いつか、きっと



 俺は遊星学園の学園寮の前に立つ。
 今日から此処で暮らすのだと思うと、微かな緊張と期待で胸がドキドキした。
 最初は学園の方に行って説明やら書類の整理やらと言われるままに済ませて、その後、寮の方へ行くように言われたのだ。
 実際まだ春休みで、俺は剣道部の部活に参加するために早めにこちらに来た。だから、寮の方も新入生はまだ珍しいのか、少しだけ注目を浴びる。なんだか少し視線が痛い。
 寮監室の前について、ドアをノックする。
「はい。どうぞ」
 中から優しげな男の人の声が聞こえた。
 そりゃ、女の人ってことはないだろうけど。此処、男子校だし、女の人なんかだったら速攻で餌食だろう。これから男ばかりの場所で暮らすんだと思うと、少し憂鬱ではある。
 まあ、そんなことを考えても仕方がないので、ドアを開けて入った。
「失礼します」
 部屋の中に居たのは、まだ若い男の先生で、でも、それよりもまず先に、
(カッコいい…)
 という感想が出た。すらっとした長身で、赤い髪をきっちり整えていて、少し堅そうな眼鏡の奥には優しげな青い瞳が見えた。
 何て言うか、全体的な雰囲気がカッコいい。
 こんなカッコいい人ははじめて見た。素直に男の人をカッコいいと思うのは、自分でも少し驚いたけれど。
「ああ、新入生の青木くんですね。寮監をしている水落です。よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いしますっ」
 声を掛けられ、はっとして慌てて挨拶する。ついつい見蕩れてしまっていた。
 それにしても、穏やかで優しそうな人だ。これが恐そうなおじさんだったりしたら嫌だろうな、と思う。水落先生なら優しそうだし、上手くやっていけそうな気がしてくる。
「それじゃあ、今から寮内を案内しましょうか」
「今日入るのは、俺だけなんですか?」
「ええ。昨日は二人居ましたけど、今日は青木くんだけですね」
「そうなんですか」
「しっかり覚えて置いてくださいね。同室の人が来たら、案内して貰う事になりますから」
 水落先生は寮監室のドアを開けながら言う。
「案内?俺が?」
「ええ。青木くんの場合はまだ同室の人が来ていないので私がしますが、本来は同室の人にやってもらうことになっているんです。まあ、入学式の前日なんかはまとめて人が入ってくるのでそちらも私がしますが」
 水落先生の後についていきながら、確かに、と思う。水落先生だって忙しいんだろうし、ばらばらに入ってくる新入生一人一人にこうやって説明するのは流石に厳しいだろう。
 説明してくれる水落先生の後姿をみながら思う。
 そう言えば、水落先生は服の上からでも解かるほど引き締まった体つきをしている。ちゃんとトレーニングをしている身体だ。
「水落先生は、何かスポーツとかするんですか?」
「え?ああ、スポーツ、というか、私は射撃部の顧問なんですよ」
「射撃部?そんなのあるんですか?」
「ええ、確か学校案内にもちゃんと載ってましたよ。読んでないんですか?」
「あ、いや。部活のところはもう決めてたんですっ飛ばしてました」
 俺は苦笑いを浮かべながら言う。
「何なら一度見学に来ますか?」
「面白そうですけど、やっぱいいです。俺、もう決めてるんで」
 確かに射撃ってのも面白そうだし、何かカッコいい感じがするけど。
「剣道部へ入部するんですよね。中学のころは全国大会で優勝もしたんでしょう?頑張ってください」
「はい。ところで、此処の剣道部ってどれくらいの強さですか?」
「…そうですね、お世辞にも強いとは言えません」
「それって…」
「大体は県大会で一回戦敗退ですね」
「うわ…」
 それは確かに弱い。
 一回も勝てないなんてある意味凄い。
「でも、どうしてこの学校に?剣道の強い高校ならいろいろあるでしょう?」
「本当は俺、公立の学校行く筈だったんですよ。でも、遊星学園から推薦の話が来たんでこっちに」
「そうなんですか」
「でも、剣道できるだけで俺は嬉しいですよ」
 そう言って笑うと、水落先生も笑い返してくれた。
 その笑顔にどきっとする。水落先生、カッコいいだけじゃなくて、綺麗…かも。男の人に綺麗なんて普通使うもんじゃないと思うけど。何か、凄く綺麗な笑顔だった。
「顧問の先生は少し変わってますが、とても強いですよ。この学校はいい先生が揃っていますし」
「そうなんですか?」
 でも、変わってるって何だろうか。でも、強いというのなら一度手合わせしてみたい。
「はい。ああ、あちらにいらっしゃる東堂先生も凄いんですよ」
 ロビーみたいなところでソファに座っている先生が居た。そちらを示して水落先生が言う。それに気づいたように、その東堂先生もこちらを向いた。
「水落先生。新入生の案内か?」
「ええ。彼は新入生の青木直人くん。こちらは歴史を担当されている東堂先生です」
 何ていうか、水落先生とは違った意味でカッコいい先生だ。男くさいカッコよさと言うんだろうか、がっしりとした体つきで、いかにも頼れそうな感じがする。
 別に、水落先生が男っぽくない訳ではないのだけれど、水落先生よりも長身で、腕の太さだって先生の一回りは大きい気がする。
「東堂先生はあらゆる武道に精通してますから、剣道の練習がしたいなら相手をしてもらうのもいいかも知れません。いつも消灯ぎりぎりまで寮にいらっしゃいますしね」
「水落先生…」
「すみません」
 東堂先生がたしなめるのに、悪びれたようすもなくにっこり笑って水落先生があやまる。東堂先生は仕方なさそうに溜息を吐いた。
 この二人は仲がいいんだな、と直感的に思う。そりゃ、いつも寮に居るんだったら顔を合わせて自然と仲良くなるだろうけど、それだけじゃない親密さがあるような気がした。
「まあ、何かあったらいつでも相談にのるぞ」
「ありがとうございます」
 包容力のある力強い笑顔に俺も素直にお礼を言った。本当に頼れそうな先生だ。生徒にも人気があるんだろう。
「それじゃあ、次は食堂に行きましょうか」
「はい」
「ああ、そうだ。青木」
「はい?」
 水落先生と次へ行こうとすると、突然東堂先生に呼びかけられた。
「人の声がしても、空き教室はあまりのぞかない方がいいぞ」
「はぁ?」
「東堂先生、青木くんみたいなタイプはそういうことを言うと逆効果ですよ」
「そうか?」
「好奇心が強そうですから」
 そう言って微笑んで俺を見る水落先生に苦笑いを返した。何だか見透かされている気分だ。確かに俺って好奇心強いもんな…。駄目だと言われるとやりたくなるし。
「それじゃあ、失礼します。東堂先生」
「ああ」
 水落先生が挨拶をして、俺を促す。俺もそれについていった。
 食堂、大浴場…当面必要な場所は見て回って、それから俺の部屋に案内された。
「もし解からないことがあったらいつでも聞きに来て下さい。寮生の誰かに聞いてもいいですが。みんな親切に教えてくれますよ」
「はい、解かりました」
 寮生を本当に信頼しているような水落先生の物言いに、俺も頷いた。大体、水落先生って何となく言うことを聞きたくなる先生だ。
「それじゃあ、これで」
「はい」
 水落先生が戻っていくのを見送って部屋に入る。もう部屋の中には荷物が運び込まれていた。二つあるベッドの片方にどっかと座る。結構広いし、いい部屋だ。寮も新しくて大きいし、いいところだな、と思う。うちよりよっぽど立派かも知れない。
 それにしても、やっぱりなれない場所まで来るのはちょっと疲れた。夕食の時間まで一眠りしよう。そう思ってベッドに横になった。


 その夜は早速東堂先生の言葉を実感することになった。
 空き部屋のドアが薄く開いていて、声が聞こえてきた。それを好奇心にかられて覗き込むと、寮生二人がキスをしていたのだ。
 寮生なんだから勿論男同士。
(…東堂先生が言ってた意味ってこれなんだ…)
 俺は勿論見なかったふりをしてその場を離れた。それにしても、そう注意するってことは結構あるってことなんだろう。そりゃ、男しか居ないから男に走ることもあるのかも知れないけど。
 その後食べた夕食は凄く美味しかった。
 疲れていたのと、あんなのを見てしまったから少し自棄にもなっていたんだろうけど。明日からは部活があるし、しっかり食っておくに越したことはない。
 何杯かおかわりをして、お腹いっぱいになるまで食べた。



 翌日、部活に行くと、顧問の先生は水落先生の言ったとおり少し…いや、かなり変わっていた。
 なんと言ってもオカマである。
 だけど、手合わせをしてみて、確かに凄く強いってことがよく解かった。他の部員よりはもったけど、それでも簡単に一本取られてしまう。
「さすが、推薦で入っただけあるわ〜、強いわね、青木くん」
「そんなことないですよ。寝屋川先生の方が俺よりずっと強いし」
「ふふふ、ありがと。でも、青木くんもきっとこれからもっと強くなるわよ〜」
「はい、これからよろしくお願いします」
「じゃ、あたしはこれで」
 そう言って寝屋川先生は剣道場から出て行った。
 でも、あんなに強い先生が顧問なのに、何でこの部は弱小なんだろう?それともやるのと教えるのは別、なんだろうか。
 そう思って他の部員に聞いてみると、何のことはない。あまり部活を見に来ないだけらしい。たまーに見に来てもああやって一人一人と打ち合って帰っていく。あとは自分たちで練習するしかない、ということらしい。
 ちゃんと練習を見てくれたら、きっともっと強くなるのに、勿体ない。
「でも、青木が入部してくれたからな。今年こそ県大会一回戦突破だ!」
 目標が低い。
 という突っ込みは先輩相手には出来ないけれど。せめて県大会決勝進出、ぐらいは言えないだろうか。無謀でも目標は高い方がいいに決まってる。
「まあ、頑張りましょう、先輩」
 そう言って、練習に戻った。
 一日練習してみて、その後部長と少し練習の内容を話し合った。少し無駄なところがあったからだ。どうも推薦で入部したということで、周りから一目置かれてしまっているらしいけど、おかげで意見が言いやすい。部長も素直に俺の提案を受け入れてくれた。
 余程一回戦突破が悲願らしい。
 まぁ、この一日のおかげで部員の下手さもよく解かったけど。唯一マシなのが部長だけなんだから話にならない。
 …団体戦で三人勝たなきゃいけないのに、この状態で本当に大丈夫なのだろうか。少し、いやかなり不安になった。



 入学式までもう少し、という時。
 寮監室に俺は呼び出された。
 部屋の前まで来たとき、少しドアが開いていて声が聞こえた。
「え〜っ、僕、一人部屋なんですか?」
「ええ、人数が合わないので一人になる子が出てくるのはどうしようもないんですよ」
「そんなぁ」
「すみません。…ああ、青木くん」
 ドアの前で止まって成り行きを見守っていた俺に気づいて、水落先生が声をかけてきた。不満を漏らしていたのは、大きい目に長い髪、丸い大きな眼鏡をした小柄な少年……だった。
「……男、だよな?」
 つい呟いてしまったのも仕方ないぐらい可愛くて女の子に見える。
「男だよ、僕。…よく間違えられるけど」
 むぅっとした顔で言っても全然迫力がない。そいつの名前は千倉杏里、というらしい。名前まで女の子みたいだ。
 そして、その後でようやくもう一人生徒が居るのに気づいた。何とも居た堪れないような顔をしている。まぁ、無理はないけど。
「それで、水落先生。一体なんの用なんです?」
「ああ、こちらが君の同室者になるんです。だから寮を案内してあげて欲しいんですよ。それから、千倉くんも一緒に。彼は一人部屋なので」
「あ、解かりました」
 確かに、そういう話だった。
「先生、本当に僕、一人部屋じゃないと駄目なんですか?」
「何で不満なんだよ、一人部屋。俺が変わりたいくらいだぜ」
「じゃぁ、変わってよー」
「駄目ですよ」
 俺と千倉が話していると、水落先生が止めに入る。一人部屋なんて羨ましい限りで変わってもらえたらラッキー、って思ったんだけど。
「どうしてですか?」
「青木くんは、もう何日かこの寮で過ごしているんですから、解かるでしょう?」
「えー…………」
 俺が考え込んでいると、水落先生は苦笑して付け足した。
「空き部屋は覗きましたか?」
「あ、ああ!!」
 その一言で納得がいってぽんっと掌を叩いた。
 このホモの巣窟の学園で千倉みたいなタイプは恰好の餌食だろう。見た目は女の子にしか見えないし、襲われても抵抗なんて出来そうにない。見た目だけで血迷う男も多いだろう。
「それに、感化される新入生も多いんですよ」
「……何か俺たちが予備軍みたいじゃないですか」
「そういうつもりではないんですけどね」
 俺が少し不満そうな顔をすると、水落先生は苦笑した。
 残りの二人がきょとん、とした顔でこちらを見ている。まぁ、主語を省いて会話しているから解からないのも当然だけど。
「と、もうこんな時間ですか。私はこれから学園に行かなければならないんです。青木くん、案内よろしくお願いしますね」
「はい」
「千倉君の部屋は青木くんたちの部屋の右隣ですから」
 そういい置いて水落先生は慌てて寮監室を出て行った。
 千倉と同室のやつはぽかん、とそれを見送っていた。やっぱり俺と水落先生の会話が解からなかったからだろう。まぁ、そのうち嫌でも解かるだろうけど。
 そして俺は、寮内を案内するために二人を連れて寮監室を出た。



 入学式が終わって数日。
 少しずつ学園に慣れ始めたころ部活の先輩に呼び出された。
「先輩、何すか、話って」
「ああ…」
 酷く真剣な表情をしている先輩に俺も少し緊張する。一体俺にどんな話があるって言うんだろう?
「俺…青木のことが好きだ」
「へ?」
「好きなんだ、俺と付き合ってくれないか!?」
「は?あの、俺たち男同士ですよ!!?」
「そんなの解かってる。でも好きなんだ!!」
 戸惑う俺とは正反対に、先輩はどんどんと熱くなっていく。一歩先輩が俺に近づくと、俺も一歩後ろにさがる。
「青木、好きなんだ、初めてお前と手合わせしたときから…」
「あ、あの…ちょっ……」
 背中が木にぶつかって、逃げ道がふさがれた時、がっと肩を掴まれた。
「お前の鮮やかな動きが目に付いて離れない。俺から面を取ったときのあの動き…今考えただけで惚れ惚れする…」
「はぁ…そりゃ、どうも」
「なぁ、青木。俺の気持ちを受け入れてくれ」
 そう言って段々顔が近づいてくる。これはキス、しようとしてるんだよな?というか、思いがけなく覗くことはあっても自分がこういう事態になるとは考えもしなかった。
 ていうか、この状況は…かなり、ヤバい。
 しかし状況が状況だけに混乱していてどうしたらいいか解からない。幾らなんでも先輩を殴り飛ばすわけにもいかない。
 そんなことを考えている間にも顔はどんどんと近づいてくる。
 もう少しで触れると思ったとき、突然声がかかった。
「そのぐらいにしておきなさい」
 聞きなれた低くて落ち着いた声。
「水落先生!」
 驚いて先輩も俺から離れた。
「先生、これは俺たちの問題です。口出ししないでください」
「本来なら、私もこういう時には口出ししないんですがね。ですが、青木くんはまだ入学したてでこの学園にも慣れていないんです。それでも同意の上なら構いませんが、どう見てもそうではありませんからね。流石に見て見ぬ振りをする訳にはいきません」
 先輩の抗議に水落先生は正論を言って返した。
 それに言い返すことも出来ず、先輩はその場から走り去っていった。俺はほっと息を吐く。
「ありがとうございます、水落先生。助かりました」
「いえ、とりあえず何事もないようですね」
「はい」
 本当に、水落先生が来てくれなかったらどうなっていたか解からない。殴り飛ばして逃げていたかも知れないけど。
「ああいう場合は、その気がないならはっきり断った方がいいですよ。曖昧にしていると調子に乗ってくる場合がありますから」
「はい、解かりました」
 でも、そう言うってことは水落先生にも経験があるってことだろうか。先生、カッコいいし、モテそうだよな、何となく。ついつい気になって俺は尋ねてみた。
「水落先生はよく告白とかされるんですか?」
「さあ、どうでしょう?」
「誤魔化さないでくださいよ」
 はぐらかす水落先生にちょっとむっとして文句を言うと苦笑が返ってきた。
「プライベートなことです。貴方に話す必要が?」
「それは…ないですけど」
 そう言われてしまうと言葉に詰まるが。
「だって、気になるじゃないですか。先生モテそうだし」
「それはどうも」
 俺の言葉に水落先生はくすくすと笑う。俺の反応がそんなに面白いんだろうか。ちょっとむっとして睨みつけると水落先生は笑いをかみ殺した。
「それじゃあ、私はこれで」
 まだ口元に僅かに笑みを刻んだまま水落先生はその場を去っていった。
 ひょっとして、誤魔化された?
 いいようにあしらわれたのだろうか。
 そうなってくると、余計に気になるのが人情ってものだ。


 食堂で、親しくなった寮生たちに尋ねてみた。
「水落先生?青木、水落先生狙ってんの?」
「やめとけよ、無駄だってー」
「違うよ。気になっただけだって」
 げらげら笑ってからかってくる寮生たちにむっとしながら否定する。狙うとかそんなつもりは全く無いんだから。第一、俺はホモじゃない。
「確かにモテるよなぁ。隠れファンも多いって話だし。でも誰とも付き合わないらしいぜ」
「あれ、でも水落先生って東堂先生と付き合ってんじゃねぇの?」
「えーっ!東堂先生は逢坂先輩とだろ?」
「…逢坂先輩って、誰?」
「伝説の先輩だよ。何回も留年してるって噂の」
「なんで?」
「寝てばっかいるから」
「その人が…東堂先生と?」
 何か、そういうタイプの人と東堂先生が…てのはあんまり想像出来ないような…。まぁ、でも逆にそういうの放っておけないのかも知れない。
 俺が訝しげな顔にしてるのに気づいたのだろう、寮生の一人が俺の方に顔を近づけてきて囁いた。
「これがまたすげー美形なんだって。東堂先生もよく逢坂先輩のこと気にかけてるし」
「でも、それを言ったら水落先生も逢坂先輩のこと気にしてるよなぁ」
「確かに…ひょっとして、逢坂先輩を巡る三角関係…」
「の割りには東堂先生と水落先生、仲いいけどな」
「そこはそれ、大人の事情ってもんが…」
 勝手に盛り上がる寮生たちについつい苦笑してしまう。話をふったのは俺だけど、此処までくると流石についていけない。
「そういう噂は本人のいないところでした方がいいですよ」
 落ち着いた声が突然聞こえてきてぎくっと身体を強張らせる。他のみんなも同じように驚いて椅子から五ミリぐらい浮き上がった。
 声のした方を恐る恐る見てみれば、丁度噂していた水落先生と東堂先生、それからまだ見知らぬ学生が一人一緒に居た。プラチナブロンドに緑色の目をした綺麗な人だった。
 ひょっとして、この人がさっきの話の…。
「お、おそろいで…」
 恐々一人の生徒が言葉を発した。何と言っても、その学生はかなり面白くなさげにこちらを睨みつけているのだ。東堂先生は呆れたような表情で、水落先生はどうも笑いを噛み殺しているようだった。生徒たちの反応が面白いのか、少し肩を震わせている。
 結構酷いよ、その反応。
「全く、誰と誰が付き合ってて、三角関係だって?ふざけんなよ。何でオレがこんなおっさんと付き合わなきゃいけねぇんだよ」
「ご、ごもっとも」
「で、一体誰だ、元凶は?え?」
 逢坂先輩の言葉に、みんな一斉に俺を指差す。薄情だ。盛り上がってたのはこいつらなのに。文句を言いたくとも余計なことは言えない。逢坂先輩がこっちを睨みつけてくる。
「なーんで、そういう話になったんだよ」
「え、いや、俺はただ水落先生ってモテんのかなーって聞いただけで。逢坂先輩や東堂先生の話になったのはこいつらが勝手に…」
「水落?お前、水落狙ってんの?」
「違いますって!どーしてみんなすぐそういう話になるんですか!」
「ま、こういう学校だからなぁ」
 にやっと笑って逢坂先輩が言う。どうやら怒りは収まってしまったようだ。俺の故意ではないことが解かったからだろうか。それとも、水落先生のことでからかい甲斐があると思ったのか。
「どっちにしろ、水落はやめといた方がいいと思うぜ。いちいち口うるせーし」
「それは逢坂くんが全然授業に出ようとしないからでしょう」
「そうだぞ、逢坂。いい加減卒業したらどうだ」
「だからうっせーんだよ!大体、いちいちそうやって構ってくっから噂になるんだろうが。おっさんはとっとと家に帰れよな!」
 そう言って逢坂先輩は今度は東堂先生を怒鳴りつける。そのまま食堂のカウンターまで言って夕食を取りに行く。そして離れた場所で乱暴に食事を置き、食べ始めた。
「全く、相変わらずだな」
 東堂先生は仕方がなさそうに溜息を吐いた。
「それじゃぁ水落先生、俺もロビーに戻る」
「ええ」
 頷いて、東堂先生を見送る水落先生。やっぱり、何となく普通には解からないような信頼関係が見える気がする。それが一番の噂の元だと思うんだけど。
 そう思っていると、不意に水落先生が振り返って俺に話しかけた。
「それにしても、青木くん」
「はいっ」
「そういうことは、私のプライベートだと言った筈ですが?」
「…だって、やっぱ気になるじゃないですか。先生が素直に教えてくれればこういうことにはなりませんでしだよ」
 水落先生の言葉に俺は言い返す。別に、逢坂先輩や東堂先生のことなんて聞きたい訳じゃなかったんだから。すると、水落先生は軽く息を吐いた。
「解かりました。それで、何が聞きたいんです?」
「じゃー、今、付き合ってる人は居ます?」
「そこでそういう質問をするから疑われるんですよ」
「いや、モテるのはよく解かったからさー。恋人居るのかなぁって純粋な好奇心で」
「…居ませんよ」
 俺の言葉に苦笑いを浮かべながら水落先生が答える。
「そうなんですか!?でも、周りがほっとかないでしょ、水落先生なら」
「誰とも、付き合うつもりはありませんから」
「え?」
「それじゃぁ、私はこれで」
 穏やかな笑みを浮かべて水落先生は食堂から出て行った。でも、俺は何だか凄く腑に落ちない気分になってしまった。誰とも付き合うつもりがない、と言った水落先生の声に、何だか言いようの無い決意のようなものが見えている気がしたから。
 また騒ぎ出す周囲を尻目に、俺は水落先生の言った言葉の意味を考えていた。
 言葉以上の意味が、何かあるんだろうか。



 何だかんだで学園生活は順調だった。
 授業や部活動にも慣れてきたし、寮生活にも慣れた。
 そんな夏休みに入ったある日、寮内で噂が流れた。
 どうも、寮で幽霊が出るらしい、というものだった。
 水を飲みに食堂まで行った生徒がひたひた歩く足音を聞いたとか、すすり泣きを聞いたとか。そんな噂が寮内で瞬く間に広がっていった。
 夏休みともなれば帰省する者も多い、自然と寮の中も静かになる。俺は部活があるから学校に残っていたけれど、昼間はそういう話も興味半分で聞いていられても、夜中に思い出してみれば背筋が寒くなる。怪談話は好きだが、幽霊は嫌いなのだ。
 そして何より同室のやつも帰省してしまっている。
 夜中に部屋に一人。
 布団に潜り込みながら眠れずに悶々とする。
 どうにも眠れなくて、ベッドから起き上がった。そっとドアを開け、左右を見回す。幽霊の居る気配はない。俺は霊感なんてないから居ても解からないだろうけど。
 消灯も大分過ぎた時刻に真っ暗な寮を歩くのは何だかいけないことをしている気分になる。でも、目的の場所は一箇所なのだから、そこまで真っ直ぐ歩いていった。
 寮監室の前まで行き、ノックをする。それからドアを開けて中を覗き込んだ。電気が点いているから起きているのだろう。
「失礼します」
「どうしたんです、青木くん?」
 中に入ると驚いた顔をして水落先生が話しかけてくる。幽霊が怖くて眠れないなんて言えなくて、ちょっと苦笑いを零した。
 何より、水落先生だけならともかく、先客が居たのだから。
「ところで、何で千倉が此処にいんの?」
「部屋で一人だと寂しくて眠れないから。いつも水落先生に落ち着くようにハーブティを淹れてもらってるの」
「…寂しくて眠れないって…ガキだなぁ」
「むぅ。じゃぁ、何で青木くんは此処に来たの?」
「俺は…まぁ、ちょっと寝付けなくて」
 幽霊が怖くて、ってところは省く。そんなの恥ずかしくて言える訳がない。
「青木くんも飲みますか?ハーブティ」
「あ、ご馳走になります」
 ぺこっと頭を下げて言うと、水落先生は穏やかに笑いながらキッチンに入っていった。小さめのキッチンだけどいろいろ設備は整っているみたいだ。
 そこでふっと思いつく。
「なぁ、ひょっとして今噂になってる幽霊の正体って千倉じゃないのか?」
「へ?」
「夜中に寮の廊下泣きながら歩いたりしてねぇか、って言ってんの」
「……たぶん、僕」
「なんだぁ」
 ちょっと気が抜けた。幽霊の正体なんて解かってみればこんなものか。
「夜中に寂しくて、ついつい泣いちゃって先生のところに来ることもあるから」
「ほんっとーにガキだな」
「そうですか?」
 つい千倉をからかうように言うと、水落先生がハーブティの入ったカップを俺の前に置きながら言った。
「だってもう十五ですよ。それで一人寝出来ないなんて…」
「私は十七になるまで一人で眠れませんでしたよ」
「へ?」
「えぇ!!?」
 水落先生の言葉に、俺も千倉も驚いて声を上げる。
「本当ですか!?」
「ええ。だから一人の時はいつも朝まで起きてました」
「そうなのそうなのそうなの!!?」
 千倉は興奮気味に聞き返す。俺は一瞬千倉を慰めるための嘘かな、と思ったけれど、そう言った水落先生の目が懐かしそうに細められたのを見て、それが本当なのだと解かった。
 水落先生は優しくてカッコよくて、何でも出来て、とてもそんな風に一人寝が出来なかったなんて信じられない。でも、不思議とそういうことも恥ずかしいとは思わなかった。そういう一面があるなんて信じられないと同時に、少し可愛い、と思った。
 カッコいいとか綺麗だとかは何度も思ったけれど、可愛いと思うのは初めてだった。
 ハーブティを飲み終わって部屋に戻るまで、俺はずっと千倉と水落先生の会話をただ聞いていた。その時にはもう、気づき始めていたんだろう。
 水落先生に惹かれている、自分の気持ちに。



 水落先生が好きだと自覚したのはそれからもう間もなくのことだった。夏休み中に何度か寮監室を訪ねて、お茶を淹れてもらったりした。何の理由なく尋ねても水落先生は嫌な顔一つせずに笑って受け入れてくれる。それが心地よかった。
 そして水落先生を訪ねてハーブティを淹れてもらって、ついぼーっとしてしまった俺を水落先生がいぶかしんで顔を近づけてきた。
 それだけだった。
 それだけで、俺の心臓は自分でも驚くぐらい跳ね上がって、そのまま逃げるように寮監室を後にした。それから何故か寮監室に足を踏み入れることが出来なくなった。
 水落先生におかしいと思われているのが解かっていてもまともに顔が見られなくなった。
 其処までくれば気づかない訳にはいかなかった。
 水落先生が好きだってことに。
 今まで、そんなんじゃないなんて否定して来たけれど、とっくに俺の気持ちは水落先生に捉われていたんだってことに。
 それから暫く考えた。この気持ちは、水落先生に知られない方がいいのかも知れない、何度もそう思った。「誰とも付き合うつもりはない」と言った水落先生の言葉を忘れた訳ではないから。
 でも、それでも、このまま悶々と気持ちを抱え続けるよりは、はっきりした方がいい、そう思った。振られたら振られたで仕方がない。
 この気持ちだけは伝えよう。



 寮監室のドアをノックして開ける。
 幸い、其処には水落先生しか居なかった。
「青木くん」
 水落先生は微かに目を見開いて、俺の名前を呼んだ。暫く避けていたから、突然会いに来たのに驚いたんだろう。
「先生、ちょっと、話があるんです」
「…なんですか?」
 俺が、真面目な顔をしてそう言うと、水落先生もすっと表情を真剣なものに変えた。そういう顔もカッコいいな、と頭の端で思う自分に苦笑する。
 暫く見詰め合って、それでもなかなか口火を切れないで居る俺に、水落先生は暫く逡巡した後言った。
「ハーブティでも淹れましょうか?落ち着けば話もしやすくなるかも知れませんから」
「あ、いえっ!」
 そう言って踵を返しかけた水落先生の手を慌てて掴む。水落先生は驚いた顔をしてもう一度俺の顔を見た。
「ハーブティは、いりません。そのままで、聞いてください」
 俺がそう言うと、水落先生も真正面から向き合ってくれる。一度深呼吸してから、俺はきっちり水落先生の目を見て言った。
「水落先生、俺…先生が好きです」
「…っ!」
「恋愛対象として、先生が好きです」
 俺の言葉に、水落先生が息を呑む。それから、暫くした後、微笑を浮かべて言った。
「やっぱり、感化されてしまいましたか?」
「違いますっ!」
 どうにかして誤魔化そう、という水落先生の考えが伝わって、俺は慌てて否定した。
「本当は、多分初めて先生を見た時から、ずっと好きだったんです。だけど、男同士だから、そんな筈ないってずっと否定してきた。そりゃ、この学園がホモだらけだからって言うんで、そういう事に対する抵抗が少し薄れちゃったのかも知れないけど、でも、感化とかそういうの関係なく、俺はずっと、初めから先生が好きだった」
 俺の言葉に、誤魔化すことは諦めたのか、水落先生はそっと息を吐いた。
 それを見て、俺は最後に残された言葉を言った。最初から、無理だと解かっている願いを。
「水落先生、俺と、付き合ってください」
 教師と生徒とか、そんなのは関係ない。この学校じゃ、当たり前に付き合っている教師と生徒だっている。それは俺以上に水落先生がよく知っている筈だ。
 暫く俺を見つめた後、水落先生が僅かに視線を逸らして言った。
「誰とも付き合う気はないと…前に、言いましたよね」
「はい」
 水落先生の言葉に、俺は頷く。だから、ずっと悩んでいたんだから。
「でも、どうして誰とも付き合わないんです?好きな人が出来ても、付き合うつもりは無いって言うんですか?」
「私には…それよりも大切なことがあるんです。ですから、例えどんなに好きな人が出来ても、付き合うつもりはありません」
「大切なこと?何ですか、それ」
「それは言えません。でも、本当に大切なことなんです。私自身の命に換えても、誰にも譲る訳にはいかない…」
 それは、静かな決意だった。その決意が、水落先生の身体から滲んで、目に見えるような気さえした。俺であっても、他の別の誰かだったとしても、それは間違いなく同じ答えしか返さないということ。例え、それがどれほど愛している人でも。
「だから、君と付き合うつもりはありません」
 はっきりと言葉にされて、それ以上俺の気持ちを押し付けることは出来ない。でも、そう簡単に諦めることも出来ない。
「一つだけ…俺のお願い、聞いてもらえますか?」
「…何ですか?」
「一度だけ、先生を抱かせてください。そしたら俺、先生のこと諦めます」
 俺の言葉に一瞬だけ目を見開いて、その後暫く考え込んでいたけれど、それでも水落先生は最後に頷いた。
「解かりました。一度だけ。これで、本当に諦めてくれると言うのなら」
 その言葉を聞いて、俺は水落先生の手をしっかりと握った。そして、一度触れるだけのキスをする。水落先生は、何も言わずに、ただ、微笑んだ。



 俺は男との経験なんて全く無かったから、どうしていいかなんて全然解からなかった。何度か覗き見したとはいえ、そんなによく見ては居ない。
 だから自然と水落先生にリードされる形になってしまう。
 俺の全部を水落先生の中に納めると、少しきつそうに眉を顰めた。けれど、こうして水落先生と繋がっているのに、俺は嬉しさよりも、悲しみで満たされていた。
 此処まできてみて解かったのは、水落先生がこういう行為に慣れていることだった。行為自体は暫くしていないのかも知れないけれど、男同士のセックスの経験があるのは間違いなかった。その事に対して、何処か後ろめたさや、辛さを抱えていることも。
 これは、水落先生が受け入れてくれた上での行為だ。そうだと思ってみても、どうしようもなく悲しかった。これは、水落先生が過去にしてきた、辛い行為と同じなんじゃないだろうか。愛してもいない人間に抱かれて、嬉しい筈はない。
「水落…先生……」
「青木くん?」
 少し、苦しそうに息をしながら、水落先生が訝しげに俺を見る。
「どうして、泣いているんです?」
「っ……!」
 それまでも、少しずつ零れていた涙が、その言葉で一気に溢れてきた。
「ごめん…なさい」
「…青木くん?」
「ごめんなさい。俺……水落先生を苦しめたい訳じゃない。水落先生に辛い思いをさせたい訳じゃないのに……」
 水落先生が軽く目を見開くのが見えた。
「先生が、辛いって思うんなら、止めます。だから……っ」
 不意に、水落先生の手が俺の顔に伸びてきて、涙を拭った。
「いいんですよ」
「先生…?」
「いいんです。これは、私が良いと言ったことなんですから。何も、気にしなくていいんです」
 穏やかで優しい笑みを向けながら、水落先生は言った。
「それに、今止められる方が、私としては余程辛いんですから」
「せん…せい……」
「動いて、ください」
「はい」
 水落先生の言葉に励まされて、俺はゆっくりと腰を動かした。先生の中はきつくてせまくて…すぐにでもイってしまいそうだったけど、俺はそれを必死に堪えた。
「は……あぁ……んっ……」
 水落先生の口から、甘い吐息が漏れる。切なげに顰められた眉と、潤んだ眼差しがどうしようもなく扇情的で、俺の理性はすぐに振り切れた。
「先生………瀬那……せ…な…」
 初めて、その名前を呼ぶ。溢れてくる想いがどうにも押さえ切れなかった。
「青木くん……ぁ、あっ!」
 強めに突き上げると、瀬那は悲鳴のような高い声を出した。
 名前を呼び返して欲しいなんて言葉はどうしても言えないけれど、でも、俺の口から発せられるその名前だけは止められなかった。
「セナ……セナ……セナ…」
 何度も名前を呼びながら突き上げる。瀬那の手が縋る様に俺に回された。
「ふっ……んんっ…ぁあ……は、ぁ……」
 甘い喘ぎを発する瀬那がたまらなく愛しくて、俺は瀬那を抱き締めた。そうして、一番奥深くまで突き上げる。
「は、あ!…ぁああっ!!!」
 一際高い喘ぎ声を発して瀬那が達すると、俺も瀬那の中で自分を解放した。
 俺は、しっかりと瀬那を抱き締めながら、決してその肌を、ぬくもりを忘れまいと、そう思った。




 その後、親友の翔が遊星学園に転校してきて、俺も翔たちの運命に巻き込まれる形になった。
 敵として。
 その後、翔たちに経緯を聞いたりもして、水落先生の言っていた大切なことが何なのか解かった。多分、水落先生は俺が翔の親友だって事は最初から知っていたんだろう。俺のことを受け入れられない理由の一つにそれもあったのかも知れない。
 俺のことを、巻き込みまいとして。
 戦いが終わった後、水落先生は旅に出て、入院していた俺は、地下空洞で戦った後は一度も先生と顔を合わせていない。
 何度か、みんなで集まるから来ないかと翔に誘われたけれど、俺は全部それを断った。多分、先生は気にしているだろうな、と思う。真っ先に俺に銃を向けた時の先生の顔は今でもすぐに思い出せる。その目に悲痛な色を宿しながら、それでも決然と俺に銃口を向けた。
 其処にあるのが、先生の大切なものなのだと何を言われなくても解かった。
 俺がその時のことを恨んでいるから、とでも先生は思っているんだろう。戦いが終わった後に段々と先生のことが解かって来た。
 何故、夜一人で眠れなかったのかも。
 千倉のような子供染みた理由ではないのだと、今なら解かる。けれど、俺は先生を嫌いになるどころか、益々好きになっている自分に気づかない訳にはいかなかった。
 俺は、今でも水落先生が好きだと。
 諦めると約束したけれど、結局諦められなかった。
 水落先生が旅に出たと聞いたとき、俺は心に決めた。
 何年後になるかは解からない。けれど、水落先生が本当に旅を終えるまで、俺は先生には会わない。その時まで、もっと自分を磨いて、自分ひとりで立っていられるような一人前の男になる。
 胸を張って先生が好きだと、そう言えるように。自分の不甲斐無さに泣き出したりしないように。
 旅が終わったとき、もう一度告白しようと。
 嘘つきだと罵られても、どんなに先生が困っても、それでも、それだけは伝えなければいけない。そして、もう前のような言い訳は通用しないと。
 先生にとって大切なことは、守らなければいけないものは、ちゃんと守りきったのだから。そして、旅を終えたなら、また新しい先生の人生が其処にはある筈だから。出来る事なら俺が、その後の先生の人生を共に歩いていきたい。
 水落先生を…瀬那を、愛しているから。
 この気持ちだけは、きっと、一生変わらないものだと言い切れる。
 どこの誰よりも瀬那を愛してる。瀬那が笑うなら隣で笑いたい。悲しいときは隣で一緒に泣きたい。寂しい夜はいつでも、俺が傍にいる。
 だから、いつか、きっと……
 あなたの、傍で。



Fin





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