「水落先生、お願いがあるんですけど」
「お願い?」
「これ、飲んでもらえませんか?」
 にっこりと笑ってミニボトルを差し出す櫂。
 しかし、瀬那はそれを素直に受け取る事は出来ない。これまでの経験から嫌と言うほどそれを理解している。翔の方を見ていれば黙って成り行きを見守る体勢のようだった。
 今度も共犯のようだ。
 これじゃあまるで二人が犯罪者か何かのようであるが、一歩間違えばそうでないとも言い切れないあたり、瀬那も頭が痛い。
「これ、一体何です?」
「飲んでみてのお楽しみという事で」
「そんな妖しげなものを飲むわけないでしょう」
「だったら、教えたら飲んでくれますか?」
「…ものによります」
「じゃあ、教えません。飲んでください」
 強制はしないまでもその笑顔に威圧感を感じるのは気の所為だろうか。何が何でも飲ませてやる、そんな気迫が伝わってくるのは。
 だが、飲めといわれて飲めるはずもない。
「お断りします」
「仕方がありませんね」
「え?」
「じゃあ、翔に飲んでもらおう」
「は?」
「ええ!?」
 櫂の突然の発言に、瀬那どころか翔も驚いている。翔はこういうことに関しては嘘がつけない性質だから本当にこの言葉に関しては仕組んだ訳ではなさそうだった。
「僕は別に翔に飲んでもらっても困らないんだけど」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!何でオレが飲まなきゃいけないんだよっ」
「水落先生が飲みたくないって言うから」
「いやだっ」
「あ、そう。でも僕、翔になら力づくでも飲ませられるんだけどね」
 櫂の言葉は本気のようだった。
 櫂は翔に一歩一歩詰め寄っていく。それに合わせて、翔は一歩一歩後退る。
「ほら、飲んで、翔」
「いーやーだっ」
「か、櫂、やめなさい」
「…じゃあ、水落先生が飲んでくれます?」
「そ、それは…」
 あまりにもあまりな状況に瀬那が止めに入ると、櫂はにっこりと笑って振り返り、そう言った。
 翔が飲ませられるのは可哀想だ(たとえ共犯者でも)。けれど、自分が飲むのも後々のことを考えるだに恐ろしい。しかし、このままでは、本当に翔が犠牲になってしまいかねない。
 …ようするに、選択肢は一つしかないのだ。
「解かりました、飲みます」
 決死の覚悟で瀬那はそう言った。本当はかなり泣きたい気分である。
 櫂からそのミニボトルを受け取り、一息に飲み干した。
 飲んだ瞬間に、身体がカッと熱くなり、全身の力が抜けて、足に力が入らなくなってその場にしゃがみ込む。酔った時の症状に似ているが、これは違う。
「か、櫂…これは…」
「即効性の媚薬です」
 さらっと櫂が言う。
「媚薬…」
「大丈夫ですよ、副作用はありませんから。ちゃんと実験したし」
 実験?一体いつ、誰に対してしたんだろうか。翔もそう思ったらしく、代わりに櫂に訪ねた。
「オレは飲んでねーよな。一体誰にやったんだよ」
「会長にプレゼントしてみた」
「生徒会長…?」
「そう」
 その場合、それを飲むのは勿論会長の高遠ではなく、この場合…。
「そう言えば、三日前、永田先生体調不良とかって休んでたよな…」
「みたいだね」
「効き目、何回ぐらい?」
「生徒会長の話では五時間位はもったって」
「五時間!?」
「…ごじかん…」
 大声で叫ぶ翔の隣で瀬那は呟く。座り込んだままで何とも情けないが、立つ事も出来ない。しかも回数じゃなくて時間制。
 死ぬ。間違いなくそんなにされたら死ぬ。
 そんな悲観的な想いが瀬那の頭を過ぎる。
「別に、そのまま放っておいてもそのうち抜けるでしょうけど、さらに時間が掛かることは確かですね。そんなに耐えられます?」
「…」
「櫂、お前、鬼だな」
 表情も変えずに言う櫂に翔が突っ込む。
「何言ってんの。翔が言ったんだよ、ちゃんと大人のままのセナが抱きたいって」
「それは…そうだけど」
「だからって力づくなんて無理だし、お願いしたって尚更無理だし、こうするしかないじゃない」
「でも、お前、それオレに飲ませる気だったろ、さっき」
「うん」
「マジで本気?」
「本気」
「オレが飲んだら意味ねーだろ!?」
「そんなことないよ。翔がこれ飲んでセナを襲ったら、いくらなんでもセナも拒絶出来ないし、これを飲ませてセナを抱いたって結果的には変わらないね。ただ、明日寝込む人が二人に増えるだけ」
「…やっぱ、鬼だ、お前」
 翔が顔を引き攣らせて呟く。
 そんな翔を無視して櫂が瀬那の頬に触れる。ぴりっと痺れるような感覚に思わず目を閉じる。実際、今こうしているのだって結構辛いのだ。
 身体は熱いけれど、全然力が入らない。それだけでなく、熱はだんだんと上がっていくように思えた。
「このまま座っている訳にもいきませんから、ベッドに行きましょう」
 そう言って、櫂が瀬那の腕を取る。
「――――っ」
 瀬那の身体はびくりと反応して、その様子を、櫂は嬉しげに見つめた。少し触れられただけでこんなになるなんて、幾らなんでも信じられない。
 元々自分が感じやすい性質なのは解かってはいるけれど、こんなに酷くはない。間違いなく、媚薬の所為だ。身体の神経の一つ一つが過敏になっている。
「翔、そっちもって」
「あ、うん」
 櫂に頷いて、翔がもう片方の腕を取る。二人に支えられるようにして立たされ…否、立ってなど居ない。なにしろ、足には全く力が入らないのだから。だから、二人にそうして、引き摺られるようにしてベッドまで運ばれ、座らされた。
 今から二人に何をされるのか、解かりきっては居るけれど、そうなることに対する抵抗は抜けない。初めてではないにしても、だ。
 しかし、今の状況で抵抗らしい抵抗など、出来る筈もない。
「セナ、今、自分がどんな顔してるか、解かってる?」
「…顔…?」
「すげ、色っぽい」
 そう言って翔がキスを仕掛けてきた。顔なんて、鏡もないのに解かる筈がない。あっても嫌だけれど。するりと舌が口内に滑り込んできて、瀬那のそれを絡めとる。きつく吸われると、背筋から這い上がってくる快感に思わず翔の背に腕を回した。
 不意に、背筋をすぅっと撫で上げられた。
「んぅ―――っ!」
 声を出そうにも、それは翔とのキスで全て掻き消えた。
「んっ、んん…ゃ…」
 力の入らない指で翔の服の裾を引っ張る。
 翔のキスに翻弄されている間に櫂がシャツ越しにあちこち触れてきて、もう気が狂いそうだ。快感は増長されるばかりで、逃げ場がない。
 何かを訴えようにも口が塞がれていてはそれも出来ない。
 それほど多く触れられた訳でもないのに、既に身体はぐるぐると中を駆け巡る熱の解放を求めている。けれど、二人は其処に触れる事はなく、ただ瀬那の快感を煽っていくばかりだ。
 ようやく口唇が離された時には、息が上がってまた話す事など出来ない状態だった。
「は…ぁ…はっ…」
「本当に、すごく色っぽい」
 櫂が耳元で囁く。顔が熱い。顔だけじゃなく、身体全部が。
「か…い…」
 少しでも息を整えながら、櫂に呼びかける。
「触って…もう…焦らさ…ないで、ください」
 なりふり構ってなど居られない。
 この二人に抱かれるのが嫌だとも言っていられない。
 だってこの熱は留まる事なく瀬那の身体を駆け巡り、更に熱くなっていくのだから。少しでも解放されるのなら、誰でもいいからイかせて欲しい。
 そうして、瀬那が理性を手放して、何もかもを二人に委ねてしまおうと思った時。
  コンコン
 突然ドアがノックされて、はっとする。ぎくっと身体を強張らせる瀬那に櫂が人差し指を口許に当てて立ち上がる。
「セナ、ベッドに寝て」
 翔に促され、寝かせられる。
 櫂がドアを開けて出る。此処からは見えない。だから、声さえ出さなければ気づかれない筈だ。
「あれ?御園生。水落先生は?」
「体調が悪くて寝てるんだ。どうしたの?」
「同室のやつが熱だしてさあ。薬、何かもらえないかと思って」
 身体が辛いのを誤魔化すために、つい声の方に意識を集中させる。しかし、突然翔が、布越しに瀬那自身に触れてきた。
「っ――!」
 思わず声が出そうになるのを、翔の手が塞ぐ。
「声、出すなよ。聞こえちゃうだろ?」
 だったら、煽るようなことは止めて欲しい。そう思っても口に出すことは出来ない。翔の手は瀬那自身を撫で上げ、煽る。今口を開けば、碌な言葉を話すどころか、その生徒にまで聞こえてしまいかねない。
「っ、…っん……っ…」
 口を塞ぎ、必死で声を殺す。
「これ、使いなよ。解熱薬だから」
「ああ、サンキュ」
 生徒が部屋を出て行くとようやく息を吐いた。
「お待たせ」
「あの…薬…」
 瀬那が心配げにドアの方向を見ると、櫂が呆れたような溜息を吐いた。
「本当にただの解熱剤ですよ。あなた以外の人に何か飲ませたって面白くないでしょう?」
「…そういう、問題ですか」
「問題ですよ、僕にとっては。でも、いいんですか?そんな憎まれ口を利いて。そんなことを言ってるとイかせてあげませんよ?」
 櫂の脅し文句にぎくっと身体を強張らせる。
 その瀬那の様子を見ながら、櫂はにっこり笑う。
「イかせて欲しいんでしょう?」
 そう言って、すっと服の裾から手を滑り込ませてくる。直接肌に触れられる手に、否応なく身体は反応する。
 櫂の手が胸の突起に触れる。指で捏ね回されるとそれだけでイってしまいそうなほど感じる。
「あ、…ああっ…櫂…あ…っ」
 翔は瀬那のズボンのボタンを外し、下着越しに其処に舌を這わせた。
「もう、こんなに濡れてきてる」
 くすりと笑う声がして、下着越しに舐められて、そのもどかしさに身体を震わせる。
「ああ、や…っ、翔、…翔…お願い、イかせて…っ」
「いいよ」
 翔はそう言ったかと思うと、瀬那が下肢に纏っていたものを全て取り払い、直接それを口に含んだ。
「あ、はぁっ…」
 直接的な快感に瀬那は熱い息を吐く。
 それに舌が這わされ、愛撫され、瀬那の理性は焼き切れた。
「翔、翔…っもう、あっ…ぁあああっ!!」
 そのまま翔の口腔に欲望を吐き出す。
 ようやく一度精を放出しても、身体の熱はまだまだ収まらない。瀬那は完全に理性を手放し、二人に身を任せた。


 今のところ、全て計画通りだ。
 瀬那が快楽に弱いのは、何度か抱いた事があるから解かっているし、一度瀬那が固執している理性を取り払ってしまえば、驚くほど快楽に従順になる。
 瀬那のアナルに慣らすために指を入れる。媚薬の所為か、熱く、汗で濡れているけれど、矢張り潤滑剤は必要だろう。
 櫂はズボンのポケットから先程と同じミニボトルを取り出した。
「櫂、それ…」
「実はもう一本あったんだ。慣らすのに丁度いいでしょ」
「つーか、流石にそれ以上やるのはヤバいって…」
 翔が呆れたように言う。瀬那は櫂の言葉に驚いたように目を見開いて後退ろうとする。櫂は翔の言葉を無視して、瀬那を押さえつけてボトルから指に液体を落とし、瀬那のアナルへと差し入れた。
「や、やめ…っ…櫂…っ」
 力の入らない身体では抵抗もままならず、櫂は瀬那の感じる場所を探るように指を動かした。
「はぁ…っ、あ…んっ」
 瀬那の口からは絶え間なく熱い息が零れる。顔は赤く染まって、潤んだ瞳がとても色っぽい。どう考えたって誘っているようにしか見えない。そうした原因が、自分自身だということも解かってはいるけれど、早くこの瀬那を抱きたいという欲求は増すばかりだ。
 中を探りながら、少し濡らした程度ではまだ足らないようで、瀬那の足を抱え上げた。
「か、櫂…っ、な、何…っ」
 何をするかはもう予想はついているだろうに。
 櫂は指で其処を広げて、ボトルの中の液体を一気に其処に流し込んだ。
「あっ…ぁあああっ、あ、あつ…いっ…」
 殆ど悲鳴に近い。直接肌に沁み込んでいくから、余計に効くのだろう。櫂はアナルにもう一度指を差し入れ、掻き回す様に動かした。
「ふぁ…あ、櫂、櫂…っ、お願いだから、もうや…っ」
「やめても、辛いのは瀬那だよ」
 そう言いながら指を三本入れる。櫂がそうしているうちに、翔は瀬那の背後に回って身体を起こし、抱きこむようにして首筋に舌を這わせた。
 後ろから、瀬那のネクタイを解き、シャツのボタンを外していく。
 翔も、何だかんだと言って、瀬那の姿態に興奮しているのだ。早く入れたいのだろうけど、今回は自分が先だ。
「入れるよ、セナ」
 そう宣言して、いっそ一息にもう既に勃起している自分のペニスを突き入れた。
「ん、くっ…あぁ…っ」
 掠れた声でうめいて、締め付けてくる。それだけてイってしまいそうになるのを押さえ込んで、腰をゆるりと動かした。
「ふぁ…っ」
 ぴくんっと、瀬那の前が動く。今はどんな刺激だって快感になる。圧迫感はあっても挿入の痛みは殆ど感じなかったはずだ。
 だから、今の瀬那はただ諾々とその快楽を受け入れていくしかない。
 後ろに回っている翔が、瀬那の胸の突起を爪先で弾く。
「あっ…翔…っ、あぁ…あ、あ…っ」
 翔は調子に乗って其処を弄っている。櫂もそれに合わせる様に動き出した。
 瀬那は何か縋りつくものを探すように手を彷徨わせた。その瀬那の右手を翔が、左手を櫂が、しっかりと握り締める。
「ん、んっ…ぁ、あ…っ…ぁあ…ぁふ…っぅ…」
 瀬那の口からはひっきりなしに嬌声が零れ落ちる。
 その声が尚更櫂と翔を煽る。櫂は動きを段々と激しくして、翔は、瀬那の首筋に強く吸い付いた。
「あっ、あ…っ……ぁあ――――っ!!」
 背を大きく撓らせ、瀬那が果てる。それと同時に中が強く収縮し、櫂も瀬那の中に放った。
 ずるっと其処から自分のものを引き抜くと、瀬那はぴくっと反応する。ぼんやりとした顔で櫂の顔を見つめている瀬那にキスをする。
 舌を絡めとリ、きつく吸い上げるとびくびくと身体が震えた。薬の効果は、まだまだ切れない。今度は翔が瀬那の前に回った。


 櫂が瀬那の前を翔に譲るようにして退いた。
 瀬那の顔を覗き込み、視線を合わせようとするが、たっぷりと蜜を含んだように濡れた瞳は翔を映しているのか解からない。
「セナ、次はオレだよ、解かる?」
 気遣うようにして訪ねると、瀬那は薄っすらと微笑んだ。
「翔…」
 名前を呼ばれてぞくりと背筋が震えた。
 こんな色っぽい声で呼ばれたら溜まらない。もう既に櫂に犯されている瀬那を見ているだけでかなり感じて、翔のものは張り詰めんばかりに大きくなっているのだ。
 瀬那の後ろに指を這わせて、穴を広げると、どくりと櫂が中で放ったものが出てくる。それだけでどうしようもなく興奮した。
 媚薬の所為か、瀬那自身はまだ勢いが衰える事はなかった。ぴくぴくと震えて、早く次の愛撫を待ちわびているように見える。
 翔はそれに答えるように、張り詰めている自分のものを、其処に挿入した。
「あ…っ、んんっ」
 櫂のものが中に残っている所為か、比較的すんなりと入った。
 ゆっくりと動き出すと、瀬那の腰がそれに合わせて揺れた。
「んぁ……あ、ふ…っ」
 鼻に掛かったような声がたまらない。
 翔とは逆に瀬那の後ろに回った櫂はと言えば、翔のものが入った其処に指を這わせて、差し入れた。そして、まだ中を広げようと動かした。
「櫂、お前…っ」
「これなら入るでしょ」
「おい…っ」
 流石に翔も慌てるが、そんなものはさらりと無視して、翔のものが入っている其処へさらに自分のものも突き入れた。
「やっ、や、あ、あああっ…あぅ…っ」
 瀬那は苦しげにうめいて、翔にしがみ付いてきた。ただでさえ櫂のものがあってきつくなったのに、苦しさに力を入れてしまったせいで更に締まる。
「ぅ、ぅ…く…っ」
 とうとう、瀬那は嗚咽を洩らして泣き出してしまった。
 翔だって共犯者だし、慰めるのもお門違いだろうが、流石に可哀想になってくる。何よりも、自分達は瀬那が好きで、守りたくて、愛しているから、だから、泣かせたい訳じゃない。
 こういうことをするのだって、結局最後は瀬那が許してくれると解かっているから自分達が甘えているだけなのだ。どんなに酷い事をしたって、泣いたって、瀬那は二人を責め立てたりはしないだろう。それが解かるだけに、流石に責任を感じる。
 瀬那の肩越しにじろりと櫂を睨みつけると、苦笑いを返してきた。
 翔は呆れて溜息を吐く。
 仕方がないと、肩を竦めて、殆ど混乱して我を忘れている瀬那の顔にキスをした。
 涙が次々と頬を伝う。それを舐めとりながらあやすようにキスを繰り返す。
「んっ…ふ…ぁ…」
「セナ、力抜いて」
 優しくそう言ってやると、ぎゅっと目を閉じていた瀬那が翔を見る。瀬那の前を握り込み、軽く扱いてやると、甘い吐息を洩らした。
 少しずつ力が抜けていくのを感じてゆっくりと動くと、瀬那もそれに応えるように腰を揺らした。多分、大丈夫だろう。櫂もそれを感じ取ったのか、一緒に動き出す。
「あ、あ…んっ…く…っ」
 二人の動きがずれるので、動きにあわせることも出来ず、ただ翔にすがりついてくる。櫂はしっかりと瀬那の腰に手を回し、支えている。
 中は二人分入っているから当然きつくて、互いの動きに煽られながら、上り詰めるのもまた早かった。律動を早めながら、瀬那を追い立てていく。
「ああ、あ…あ…く…んんっ…」
 溢れる涙は止まらないけれど、それは苦痛によるものではなく、快楽によるものだろう。段々と互いに追い立てられ、限界も近い。
 最後には二人同時に最奥まで突き入れた。
「んぁ、ぁああああっ!!」
 瀬那は嬌声を上げ、達した。翔と櫂もまた、瀬那の中に放つ。
 翔の肩に凭れながら、瀬那はぐったりとしている。翔はゆっくりと其処から自身を引き抜いた。その時にどくどくと二人の放ったものが其処から零れ落ち、シーツを濡らした。
 けれど、櫂はそのまま、また少し腰を揺らした。
 ぴくっと反応して瀬那は櫂を見る。そんな瀬那ににっこりと笑いかけながら、櫂は言った。
「まだ、薬は切れてないですよね?」
 瀬那は怯えたように腰を引こうとしたが、櫂にしっかり掴まれているのでそれも出来ない。翔は流石に頭を抱えたくなった。いや、実際薬が切れるまでちゃんとしないと辛いのは瀬那だろうけど。
 でも、やっぱり酷い。
「櫂、お前、やっぱ鬼だ」
 そう言いながら、結局まだまだ自分も付き合うのだろうと思うと、瀬那に何回謝っても足りないだろうな、と溜息を吐いた。
 そしてその後五時間どころか、さらに長い間薬の効き目は続き、その間二人は瀬那を貪り尽くしたのだった。





 翌日、瀬那は完全にベッドの住人と化していた。
 顔色も悪く、つかれきった様子でぐったりとベッドに横たわっている。
「流石にこれは許して貰えないかなあ…」
 翔は溜息を吐いて言った。
「そう?瀬那なら大丈夫だと思うけど」
「お前、実はオレ以上に楽観的だろ…。それにしても、お前、元気だな…オレなんて途中でリタイアしたのに、最後まで…」
「翔の精力が足りないんじゃない?」
「お前は有り余ってんだな、精力が」
 翔はがっくりと肩を落とす。
 何処までも悪びれない櫂に対して、諦めの溜息を吐いた。今後はもっと自重しよう。
 すると其処に、行き成りドアを開けて来栖が入ってきた。
「逢坂先輩、どうしたんです?」
「どうしたもこうしたも、お前ら、昨夜何してた?」
「何って…」
「水落先生の具合が悪そうなんで、二人で看病してたんですよ」
 本当に悪びれずに櫂がそう言うのに、来栖は眉間に皺を寄せた。
「じゃあ、何でセナは裸なんだよ。しかもあっちこちにキスマーク!つーかもう、お前らがセナに手を出すのは勝手だぜ?オレにゃ関係ねえよ。だけどなあ、翌日に支障来すほど致したり、杏里ほっぽって一晩戻らないのは問題あるだろうが!」
 来栖の言う事はもっともである。けれど杏里が一体どうしたのだろう。
「昨夜、杏里は逢坂先輩のとこに行ったんですか?」
「ああ、来たよ。『翔くんが部屋に戻ってこない〜』って泣きながらオレの部屋に!おかげで一晩中杏里のお守させられたんだからな!お前らがお楽しみの間!」
「あははは…」
 翔は苦笑いを洩らした。
 来栖はその翔の様子に仕方がなさそうに溜息を吐いて、瀬那に視線を移した。
「大体、こんな顔色悪くなるまで何やってんだよ。ていうか、普段の状態ならセナは絶対ヤらせる訳ないんだろうから、薬ぐらい盛ったんだろうけどな…。次からはこういうのは止めとけよ。特におっさん辺りがこんなこと知ったら卒倒しちまう」
「東堂先生には黙っててくれますか」
 櫂がそう聞くと、来栖は頷いた。
「当然だろ。あのおっさんまでぶっ倒れたら洒落になんねえ。兎も角、あのおっさんがセナを心配して見に来る前にちゃんと服着せて後始末しとけよ。オレは杏里起こしてこねえと」
「昨日、千倉と何してたんです、逢坂さん」
「何にも」
「へえ、手を出さなかったんですか?」
「何でオレが杏里に手を出すんだよ」
 来栖は険しい顔をして櫂を睨み付けた。
「確か、気に入った子は片っ端から、って噂を聞いたもので」
「ふざけんな!大体、オレが今手を出したいやつはお前らと同じだよ。それでもお前らのことは尊重してやってんだ。感謝して欲しいぐらいだぜ」
 そう言い残して、来栖は部屋を出て行った。
「…あれは、ライバル宣言ってとってもいいのかな?」
「というか、やっぱり此処は感謝するべきだろ、櫂」
 不穏な事を口にする櫂に、翔が突っ込む。杏里なんて、翔が戻らなければ本当に心配するのは当然だし、其処に気が回らなかった自分が悪い。それを来栖に慰めてもらった訳だし、今回のことも、ようするに見逃してくれる訳だから。
「でも、ライバルはライバルでしょ」
「櫂〜、お前、少しは反省しろよ」
 翔はがっくり肩を落として溜息を吐いた。
 やっぱり次からはもう少し自分が櫂を抑えなければならないと、つくづく実感した翔であった。



Fin





小説 B-side   Angel's Feather TOP