The afterimage of lonesomeness



 寮監室でピピに餌をやりながらふと時計を見る。もうすぐ消灯時間だ。
 それを確認した直後、ドアがノックされた。
「はい」
 答えると、ドアが開かれる。
 入ってきた人物を見て瀬那は軽く目を見開いた。
「榊原先生…」
「こんばんは」
「どうしたんです、珍しいですね」
 榊原が寮に来ることなど、今まで一度もなかったのに。そう言うと彼はくすっと笑う。
 後ろ手にドアを閉め、榊原は鍵を掛けた。それを見て瀬那は溜息を吐く。
「消灯はもうすぐだとは言え…誰かに見られたりはしなかったんですか?いくらなんでも鍵が掛かっていたら怪しまれますよ」
「大丈夫だと思いますが…。まぁ、見られたとしても、言い訳くらいはいくらでも出来るでしょう。そう、例えば…」
「例えば?」
「私が貴方に愛の告白をして、振られたとか」
「……その冗談は通じないと思いますよ」
 真面目に聞こうとした自分が馬鹿らしくなってついつい頭を押さえた。その様子を見て笑いながら、榊原は瀬那の腕を取り、抱き寄せた。
「貴方に、とても大切な、内密の話があったとか…」
 耳元に囁きかけるように言われ、微かに体が震えた。榊原の低い声は官能を刺激する。
「内密?」
「ええ、ですから内容は言えませんが」
 そう言ってキスをしてくる榊原を見ながら内心呆れていた。それは随分とずるい答えだ。しかも榊原が相手なら誰も追及など出来ないだろう。
 ただ、無用の噂が流れるのは否めないだろうが…。
 出来れば、それは避けたいのだけれど。学園長はそれを聞いたらどう思うのだろう。それに、紫苑は…?そう考えると、冷たい氷を飲み込んだかのように体の芯が冷えた。
「水落先生」
 名前を呼ばれてはっとすると、その瞬間にベッドに押し倒されていた。首筋に舌が這わされ、体が震える。
「今は、私のことだけ考えていればいい。前にもそう言った筈ですが」
「榊原…先生」
「大丈夫ですよ」
 そう言って笑いながら瀬那の着ていたシャツを捲くり上げた。その根拠のない自信はなんだろうか。それとも、榊原なりに根拠があるのか・・・。
 自分に対するその絶対の自信は何なのだろう。お互い身の内に孤独を飼いながら、それでもこういうところは全然似ていない。瀬那は、自分に対してこんな自信は持てない。
 自分に出来るのはただ、虚勢を張ることだけなのだから。
 榊原の指が瀬那の肌を這う。胸の突起に触れられると、思わず声が漏れた。
「んっ」
 快楽を煽っていく指に身を委ねながら、その波に呑まれることを望んでいる自分を自覚する。何も考えずに居られる瞬間だけが、孤独を忘れられる。
 榊原の手が下肢に伸びる。あっという間に全てを取り払い、瀬那のそれを口に含んだ。
「は…あっ!」
 ねっとりとした舌が急速に瀬那を煽り立てていく。否応なしに高ぶっていく熱にもどかしく身を捩らせる。
「ふ…っん……はあ…っ」
「本当に、いい声で鳴く」
「榊原…先せ…ぁあっ」
 亀頭に歯を立てられ、瀬那は仰け反る。丹念に愛撫を続けながら榊原は瀬那の後ろに指を這わせた。唾液と先走りがそこに伝って、既に濡れているそこに丹念に塗りつけながら指を入れた。
 中で動く指を感じて、ついつい締め付けてしまう。リアルに感じられるその指に尚更煽られていくのに。榊原の指は遊ぶように中を動き、指を増やしていく。
 目を瞑ってシーツにしがみ付く。前を舌で煽られ、後ろを指で犯されてどうしようもないほど感じてしまう。
「はぁ…ぁ、あ……あ…もう…もう、お願いです…」
 その瀬那の懇願を聞いて、榊原は顔を上げ、後ろから指を引き抜いた。そしてにやっと意地悪く笑った。
「では、どうしたらいいか解かりますよね?」
 榊原の言葉を聞いて、瀬那は頷き、体を起こした。榊原のズボンの前を寛げ、今度は瀬那が榊原のそれに舌を這わせる。
「ふ…っん…んんっ」
 口に含んで先端を舌先で突付く。少しずつ発ち上がってきたものの、それほど勢いはない。茎の裏を舌先でなぞるように舐め上げ、唇で扱きあげる。
 懸命に愛撫を続けながら、榊原が楽しんでいる空気が伝わってくる。榊原は慣れている。ある程度までは自分が思うように耐えられるのだろう。けれど、自分の欲しい快楽を得るためには、こうするしかないのだ。
「なかなか、お上手ですね。何処で覚えたんです?」
「……」
 答えずに愛撫を続けると、くすりと笑う気配がした。そしてまた後ろに指が触れるのを感じて体が震える。
 口に含んだそれを舌で愛撫しながら、指が奥へと入り、中を探ってくるのを意識の外に追い出そうとする。しかし、指が瀬那の感じる場所を掠めるように触れてくるようになると、そうも行かなくなる。
「ふぅ…んん…ふ……は…ぁ…」
 口に含んだまま、歯を立てないように堪えるのが精一杯だった。煽ってくる指に舌の動きも止まってしまう。
「どうしました、水落先生?」
 白々しく尋ねてくる榊原を恨めしげに睨み付ける。その瀬那の様子を見て榊原は口に笑みを刻んだ。そして、未だに自分のそれを口に含んだままの瀬那の頭を掴んで、顔を上げさせる。
「貴方のその顔は、舌での愛撫より余程煽られる」
「え?」
 その言葉に疑問を返す間もなく、後ろ向きに押さえつけられ、貫かれた。
「ぁああっ…く…ぅ」
 頭の奥で何かが弾けるような衝撃に、シーツにしがみ付いて呻く。
「は…っ…ぁ…く…っ」
 ゆっくりと榊原が動き出す。
 快楽がまた波のように押し寄せてくる。何度も限界までいった体は容易く上り詰めてしまう。ゆっくりとした動きがもどかしい。
「ぁあ…ふ……ああ…お願いです……もっと、動いて…」
 懇願すると、行き成り奥深くまで突き上げられた。ぎりぎりまで引き抜かれ、最奥まで貫かれる。
「はぁ!…ぁあ、あ…く…んっ」
 シーツを握り締め、その動きを受け止める。何度も何度も突き上げられ、もう限界も近いと思ったところで、ぎゅっと前を掴まれた。
「ぁあっ…や…あ!」
 一瞬目の前が真っ白になり血が逆流しているような感覚になる。
「ああ…だめ……お願い…イかせて……」
「駄目だ。まだまだ足りない」
 そうしてまた何度も貫かれる。脳髄までもを犯されているような感覚にシーツを強く握り、頭を振る。開放を求める快楽が逆流してまた体の中を駆け巡る。
「お願い、お願いですから…ぁあ……やぁ!……ひ…っん」
 懇願しても答えられる様子は全くない。
 中を思い切りかき回され、気が狂いそうな快感に瀬那は泣き声を滲ませる。
「イかせて……イかせ……はぁ…っ……ぁあ……ぃや、もう…っ!」
「まだ、だ」
 榊原の声が耳につく。少し擦れた声に、それでも榊原も大分上り詰めていることが解かった。兎に角、早く、早くと榊原を締め付けた。
 尚更動きは激しくなり、痺れたように体が震えた。
「はぁ…ぁ……ああ……や……あ……」
 最早まともに言葉を綴ることも出来ず、律動に合わせてただ声が漏れた。
 中のそれが大きく張り詰め、もうすぐ限界だと、終わりだと思ったところで思い切り前を扱き上げられた。
「ひっ…ぁ!…ぁあああっ!!!」
「っく」
 とっくに限界まで上り詰めていた瀬那はそのまま達し、榊原も小さく呻き声を出して中に精を吐き出した。ぐったりと横たわる瀬那から体を離し、榊原は衣服を整える。
 しばらくはまともに動けそうもないし、言葉も出てこない。また、榊原の服だけあまり乱れていないことを思うと、矢張り少し悔しい気がした。
「大丈夫ですか?」
「……」
 問いかけられるが、言葉が出ない。一体誰の所為だと問い詰めてやりたいが、それも出来ない。今は、睨み付けるだけの元気もない。本当に体がだるくて休息を切実に求めていたが、長い間快楽にさらされた体は暫くそれを忘れてくれそうもない。
 瀬那の様子を見ていた榊原が、其処から離れた。帰るのだろうか、と思ったが、どうやら気配はキッチンに向かったようだ。
 榊原が戻ってくると、唇が触れ合わされる。少し口を開けると冷たいものが流れ込んできた。
「んっ…」
 冷たくて、気持ちいい。嗄れた喉が潤う。
 榊原の方を見ると、思いの他穏やかな顔でこちらを見ていた。こんな顔は滅多に見れない、そう思いながら目を閉じる。その手が瀬那の頭を優しく撫でて、顔にかかった髪を払いのける。
 その動作が気持ちよくて、瀬那の意識は急速に遠のいていった。


 翌朝目を覚ますと、当然榊原は居なかった。
 しかし、きちんと後始末をされているのを見て、苦笑する。意外ときっちりしていて細かいのに笑いが誘われる。
 気だるさは残っているが、動けないほどではない。
 体を起こして、朝日が差し込む窓を見る。
 新しい一日が始まる。
 昨夜起こったことなど、何もかも忘れたふりをして、知らないふりをしてまた一日過ごすのだ。互いの寂しさを紛らわして、その残像を振り払う。
 何も感じてないように笑って生徒に顔を向ける。
 それが日常で、当たり前のこと。
 瀬那は口元に僅かに笑みを刻んで動きだした。



Fin





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