雨に融けて



 水辺に居ると、不思議と心が落ち着いた。
 このまま、融けて消えてしまえたらいっそどんなに楽だろうと思うことが何度もあった。
 水に融けて消えてしまえたら、痛みも、苦しみも、悲しみも消えてしまうだろうか。永久に地球を巡り続ける水になれたなら。
 けれど、そうすることなど出来ないことも解かっていた。
 馬鹿馬鹿しい空想に自嘲しながら、瀬那は木の根元に腰を下ろした。風に揺れる木々の葉の擦れる音、僅かにさざめく池の波音、鳥の声。
 それは、懐かしい故郷の音だ。
 帰ることの適わない、ふるさとの。
 それはいつでも、瀬那の心から離れることはなかった。








 チャイムの音が、授業の終わりを告げる。
「よし、今日の授業はこれで終わりだ」
「きりーつ、れーい」
 紫苑が言うと、学級委員が号令をかける。その後はすぐに教室はざわめき出した。その変わり身に苦笑しつつ、紫苑は廊下に出た。
 窓の外を見ると、雨が降っていた。
 春の雨が辺りを暗く包み、春雷が僅かに空気を揺らした。
 校庭に咲いている桜は雨に叩き落されるように地面にピンクの絨毯を作っていく。その様を見ていると、どうしても物憂げな気分になってしまう。
 風流と言うには、物悲しい。
 美しくはあっても、儚いものだ。
 それに、雨の日はもう一つ、紫苑を憂鬱にさせるものがあった。
 紫苑は一度職員室に戻り、荷物を置くと、中を見回す。しかし、いつも職員室に居る筈のその姿はなかった。次の時間に授業は入っていない筈だ。
 とすると、矢張りあそこに居るのだろうか。
 自然と足は其処に向かう。
 図書室の、最も奥まった窓際。生徒や教師ですら滅多に近づかないような古く分厚い本ばかりが置いてある棚の傍。窓際に貼り付けるようにして置かれている低めの本棚の上に腰を下ろして、瀬那は物憂げに窓の外を見ていた。
 よく図書室に居る紫苑だからこそ気づいたことだった。
 瀬那が遊星学園に来て暫くした頃。矢張り雨の日に、窓際でそうして外を見ていた瀬那を見つけた。その日は、別段何を思うこともなかった。そういう気分の時もあるだろう。無理に問い質すこともないと。
 けれど、そういう事が何度も続けば話は変わってくる。それは決まって雨の日に。こうして図書室の一番奥まった窓際の棚の上に腰掛けて外を眺める瀬那を、紫苑は見つけてしまう。
 そんな時の瀬那は窓の外を見ながら、何処をも見ていないような遠い瞳で、まるで其処には居ないようだった。雨に落とされ散っていく桜の花と同じように儚く、声をかけることさえ躊躇われた。
 声をかけた瞬間に消えてしまうような錯覚に陥ってしまう。
 声をかけることも出来ず、紫苑は瀬那のその姿を見ていることしか出来ない。それはもどかしく、紫苑をどうしようもなく物憂げな気分にさせた。
 けれど、それは雨の日だけではない。
 例えば寮の裏の池の畔に居るとき。また或いは、学生たちの遠足の引率などで、川の近くで昼食を取った時に。学生たちが気づかれぬような所で、瀬那は一人、其処に佇み、また或いはその傍で屈み込み、何処か儚い雰囲気を漂わせていた。
 まるで、そのまま水に融けてしまおうかとでも言うように。
 その時の瀬那程希薄な存在を、紫苑は知らない。そしてだからこそ尚のこと、声をかけることすら出来ない自分がもどかしかった。
 何を思っているのか、どうしてそんな風に水に近い場所に在るのか。
 何度も声をかけようとして、思いとどまり、結局のところ、どうすることも出来ずに今に至っている。
 この時も、結局声をかけることは出来なかった。ただ、瀬那から視線を逸らし、離れた席に座って息を吐いた。



 その日の夜。
 寮監室に訪ねたが、誰も居なかった。
 何処に行ったのだろうか?
 寮の中を捜し歩いたが、何処にも居ない。昼間から降り続いた雨は未だ止む事はない。紫苑は気になって外に探しに出た。
 傘を差して辺りを見回しながら寮の裏の池まで歩く。
 瀬那が夜に出歩く場所と言ったら、其処以外には思いつかなかった。
 降り続く雨に地面は泥濘、あちこちで水溜りが出来ている。何度か足を滑らせそうになりながら、池までの道を急いだ。
 そしてようやく池までたどり着いた時、探していたその姿を見つけた。
 傘も差さずに池の畔に立ち尽くしている瀬那に走り寄る。
「セナっ!!」
 紫苑は瀬那の腕を掴み、振り返らせる。ずぶ濡れになっている姿に眉を顰める。いつもはきちんと固めてある髪形も、雨ですっかり落ちてしまっている。
「東堂…先生」
「何をしてるんだ、こんな所で傘も差さずにっ!!」
「すみません」
 謝罪の言葉を口にしているが、瞳は紫苑を見ていない。否、何処も見ていない。それが、無性に腹立たしかった。
 瀬那の腕を掴んでいる手に力が篭る。
「こんな所で、何をしているんだ、風邪をひいたらどうするっ」
「少し、考え事をしていたんですよ。寮だと生徒が居て、ゆっくり考え事も出来ませんから」
 にっこりと、瀬那は笑みを浮かべる。
「それで、傘も差さずにこんな所に立っていたというのか?」
「すみません、ご心配をおかけしてしまって」
 そう言って浮かべる笑顔すら何故だか遠い。瀬那の腕を掴んでいた手を離して、頬に触れる。冷たい感触が尚更、瀬那がまるでこの世の者ではないようでもどかしい。
「兎に角、寮に戻るぞ。このままでは風邪をひく」
 そう言って肩を引き寄せて歩き出す。
「東堂先生、濡れてしまいますよ」
「…」
「……怒って、いるんですか?」
「…」
 聞かれても、紫苑は答えない。口を開けば、怒鳴り散らしてしまいそうだった。それは半分、自分に対する怒りだった。瀬那のことが、何も解からない自分に対する怒り。見ていることしか出来ない自分に対して、どうしようもなく腹立たしかった。
 寮に着くと傘を閉じて、瀬那を引っ張って寮監室に入る。何人かの生徒が訝しげにこちらを見ていたが、そんなことは気にしない。
「早くシャワーを浴びて温まって来い。すっかり冷え切っているだろう」
「…はい」
 瀬那は紫苑に促されるがままにバスルームに入る。
 紫苑は一つ溜息を吐いて瀬那の着替えを探した。箪笥に入っている服は必要最低限のものしかないようだった。Yシャツとスラックスを取り出して、着替えを籠に入れておいておく。濡れた服は洗濯機に放り込んだ。
 何だかんだで勝手に身体が動く自分に少しばかり呆れてしまう。長年来栖を育ててきた所為か無意識にでもそういうことが出来てしまう。
 そうしてすることが終わると、そのまま椅子に座り込んだ。それから、自分のジャケットが濡れてしまった事に気づいて脱ぐ。ハンガーを拝借してかけておく。それからまた椅子に座った。
 そして自分が今此処に居る必要を考える。瀬那を此処まで連れてきたのだから、もう帰っても問題はないのだろう。けれど、何故か身体は動かなかった。このまま帰ってしまえば、きっとまた、今までと同じようになってしまう。
 窓際から雨空を見つめる瀬那を、ただ見ていることしか出来ないまま。
 このままで良い筈がないのに。



 そうして思考に沈んでいると、瀬那がバスルームから出てきた。紫苑は顔をあげて、瀬那を見る。瀬那も紫苑に視線を合わせて微笑んだ。
「すみません、いろいろとご迷惑をおかけして」
「いや…」
 今は、ちゃんと紫苑を見ている。
 それに僅かながらもほっとする。
「ちゃんと温まってきたんだろうな?」
「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから」
「ちゃんとした大人なら傘も差さずに外に出るような真似はしないと思うんだがな」
 溜息を吐いて紫苑が言うと、瀬那は苦笑いを浮かべた。
「すみません」
「…もう、いい」
 今の瀬那を見ていると、怒る気も、そして先ほどのことを聞く気も失せてしまう。
 何を考えて、あんな所に立っていたのか。
「…まだ、降っていますね」
「……ああ」
 紫苑は窓の外に視線を移した。暗くて見えないが、未だに雨が降り続けていることは音を聞けば解かる。
「この調子だと、明日も雨でしょうか…」
 瀬那は、窓の外を見て立ち尽くしている。その瀬那の表情がまた、遠い何かを、何処でもない場所を見ているようで、紫苑は思わず立ち上がり、後ろから抱き締めていた。
「…東堂、先生?」
「雨を見ている時のお前は、そのまま何処かに融けて消えてしまいそうだ」
 振り払うでもなく名前を呼ぶ瀬那に紫苑がそう呟くと、くすりと笑みを漏らした。
「何がおかしい」
「いえ…前にも、貴方と同じようなことを言った人が居たので」
 そう言った瀬那の表情は、笑っているのに何処か寂しげで、尚のこと紫苑は抱き締める腕に力を込める。
「……と…ったのに……」
「…え?」
「繋ぎとめておいてくれると言ったのに、あの人は…」
「セナ…」
「あの人は、私を突き放した…」
 瀬那が、呟いた声は、紫苑に語ったものではない。思わずもれてしまった、というような言葉だった。
 その相手と、どんな関係だったかは知る由もないが、そのことが瀬那を傷つけていることだけは解かった。
「だったら…」
「え?」
「だったら、俺が繋ぎとめておいてやる」
「シオン中将…?」
 目を見開いて紫苑を振り返る瀬那に口付ける。
 後頭部を抑えて深く口腔を貪る。
「んっ…んん…っ」
 振り返ったままの体勢での深いキスに、瀬那が苦しげに呻く。
 ゆっくりと口唇を離すと、瀬那の戸惑ったような表情が目に入る。
「…どうして……同情、ですか?」
「違う」
「だったら、何故…」
「お前が好きだからだ」
 自然に出た言葉がストンと胸に落ちる。そう、自分は瀬那が好きなのだ。だから、ずっと遠くを見つめる瀬那がもどかしくてならなかった。
 そう気づいてしまえば、迷うことなどない。
「お前が望むなら、俺は幾らでもお前を繋ぎとめておいてやる。だから…」
「本気…ですか?」
「ああ、本気だ」
 瀬那の戸惑いが更に大きくなる。けれど、確かに自分を見つめている瀬那に、紫苑は逆に安堵していた。確かに、瀬那の心は今此処に在る。
「私は…貴方に好きになって貰えるような人間じゃありません」
「どうして、そう思う?」
「私は、貴方が思うより、ずっと汚い人間です。貴方との境遇の違いを、妬んだ事もある」
 それは、ある意味当然だろうと思う。綺麗に生きていける人間など、数える程しかいない。そして、瀬那が今までどれほど苦労してきたのか、紫苑が想像して余りある。同じような立場に有りながら、この十数年、瀬那と自分は全く違う人生を生きてきたのだから。
「そんなことは、俺には問題じゃない。俺は、お前に此処に居て欲しい」
「シオン…中将…」
「お前が好きだ、セナ…」
 瀬那の心に在るのが今は自分でなくても。瀬那の心が、以前突き放されたという相手の許にあったとしても。それでも、瀬那を繋ぎとめておけるのならば。
「だったら、だったら繋ぎとめておいて下さい。私を…」
 瀬那の口唇が紫苑の唇に触れる。
「何処にも行けないように、繋いでください」
「ああ…」
 紫苑は頷き、もう一度瀬那にキスをした。


 瀬那をベッドに横たわらせ、口付けると、誘うように口唇が開かれた。
 それに気を良くして、紫苑は舌を瀬那の口腔に滑り込ませる。瀬那の舌を絡めとり、吸い付き、乱暴なぐらいに口腔を蹂躙する。
「ん…んんっ…ふ…」
 口付けを続けながら、紫苑は瀬那が着ているシャツのボタンを外す。そして滑らかな肌に手を這わせる。しっとりと吸い付くような感触を味わいながら、胸の突起に触れた。
「んぅ…ふっ…ぁ…」
 少し触れただけで、甘い声が漏れた。口唇を離すと、濡れた瞳が紫苑を見つめている。それを見るだけでぞくりと紫苑の背筋を快感が駆け抜けていく。
 欲望のままに瀬那の首筋に吸い付くと、ぴくりと身体を震わせる。
 胸の突起を愛撫しながら、首筋から鎖骨へと口唇を移動して、所々に所有の証をつけていく。明日瀬那が困るかも知れないという意識が頭の何処かにあったが、それよりも今、こうして瀬那を自分のものにしようとする欲求の方が強かった。
 瀬那は紫苑が触れてくるのに身を任せ、快感を享受している。
 そうして、初めてみる瀬那が紫苑の前に居る。感じやすい身体をしていることも、その時の表情がどれ程艶やかなものであるのかも、喘ぐ低く掠れた声が、どれ程己の官能を刺激するのかも、全て今初めて知ることで、そんな瀬那の様子を少しでも多く知りたくて、愛撫は自然と激しくなっていく。
 張り詰めている瀬那のものを布越しに扱くと、瀬那はもどかしげに身体をくゆらせた。
「シオン…中将っ……ちゃんと、触って…ください」
 今日初めて聞いた強請る言葉に、紫苑はすぐさま瀬那が下肢に纏っているものを剥ぎ取った。目の前にある瀬那のものは既に硬く張り詰め、先走りが溢れてきている。
 それに口をつけると、瀬那は一際高い声を発した。
「あ…あっ!…シオン…中将…っ」
 もっとと強請っているのか、それとも引き離そうとしているのか、瀬那は紫苑の髪を掴む。けれど、それが何より瀬那が感じている快楽の強さを表していて、紫苑は口に含んでいる物を丹念に愛撫する。ゆっくりと舐め上げては、舌をねっとりと這わせて根元に吸い付く。そうして溢れてくる先走りは瀬那の奥を濡らしている。
 それに気づいて紫苑は、その奥の濡れている場所にゆっくりと指を這わせた。
 前を口で愛撫しながら、窄まった其処を先走りで馴染ませるように指で円を描く。そうしていると少しずつ開いてくるような感触があり、指を一本其処に突き入れた。
「んっ…ぁ…」
「痛いか?」
 漏れた声を聞いて顔を上げて問いかけると、瀬那は紫苑の方をみてゆっくりと首を振る。痛かったのでなければ、感じたということだろう。
 それに安心して紫苑はまた顔を下ろして、瀬那のものを口に含む。後ろに入れた指はきつく締め付けてくる其処を解すように動かす。その締め付けの強さに、紫苑の欲も増して、まだ早いと思いながらも、指を二本に増やす。
 しかし、二本目も割りとすんなりと受け入れられ、それを感じて奥深くへと指を突き入れる。そして、ある一点に触れると、瀬那の足が痙攣するように震えた。
「あぁ…っ…そこ…は……」
「此処が良いのか?」
 そう言ってその場所を擦り付けると、また瀬那は身体をくゆらせ、喘ぎ声を漏らす。前をすっぽりと口に含んで、先ほど見つけた場所を執拗に愛撫すると、瀬那はたまらなげに腰を揺らす。
「んっ…ぅ…シオン…中将……もう…っ」
 限界を訴える瀬那の声を聞き、紫苑は中に入れている指を三本に増やし、奥深くまで突き入れると同時に、口に含んだそれを吸い上げた。
「あ、ああぁっ!!」
 びくびくと身体を痙攣させ、瀬那は迸りを放つ。紫苑はそれを口腔に受け止め、飲み下す。
 身体をぐったりさせ、息を整える瀬那に、紫苑はそっと触れるだけのキスをする。
 瀬那は濡れた瞳で紫苑を見上げる。その艶やかさに、尚更牡としての欲求が増して、自分のものが限界にまで張り詰めていることに気づかされる。
「セナ…いいか?」
 問いかけていることの意味は解かったのだろう。瀬那はゆっくりと首を縦に振った。
 それを確認して、中に入れていた指を引き抜き、自分自身を其処に宛がった。ゆっくりと押し入れていくと、腸壁が纏わりつき、蠢きながら紫苑を締め付ける。それだけで達してしまいそうなのを必死で堪えながら瀬那の顔を見ると、何処か甘い表情で紫苑を見返す。
「シオン…中将……」
「…痛くはないか?」
 瀬那の表情からも、痛みを感じて居ないことは解かったが、それでも問いかけると、艶然と微笑み、頷いた。そして、ゆっくりと紫苑の背に腕を回す。
「ええ、大丈夫ですから……もっと深く、繋いでください…」
 囁かれる、掠れた低い声に、紫苑の理性は完全に散らされる。瀬那の言葉のままに、紫苑は半ばまで入れたものを一息に奥まで突き入れた。
「ぁっ…う…」
 一瞬苦しげに呻く瀬那の顔が見えたが、一度動き出してしまえば、もう止めることなど出来なかった。
 突き入れれば何処までも深く受け入れて、抜こうとすれば引き止めるように纏わりついてくる腸壁に、意識の全てがもっていかれそうになる。
 そうして衝動のままに腰を突き動かしていると、瀬那も限界が近くなってきたのか、紫苑の背に回した腕の力が強くなる。最後にはしがみ付くようにきつく抱きしめられ、それが余計に紫苑を高ぶらせる。
 瀬那の顔をこちらに向かせ、荒々しく口付けると、瀬那もそれに答えて舌を差し出してくる。何処までも深く繋がるような快楽を前に、紫苑は荒々しく奥深くまで中を抉った。
「うっ、ぁ、ああああっ!!」
 奥まで突き入れたと同時に、瀬那はその夜一番の高い喘ぎ声を上げて達した。それを感じて紫苑も、自分の熱を瀬那の中へと吐き出した。
 荒く息を乱して必死に呼吸を整える瀬那の汗で濡れた髪をかきあげる。その額に口付けると、瀬那がふっと笑みを漏らした。
 その顔が、何処か泣きそうな顔をしているような気がして、紫苑は強く瀬那を抱きしめる。
 いとおしい、と思う気持ちが紫苑の心を埋めていく。
「シオン中将…」
 名前を呼ばれて、瀬那を見ると、また誘い込むような笑みが浮かんでいる。
「…もう一度…いえ、何度でも…私を繋いでください。……朝まででも」
「………ああ」
 そして紫苑は瀬那の求めるまま、そして自分からも瀬那を求めて何度となく身体を繋いだ。
 瀬那が気を失ってしまうまで。






 朝、小鳥の囀りが聞こえて、瀬那はふと目を覚ます。
 昨夜一晩降り続いた雨は、すっかり上がっているようだった。そして、横に眠る紫苑を見る。
 この人は、いつまで自分を求めてくれるだろう。いつまで、自分を愛していると言ってくれるだろう。いつか、自分の存在が重くなってしまうだろうと、何とはなしに思う。
 何故なら、あの人も瀬那を突き放したから。
 ずっと傍に繋ぎとめて置くといいながら、突き放す時は一瞬だった。
 だから、いつかきっとこの人も、あの人と同じように自分を突き放すに違いない。
 けれど、それでも……この人が求めてくれている限りは、自分はこの場所で生きていくことが出来るのだろう。
 いつか、彼が自分を見捨ててしまうまでは。



Fin





小説 B-side   Angel's Feather TOP