大学の卒業式。 俺は憂鬱な気分で溜息を吐いた。 別に卒業式が憂鬱な訳ではない。先程まで同じ大学の女の子に呼び出されていたからだ。どうやら大学でも卒業式前後は告白シーズンらしい。 受け入れられない想いを告げられるのも、目の前で女の子に泣かれるのも何だか息苦しい気分になる。俺も、あの時あの人に同じ想いを味あわせていたのだろうかと思うと、何だか情けない気分になってくる。 「直人ーっ」 名前を呼ばれて振り返ると、其処にはもう見慣れた、親友が居た。 「翔」 「何処行ってたんだよ、式の後すぐに見えなくなっちまったから探したんだぜ?」 「あー、まぁ、野暮用で…」 言葉を濁す俺に、翔は言わなくても察したようだった。大学に入ってらこっち、こういうことは多々あったから。遊星学園を卒業してから、俺と翔は同じ大学に進んだ。翔だけじゃなく、千倉と御園生も同じなあたりどうなんだろうと思うのだが。 特に御園生あたりは俺や翔が行くようなレベルの大学じゃなくても、もっといいとこに行けただろう。 「直人も恋人作れば?そうすればそんなことなくなるぜ?」 「そーだな、お前は早々に恋人居ますってカミングアウトしたもんな」 「なんだよ、嫌味な言い方だな。お前がいつまで経っても恋人作らないからこういう状況になってんだろ?」 「別に要らないよ。他に好きな人いるし」 「え?」 翔が文句を言うのが何となく煩わしくてぽろっと漏らした言葉に、しまった、と顔を顰める。今まで誰にも言って来なかっただけに、何となくまずい気がする。 「初耳だぜ?誰だよそれ。オレの知ってる人?」 「…よーく知ってる」 まぁ、これ以上隠しても仕方ない、と腹を括る。どうせ御園生や逢坂先輩辺りには何も言わなくてもバレてるだろうし。親友の翔が知らなくて、「なんでオレだけ知らないんだ!」って後で拗ねられるよりは余程いいだろう。 「誰?あ、櫂と杏里はダメだからな」 「言われなくても解かってるよ。可愛い弟と愛しい恋人だもんなー」 翔と千倉が付き合い始めたと知った時は驚いたが。俺にしてみれば、千倉は寂しくて一人寝出来ないおこちゃま、って感じのイメージだったから。でも、翔と一緒に居ることが多いせいか、千倉ともよく話すようになって、意外と芯が強い、結構頑固な人間だってことが解かった。 大学に入学したばかりの頃、女の子に告白された時に「付き合っている子がいるから」と断って、あっという間に噂を呼んだ。その相手が千倉だと広まるのもすぐで、今では公認カップルと化している。何より、一番凄いのが翔と千倉のことを知るほぼ全員が千倉のことをきっちり女の子だと思っていることだろう。 確かに見た目は女の子みたいに可愛い。声も同程度に可愛い。自分のことを「僕」なんて言っている女の子は最近じゃ珍しくないし、男物の服を着ている女の子も珍しくない。そのせいか何なのか、すっかり千倉は「翔の彼女」として認知されている。 …卒業まで殆どのヤツが千倉が男だと気づいていないのである。ある意味本当に凄い。 こういう時、制服の力は偉大だな、と思う。少なくとも制服を着ていれば男女の別はつけられる。それすらも無効にしてしまい兼ねない雰囲気が千倉にはあったが。 そして、翔の弟、御園生である。 あれと付き合うなんて問題外である。本人も辛口で辛辣ならその恋人も恋人だ。あの逢坂先輩なんだから。手を出そうとしたら逢坂先輩と御園生二人共を敵に回さなきゃならなくなる。そんな怖ろしいことを一体誰がすると言うのだろう。 まぁ、でも御園生がそういう辛辣な口調になるのは、どちらかと言うと相手に対して好意を持っているからだろう、というのが最近解かってきた。何と言ってもあの素直じゃない言葉は比較的翔や水落先生、あと逢坂先輩に使われるからだ。親しくない相手にはそれこそ素直じゃないどころか鉄壁の笑顔とむしろ柔和な言葉で跳ね返してしまう壁を作ってしまう。 少なくともあの三人は御園生にとって特別な位置にあるのは間違いない。だからつまり、甘えられるからこそ、あんな風に素直じゃない言葉を発してしまう、ということだろう。 「で、結局誰だよ?」 「………」 「直人ー?」 問い詰めてくる翔に苦笑する。 「……水落先生」 「…えーっ!!?」 俺の答えに、翔は心底驚いた声を出す。 「マジ!?」 「マジ」 「じゃぁ、何でみんなで集まろうって時にお前来ないんだよ。水落先生気にしてたんだぜ?」 「あー、だってなぁ…。顔見たらすぐに好きだって言っちまいそうなんだよ。流石に二回も振られるのはキツイ…」 「二回?」 畜生、普段鈍いくせにそういうところは抜け目なく突っ込んでくるんだからな、こいつ。聞き流してくれりゃいいのに。 「一回振られてるんだよ。そんで諦めるって約束したんだけどなー」 「諦められなかったんだ」 「そうだよ」 「…それで、ずっと会わないつもりか?」 翔の問いかけに、俺は首を横に振る。 「今度会うなら、水落先生が旅を終えてからだって決めてるんだ。そうすりゃ、向こうも気持ちの余裕出来てるだろうし。…振られた理由も好きとか嫌いとかいう次元じゃなかったしなぁ」 「じゃ、何で振られたんだよ?」 「お前らのせいだ、お前らのっ」 「オレーっ?」 「そうだよ、お前らのことがあるから、誰とも付き合うつもりはないって。まぁ、はっきりそう言った訳じゃないけどさ」 俺がそう言うと、翔は苦笑いを浮かべる。 「水落先生らしいっていうか、なんて言うか…」 「取り敢えず、戦いも終わったんだし、水落先生が帰ってきたら改めて告白するつもりだよ」 「ふーん。じゃ、直人にはいい知らせかもな」 「へ?」 翔の言葉に疑問を返すと、にっと笑顔が返ってきた。 「水落先生、今度日本に帰ってくるって。旅も、それで終わりだって」 「マジ!!?」 「ホント。こないだ連絡入ってさ。それで水落先生が帰国する日にまたみんなで会おうってことになったんだけど……直人、来る?」 「行くっ!」 勢いこんで言うと、翔が笑った。 「でもホント、驚いたよな。まさか直人が水落先生好きだったなんて」 「まぁ、誰にも言ってないからな」 翔の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。本当に、誰にも言ってこなかった。告白した後に諦めると約束した以上、誰にも悟られないようにとそれなりに気を使った。水落先生とも普通の教師と生徒としての距離を保っていたし。 だから、翔が知らなくても無理はない。噂にならないように気をつけてたんだから。 「それじゃ、ちゃんと日取りが決まったら、直人にも話すよ」 「ああ、頼む」 翔に軽く手を合わせて、俺は笑った。 もうすぐ、水落先生に会える。 何年ぶりだろうか。自分で決めたことだけれど、それでもやっぱり、ずっと会いたかった。 そして、皆で集まるという当日。 俺は御園生邸に来ていた。家というよりは邸というのが一番しっくりくる。それぐらいのでかい家だった。流石お金持ち。 屋敷の裏に案内されて、俺と翔、御園生と千倉は其処でワープゾーンをくぐってウィンフィールドに行く。今まで何度か翔についていったことはある。どれも水落先生の居ない時を狙ってたけど。 「翔から聞いてはいたけど、本当に青木も来るんだね」 「悪いか?」 「別に」 そっけない態度に溜息を吐く。辛辣な口調は比較的親しい人間に向けられるものだが、俺の場合は嫌われているんじゃないかという気がする。やっぱ、俺が水落先生のことを好きなのがバレてるせいかな。こいつ絶対ブラコンだもんなぁ。 「でも良かった良かった良かった。水落先生と仲直りすんだよね、青木くん」 「は?」 「仲直り?」 俺と翔が疑問を返すと、千倉が困ったような顔をする。 「だってだってだって、青木くん、水落先生と喧嘩してたからずっと来なかったんじゃないの?」 「いや、いやいやいやいやいや…」 千倉なら、うん。確かにそういう勘違いはしてそうだけどな?ていうか、やっぱ鈍い…。 「別に喧嘩なんてしてないし、水落先生のこと嫌ってる訳でもねぇよ」 「じゃぁ、何で来なかったの?」 「千倉、青木は水落先生のことを嫌ってるんじゃなくて、その逆だよ」 「え?逆?」 訳の解かってない千倉はこの際放っておこう。事情はそのうち翔が説明するだろう。 俺は御園生に照準を合わせる。 「やっぱ、御園生にはバレてたんだな」 「というか、気づいてない方がおかしいと思うけど?」 「それは暗に翔や千倉の鈍さを指摘してるのか?」 「ていうか、どっちにしろ二人ともオレたちを馬鹿にしてんじゃねぇか」 俺と御園生の会話に、不満そうに翔が割って入る。 「鈍いのは事実じゃないか。逢坂さんも東堂先生もそれぐらい気づいてるよ。全く気がついてなかったのは翔と千倉と当人ぐらいなものだよね」 「あの人はあの人で、意外と鈍いところあるもんなぁ」 「まぁ、別にそれはいいんだけど。僕は応援しないよ」 「期待してない。お前ブラコンだもんな」 「何か言った?」 「いいえ、何にも」 うわー、怒りのマークが見える気がする。どうも、ブラコンという言葉は癇に障るらしい。でも、事実だと思うんだけど。 「まぁ、こんなとこで立ち話してても仕方ないし、そろそろ行こうか」 「そうだな」 そう言ってまず翔がポケットからナイフを取り出して指先を切った。血が一滴下に落ち、小さくワープゾーンが開く。その後御園生が指を切り、同じ場所に血を一滴落とした。 人が入れるぐらいの大きさになり、俺たちは順番にそこに飛び込んでいった。 ワープゾーンをくぐって出た場所はどうやら城の中の一室らしかった。中には誰も居ない。みんな何処に集まっているのだろうか。水落先生は先にこちらに居ると聞いてはいたけれど、多分、逢坂先輩たちと一緒に居るんだろうな。 「行こうぜ、直人。もう何年ぶりかってぐらいだよな、水落先生と。直人のこと見たら驚くぜ、絶対」 「そりゃな。ていうか、会ったってだけで驚きそうだけどな」 「…そりゃ直人が悪いんだろ」 翔と軽口を叩き合う。 そうして部屋を出て、取り敢えず翔と御園生についていく。城の中のことなんて、俺には全然解からないし。 二人の後についていった場所は、応接室のような場所らしい。部屋の真ん中に広い机と、三人がけのソファが二つ、二人がけのソファが二つ、置いてある。 さっと部屋の中を見渡した。目に留まった赤い色に視線が惹きつけられる。その姿を見るのは何年ぶりになるのだろうか。東堂先生と話している姿が視界に映った。その姿を見た途端に、どうしようもなく好きだという気持ちが溢れ出した。 好きだ。好きで好きで堪らない。いとおしくて、大切で、今すぐにでも抱き締めてしまいたいという衝動が身体の中を駆け抜ける。けれど、俺はそれを必死で抑えた。言わなければならないことを言う前に、そんなことは出来ない。 「青木」 逢坂先輩に名前を呼ばれる。今ではウィンフィールドの国王様だ。留年を続けていた上級生とは思えないぐらいだ。 「お久しぶりです、逢坂先輩」 「おう、久しぶりだな。まぁ、今日来たってことは、告白するつもりなんだろ?」 「ええ、まぁ…」 やっぱりバレてる。まぁ、前から冷やかされてはいたけれど。水落先生に視線を向けると、逢坂先輩はぽんっと俺の肩を叩いた。 「ま、頑張れ」 「…やっぱ、逢坂先輩も知ってたんだ…」 翔が少し落ち込んだように言うと、逢坂先輩が苦笑いを浮かべた。 「そりゃまぁ、こいつが入学したばっかの頃は噂になってたからな、結構。それも夏休み過ぎた辺りから消えたけど、俺は確信してたぜ?」 「噂?なってました?」 「だってなぁ、あれだけ水落のことばっか気にしてたら当然だと思うぜ?」 「あう…」 逢坂先輩の言葉に、俺はがっくりと肩を落とす。確かにあの頃は友人やなんかにもしょっちゅう冷やかされていたけれど、当時はまだ自覚はなかったんだけどなぁ。 「まぁま、俺は応援してるから、頑張れよ」 「そう言えば、水落先生、これからどうするとか言ってました?」 「いや、まだ決めてないんだと。だからまぁ、お前次第だな。上手く行けば人間界に行くだろうし、振られればこっちに残るだろ」 「え…マジで俺次第?」 逢坂先輩の言葉に苦笑いを浮かべると、軽く小突かれた。 「幾らなんでも振った相手とそう近くに居たくもないだろ。七年間想い続けたしつこいやつなら特に」 「酷い…逢坂先輩…」 俺はがっくりと肩を落とす。 「ま、俺としてはこっちに戻ってきて近衛兵になってもらっても全然構わないんだけどな?」 「応援するってさっき言ったじゃないですかっ」 「だから応援してるって、頑張れ」 「真実味が薄いなぁ…」 深々と溜息を吐いて水落先生をみると、ばっちり目が合ってしまった。水落先生が軽く目を見開くのが解かった。驚愕と、後悔…懺悔だろうか…複雑な感情が交じり合った瞳が俺を捉えた。 ああ、そんな顔をしなくてもいいのに。 そんな風に申し訳なさそうな顔なんて、しなくてもいいのに。 こっちに近づいてくる水落先生をしっかりと見据えた。こうやって真正面から見つめると、また愛しさが溢れてくる。この人が好きだという想いは昔と変わらず、いや、昔よりもずっと鮮烈だった。 色褪せることなく、まだこの胸の中にある。 水落先生が目の前に来たところで、俺はにっこりと笑った。 「お久しぶりです、水落先生」 「……ええ、お久しぶりです」 微かに瞠目した後、水落先生も俺に返してくる。 けれど、強張った表情は未だに取れない。ああ、全く、どうしてこの人はこうなんだろう。俺は全然気にしていないことをこうも気にしているなんて。 「青木くん」 「何です?」 「あの時は、すみませんでした…」 「…謝らなくてもいいですよ」 「ですが…」 「俺、別に先生に対して怒ってたり、嫌ったりしたから今まで会わなかった訳じゃないんですからね?そこのとこ、勘違いしないでください。俺は、あの時水落先生がああして撃ってくれて良かったと思います。だから俺は今、こうしていられるんですから」 「青木くん…」 俺の名前を呼びながら、どこか悲しげな表情は未だに消えない。どうしたら笑ってくれるだろうか、と思う。あの綺麗な笑顔を、もう一度見たいのに。 「大体、一度好きになった人を、そう簡単に嫌いになれる筈がないでしょう?」 「!」 「俺はずっと、初めて会った時から水落先生が好きだったんです。七年経ってもその気持ちは全然変わらない。今でもずっとあなたが好きです」 「青木…くん」 驚愕に目を見開く水落先生を見て、苦笑する。 笑顔はもう少し、お預けだろうか。 「今までずっと会わなかったのは、旅を続けている水落先生に告白して、そのことであなたを煩わせたくなかったからです。だから、旅から帰ってきたと聞いて会いにきました」 最後に残された言葉は一つしかない。 一番望んで、一番大切で、一番愛している人だから。 「だから、水落先生。もし良かったら、俺と一緒に暮らしてくれませんか?」 水落先生の居なくなった部屋で、逢坂先輩は軽く息を吐いた。 「やるな、青木。まさか行き成りプロポーズするとは思わなかったぜ」 「何と言ったって結局は同じことですから」 そう言って俺は苦笑を浮かべた。 水落先生はあの後、「少し考えさせてください」と言って部屋を出て行った。首尾は上々、というところだろう。 「ま、いいんじゃねえの。後はお前の説得次第だろ」 「こうなったら仕方ないか……。まぁ、頑張って、青木」 「…応援してくれるの?」 「…水落先生の幸せのためだからね」 「やりっ、弟君からお許しが出た♪」 俺は軽くガッツポーズをする。どうせなら、皆に認めてもらいたいのだ。 「ていうか、何?何でそんな納得してんの?ていうか、水落先生、直人のこと好きなんて一言も言ってないだろ?」 「これだから翔は鈍いんだよ」 「だから、何なんだよ!」 「解からなくていいよ、もう」 「櫂ーっ!!」 「翔くん、翔くん」 御園生に文句を言っている翔の腕を千倉が引っ張る。 「青木くん、水落先生のこと好きだったんだね。僕びっくりしちゃった」 「……杏里ーっ。お前はそのままで居てくれ」 いかにも遅れて場違いな千倉を翔は抱き締めて呟いた。 「にぶにぶカップル…」 「まぁ、この二人はこれでいいんじゃないですか?」 逢坂先輩の呟きに、御園生は苦笑いを浮かべた。 「それじゃ、俺はちょっと水落先生を探してきます」 「大丈夫か。迷ったりするなよ」 「大丈夫ですよ。解かんなくなったら人に聞きますから。水落先生の行きそうな場所なら大体解かるし」 「あそ。じゃ、頑張れ。健闘を祈る」 逢坂先輩は軽く手を上げて俺を見送った。 俺は部屋を出て、水落先生のいそうな場所を探すべく、城の外に出た。 「それにしても、青木ね…」 「なんだよ、まだ不満?」 直人が出て行った後の応接室で、櫂が溜息を吐く。 「青木にあげるぐらいなら、僕がもらっておけば良かった…」 「お前、それが仮にも恋人であるオレの前で言う台詞か?」 「いっそ逢坂さんと別れて水落先生にしましょうかね…」 「櫂〜っ」 「ふふ、冗談ですよ。まぁ、水落先生が幸せになれるなら、それに越したことはないですから」 櫂の言葉に来栖が溜息を吐いた。 「大丈夫だろ、青木なら。あいつ、ここ数年で随分男らしくなったしな」 「そうですね…」 そう言って櫂と来栖は顔を見合わせて笑った。 城下の町から少し離れた森に着いた。 そこをなんとはなしに歩いていくと、奥には湖があった。 此処に居るな、と確信する。 水落先生は、大体いつもこうだ。遊星学園に居た頃だって、何か考えることがあるといつも寮の裏手の池に足を運んでいた。 だから、きっと水落先生はこういう場所に居るだろう。緑の多い水辺で佇んでいる姿を、俺は何度も見たことがあるから。 そうして湖の周辺を見回すと、思ったとおり、水落先生の姿が見えた。 「水落先生」 名前を呼ぶと、はっとしたように俺を見た。 「青木…くん」 「やっぱり此処に居たんですね」 「青木くん、さっきの…」 「はい」 「何故…です。以前に、言ったでしょう、諦めると…」 「言いましたね」 「だったら、どうして…っ」 「水落先生って、意外と抜けてますよね」 少し非難がましい目をして言う水落先生に俺は笑いかける。 「抜けている…?」 「だってそうでしょう?一度抱かせてくれたら諦める、なんて本当に出来ると思いますか?普通、一度でも抱いたら、余計に諦めきれなくなるでしょう?」 「だったら…っ」 「一応言っておきますけど、俺だって本当に諦めるつもりだったんです。でも、諦め切れなかった。だから、もう一度告白したんです。今度こそ決着をつけるために」 俺は真剣な眼差しで水落先生を見つめた。水落先生の表情にあるのは、相変わらずの戸惑いと怖れ。けれど、ここで引くつもりはなかった。 「あの時、貴方は他にしなければならないことがあるから、誰とも付き合わないと言った。それが翔たちを守ることなら、それは果たされた筈ですよね?だから貴方は旅に出た」 「…」 「だから、俺は決めたんです。貴方が帰ってきたら、もう一度告白しようって。そして、今度こそちゃんと、貴方の気持ちを聞こうと」 「青木くん…」 「もう、あの時と同じ言い訳は通用しませんよ?俺が聞きたいのは、貴方が俺のことをどう思っているかです」 俺の言葉に、水落先生が視線を逸らす。 言葉に詰まって、苦しげな表情を見るのは胸が痛い。でも、此処で引くわけにはいかないのだ。ちゃんと、水落先生の本心を聞き出さなくてはいけない。 俺自身のためにも、水落先生のためにも。 「俺、あの頃より随分でかくなったでしょう?」 俺の言葉に、水落先生が視線を上げる。今は僅かながら俺の方が身長が高い。離れた頃はまだまだ成長期だったし、絶対大きくなろうと決めていたから、それなりに努力もした。今は、水落先生と肩が並べられるほど大きくなった。 「あの頃のような子供じゃありません。自分の情けなさに泣き出したりもしない。だから言ってください。あなたの正直な気持ちを」 俺の言葉に、水落先生がゆるゆると首を振り、一歩後退る。頑なに答えを口にすることを拒む水落先生に、俺は逆に一歩ずつ近づいた。 俺が近づくことを怖れるように後退っていた水落先生の背中が、木にぶつかった。俺は水落先生の前まで来て顔を近づける。 「好きだよ、瀬那…」 名前を呼ぶと、びくっと肩が震えた。哀れなまでに俺を恐れているのは何故なのだろう。矢張り、あの時の悔恨なのだろうか。 「俺は、何があっても貴方が好きだ。今までも、これからもずっと、貴方だけを好きでいる。貴方しか好きになれない程に、ずっと焦がれていたんだ」 「青木く…ん…っ」 俺の名前を呼ぼうとした瀬那の唇を塞ぐ。何年ぶりだろう、瀬那にこうして触れるのは。瀬那の肩をしっかりと掴んで、指先にまで愛しさが溢れだして、もっともっと瀬那を感じたくて、キスを深くする。 「んっ…ふ…ぁ…」 漏れる熱い吐息に、やっぱり涙が出そうなほど、いとおしいと思った。瀬那の手が、俺の胸元に当てられて、押し返すように動いた。けれどそれはとても弱弱しくて、抵抗としては全然足りていない。 ゆっくりと口唇を離して、瀬那の頬を両手で包み込む。 「瀬那、こっちを向いて。俺を見て」 目を逸らしがちだった瀬那の瞳が、おずおずと俺に視線を合わせる。僅かに潤んだ瞳が、また愛しい。この人に会うまでこんなにも誰かを愛しいと思う気持ちを知らなかった。 初めは、カッコよくて、綺麗な人だと思った。今も、そう思わない訳ではないけれど、何よりいとおしいという気持ちの方が強くて、何だか可愛いと思ってしまうのが不思議だ。 「俺は瀬那が好きだ。だから、聞きたいだけなんだ、瀬那の正直な気持ちを。誤魔化したりしないで」 「それは…」 「こっちを見て」 目を逸らそうとする瀬那に、俺は短く告げる。そうするとまた、瀬那は俺に視線を戻した。 「何を迷ってるの?」 「私は、君に好きになってもらえるような人間じゃ有りません…」 「どうして、そう思うの?」 「……私は、君が思っているより、ずっと汚い人間です。だから…」 その言葉に、俺は笑みを浮かべる。 「貴方がずるい人だっていうのは最初から知ってる」 「青木くん…」 俺の言葉に、瀬那は目を見開く。余程意外な言葉だったのだろうか。瀬那の頬を包んだ手でゆっくりと撫でると、ぴくりと身体を震わせて、瀬那は目を閉じた。 「遊星学園に入学した時からずっと貴方を見ていた。だけど、貴方はいつも俺が問いかけることには曖昧に誤魔化してばかりで、俺が告白した時だって、ずるい方法で逃げた」 「そう思うなら…」 「それでも、俺は瀬那が好きなんだよ」 俺の言葉が、少しでも、瀬那の心に届けばいい。頑なに拒絶しようとする心に。そう重いながら、一つ一つ言葉を紡ぐ。 「ずるくたって別にいいんだ。他の別の誰かと経験があったっていい。それが瀬那なら、俺はそれでいいんだ。どんな瀬那だって、俺は好きでいられる自信がある」 瀬那の手が、ゆっくりと俺の手に合わせられる。それに笑みを浮かべる。 「俺から逃げないで。逃げたってちゃんと答えを聞くまでは、俺は何処まででも追いかけるから。答えて、瀬那。俺のこと、どう思ってる?」 瀬那の瞳が、俺の瞳を覗き込むように見つめる。俺の言葉が真実であるかを、確かめようとするように。だから俺は、決して逸らさず、瀬那を見つめ返した。 大丈夫だから。 何があっても、俺の気持ちは変わらないから。 その気持ちが伝わったのか、おずおずと瀬那は口を開いた。 「私も…君が好きです…」 掠れた小さい声だったけれど、しっかりと俺の耳に届いた。 ずっとずっと、聞きたかった言葉だ。嬉しくて、どうしようもなくて、俺は瀬那を思い切り抱きしめていた。 「あ、青木くんっ」 「瀬那…俺の名前を呼んで。そんな呼び方じゃなくて…」 「あ…の…」 「今更その程度で照れる?一度は最後までした仲なのに」 からかうようにそう言うと、瀬那の顔が真っ赤に染まった。 「君は、意地が悪くなりましたね…」 「そうでもならないと、瀬那は手に入らないからな」 「う…っ」 そう言って笑うと、瀬那は益々言葉を詰まらせた。 その様子が愛しくて、直人は瀬那にキスをする。瀬那も今度は抵抗する様子もなく受け入れた。ゆっくりと合わせるだけの口付けだけれど、気持ちが通い合っているのが解かるから、今までしたどんなキスよりも嬉しい。 「瀬那、俺と一緒に、人間界で暮らしてくれる?」 「……本当に、いいんですか?私で」 「まだ言うかな。瀬那じゃなきゃ駄目なんだよ」 「私で、いいなら…」 「うん」 まだ控えめな言葉だけれど、急に積極的にはなれないのも解かるから、了承の言葉を得られただけで充分だった。何よりも、そんな瀬那が愛しい。 いや、それがどんな動作であれ、言葉であれ愛しいと思うのだから、あまり意味はないのかも知れない。 もう一度そっとキスをすると、瀬那の手がおずおずと俺の背に回ってくる。それが嬉しくて、キスを深くする。薄く開いた唇に舌を押入れ、絡め取ると、瀬那もそれに答えて舌を動かす。 それが何より気持ちが通じ合っている証のようで嬉しい。 「ん…っ、んん…」 時折漏れる吐息が甘くて、夢中になってその唇を貪る。二人の唾液が混ざり合い、飲み下し切れなかったそれが瀬那の口の端から漏れて顎を伝った。 それに気づいてそっと唇を離すと、つぅっと銀糸が伝い、ぷつりと切れた。瀬那の口の端から漏れた唾液を舐め取り、そっと唇も舐める。 「ぁ…」 小さく漏れたと息が心なしか熱くなっているようで、俺は笑みを浮かべる。 「感じた?」 「…聞かないでください」 「いいだろ、聞かせてくれたって」 その顔を見れば、聞かなくても解かるけど。瞳も潤んでいるし、頬も紅潮しているし、瀬那があのキスで感じたことは解かる。けど、直接瀬那の言葉で聞きたい。 「……上手くなりましたね…」 「そういう言い方で逃げるかな」 ちょっと残念だけれど、貶された訳ではないのでよしとする。 「まぁ、それなりに練習したからな」 「………誰と…?」 俺の言葉に些か不機嫌そうな口調でそう言う瀬那に、思わず笑ってしまう。 「妬いた?」 「からかってるんですか?」 「だって、気になるし。妬いてくれたんなら嬉しいし。まぁ、安心してよ、勉強したって言っても本とか読んでだから。それに、瀬那以外の誰かとこういうことしたいなんて思わないしさ」 そう言ってもう一度キスをすると、今度は拗ねたように逸らされる。その様子が何だか可愛くて、今度は声に出して笑ってしまう。 「ははっ」 「何がおかしいんですか!?」 「だって、さっきまで俺から逃げようとしてたのにさ・・・」 「そ、それは…」 「まぁ、俺は嬉しいからいいけど」 また触れるだけのキスをする。今度は意地になったように逸らさない。それが可愛いんだって、この人は気づいていないんだろうけど。 カッコよくて、綺麗で、だけど頑固で意地っ張りで、そんなところが可愛い。 「ねぇ、瀬那。ここでしていい?」 「え…」 「駄目?」 問いかけている意味は解かったのだろう、瀬那の頬がさっと赤くなる。 「まだ、昼間で、しかも外ですよ?」 「だって、ずっと我慢してたんだよ。もう何年も」 「いつ、人が来るか…」 まぁ、確かに。こんな所、いつ人が来てもおかしくない。だからって、高まった欲を抑えられるほど俺は大人じゃない。 俺は瀬那の手を掴んで、視覚の広い湖の傍から離れて、木の生い茂る中へと瀬那を連れ込む。 少し中に入れば人にも見られないだろう。 「此処だったら、誰にも見られないだろ?」 「で、でも…」 「それとも、俺とするのは嫌?」 「そんなことはありません」 それはきっぱり否定してくれる。俺は笑って瀬那にキスをする。諦めたように目を閉じたのを了承と受け取り、更に深く口付けて、アンダーシャツの裾を捲り上げた。 その滑らかな感触が心地よくて、暫くそうして撫でていると、キスとそれだけでも瀬那の体温が徐々に上がっていくのが解かる。更に手を瀬那の胸の方へと上らせて、引っかかる突起に触れると、キスの合間から熱い吐息が漏れた。 「ぁ…ふっ…」 前に抱いた時はそれこそ全然余裕がなかったから、今度はじっくり瀬那の表情を堪能したい。口唇を離して、首筋へ舌を這わせるとぴくりと身体を震わせる。 胸への愛撫も休めずに、首筋から顎の方へと舐め上げると、そっと喉元に噛み付いた。 「あ…青木、くん……」 「瀬那、名前で呼んでって言ってるだろ?」 「それは…」 まだ躊躇する様子の瀬那に呆れながら、今度は手をズボンのベルトに掛ける。ベルトを緩めてチャックを下ろすと、下着の中に手を滑り込ませる。 そうして触れた瀬那のものはもうすっかり張り詰めていて、先走りも溢れてきている。 「もうこんなになってるんだ?瀬那は感じやすいな」 「そんなこと…言わないで、ください…」 「だって、本当のことだし」 そう言って手に握りこんだものを扱くと甘い声が上がる。 「あっ、あぁっ」 その声がもっと聞きたくて、俺は執拗に其処を扱き上げながら、唇は瀬那の胸へと移動する。既に赤く立ち上がってきているそれを口に含むと、瀬那は俺の頭を掴んだ。それが強請られているような気がしてそこを吸い上げると、びくりと瀬那の身体が震えて、握っているそれも堅さを増した。 「あ、青木くんっ…あ…ん…っ…」 「可愛い、瀬那…」 「な…っ、そんな、こと…っ」 思ったままを言っただけなのだけれど、瀬那はその言葉に顔どころか全身を真っ赤に染める。余程恥ずかしかったらしい。 「年上の男に、可愛いなんて言うものじゃありませんよ…」 「仕方ないだろ、可愛いって思っちゃったんだから」 そう言って笑いながら、瀬那のものを扱く。 「あふっ…あ…」 「じゃあ、可愛いはやめて、色っぽいって言おうか?」 「…どっちにしても、恥ずかしいです」 「でも、どっちも本当なんだけどな」 そう言って先端に爪を立てると、俺の頭に添えていた手に力が篭る。 「あ…ぅっ」 俺の手の中にあるものは今にもはちきれんばかりに育っていて、俺の手をべとべとに濡らしている。さっきから足も震えているし、立っているのもやっとの状態なんだろう。 俺はその手を更に奥へと進めて、窄まりに触れる。瀬那の先走りですっかり濡れきっている其処に指を一本差し入れる。さしたる抵抗もなく中に入ったけれど、入ってみればきつく締め付けてくる。 「んっ…ふ…」 「痛い?」 「いえ…痛くは、ありません…」 「そう…」 その言葉に嘘はなさそうだったから、中に入れた指をゆっくり動かして解していく。じっとりと熱い其処が次第に柔らかくなっていくのが解かって、指を二本に増やす。それがすんなり入ったのを確認して、三本目はすぐに入れる。 それを確認してから俺は瀬那のズボンを完全に引き下ろして膝をつき、濡れて勃ちあがっているものを口に含んだ。 「あっ…やっ…駄目…あぁっ…」 静止の言葉をかける瀬那を無視して、其処を唇で扱くと、たまらなげに瀬那が声を上げる。中に入れた指も休むことなく動かしながら、口で瀬那のものを愛撫する。 「だ、駄目です…もう…っ……もう…っ」 「いいよ、そのまま、達って」 限界を訴える瀬那に、俺は中に入れた指を深く奥まで突き入れ、口に含んだものを吸い上げた。 「あ…っ、駄目…だめです…あ…ぁああっ!!」 全身を大きく震わせ、瀬那は俺の口の中に迸りを放つ。それを全て飲み込んで口を離すと、瀬那はずるずるとその場に座り込んだ。 大きく息を乱して放心状態の瀬那に僅かばかり苦笑しながら、中に入れたままの指を動かすと、びくっと身体が跳ねる。 「ひぁ…っ」 「まだ、終わってないよ?」 そう言って指をばらばらに動かしていると、放ったばかりの其処がまた勃ちあがり始める。そうして、中で動かしている指がある一点を突いたとき、一際大きな声が漏れた。 「あぁっ!」 「…此処?」 其処を執拗に指で擦り付けると、瀬那が頭を振って俺にしがみ付いてくる。 「もう、もう…お願い、ですから…青木…くん…っ」 「直人って呼んで」 「あ…」 「呼んでくれなきゃ、これ以上はしないよ」 実際、俺の方も既に限界ギリギリなのだけれど、それが知られるのは悔しいから表に出さないようにする。何より、瀬那にちゃんと名前で呼んで欲しい。 それでも逡巡している様子の瀬那に、中に入れている指を鉤状ににして感じる場所を引っかくと、甘い悲鳴を上げて俺にしがみ付く。 「ぁあっ…おね…がいです…から…」 「名前、呼んで」 「な…直人……入れて、ください…」 俺の名前を呼ぶ掠れたその声がぞくりとする程色っぽかった。それこそ、ただでさえ限界ギリギリだったのに、そんな風に呼ばれれば抑えられる筈がない。指を引き抜き瀬那の両足を挿れやすいように持ち上げて、既に張り詰めている俺のものを瀬那の其処に宛がい、一気に貫いた。 「あ…っ、ぁあ!!」 瀬那が痛みを感じているかも知れない、というのは頭の中にあったけれど、それよりも締め付けてくる快感の強さが上で、腰の動きを止めることは出来なかった。 俺の背にしがみつく瀬那の腕の強さを感じて、尚のこと止められない。 「あ…ひっ…ああ……あ…ふ……ぁ…」 漏れ聞こえる喘ぎ声に、瀬那が感じているのが苦痛ではないと気づく。抜き差しを繰り返すうちに、次第に中が俺の形に合わせてぴったりと吸い付いてきて、痺れるような快感が背筋を走る。 そして更に動きは激しくなり、無茶かと思うほどに激しく瀬那の中をかき回した。 「…や…ぁ……直人…直人…っ…ああ…!」 俺の名前を呼ぶ瀬那の声を聞いて、抑えきれないほどの愛しさが尚更快感を高めていく。 「瀬那……瀬那…っ…好きだ、瀬那…」 「あ、ぁ…直人……私も……好き…です…っ」 「っ…瀬那…!」 瀬那の口から出る「好き」と言う言葉に想いが堰を切ったように溢れて、一番奥深くまで抉るように突き入れた。 「あ…っ、ああぁーーーっ!!」 「…くっ」 瀬那が一際高い声を上げて達すると、その収縮に合わせて俺も瀬那の中に射精する。どくりどくりと脈打ちながら自分でも驚くぐらい長い間射精を続けて、中から精液が溢れてくるのが解かった。 「は…ぁ…はぁ……」 荒く息を乱す瀬那を見て、ゆっくりと其処から自分のものを引きぬくと、瀬那の頬に手を添える。 「その…大丈夫?」 「……大丈夫です。嬉しいですから」 問いかけて、返って来た笑みがあまりにも綺麗で、どきりとする。この人はどうしてこう俺を魅了してやまないのだろう。瀬那の仕草一つ一つ、言葉一つ一つが俺を捕らえて離さない。 「少し休んだら、戻らないとな。翔たちも心配してるだろうし」 「そう…ですね。でも…」 「ん?」 「もう少しだけ、こうしていてください」 そうして、瀬那の頬に触れている俺の手に、そっと自分の手を重ね合わせてゆっくりと目を閉じた。二人で居ることを望んでくれる、それだけで暖かい気持ちが俺の中に広がっていく。 「うん…」 「…ところで」 「なに?」 「…私が、君のことを好きだって気づいていたから、あんなに強引に口説いたんですか?」 「え?そりゃまあ、そうでもなきゃあんな風には口説かないけど?」 今更の問いかけに直人が言うと、瀬那は少し考え込む。 「どうして、解かったんですか?」 「俺が城で告白した時に『考えさせてくれ』って言ったから」 「それで…?」 「俺のこと何とも思ってないなら、それこそその場で断ってるだろ。最初俺の告白を断ったみたいに。迷ってるってことは、俺のこと好きだってことだろ?」 「…………そう、ですか」 何となく落ち込んだ様子の瀬那に苦笑する。 ずっと見ていたんだから、それぐらい解からない筈ないんだけど、それが読まれていたことがショックなんだろう。 そんな様子が可愛いのだけれど、それを言うとまた不機嫌になりそうだからやめておくことにした。 俺と瀬那がお城に戻ったのは、もう日も暮れかけた頃だった。 逢坂先輩たちは俺たちの様子を見て、すぐに上手く行った事が解かったらしく、にやにや笑いながら近づいてきた。 「どーやら、上手くいったみてーじゃん?」 「おかげさまで」 からかおうとしているのが解かったので、俺も出来るだけ気にしないようにして笑う。それに気づいたのか、逢坂先輩は一度面白くなさそうな顔をして、瀬那に視線を向けた。 「まぁ、そういうことだから、セナは人間界に戻るんだろ?青木のプロポーズを受ける訳だから」 「プロポーズって…」 「実際そうだろ?一緒に暮らしましょうってことは」 にやにや笑いながら言う逢坂先輩に、瀬那は僅かに頬を染めて戸惑ったような表情をする。ああ、からかわれているのが見え見えだ。 何となく面白くなくて、俺は瀬那の手を掴んで引き寄せ、抱きしめた。 「まぁ、そういう訳ですから逢坂先輩。くれぐれも邪魔しには来ないでくださいね」 「なっ…」 「……ぜってー行かねー…」 俺の腕の中で瀬那は真っ赤になり、逢坂先輩は心底嫌そうに呟いた。 その後ろで御園生も面白くなさそうな顔をしているが、其処はあまり突っ込むと怖いのでやめておこう。翔と千倉は普通に喜んでくれているようだし。 「それにしても、こんな時間まで何をしていたんだろうね、青木?」 「…こっちが無視しても駄目か」 こっちから突っ込むのも怖かったが向こうから言われると尚更怖い。解かっている癖に聞いてくるところが尚のこと厄介だ。 「ご想像通りだと思うけど?」 「昼間からやることじゃないでしょ。我慢がきかないんじゃない?」 「あ、あの、櫂…」 「水落先生は黙っていてください」 何とか取り成そうとした瀬那を遮り、櫂は俺に向かってにっこりと笑った。その笑顔が何より怖ろしい。 「少なくとも、時と場所を弁える分別はつけてもらいたいね、青木…」 「お前、さっき応援するって言ったのは嘘かよ…」 「それはそれ、これはこれ。青木が節操なくそういうことをしてもし水落先生が困ることになったら容赦しないから、覚えておいて」 そうして言うだけ言って、御園生は踝を返した。向かった先に居た逢坂先輩はそれこそ呆れたような顔をしている。 瀬那と両思いになったはいいが、それでもまだまだ前途は多難のようだった。 Fin |