旅に出ている瀬那から、翔に手紙が届いた。 普段滅多に会えない恋人からの手紙に、翔は顔を綻ばせた。 いつも何処に居るのかも解からない恋人と連絡を取る手段はあまり多くない。そんな恋人からの手紙を喜ばない筈はない。本当は直に会いたいところだけれど、待っていると約束した以上、そんな我侭を言うつもりはなかった。 けれど、矢張り会えない寂しさがある。 今どうしているのか、元気にしているのか、何処にいるのか。 瀬那から送られてくる手紙には、翔や櫂たちの様子を尋ね、自分が今、何処で何をしているのか、どう思って暮らしているのかが書いてある。 何枚もの便箋に言葉が綴られていることもあれば、便箋の枚数は少なくとも一緒に写真などが送られてくることがある。瀬那の、向こうでの思い出を少し、翔に分けてくれるのだ。 ただ、この手紙が届いている頃には、大体もう別の場所に移動していたりするのだけれど。 早速手紙を明け、中を見ると、入っているのは手紙だけではない。どうやらそれは、石に紐を通した、ブレスレットのようなものらしかった。 手紙にはあまり長い文章は書かれておらず、翔たちの様子を尋ね、今何処に居るのかが書かれている程度だった。 そして最後にこう付け足してあった。 『一緒に贈ったブレスレットはペアになっていて、これをつけた者同士は同じ夢を見ることが出来るのだそうです。貴方と夢の中で出会えることを祈って』 ペアの片方は瀬那が持っているということなのだろう。翔はそのブレスレットを手にとって顔を綻ばせた。何よりも、同じ夢を見たいと願ってくれる瀬那の気持ちが嬉しい。 翔は早速そのブレスレットを腕に嵌めてみた。ブレスレットについている石には、何やら複雑な模様が描かれている。それに何の意味があるのか翔は読み取ることは出来なかったが、それでも不思議と心が落ち着き、石の部分を撫でた。 「本当にセナと同じ夢を見せてくれるんなら嬉しいけどな」 翔には詳しいことはよく解からないが、こういう迷信や伝承の類はよくあるのではないだろうか。信憑性のあるものがどれだけあるのかは全く解からないが、それでももし、夢の中ででも瀬那に会えるのなら会いたいと、そう思った。 そう願い、笑みを漏らした後、翔はベッドの中に潜り込んだ。 視界の一面は、何処までも続く果てしない草原だった。 時折吹く風にさわさわと草の擦れる音がする。 夢の中だ、と瞬間的に解かった。こんな一面、見渡す限り、地平線の向こうまで続く草原など、日本にありはしないのだから。 不思議と感覚はリアルで、夢の中とは到底思えないものではあったのだけれど。 何処までも続く草原と、天空には驚くほどたくさんの星が見える。月の光は見えず、むしろ星明りだけがこの草原を映し出していた。 一面の草原で、他には何もない。辺りを見回し、けれど、ふと視界にそれ以外の別のものが映った。 幾分離れた場所に立つ人影。どうやらこちらには気づいていないようだった。 翔はゆっくりとそちらに歩き出す。今すぐにでも走り出したくなる衝動を抑え、胸を高鳴らせながら、奇妙な確信を抱いて、その人影に一歩一歩近づいていく。 あと十メートル、というところで、人影が振り返る。 ザァッ、と風が吹いて、草を揺らした。 「セナ……」 振り返ったその人が、紛れもなく恋人の姿であると解かり、翔は驚きと嬉しさで自分でも奇妙だと思うような表情になった。今すぐ抱きつきたいと思うのに、どうしてかそれが出来なかった。 そうして、風に吹かれ、満天の星空の下で草原に立っているのを見て、それが、自分の知らない、異国での瀬那の姿のように思えてならないからだ、と気づいた。此処に立っている自分が、異質な存在なのではないかと思ったからだ。 触れれば、この夢ごと消えてしまいそうな気がして、勿体無くて、動けなくなった。 これはもしかして、あのブレスレットを貰った所為で夢が見せた願望なのだろうか。夢の中でもいいから、瀬那に会いたい、と。そう思う自分の願望だからだろうか。 ならば、今しばらく醒めないで居て欲しい。 「翔……」 瀬那が翔の名前を呼ぶ。その声すらも懐かしく、そして、自分に向けてくれる優しい笑顔が何よりも嬉しい。 「セナ、会いたかった…っ」 そう言って瀬那に抱きつく。消えてしまいそうだと思った錯覚も、全てこうして瀬那に触れることで吹き飛んでしまった。そして、瀬那が抱き返してくれる腕の温もりは、まるで本物に触れているようで、瀬那に抱きつく腕に力を込めた。 「私も、会いたかった…」 そう言ってくれる瀬那の言葉が何より嬉しかった。例え、それが夢だとしても。 「取り敢えず、座りませんか?」 「うん」 此処まで一面同じ景色だと何処に座ろうと同じだ。何もなくても、一緒に居るだけで嬉しい。瀬那と隣り合わせに腰を下ろして、不意に空を見上げる。 一面の星空はまるで降ってくるように瞬いている。 「今、瀬那が居るところでもこんな星が見える?」 「ええ……とても空気の澄んだ場所ですから」 翔の問いに瀬那が答える。その一つ一つが嬉しい。そう思って瀬那を見ると、瀬那も翔を見て穏やかに笑っていた。暫くそうしていると、何だかこうして見詰め合っているのが照れくさくなってきて、何もしないよりは、と瀬那の頬に触れた。 ゆっくりと顔を近づけると、瀬那は目を閉じる。促されるように唇を合わせた。 触れるだけのキスをして放すと、やっぱり何だか照れくさくて、顔が赤くなる。すると、今度は逆に瀬那から翔にキスをしてくる。 「翔……抱いてください」 「え?」 瀬那の言葉に少し驚く。今まで、自分から抱いて欲しいなんて言う事はなかったのに。それとも、矢張りこれが願望の見せる夢の所為だからだろうか。 「お願いします」 そう言う瀬那の声は真剣で、少し、切なくて、否と言える筈などなかった。 答える代わりにもう一度キスをする。今度は触れるだけではなく、深いキスを。 「んんっ……ふ……」 唇の感触も、漏れる吐息の熱さも、現実と何も変わらない。 キスをしながら、瀬那の着ているシャツのボタンを外す。他人の服を脱がせるのは意外と難しくて、ゆっくりと少しずつ外していく。 ようやく全部外して、瀬那の肌に触れる。ゆっくりと確かめるように触れる瀬那の肌はしっとりと吸い付くようでその肌に触れているのが気持ちよかった。 胸の突起に触れると、ぴくっと身体を震わせた。 「んっ…」 小さく漏れた声に煽られて、その場に瀬那を押し倒す。 その突起に触れ、捏ねるように回すと、瀬那の口から艶やかな喘ぎが漏れる。 「はぁ…ぁ…ん…っ」 その声がもっと聞きたくて、片方の突起を口に含む。舌で転がすように愛撫を加え、もう片方も手で愛撫を続ける。 執拗に其処を手で摘み捏ねくり回しながら、口に含んだ方も舌で突付き、軽く噛む。すぐに其処は立ち上がり、色づいてくる。熟れた果実のような其処を吸い上げると、びくりと身体が跳ねた。 「ああっ……や…ん…」 次第に息が荒くなり瀬那がもどかしげに腰を揺らした。 「翔…もう、お願い…触ってください……」 擦れた声でそう懇願してくる瀬那に笑いかけて、翔は瀬那の中心に手を伸ばす。服の上からでもはっきりわかるほどに勃ちあがってきているそれを、布越しに扱くと、瀬那は翔の背に腕を回して縋り付いて来る。 「や……お願いです、ちゃんと……焦らさないで…」 潤んだ瞳で訴えられて、逆らえる筈もない。ズボンのベルトとボタンを外し、腰に手をやると、意図を察したのか、瀬那が僅かに腰を浮かせたのを見て、下肢に纏っていたものを全て剥ぎ取った。 そして、直接其処を握り込むとびくりと瀬那の身体が揺れた。 「あぁ……んんっ…翔…」 瀬那が漏らす甘い声に否応なく煽られる。その声がもっと聞きたくて、瀬那の中心を扱く。次第に大きくなっていくそれが嬉しくて、夢中になる。 「あ…翔……あ…ん……」 惜しまず声を出してくれるのが嬉しい。次に指を後ろに伸ばして、ふと気づく。 潤滑剤になるようなものを持っていない。指に唾液をつけて軽く湿らせてから、入り口を撫でていくけれど、すぐに乾いてしまう。 夢なんだからもうちょっと都合よく潤滑剤ぐらい置いといてくれないだろうか…などと馬鹿なことを考えてみる。けれど、考えていたって仕方がない。 「翔……?」 くだらない事を考えているうちに動きが止まっていて、訝しく思ったのか、瀬那が見上げてくる。このまましないのも勿体無いし、だからと言って夢の中であっても瀬那に無理はさせたくない。 翔は瀬那の片足を持ち上げ、足の間に顔を寄せた。 「翔っ」 瀬那の慌てた声が聞こえるが、この際それは聞かない振りをする。瀬那の奥のその場所に舌を這わせると、身体がびくりと跳ねた。 「翔……だめです、そんな…っ」 「だって、潤滑剤になるようなの、持ってないから」 こうするぐらいしか思いつかない。たっぷり濡らした舌をゆっくりと其処に這わせて唾液を塗り込んでいく。 こうしていても、別に全然嫌だとは思わなかった。むしろ、瀬那が相手なら、瀬那が感じてくれるなら、嬉しいぐらいだった。瀬那を好きになる前なら、きっとこんなことは思わなかっただろうけれど。 「んっ…あ……翔…や…あ…」 瀬那の擦れた声が、翔を刺激する。舌で其処を濡らしながら、指を一本差し入れる。意外とすんなり入ってほっとする。少しずつ解しながら、さらに唾液を奥まで流し込むようにすると、びくびくと瀬那の足が震えた。 指を二本に増やして、奥へと舌を差し込む。指を動かし、舌で其処を濡らすたびに水音が響く。その水音と瀬那の喘ぎ声が翔の欲を誘った。 「翔…っ、もう…お願いです……」 「うん、いくよ」 瀬那の言葉と声に煽られて、とっくに張り詰めているものを解した其処に突き入れる。 「んっ、ぅ…ああ…っ」 「大丈夫?痛くない?」 「大丈夫、です…」 翔が尋ねると、瀬那は薄っすらと笑みを浮かべる。少し苦しげだけれど、その表情にあるのは間違いなく快感だった。 「動くよ」 そう言って腰を動かす。翔をじわじわと締め付けくるそこを抜き差ししながら、更に奥へと拓いていく。 「あ……ん…や……っあ…」 「セナ、感じてる?」 「…そんな、こと…聞かないでくださ…あ…っ」 翔が尋ねると瀬那は恥ずかしそうに視線を逸らせた。それを見て、瀬那の感じる場所を突くように腰を動かした。 「翔…っ」 「ちゃんと言ってよ。聞きたいんだ、セナ」 「ん、あ!」 ぐっと奥まで突き入れると、瀬那は首を振って翔の背中に腕を回して縋り付いて来る。そうしてくれるのも嬉しいけれど、ちゃんと言葉で聞きたい。 「言ってよ、セナ…ねえ」 耳元に囁きかけるようにすると、びくっと肩を揺らした。 「感じて…います。…すごく……」 擦れた声でそう言ってくれるのが嬉しくてキスをすると、薄く唇が開かれ、其処に舌を差し入れた。これ以上ないと言うほど深く繋がっているのが解かって、嬉しい。 「んっ…ふ…」 ゆっくりと腰を動かしながら、瀬那と自分自身が一緒に上り詰めていくの感じる。 「翔…翔……あ…あん……」 「セナ…好きだよ…セナ…」 「私も……好きです…翔…っ…あ…」 ギリギリまで堪えようとしたけれど、瀬那のその言葉にもうどうしようもなく煽られて、押さえが効かなくなった。 ギリギリまで引き抜いて、奥深くまで貫く。瀬那の背が撓り、翔の背に縋りつく手に力が篭る。 「あ…あっ…や…ぁ…」 「セナ…」 「あ…翔……もうっ…」 「セナ…っ」 「あ……あ、ああああっ!」 瀬那の一番奥深くまで貫いて、迸りを放つと、瀬那も高い声を上げて達した。荒い息を吐いている瀬那をぎゅっと抱き締めると、そっと抱き返してくれる。 それが、たまらなく嬉しかった。 そうして、この時間ももうすぐ終わりなのだと感じ始めていた。 けれど、あまり寂しくはなかった。不思議と落ち着いた気分で瀬那を抱き締めながら、翔は目を閉じた。 目を開けると、それはいつもの寮の天井だった。 夢の余韻でぼーっとしていると杏里に心配される。それを苦笑いで誤魔化しながら、ふとブレスレットが目に入る。 (やっぱりこれが、セナに会わせてくれたのかな) ただの迷信ではないのかも知れない、ひょっとしたら。 そうして翔は大切にそのブレスレットを引き出しに仕舞った。 そして数日後、瀬那から一枚のはがきが届いた。 そのはがきに書かれていたのはたった一言。 ――星降る草原で君と会う夢を見ました―― Fin |