セナと翔が一緒に暮らし始めて二年。 特に何事もなく、万事平穏無事、甘〜い生活を送っていた。 そんなある日、突然翔が爆弾を落とした。 「ねぇ、セナ。俺のこと、抱きたいと思う?」 「…は?」 翔の突然の発言にセナは困惑する。 それも当然、一緒に暮らし始めて二年。付き合い始めてからは更に数年。今更そんなことを聞かれるとは思いもしない。 …付き合い始めた頃ならまだしも…。 「一体、どうしていきなりそんなことを言うんですか?」 「だって、逢坂先輩が…」 「クリストファー様が?」 「俺が上をやってるのは身長的に絶対オカシイって」 翔の言葉に、セナは深々と溜息を吐いた。 クリスの言葉は絶対暇つぶしの上のわざとの行為であることは明白である。実際そう思っていようといなかろうと、関係ない。 面白そうだと思いつけば何でもするのだから。 「…人がどう言おうと、当人の私たちが納得しているのだからいいじゃありませんか」 「でも、相手のことを好きなら、男なら抱きたいと思う筈だって…」 「それは…」 確かに、否定できない部分もなきにしもあらず。 セナの方から翔を抱きたいと言い出さないので、訳の解からない不安に陥ってしまったのだろう。 「じゃぁ、翔は私に抱かれたいんですか?」 「え?それは…俺は、別にセナとならどっちでも」 一瞬慌てたが、そう答える。 本心からなのだろうが、その様子が微笑ましく、笑みが零れる。 「まぁ、でも付き合い始めた頃なら兎も角、今私が翔を抱くというのは無理でしょうね」 「え、何で?」 「それは…」 セナは翔を視線から逸らせる。思わせぶりなそれに、翔は気になって仕方がない。 「何で、目逸らすんだよ」 「…」 問い詰める翔にセナは無言に苦笑する。 「セナ〜」 上目遣いに睨みつけてくる翔にセナは溜息を吐いた。言いたくないというよりは、言うのが恥ずかしい。しかし、このまま翔を怒らせる訳にもいかない。 仕方がないので、翔を手招きして、耳元で囁いた。 その瞬間、翔の顔が真っ赤になった。 「え、そ、そーいうもんなの?」 「ええ、個人差はあるかも知れませんが…」 翔は驚いた後、おずおずとセナの反応を伺うように問い掛けてくれる。 「じゃ、前触っただけじゃイけないの?」 「試してみますか?」 「うん」 クスリ、と笑って問い掛けると、なにやらスイッチが入ったらしい。翔は頷いてセナの下半身に手を伸ばしてきた。 前を寛げ、掌で包み込む。セナがぴくっと震えるのを見て、翔は俄然やる気になった。 「感じるのは、感じるんだよね?」 「ええ…それは…っん…」 答えるセナに、其処を扱く手を強めた。少しずつ大きくなってくるのが嬉しい。 「感じても、イくのには足りないの?」 「…多分、刺激が強すぎるんです」 「これでも?」 そう言って、翔はセナのものを口に含んだ。 「翔…っ、ぁ…ん…」 セナは甘い声を洩らす。それが嬉しくて尚更翔は舌を操り、セナを感じさせようとする。他の誰かなら絶対嫌だけれど、セナのものなら何でも愛しく感じる。それでも、自分の舌使いは拙いだろうと思う。慣れている訳でもないし、何よりセナが上手すぎる。 セナにしてもらうと、すぐに耐えられなくなってしまうのだから。何より、伏せ目で翔のものを加えているセナが色っぽくて仕方がないのだ。赤い舌がちらりと見えるとそれだけでゾクゾクする。 それを思い出して、どうもこれだけで我慢できそうになくなってきた。 なんとも堪え性のない自分に苦笑しながらも、セナへの愛撫を続けた。 「翔…っ、お願いです…後ろに…」 そして、段々とセナも絶えられなくなってきていたらしい、懇願する声に翔は口唇を離した。 「やっぱり、前だけじゃイけない?」 元気よくはなっているけど、それでもまだ先走りも少ししか出ていない。まぁ、翔の唾液で大して判別はつかないが。 「ええ。翔…お願いです…」 そう言ってセナはキスを仕掛けてきた。セナの舌使いは巧みで、翔をその気にさせるのには十分だった。それに、その前からやる気にはなっていたのだ。 翔は常備してあるローションを手につけると、最奥へと伸ばした。 少しずつ塗りこめるようにしていくと、だんだんとセナの息が上がってくる。 「翔、翔…早く…っ」 急かされて、翔は指を行き成り二本入れた。だが、セナの其処は指をやすやすと受け入れる。解すように指を動かすとセナは耐えられないと言う様に、翔の首に腕を回してくる。 指を三本にして、セナの感じるところを擦ると、セナは高い声を上げた。 「ああっ…翔…翔、もう…っ」 セナが翔の名前を呼ぶ。それだけで翔はどうしようもなく感じる。 セナは感じやすくて、ちょっとした事で不意に凄く色っぽい顔を見せる。いつもは我慢するけれど、時々耐えられなくなって、そのままセナに触れてしまう時がある。 そういう時はセナも嫌がらず、むしろ積極的に答えてくれる。セナも同じ気持ちでいてくれているのだと、そう解かる。 今だってそうだ。 翔も我慢できない。 だから、セナに請われる通りに、其処にもう張り詰めてきている自分のものを宛がい、一気に貫いた。 「ぁあっ!翔…っ、はぁ…ん…」 セナは、翔の肩口に顔を埋めるようにして抱きついてくる。それは嬉しいけど、セナの顔が見えないのは嫌だ。 翔はセナの腕を掴んで離すと、床に縫いとめるように押さえつけた。 「翔…?」 セナは、驚いたような、無防備な顔で翔を見上げる。そのセナに対して翔は微笑む。 「ごめん、セナ。でも、セナの顔が見たいんだ。だから、このままするよ」 そう言って翔はセナを突き上げる。 セナは反射的に目を瞑り、縋るものを探すように指を動かす。それを見て、翔はセナの掌に自分の手を合わせた。セナは反射的にその手をぎゅっと掴んでくる。 「ぁあ…あ…んっ…翔…ああっ…」 感じているセナの顔も、声もみんな綺麗で好きだ。 潤んだ瞳が翔を見上げてくるのが嬉しくてどうしようもない。セナが、翔だけを見ている瞬間。それが、嬉しくて、セナが自分のものなのだと実感できる。 「セナ、ねぇ、セナ…」 「あっ…翔…」 名前を呼ぶと答えてくれる。 もう何年も付き合っているのに、それでもこの瞬間に飽きる事はない。 「セナ、セナはもう、誰も抱く事が出来ないんだよね?」 「翔…?」 「そうしたのが俺だっていうのが、セナには酷いかもしれないけど、凄く嬉しいんだ」 「翔…酷くなんて、ありませんよ」 翔の言葉に、セナは微笑んで答える。 「私の体の全てが貴方のものです。貴方のためにこの体が誰も抱けなくなったとしても、それは酷いことなんかじゃありません。むしろ、嬉しいんですよ、私は」 「セナ…」 「私の体も、心も、全て貴方が変えていくんです。私はそれが嬉しくて仕方がない」 セナの言葉が、翔の心に響く。 翔は思わずセナを抱きしめた。 「翔…はぁっ…ん…」 動いた事で感じてしまったのか、セナが甘い息を零した。 翔がセナの顔を覗き込むと、セナは少し照れたように笑った。 「翔、でも今は…動いてくれると、一番嬉しいんですけど」 「うん」 セナの言葉に、翔はどうしようもなく笑みが溢れてきた。 それでも、請われるとおりに、翔は律動を始める。 「翔…っ、あぁ…」 セナの口から甘い息が漏れる。翔はその口にキスをする。 愛しくて、愛しくて、どうしようもない人。 求めるままに、翔は動く。セナを追い上げ、自分も限界のところまで来ている。 「あ、ぁああっ…翔…もう…っ」 「うん」 翔はセナの言葉に頷くと、更に動きを激しくして、追い詰め、そして、最後に思い切り突き上げた。 「はぁっ…ぁあああっ――――!」 セナが高い声を出して達するのと、翔がセナの中で果てるのは殆ど同時だった。 疲れたのか、ぐったりとしているセナが、それでも翔を見て微笑む。 セナが、自分を見て笑ってくれる。それだけで翔はどうしようもなく嬉しくて仕方がない。幸せだった。セナが自分を好きで居てくれる、それは間違いのない事実だと確信できる。 翔は、セナにキスをして、それから思う存分セナを抱きしめた。 後日、セナの元にクリスがやって来た。 「よお」 「クリストファー様。どうなさったんです?」 セナに会いに来るのは珍しい。そう思って尋ねると、クリスは深々と溜息を吐いた。 「お前、もうちょっとあいつの手綱、しっかり引き締めとけ」 「あいつ?」 「羽村だよ!毎日毎日のろけに来てうぜぇから、少しは落ち込ませときゃ大人しくなるかと思えば、結局事後報告でまたのろけに来るんだぜ?冗談じゃねぇ!」 「あれは、そういう理由で言ってたんですか?」 「そうだよ!だから、もうちょっと大人しくなるように何とかしろ!これは俺だけじゃねぇぞ、御園生だって同意見なんだからな」 「はぁ…そう言われましても…」 クリスの言葉に、セナは苦笑いを返す。 「多分、翔はのろけてる自覚はないでしょうから」 「自覚ないとこが一番問題なんだよっ!」 「それに、翔のそういう正直で真っ直ぐなところが、いいところですから」 「…お前ら、結局似たもの同士かよ」 「は?」 「こんの、天然色ボケバカップルが!自覚するまで俺の前に現れるんじゃねぇ!!」 クリスのそんな叫びは虚しくあたりひ響くだけだった。 Fin |