瀬那は通された応接室で深々と溜息を吐いた。 どうしてまたこんな所に居るのだろうと考えずには居られない。 旅に出たのはいいものの、何故かことあるごとに強制的に帰国させられている。矢張り、翔や櫂相手に強く出られない自分が悪いのだろうか。 そして、今日は同じように連れてこられた来栖が二人に引っ張っていかれて、今何をされているのかと考えるだに怖ろしい。 自分の身に降りかかるのも怖ろしいが、来栖に何かあったらあったでそれは怖ろしい。機嫌がどれほど悪くなるのか、考えただけで頭が痛くなってくる。 そうこう考えているうちに、櫂が部屋に戻ってきた。 「お待たせしました、水落先生」 にっこり笑って言うものの、何か企んでいることは明白だ。いや、もう企み自体は済んだのだろうか。何にしても、よくもまぁこんなことで何度も何度も呼び出すものだ。 「逢坂さんは部屋で待っていて貰ってますから、水落先生はこっちに着替えてくださいね」 「は?」 「着替えてください」 「…はい」 疑問を返せば有無を言わさずもう一度言われて、瀬那は素直に頷いた。何故逆らえないのだろうか……逆らったら逆らったで怖いのである。 来栖もまた同じ理由なのだろう。逆らったら逆らったで、食事に何を混ぜられるか解かったものではない。それぐらいなら、敢えて何か起こると解かっている範囲で言うことを聞く方がマシである。ただし、言うことを聞いている分だけ来栖の不機嫌の度合いも増すのだけれど。 櫂に渡された服を見ると、どうやら瀬那が遊星学園で教師をしていた時に着ていた物だ。一体何を考えているのだろうか。しっかり眼鏡まで用意している。 …これは、髪も整えないと怒られるな、と溜息を吐いて着替えた。 「水落先生、用意は出来ましたか?」 「ええ、まぁ」 そう言って頷くと、櫂がふふっと笑みを漏らす。 「なんです?」 「懐かしいですね、その姿を見るのは」 「そうですか?」 「東堂先生の場合はどんな恰好をしていても東堂先生ですけど、水落先生の場合、やっぱりこの恰好をしていないと水落先生じゃない気がします」 「じゃぁ、先程までの私は何なんです?」 「セナ、でしょう?まぁ、僕が名前で呼ぶと逢坂さんが怒りますから、内緒ですよ?」 「はぁ」 櫂の言葉に苦笑いを浮かべると、それじゃぁ、というように促され、廊下に出た。 「部屋まで案内します」 「…一体何をしたんです?」 「ついてからのお楽しみですよ」 くすっと笑って櫂は本当に楽しそうだ。 そして櫂に案内され、部屋の前に着く。 コンコン、と櫂がドアを叩くと、「どーぞ」と、いかにも不機嫌そうな声が聞こえた。そしてドアを開けて目に入ったものを見て、瀬那は思わず口元を押さえた。 「どうです、水落先生。なかなかいい出来でしょう?」 「どう…と言われましても…」 目の前に居る来栖は、不機嫌なのは予想通りだが、その姿は予想外だった。いや、何かされているのは解かっていても、想像がつかないものであったのだから、何がきても予想外でしかないのだが…。 …いくら何でもセーラー服を着せられているとは思わない。 これで不機嫌にならない筈がない。 しかもこれがまた、妙に…。 「似合ってます、ね…」 「ぜんっぜん嬉しくねぇっ!」 瀬那のコメントに来栖が思い切り不機嫌そうに返した。 「じゃ、二人とも其処に並んでください」 「…何する気だ?」 櫂の言葉に警戒心丸出しで来栖が尋ねると、にっこりと笑顔が返ってきた。 「勿論、記念撮影です。前に水落先生に女装をさせた時は写真を撮り忘れて、後で後悔したんですよね…」 「だったら今回も忘れてろっ!!」 「あ、撮ったら当然東堂先生やレイヤードにも送っておきますから」 「送るなっ!!!!」 「とても素敵ですよ、逢坂さん。まるっきり女子高生と男性教諭です」 「いい加減、人の話を聞けっ!!!」 来栖の怒鳴り声をまるきり無視して櫂はにこにこと笑いながら言う。これ以上来栖を煽られると、あとでこちらが怖いのだけれど。 それにしても、わざわざこの服を用意したのはこういう意味があったのか、と瀬那は溜息を吐いた。そこで櫂に背中を押される。 「ほら、並んでください」 「あ…」 そのまま来栖の所に行けば、カシャッと音がする。 「おい…何言うこと聞いてんだよ、お前は!」 「す、すみません…」 本気で不機嫌な来栖に、瀬那は苦笑いを浮かべる。しかし、来栖のこの恰好では迫力も半減している。怖いのに変わりは無いが。 「それじゃ、今日はこれ以上この部屋に誰も近づかないようにしておきますから、ご自由にどうなさってもいいですよ。ただし、服を脱ぐのはいけませんからね」 そう言ってにっこり笑いながら櫂は楽しげに去っていった。 「…行ってしまいましたね」 「ったく、何だってオレがこんなこと…」 「嫌なら断れば良かったのでは?」 「…断ったら子供になる薬飲ませてから無理矢理着替えさせるって言いやがったんだよ、あいつ…」 「…そうですか」 ダブルでこられるよりは一つだけで済む方がマシである。 「前回は私がそのパターンでしたよね…」 「全くな…遊ぶならセナでだけ遊んでりゃいいのに…」 「クリス…?」 「事実だろ。オレなんか、お前の恋人だから巻き込まれてる気がするぜ?」 「え、いや…それはどうでしょう」 「いーや、絶対そうだ。でなきゃオレなんかよりシオンや羽村のが遊びがいあるじゃねぇか」 「…それはそれで、ちょっと…」 来栖の言葉に否定出来ず、苦笑して言葉を濁す。 それにしても、何処からどう見ても女子高生にしか見えない来栖を前にしているのは、非常に妙な気分だ。 来栖は不機嫌丸出しで、どかっと部屋に置かれているダブルベッドに腰掛けた。 「ま、でもこれから何しても自由って言ってたよな?」 「え、ええ…」 何となく嫌な予感がして腰が引けた瀬那の腕をぐっと掴んで引き寄せる。そのままバランスを崩した瀬那と体勢を入れ替え、さっさと押し倒す。 「く、クリスッ」 「まぁ、ダブルベッドまで用意してくれたんだから、することは一つだよな」 にやにや笑う来栖を見ながら、瀬那は目頭を押さえる。この状態は、何と言うか非常に…視覚的にまずいものがある。 瀬那から見ても女子高生に押し倒されているようにしか思えないのだ。このままされるのかと思うと非常に複雑な気分である。 それを思い、試しに提案してみる。 「クリス…」 「ん?」 「今回は私が上、というのは…ダメですか?」 「…あんたさ、これ以上オレを不機嫌にしたい訳?」 「………すみません」 顔はにっこりと笑っているが、かなり怒っているのは間違いない。これ以上不機嫌にさせると、明日自分は生きていられるだろうか、と思ってしまう。 「んじゃ、いいよな?」 来栖は楽しげに笑い、瀬那のズボンのベルトを外した。前を寛げ、瀬那のモノを取り出すと、それを口に含む。 「クリス…っ!」 慌てる瀬那に構わず来栖はそれを舐め上げ、上目遣いに瀬那を見つめにやりと笑った。それだけで、ぞくりと背筋が震える。だって今の来栖は、本当に、女子高生にしか見えないのだ。それなのにこういうことをされるのは…。 「やっぱ、この恰好がいいんだな。いつもより感じてる」 「それ…は…」 かぁっと顔が赤く染まるのが自分でも解かる。確かに、こんな恰好をした来栖にこういうことをされているのは、なんと言うか非常に背徳的な気分になって、それが快感を増長しているようだった。 そんな瀬那の気持ちを知ってか知らずか来栖は唇でそれを扱きながら、溢れてきた先走りを掬い取り、瀬那の後ろへと指を進めた。 「クリ…ス…あ…んっ…」 前を攻められているうちに、後ろへと進められた指がゆっくりと解されていく。どちらに気を集中したらいいのか解からず、ただなされるがままに煽られていく。 「う…や…ぁ……あぁ…」 漏れる吐息が熱く、擦れてくる。中に感じる指と、前に感じる舌の濡れた感触が瀬那の理性を溶かしていく。 「クリス…もう…っ」 「ああ、いくぜ…?」 来栖はスカートを穿いたままで下着だけ下ろし、瀬那のそこに自分のものをつきたてた。 「あ…っ、う…あぁ…」 「平気か?」 「はい…」 問われて頷くと、軽く髪を撫でられた。その仕草が優しくて、思わず微笑む。 「動くぞ」 そう一言言い置いて来栖はゆっくりと腰を動かし始める。ゆるゆると揺すられ、強すぎず、弱すぎない快感が徐々に瀬那を高みへと導いていく。 「は…ぁ…ああ……あ……クリス…」 「セナ…」 名前を呼ばれ、目を合わせると、キスが降りてくる。その後、ぐっと深く突き入れられた。 「っあ!…ぁ…んっ…」 「可愛い、セナ」 そう言いながら段々と激しくなる動きに、瀬那は来栖の背に腕を回し、しがみ付く。囁かれる声や、耳元に届く熱い吐息が尚のこと瀬那を煽り立てて、深い快感に落ちていく。 「あ…ぁ……あぁ……ん…あ…」 「やっぱ、あんたの方が可愛いよ。次にこういうことがあったら絶対セナがいいな」 「そん…な…ぁ…や…っ」 「こんな恰好してるオレにこれだけしがみ付いて来てんだぜ?絶対あんたの方が可愛い」 「ん…ふ…ぁあ…っ」 激しくなる動きに、来栖の言葉に答えることも出来ずに喘ぎ声を漏らす。不本意ではあっても、来栖の言っていることは事実なのだから、反論することも出来ないが。 「クリス…っ…クリス…ぁ…ああっ…」 「セナ…っ」 来栖の方も段々と限界が近づいてきているのだろう、瀬那の中にある来栖が、今にも破裂しそうなほど大きくなっているのが解かる。そして、瀬那ももう、とうに限界を迎えていた。 「も…クリス…っ!」 「…セナ…」 「っぁ…、ぁあああーーっ!!!」 「っ!!」 瀬那が一際高い喘ぎ声を発して達すると、来栖も短く息を詰めて瀬那の中に迸りを放つ。どくどくと熱いそれが注がれるのを感じて、瀬那はぐったりと力を抜いた。 来栖も、瀬那の上で乱れた息を整えている。 「次は服脱いでするか」 「…でも、櫂は脱ぐなって…」 「別にいいだろ、一回は着てやってんだし」 「は?」 「それとも、この恰好でもっかいやる方がいいか?」 にやっと来栖が笑う。明らかに既に開き直ってこの状況を楽しんでいる。しかし、これ以上この恰好の来栖を見ているのは精神的にきつい。 「…脱いでください…」 「オッケ」 そう言って来栖はセーラー服を脱ぐ。 「じゃ、いただきます」 「…なんですか、それ」 「いいだろ、そういう気分なんだって」 くすりと笑って来栖は瀬那にキスをする。それを受け入れながら、また深い快感へと落ちていった。 翌朝。 ガサゴソッ、と何かを漁る音を聞いて瀬那は目を覚ました。 気だるい身体をむりやり起こしながら、音のする方向を見ると、来栖がなにやら棚の奥を探っている。 「…クリス…?何をしているんです?」 「ん?起きたのか。…たぶん、この辺にあると思うんだけどな・・・」 「? 何がです?」 「…お、あった」 そう言って来栖が棚の奥から取り出したものを見て、瀬那は一瞬思考を停止させる。 「…それは…」 「カメラ。しかもこれ、遠隔操作式だな…ビデオ入ってねぇや。どっか別の場所で撮ってたんだな、あいつ…」 「……………」 「おーい、…セナ?」 来栖が瀬那に呼びかけるが、頭が理解を拒否して言葉を返すことが出来ない。ただ、不意に昨日の来栖の言葉が思い出された。 「…一回は着たままだったんだからいい…って言ってたのは……」 「え?」 「…気づいてたんですか!?」 「ああ、その可能性はあるかな、とは思ってたけど?」 さらっと来栖が言った言葉にまたすっと意識が遠くなる。 「だったらする前に言ってください!!」 「言ったらさせてくれないだろ、お前」 「当たり前ですっ」 「んな勿体無いこと誰がするかよ」 悪びれた様子もなく言う来栖に瀬那は真っ赤になって怒鳴るが、糠に釘、暖簾に腕押し、右から左へと抜けていく。 昨日の櫂と来栖の状態と同じではないかと思ったら、どっと肩から力が抜けた。 もう、後の祭りである。 「おい、セナ?」 「もう、いいです…」 「そう拗ねんなって」 「誰のせいですか」 いじけ始めた瀬那に来栖は苦笑いを浮かべる。来栖は初めから気づいていてやっていたのだからいいだろうが、瀬那としては複雑極まりない。何より、あれを櫂や翔が見ていたのかも知れないと思ったら尚のこと。 そうやって拗ねていると、ぽんぽんっと頭を叩かれる。まるで子供扱いである。…瀬那の方が年上の筈なのに、なんだか情けない。 「気にすんなって。別に誰に見られたからってどうなるもんでもないだろ?」 「羞恥心の問題だと思うんですけど」 「オレは別に恥ずかしくないぜ?お前とならな」 「…」 頭を撫でられてそう言われると何も言えなくなって、取り敢えず機嫌が直るまでそのまま来栖に慰められていた。 後日。 「お前、どーせあれビデオに撮ってんだろ?ダビングして回してくれよ」 「ちゃっかりしてますね、逢坂さん」 「いいだろ。出演料だよ。セナには内緒にしてやっからさ」 「まぁ、いいですけど。本物がいるんですから別に必要ないでしょう?」 「本物は世界中飛び回って滅多に会えないんだぜ?時々は慰めるものも欲しくなるんだよ」 「全く、しょうがないですね。今度会った時に渡せるようにしておきますよ」 「そうこなくっちゃな。…ところで、お前また何か企んでねぇよな?」 「今はなにも考えてませんよ。そのうち面白いことを思いついたらまた呼び出すと思いますが」 「いい加減オレ相手はやめろよ。ターゲットはセナだけにしろ」 「さぁ、どうしましょうかね?」 「…お前が来る前の水落センセの隠し撮り写真、十枚でどうだ?」 「前向きに検討します」 「オレとしては子供化しないで女装もいいんだけどな」 「そうですね、次は何を着せましょうかね…」 不穏な二人の会話は延々と続く…。 Fin |