夢の庭3



 さて、行き成りだが、もうすぐ櫂と翔の誕生日である。
 誕生日と言っても学校は休み。春休みである…が、寮生のほとんどは家に帰らない。翔やセナのように帰る家がないものも居れば、櫂のように面倒だと言って帰らない者もいる。
 杏里も母が入院中なので寮に残っている。
 さて、この二人、現在進行形でセナこと水落先生に熱烈片想い中である。もうすぐ誕生日。これを期に一気に距離を縮めたい、と思うのは二人とも一緒である。と、いうことで何とこの二人、恐ろしい事に協力関係を結んでしまった。
 二人でお願いすれば水落先生が逆らえない事を知ってのことである。
「セナ、俺たちの誕生日覚えてると思う?」
「忘れてる訳ないよ。養子に行ってからは誕生日プレゼントは贈られてこなかったけど、忘れた年なんてないね、きっと」
「そうだよな」
 すごい自信である。
「で、どうする?」
「当然。この日のために秘密兵器を用意したんだ」
「あー、俺が実験に付き合わされたやつ?」
「うん、副作用もないって解かったしね、実行するよ」
「楽しみだな」
 ふふふ、と二人は笑いあう。
 何とも末恐ろしい二人である。



 で、誕生日当日。
「水落先生」
 寮監室には翔一人が行った。櫂が行っては怪しまれる可能性があるので。
「ああ、羽村くん。どうかしましたか?」
「うん、水落先生、昨日からちょっと頭痛がするって言ってたよね?」
「ええ…そう言いましたが…」
「これ、頭痛薬。俺が知ってる中で一番効くんだ。試してみてよ」
 にっこり笑って翔は一個のカプセルを渡す。
「ありがとうございます」
「早速飲んでみてよ。即効性なんだ」
「ええ…そうですね」
 全く疑っていない。翔は内心にやりと笑う。
 セナは水を汲んでそのカプセルを飲み込んだ。翔が行くと此処まで疑われないものなのか。自分の人畜無害さを改めて実感した翔である。
 そして、次の瞬間。
「え?」
「やったーーーーッ!!」
 セナは激しく混乱していたが、翔は思わずガッツポーズ。
 セナの姿は見事、翔と櫂が予想したものになった。セナの姿は翔たちより小さく、12歳くらいだと思われる。それだけでも十分異常だが、さらに犬耳と尻尾まで生えている。
「成功したみたいだね」
「おう、ばっちり!」
 次に櫂が部屋に入ってきて、その後ろには杏里とクリスまで居た。
「……一体どういうことなのか、説明して貰えませんか、二人とも?」
 セナは今回の首謀者であろう、翔と櫂を睨みつける。が、こんな可愛い姿で睨まれても迫力は半減どころか全くない。
「今日は何の日か、解かりますか?」
「今日…ですか?」
「ええ」
「今日は…………」
 長い沈黙の後、思い当たったのか、セナは長い溜息を吐いた。
「…今日は貴方達二人の誕生日ですね」
「ええ」
「で?」
「誕生日プレゼントの代わりに、水落先生には今日一日この姿で居て貰おうかと」
 にっこり笑ってあっさり言う櫂にセナはまた溜息を吐いた。
「眼鏡、大きすぎますね、これじゃぁ。外した方がいいですよ、どうせ伊達なんでしょう?」
「あ…」
「服も大きいよね。ほら、大体のサイズだけど、多分合うと思うからこれに着替えて」
「…はぁ」
 櫂からは眼鏡を取り上げられ、翔からは紙袋を渡された。最早反論する気力も起きなかった。頭痛薬として薬を貰ったが、その薬のおかげで更に頭痛が増した気がした。
「それにしても、可愛い姿になったなぁ」
「僕よりも小さ〜い」
 クリスと杏里は暢気な感想を洩らした。
「そんなにじろじろ見ないで下さい」
「だって可愛いし」
「思ってた以上だよな」
 櫂と翔は上手く行ったことに気をよくしている。
「困りますよ。今日は春休みと言っても職員会議があるんですから――…」
「あ、それは大丈夫です。学園長に許可を貰ってますから、そのままの格好で会議に行っても何の問題もありません」
「…若林学園長に…ですか?」
「ええ」
 きっちりその辺のことも手回ししている櫂の手際の良さもさることながら、それを許可する学園長もどうだろうと、セナは思う。ようするに、学園長も共犯者なのだ。さて、それで問題なのが、この学園の教師のどれぐらいがその事実を知っているかという事で…。
 コンコン、と其処でノックがした。
「水落先生、ちょっと話が―――…え?」
 其処に現れたのは東堂紫苑で、セナの姿を見たとたんに固まってしまった。
「……どうなってるんだ、これは??」
 最早何をどう考えたらいいのか解からない紫苑である。目の前にあるのが何なのか冷静に考える事を脳が拒否している。
「…東堂先生には、話してないんですね?」
「ええ、話したら反対されそうなので」
「当然です。もしそんなことになっていたら、私は今頃人間不信に陥っていますよ」
「…それはそれで可愛いですけど」
 セナの言葉に少し考えるようにして櫂が言う。その言葉にセナは思い切り脱力した。
「…その、それは…ひょっとして、セナ…?」
「おっさん、鈍いぜ。この状況でこうなっててこれがセナ以外の誰だと思うんだ」
「いや、しかし…」
 実際目にしてみても、普通これを現実として受け入れるには無理があるだろう。
「でも、可愛いでしょう?」
「ああ、それは、確かに」
 櫂の問いに素直に答えてから紫苑ははっとする。セナを見てみればぎろっとこちらを睨んでいる。が、そんな姿も可愛いとしか言い様がない。でも、このままでは本当に人間不信に陥るかも知れない、と紫苑は慌てた。
「と、兎に角。これはどうやったら元に戻るんだ?」
「明日になれば自然に戻りますよ」
「今日は職員会議があるんだぞ?」
「大丈夫です、若林学園長も承認済みです」
 紫苑の言葉に櫂はさらさらと答える。流石である。
 これ以上の言葉が出てこずに紫苑が悩んでいると、何時の間にかセナは翔と杏里に着替えさせられていた。淡い緑色のセーターに大きめのハーフパンツ、白いふわふわした靴下…。
「…っ!!」
 一瞬紫苑の脳内がばら色に咲いた。
「おっさん」
「…」
「これで、おっさんも共犯者だな♪」
 クリスは嬉しそうにニヤッと笑った。ぽんっと肩を叩かれても、最早紫苑に反論する術は残されていなかった…。


 さて、当のセナはずっと不機嫌だった。
 あれから二時間絶っているが、入れ代わり立ち代り寮生達がやってきては、セナを「可愛い可愛い」と言っていく。まるで動物園の動物にでもなった気分である。
 自分は見世物でも動物でもないはずだ。
 …多分。
「はぁ…」
 今日何度目かの溜息。
 翔と櫂はこんなことをして何が楽しいのだろうか。大体、当の翔と櫂は寮生が見に来る分には怒らないが、少しでもセナに触ろうとするとすごい勢いで追い出していく。
 本当に、どうなっているのだろう、これは…。
 しかし、誕生日プレゼントと言われれば何も言えない。一度たりとも二人の誕生日を忘れた訳ではなかったが、今年はやたらと忙しく、その上彼らは寮生で生徒である。二人を特別扱いして誕生日プレゼントを渡す訳にも行かず何も用意していない。だからこそ強く出られないのである。
 ふと、時計を見ると、午後二時を指していた。職員会議は二時半からだ。そろそろ出なくては。
「翔、櫂。そろそろ…」
「ああ、職員会議の時間ですね?すみません、長い間拘束してしまって」
「いえ…」
 そんなことを謝られるよりもこの状況を何とかして欲しい。が、文句を言っていても仕方ない。寮監室を出て学校に向かう。
 大人ならたいした事はない道のりだが、子供の足では少し遠いように思えた。小走りで学園に向かいながら、この格好を他の教師に見られると思うと、顔から火が出そうだった。が、だからと言って職員会議をサボる訳にもいかない。何と言っても、若林学園長は理由を知っている。と、いうことは、側近である榊原乱が理由を知らない筈もない。
 …出ない訳にはいかないのである。
 学校について、会議室に向かう途中ひょいっと抱き上げられた。
「っ!!」
 自然と耳と尻尾がぴんっと立った。
「水落先生」
「…榊原先生…」
 低く渋い声。これは紛れもなくランのものである。セナを抱き上げたのはランだったのだ。
「この格好では何かと大変でしょう。私が会議室までお連れしますよ」
「一人で歩けますっ」
「そう言わずに」
「下ろして下さいっ」
「まぁまぁ」
「…お願いですから」
 しかし、それでも聞き入れられる様子はない。新手の苛めを見つけて愉しんでいるのだろう。ランとセナは仲が悪い訳ではないが、何故かランはセナを苛めてくる。
 それも解かり難く。
 いつの間にか、あれ?と思うようなことで。
 だから、セナはランが苦手だ。だが、それに臆していると思われるのも癪だ。今回の職員会議もランに侮られたくない、というのが大半の理由で、教師としての義務は残りの少数である。
 ランはセナを抱き上げてつれながらくすくすと笑っている。
「本当に可愛い姿になりましたね」
「放っておいてください」
「そうやって拗ねてみても、可愛いだけですよ」
「拗ねてません」
「拗ねているじゃないですか。まぁ、大きくても小さくても、可愛いのは一緒ですがね」
「え?」
 ランの言葉に軽く目を見開くと、にっこりと笑顔が返って来た。
「本当に苛めがいのある方で可愛いですよ」
「…」
 セナはがっくりと項垂れた。すると、不意に頭を撫でられる。
「耳も、ホンモノなんですね」
 触るとぴくっと動く。ゆっくり撫でるとぴくぴく震えた。
「…っ」
 顔を見ると真っ赤な顔をして目を閉じている。
「どうしたんです?」
「…くすぐった…ぃ」
「耳を触られるのがですか?」
 そう言ってもう一度撫でるとまたぴくっと震える。
 面白い。
 何よりも真っ赤になったセナが可愛い。
「そんな顔をしていると、勘違いしてしまいますよ?」
「え?」
 何を、と問おうとして不意に頬に柔らかいものが触れた。一瞬後にキスをされたのだと悟る。
「キスを強請られているように見えます」
「…っっ!!」
 そう言われて、セナの顔は更に赤くなった。
 もう、恥ずかしくて仕方がない。一体どうしてランは自分ばかりこんな風に苛めるのだろう。羞恥も行き過ぎると泣きたい気分になってくる。
「榊原先生」
「おや、東堂先生」
 声を掛けられ、ランは振り返る。セナはそれにほっとしたような顔をした。それは少し面白くない。
「水落先生を苛めるのはその辺でやめなさい」
「苛めてるんじゃありませんよ。可愛がってるんです」
「少なくとも、水落先生は嫌がっているように見えるが」
「そうなんですか?」
 そう問いかけられるとセナも言葉に詰まる。正直に嫌だと言う事はセナの性格上出来ない。ランにしても悪意はないのだ。
 …多分。
「…あの、どちらにしても、下ろして貰えませんか?会議室にも着いたことですし…」
「ああ、そうですね」
 直接の言葉は避けて開放してもらう。
 やっと下ろして貰えて、セナはほっと息を吐いた。
「大丈夫か?」
「ええ…何とか」
 心配する紫苑に、セナは苦笑を返して答える。
 会議室に入れば好奇の目に触れる。他の教師にも既に伝わっているようだった。居たたまれない。
 セナは尚更深々と溜息を吐いた。



 夕食も終え午後九時。
 セナはぐったりと疲れてベッドに倒れこんだ。
 例え食事中でもじろじろと見られ、気の休まる時がない。
 明日になれば元に戻るとはいえ、もうこんなことは勘弁して欲しい。通常はありえない耳と尻尾もさることながら、小さくなり、身長もなければ腕も細い。頼りない自分に情けなくなる。
 こんな自分ではあの二人を守れない。
 こうしたのがあの二人でなければ、今頃セナは怒り狂っていただろう。強くなりたい、あの二人をちゃんと守れるくらい強くなりたいとずっと願い続けて、今のセナがあるのだから。それを行き成り、何も出来ない十二歳の姿に戻されたら、多分正気ではいられない。
 あの二人が望んだから、今のこの姿にだって耐えているのだ。
 コンコン、とノックする音が聞こえる。
「はい?」
「水落先生」
「失礼します」
 入ってきたのは、今回の元凶である翔と櫂だ。
「どうかしたんですか?」
「ん?だって俺たち、セナをこんな姿にしたけどさ、ちっともセナに構って貰ってないじゃないか」
「え?」
「そうそう。他の寮生たちがやってきて構って貰うどころじゃないし、職員会議に行っちゃうし…」
「だから」
「今から日付が変わるまで、僕たちと過ごしてください」
 二人の申し出に、セナは苦笑する。
 まだ、今日一日は終わってないということか。
 そう思ったところで翔にすっと抱き上げられる。翔はベッドの上に座り、セナを膝に乗せた。
「翔?」
「セナ…僕たちの本当の誕生日プレゼントは…」
「え…?」
「セナ自身なんだよ」
「んぅ…っ」
 櫂に行き成り口付けられて、セナは身じろぐが、身体を翔に押さえられていて逃れられない。翔はセナの下半身に手を伸ばした。
「翔…櫂…!?」
 突然のことに、セナは状況についていけない。一体何がどうなっているのだろう。こんな状況は思ってもみなかった。
「セナ…気づかなかった?」
「僕たちが、セナを僕たちの守護者として以上の感情で見てること」
「え?」
 問い返そうと思ったところで、翔がズボンのボタンを外し、セナの中心を握りこんだ。
「ぁ…っ。翔…ァ…んっ…」
「セナ…可愛い」
 翔が、セナの犬耳に口付けるようにして囁く。セナはそれだけで感じてしまい、ぎゅっと目を瞑った。
「セナ、こっちを向いて」
「…んっ…ぁ…櫂…っ」
 櫂がセナの頬に手を添えてキスをする。舌を絡め取られて口内を嬲られる。そうかと思えば翔の手がセナを段々と追い詰めていく。
「やぁ…んっ…ぁ…ゃ…やめっ…はぁ…ぁっ」
 二人に煽られて、セナは息も絶え絶えになる。
 櫂の手がセナの着ているセーターを脱がせる。そして肌に指を滑らせると胸の突起に触れた。
「ぁ…ん……っ…ゃぁ…っぁ…んんっ…」
 少し触れるだけでセナはびくんっと震える。櫂はそれに気を良くして片方を口に含み、もう片方を指で捏ね回した。
 翔はセナのズボンを完全に脱がせ、最奥に触れてくる。
「はぁっ…ァ…んっ…翔…っ…か、い…ぁ…」
 翔はセナの中心から溢れる先走りを掬い取り、入り口に塗りこめ、解していく。櫂は胸の突起が赤く立ち上がるのを見て楽しげに愛撫を続ける。少し歯を立てて見ればセナは高い声を出して背を撓らせた。
「んぁ…ぁあ…ゃ、めて…櫂…翔…っ…」
「やめていいの?セナのココはもうひくついてるよ」
 そう言って翔は其処に指を入れる。吸い付くようにさらに求めるように熱い場所が蠢く。
「此処も、こんなに立ち上がってるし、ね」
 櫂は突起に爪を立てて言う。
 二人から与えられる快楽に、セナの瞳からはぽろぽろと涙が溢れ出した。
「ふっ…ぅ…っ」
「セナ…好きだよ」
 櫂はそう優しく言って、セナの瞳から零れる涙を舐め取る。
「セナ…俺たちを見て。俺たちはもうただ守って貰うだけの子供じゃないよ。セナは俺たちのことを弟のようにしか思ってなかったかも知れないけど、俺たちはずっとセナにこうしたかったんだ」
「セナを守りたい。ずっと、苦労をしてきたセナだからこそ。僕たちは守りたいんだ」
「んんっ…はっ……ぁ…」
 櫂も翔も真剣な声で言う。だが、セナは快楽に流されて言葉をつづる事が出来ない。
 翔はセナの中にある指を増やし、解していく。そうしながらセナの感じる場所を探す。ある一点に擦るように触れると、セナは悲鳴を上げた。
「ぁああっ!…ぁっ…ゃあっ…翔っ…はぁ…っ」
「此処が、いいんだね?」
 そう言って其処を集中的に攻め立てる。櫂はセナの首筋に吸い付いた。赤く残る所有の印。櫂は体中にその跡を残していく。
「セナ…好きだよ。大好き」
 指を三本に増やし、翔は尚もセナを攻め立てる。身体はびくびくと震え、快楽は留まる事を知らない。
「んっ…ぁ…もうっ…ぁ、ああっ…」
「もう…どうしたの?」
 翔が優しく残酷に聞いてくる。指は尚もセナを攻め立てるのに、解放されるには遠い。
「もうっ…入れて…くださ…っぁ…んんっ…」
「うん。いいよ」
 翔は優しく言って、セナの髪に口付け、腰を持ち上げる。翔のものがゆっくりとセナの中に入ってくる。
「んっ…く…ふっ…」
 小さな身体では矢張り苦しくて、息が詰まる。十分に解してあるからあまり痛くはないけれど、それでも辛い。
「セナ、こっち」
 櫂がセナの顔を包み込むように掴んで、キスをする。
「はふっ…んぅ…ん、ん…ぅ…」
 櫂のキスは優しくて深い。舌を絡めとりながら、唾液を流し込む。セナが飲み下し切れなかった唾液が口の端から零れた。そのキスにセナが気を取られている間に、翔のモノが全てセナの中に収まる。
「動くよ?セナ」
 翔は耳元で囁きながらそう言うと、ゆっくり腰を動かし始めた。
「は…ぁっ……あ…ん……ぁあ…」
 その律動に合わせるようにセナの口からは甘い声が零れる。
 セナは小さな身体で翔を締め付ける。それが尚更愛しくて、翔は動きを激しくした。
「ん、翔…ぁ、あ…ふっ…んんっ…」
「翔ばっかりずるいよ」
「待って。次は櫂にさせてやるから」
「いいよ。僕はこっちを貰うから」
「ぁ…か、い…?…ぁあっ!」
 櫂はセナの前に跪き、先走りの溢れる其処を口に含んだ。まだ大きくはなりきっていない其処を丹念に愛撫する。
「ひぁっ…ぁ、…ゃ、あ…もうっ…だめぇ…」
「いいよ、セナ。イって」
「僕の口に出して良いから」
「…ぁ、あ…はぁっ…ぁああ―――っ!!」
 翔はセナを強く突き上げ、櫂は合わせるように其処を吸い上げた。セナは耐え切れず精を放つ。それに合わせる様に翔もセナの中で果てた。
 セナは翔の膝の上でぐったりとする。
「セナ…疲れた?」
「…ふっ…ぅ」
「でも、まだだよ」
「…え?」
「日付が変わるまでって、言ったよね?次は僕の番だよ」
 そう言って、今度は櫂がセナを抱き上げる。
「翔のモノが中に残ってるから、すぐに入れても大丈夫だよね?」
 櫂は優しく笑いながら言うが、言っている事は結構残酷である。そして、間を置かずにセナを後ろから突き上げた。
「セナ…俺の、舐めて?」
「ぁ…っ…ふっ」
 最早二人の言葉に逆らう事など思いつかず、セナは促されるままに翔のモノを口に含んだ。
「セナ、大好きだよ」
「ずっと、僕たちと一緒に居てくださいね」
 言葉は優しい。だが、二人は残酷に、日付が変わるまでセナを抱き続けた。




「それで、私がプレゼントなら、どうしてこんな姿になる必要があるんです?」
 ぐったりとベッドに倒れこみ、少しでも身体を動かすのが辛い状況で、セナは二人に尋ねる。
 二人はセナを真ん中にして一緒に寝ている。
「だって、大きいままのセナを襲うのは流石に二人がかりでもキツイと思って」
「下手をしたら返り討ちにされそうだからね」
「…耳と尻尾は?」
「その方が可愛いでしょう?」
「……」
 セナは何も言わず溜息を吐いた。この二人には一生勝てない気がする。そう思いながら、二人の母親、真理さんににっこり笑顔でお願いされると逆らえなかった少年時代を思い出すのだった。
「セナ、ねぇ、どうせならずっとこのままでいない?」
「え?」
「ぁあ。いいね、それ。僕たち二人でセナを育てるんだ」
「…冗談じゃありませんよっ!」
「だって、セナはずっと若い頃から苦労してきたんだから、もう一度少年時代をやり直したっていいじゃないか」
「誰も居ない場所でずっと三人で過ごすなんていいよね」
「いいなぁ、それ。ずっと、三人で幸せに、か」
 二人はそう言いながら、実現は絶対に無理だと解かっている。翔にも櫂にも捨てられないものは沢山あるのだから。
「セナを、僕たち以外が居ない世界に連れて行きたいな」
「櫂…」
「いいよね、セナ。言うだけならタダだよ」
 二人の言葉に、セナは苦笑を返す。
「セナ大好きだよ。本当に」
「いつか、僕たちの気持ちに答えて下さいね」
 二人はそう言って、優しくセナを抱きしめた。



 元の姿に戻って数日。
 「まだあのままで居ればいいのに」とか「可愛かったのに」とか、そういう言葉をセナは散々聞かされる羽目になる。セナが元に戻ったのを見てほっと安心したのは紫苑だけである。
 そして、その小さかったセナの隠し撮り写真が周囲に出回ったのもごく当然のことである。売りさばいていたのが誰か、は極秘であるが。
 そして、元凶の翔と櫂の二人はと言えば…。

「要注意人物は、やっぱり東堂先生?」
「うん、理性的なように見えて煩悩に溢れてるからね、あの人」
 紫苑が聞いたら泣き出しそうな台詞である。
「逢坂先輩は?」
「油断出来ないね。今回は愉しんでただけみたいだけど…」
「杏里…は、別にいいか」
「安全圏安全圏」
 要注意人物のチェックに余念のない二人。
「学園長」
「あの人は…大丈夫だと思う。何となく」
「うん、何と言うか…愉しんでるだけだったよな、あの人」
「じゃぁ、最後は…」
「榊原先生」
 その名前を出して、二人は溜息を吐いた。
「あの人、前からセナに構い倒してるもんな」
「一番、厄介だよね、あれが」
「セナはただ苛められているだけだと思ってるらしいけど…」
「好きでもない人間をあんなに楽しそうに苛めるわけないだろう」
「無理無理。セナは気づかないって」
「でも、僕もあの人、苦手なんだよね」
「俺も…」
 二人して苦笑いを浮かべる。
「兎に角、要注意人物からセナを徹底的にガードしないと」
「こっちを意識してもらう前に誰かに取られたら洒落にならないからね」
 そう言って、二人は頷き合う。
 二人の協力関係はもう暫く続きそうである。



Fin





小説 B-side   Angel's Feather TOP