一日の仕事を終え、クリスは伸びをしながら外に出る。 毎日毎日机に向かわされては肩が凝る。遊星学園に居た頃だって、こんなに長い間机の前に座っていた事はないだろう。王様業なんて書類整理とか、くだらない面会とかそういうのばかりで実につまらない。しかし、一度やると言ったものを放棄する訳にも行かないし、事実問題はいろいろあるのだから、それを解決しない訳にもいかないのだ。 これからの果てしない時間を思うと、気が遠くなりそうだが。 暗くなった空を見上げながら、クリスは庭園を歩く。いつも手入れされている其処は、昼間は昼寝に丁度いいが、夜は何も見えない。 それでも、朝昼夜、問わず暇さえあればこの庭園に足を運ぶ人間が居るので、クリスも自然と此処に足を向ける。何処に居るのか解かりやすいのは有難いが、偶には自分の部屋に居てくれないだろうか…そう思っても別におかしくはないだろう。 まだこの辺りにも時々モンスターが出る。腕に自信があり、強いのは認めるが、いくらなんでも無防備過ぎる。否、無防備という点ではきっと他の誰よりも群を抜いているに違いない。普段はそうでもないのに、この庭園に居る時は、驚くくらい無防備になる。 それが心臓に悪いので止めて欲しいのだが、言っても聞かない。 意外と頑固だ。 まぁ、こんな風には思っていても、結局愛しい恋人のことである。クリス自信も甘いのは承知の上。それなら出来るだけ自分が居ればいいのだと腹を括った。むしろ、他の誰かを傍に置いているよりは余程マシかも知れないが。 歩き始めて程なくして、予想通り、人影が見えた。 そして、いつもこの瞬間は心臓が止まりそうになる。 何処か遠い目をしながら其処に佇んでいるセナに。 旅を終えて、ようやく戻ってきた筈だ。それなのに、この瞬間はいつも、何処かに掻き消えてしまいそうな気がしてしまう。儚いというよりは、もう其処に心そのものがないような。何処か遠くに、心だけ離れていってしまったような。 クリスは一つ深呼吸をした。 「セナ」 名前を呼ぶと、振り返って微笑みが返って来た。 「クリス」 「やっぱり、此処に居たんだな」 溜息を吐いて言って見せると、苦笑が返って来た。 「ええ。私の部屋に行ったんですか?だったら…」 「真っ直ぐこっちに来たよ」 だったら申し訳ない、そう言おうとしたセナを遮る。 「お前、絶対此処に居るからな。部屋に行くより確実だろ」 「そう…ですか?」 「自覚ないんだったら、お前、医者行け」 クリスの言葉に、セナは苦笑を返した。自覚はあるらしい。 なければ本気で医者に連れて行くところだ。それでは精神病か夢遊病だ。 「本当に、毎日毎日厭きねぇな」 「此処に来ると、落ち着くんです」 「落ち着く?ふぅん、俺の傍よりも?」 「クリス…」 からかう様に尋ねてみれば、セナは困ったような笑みを返す。 解かっている。四六時中一緒に居られれば言う事はない。けれど、クリスはこの国の王だし、セナはただの近衛兵だ。それでもクリスがセナを特別扱いしているのは皆知っているが、何も言わない。この国を黒い翼から取り戻すために尽力した一人だと言われれば文句を言うものなど誰も居ないだろう。 居たら自分が殴ってるか、と思い当たり、クリスは苦笑する。 クリスにとってセナはただの近衛兵ではない。たった一人、かけがえのない、大切な恋人だ。そのことはまだこの国では紫苑とレイヤードだけしか知らない。 セナがこの国に戻ってきた時、クリスは誰よりも喜んだ。それまでは時々思い出したように姿を見せるだけで、自由に会うことなど出来なかったから。あの旅で、セナの中の何が変わったのか、クリスは素直に感じ取る事が出来た。 セナに欠けていたものが、大切な物が、戻ってきた。 否、完全に戻ってきた訳ではないけれど、それでも、そうやって生きていくだけの心を手に入れたのだろう。 ちゃんと、そうやって戻ってきた事が、何よりも嬉しかった。 「結局、俺に一番心配かけるのはお前なんだよな」 「え?」 「まだモンスターがこの辺にも出るってのに、一人でこう薄暗いところをうろうろしやがって」 「…すみません」 文句を言うクリスに謝っては居るが、改める気はなさそうだ。 「しかし、危ないと思うのなら、クリストファー様こそ、城の中に戻るべきです。貴方は掛け替えのない方なんですから」 「お前な…」 クリスは深々と溜息を吐く。 主君と臣下。周りから見るその立場はどうあっても変えることが出来ないのは仕方ない。だが、それにしたって自分たちの間だけでもその壁を取り除く事は出来ないものか。 いつまでも頭の堅い事を言う。 「掛け替えがないってんなら、俺にとってのお前がそうなんだよ。それぐらい解かれ。理解しろ。馬鹿野郎」 「ですが…」 「それにクリストファー様じゃない。二人だけの時はクリスだろ」 「…」 クリスの言葉に、セナは視線を伏せる。 どうにも気になる事がある。何度言っても、セナはクリスに対して臣下としての立場を続けようとしているように見える。それが気に入らない。 苛々する。 「言いたいことがあるならはっきり言えよ。うじうじ考えてんじゃねぇ。それとも何か?俺のことが嫌いになったか?」 「そんなことは…っ、そんなことは、ありません。ただ…」 「ただ…何だよ?」 「貴方は、この国の王です」 「ああ」 「いつかは、結婚しなければならないでしょう?」 「は?」 セナの言葉に、クリスは本気で自分の耳を疑った。仮にもそれが、目の前に居る恋人に対する言葉だろうか? 「今はまだ国を立て直すのに必死でそんな暇はありませんが、落ち着けば、必ず出てくる問題でしょう?世継ぎを残すために」 「ああ…」 セナの言葉に頷いたのではない。セナが何を言いたいか、理解したからその言葉が漏れた。溜息と共に。 「俺は、結婚するつもりはねぇよ」 「ですが…後継ぎを残さなければこの国は…」 「お前、まーだ解かってねぇみたいだな」 「え?」 「俺はお前が好きなんだ。だからお前以外の奴と結ばれるつもりはねぇし、お前以外の誰かを好きになる予定もない。好きでもない奴を抱くつもりもない。解かった?」 「……」 クリスの言葉に沈黙が返って来る。 それがクリスを苛々させる。 「おい、セナ」 「…私などのために、この国を犠牲にする訳にはいかないでしょう」 その言葉に、クリスは切れた。 犠牲?何が犠牲だ。じゃぁ、この国のためにクリス自身の気持ちも犠牲にしろというのか。大体何が「私などのために」だ。これは謙遜じゃない、自己卑下だ。そんなものは美徳でもなんでもない。ただ、自分に自信がないとか、そんな物でもない。 クリス自身の気持ちを信用していないのと同じ事だ。 口に出る前に頭の中で言葉が回る。 じゃぁ、今までの旅は何だった?何のために旅をしてきたんだ?自分のためじゃないのか。自分の未来のためじゃないのか。ようやく終えて戻ってきてもまだ自分を殺すのか。 今までそうする事でしか生きて来られなかったことぐらい、クリスだって解かっている。それを今更簡単に変えることが出来ない事も。でも、それでは何も変わらない。そして、変えようとしないセナに腹が立った。 そして、その怒りの全てをぶつけるために、行動に出た。 「クリス…んぅっ…!」 「解からねぇんなら、解からせてやるよ。その身体に。お前は、お前自身だけじゃなく、俺の気持ちまで信じてないんだからな」 キスをして、セナの腕をきつく掴む。クリスの言葉にセナは怯えるように震えた。それが、嗜虐心をそそる。 「クリスっ」 「黙れ」 「っ!」 命令する言葉に、セナは息を呑む。そう、セナはその言葉に逆らえない。 命令する者とされる者、その二つでこの世界が分かれるなら、クリスは命令する者の頂点にある。そして、セナは命令されることに慣らされた心をもっている。 だから、セナがクリスに逆らえる筈もない。 「外套を脱いで、あっち向いて、そこの木に手をつけろ」 「クリス…っ」 「早く」 冷酷に響く言葉で、クリスは命令を続ける。結局セナは逆らえず、言うとおりにする。 此処で逆らえばいい。逆らって、嫌だと言えば、それでいいのだ。そうする事が出来れば、クリスは何もこんなにも怒ったりはしない。 それが出来ない事が悔しい。 馬鹿じゃないのか。何のために一緒に居るんだろう。何のための恋人同士だ。そんなことを気にしていたって前には進めない。 セナは、クリスと居ながら、もう別れる時のことを考えている。期待して、傷つかないために。その時に、離れる事が出来るように。 そんなことが、許せる筈がない。 クリスは、セナを後ろから抱きこみ、ズボンの前を開けて、セナのものを握りこんだ。びくっと震えて、夜目にも顔を赤くしているのが解かる。震える身体を抱きしめながら、アンダーシャツの下に手を滑り込ませた。 胸の突起に触れてみると、もう硬くなっている。 「何だ、ひょっとして期待してた?」 「そんなことは…っ」 「嘘つけ。もうこんなになってんじゃねえか」 そう言って立ち上がり始めている前を扱く。セナは震えながらも、必死に声を押さえている。いつまで我慢できるか、試してみるのもいい。わざとセナの一番感じる場所を外しながら触れていく。 「っ、誰か、来たら…」 「誰も来ねぇよ、こんな薄暗いとこ」 「でも…んっ」 洩らしそうになる声を、飲み込む。胸の突起を弄りながら、もう片方の手で前も触る。 「ふっ…ぅ…」 手が震えている。羞恥でか、悔しさでかは解からない。どちらでも構わない。まだ、悔しいと思えるなら、それでいいと思う。 先端から先走りが溢れてクリスの手を濡らす。足ががくがくと震え、立っているのがやっとという状態だろう。クリスは濡れた手を其処から離し、さらに奥へと進める。窄まりに先走りを塗りつけるようにすると、セナの身体が緊張したのが解かる。 片方の手で腰を支えてやりながら、第一間接まで入れると熱い其処が誘うように蠢く。慣れた身体を今にも求めているようだった。指を一本根元まで入れると、ぐるりと中で回す。それだけで、セナは酷く感じる。元々感じやすい性質なのだ。当然だろう。 「っ…ぅ…」 歯を食いしばりながら、それでも時折熱い息が洩れる。 指を二本にして、セナの感じる場所を刺激してやる。足にはもうほとんど力が入っていない。クリスが支えてやっているのでなければ、もうとっくに崩れ落ちているだろう。 「ぅあっ…ぁ…んっ…」 耐え切れずにセナは声を上げた。指を三本にして不規則に動かす。わざと感じる場所を外してやると、引きつったような息が洩れた。 「っく…ぅ―――っ、クリス、クリス…お願い、です、から…ぁっ…」 セナの声を無視して、根元をきつく握る。それから思う存分感じる場所に指を擦りつけてやるとセナは木に縋りつくように爪を立てた。 「ぁあああっ、ぁ、やぁっ…ダメ、です…ぅっ…ぁ」 戒められているから、達する事は出来ない。 指を動かすたびに、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が洩れる。辺りは静かで、セナの声と、その音ばかりがやけに響く。 「ほら、声、押さえないと、流石にこんなとこでも誰か怪しんで来るかも知れないぜ?まぁ、俺は別に構わないけどな」 クリスが人の悪い笑みを浮かべながら言うと、セナはぐっ、と息を呑んだ。 「お前は俺のもんだって、みんなに思い知らせてやりゃ、結婚なんて面倒なことも言われなくてすむかも知れないしな」 「クリストファーさま!」 「何だ?まだ文句を言えるだけ余裕があるのか?」 そう言って、クリスは爪をセナの先端に食い込ませた。 「ひっ、ぁ…ぁあああっ!」 セナは悲鳴に似た声を上げる。 こんなものは苦痛でしかない。それはクリスもよく解かっている。恋人らしい、気持ちの溢れたセックスではない。 「クリス…ぁ…っ、う…」 セナはクリスの名前を呼んで哀願する。この苦痛から解放して欲しいと。けれど、これで気が済むほど、クリスの怒りは浅くはなかった。 「ダメだ。これは、お仕置きなんだぜ?」 「ぇ…?っく、ぁ…ぁあっ」 クリスの言葉にセナは振り返ろうとしたが、その前に指を抜き、其処に自分のものを突き立てた。十分に解してある場所は、やすやすとクリスのものを飲み込み、離すまいと、もっと深くへと誘うように蠢いている。 「何だ、喜んでるじゃねぇか、これじゃ、お仕置きにならないな」 クリスは嘲る様に言う。 セナはその言葉を聞いているのかいないのか、快楽に耐えるように身体を緊張させている。クリスがゆっくりと動き始めると、押さえようとしている声が、それでも洩れてくる。 「ふっ…・ぅ、んっ…ぁ、…あ…っ…ゃめっ…んっ…」 甘い声。直接感じる快感。クリスはそれに酔いながら、セナを解放しない。セナの其処は張り詰めていて、今にも達しそうな程なのに、クリスが根元を戒めているので、どうしても達する事が出来ない。感じすぎて、それは痛みに変わる。 クリスは、ふと悪戯心を湧かせる。そして思いついたままの行動に出た。 「セナ、ちゃんと手ついて、身体支えてろよ」 「え?」 セナが問い返す間もなく、クリスはセナの両足を掴んで持ち上げた。 「…っぁ、くぅ…っ、ぁあああっ!!」 体重がかかり、より深く其処に飲み込まれる。セナは必死に少しでも負担を減らそうと木にしがみつく。それと同時に戒められていた手が外れたので、そのままセナは射精した。しかし、その余韻に浸る暇もなく、次の快楽がセナを襲う。 手が震えて力が入らないが、それでも、少しでも身体を支えようと、木に抱きつくような格好になる。足を持ち上げられて、深く飲み込まれ、力む所為で余計にその形をはっきりと感じた。 「ふぁ…ぁ、あ…っ、ぁ…あ…ぅ…んっ…はっ…あ」 最早声を押さえる事など忘れて、どうにかして楽になろうと呼吸を繰り返す。 「っ、流石に、俺もきついな、これは」 クリスは苦笑する。思い付きからした事だが、きついのは確かだ。何より、セナの方が身長もある。支えるのも限界だろう。何より、木に縋りつくセナの手は殆ど役目を果たしていない。ようやく、身体を支えているぐらいだ。 「下ろすぞ」 クリスは短く言って、セナの足を下ろした。しかし、その足もセナを支えることは出来ず、がくっと膝が折れた。その所為か、尚更奥へと飲み込んでしまう。 「ひあぁっ…ぁ…あっ……」 木を支える手もとうとうずり落ちた。全身が震えて力が入らない。クリスは、そのままゆっくりと腰を地面に下ろした。 膝の上に後ろ向きに乗せるような形になる。 セナを後ろから抱きしめながら、もう一度、根元を戒めた。 「あっ…やめ、て……お願い、ですから…っクリス…!」 しかし、クリスはその声を無視して突き上げる。セナは大きく身体をのけぞらせる。 快楽は留まることなく体中を駆け巡り、今は何処に触れても感じてしまう。クリスの空いているもう一つの手が、セナの身体をくまなく触れていく。 「ふぅ…っ、…ぁ…はっ…んっ…」 セナは先ほどから涙が止まらず、視界がぼやけてよく見えない。 「クリス…っ、クリス…お願い、です…もう…許して…っ…」 「許す?アンタは俺が何に怒ってるか、解かってんのか?」 解かっていないだろう。 クリスは律動を繰り返しながらセナを追い詰める。 「ぅ、あ…ぁ…ふっ…ん…ぁあ…」 答えているのかも解からず、洩れる嬌声を聞きながらクリスは苦笑する。 こんなことをしたって、きっとセナには解からない。怒りに染まった自分の気持ちが何なのか、クリスは言葉にすることが出来ないでいる。 ただ、確かな事がある。 「セナ、お前はどうして俺を信じない。俺の気持ちを」 「っクリス、…ぁ…んっ…」 答えようと言葉を紡ぐが、舌が回らないらしい。 律動は激しくなり、セナのものは大きく張り詰めている。もう、限界も近いだろう。だが、クリスは戒めを解かない。 「ふぁ…っ、クリス…もうっ…も…っ、イかせ……イかせて…くださ…っ」 セナは掠れた声で懇願する。 何度目の願いだろう。クリスはそれを尽く無視した。追い詰められて、頭も正常には働いていないだろう。 「イかせて欲しいか?」 「んっ…イかせて…ほしっ…ぃ…」 「だったら、俺を信じるか?俺の気持ちを信じるか?」 「…クリ…ス……ぁ…」 「もう二度と、あんなことは言わないと約束するか?」 クリスの問いかけに、セナは一瞬迷うような表情を見せる。それを見て、クリスはセナのものを尚更きつく握りこんだ。 「ゃ、あっ!ぁあっ…ぅ…」 「約束するか?」 「…ふっ…ぅ…しま…す。…約束、します…か、ら…っだから…!」 疾うに限界は超えている。セナは震える手でクリスの手を掴む。 実際、こんな時の言葉に大した意味はないだろう。今、こんな風に無理矢理言わせたところで、効力はない。ただ、それでも言わせたかった。 自分の気持ちをただ、信じて欲しいだけなのだ。 クリスは、セナの答えを聞いて、ようやく戒めを解く。 そうして、大きく律動を繰り返し、セナの感じる場所を突くと同時に前を扱いた。 「ぁ、ぁああああっ―――…ふっ、ぅ―――っ」 セナは一際高く声を上げ、射精する。クリスもそれと同時にセナの中で達した。 セナの身体からは完全に力が抜けて、ぐったりとクリスに身を委ねている。 赤く染まった頬や、震える身体は、達したばかりのクリスの官能をまだまだ刺激した。そうして、クリスはまたセナの前に手を伸ばした。 「クリ…ス…?」 「もう一回」 「ちょっ…まっ…ん…ぁ…」 静止をかけようとする、セナの声を前を扱くことで押さえる。 「俺はまだ一回しかイってないんだぜ?今度はちゃんと愛してやっから」 「クリス…」 セナは困ったような顔をして、それでも最後には薄く微笑んだ。 そんな顔を見ると、何もかも許されている気分になる。それが心地よく、クリスは、セナと今度は向かい合いながら抱き合った。 クリスが満足行くまで抱き合った後、セナは流石にぴくりとも動けないほど疲れて、地面に仰向けに寝転んだ。 クリスはセナほど疲れてはいないから、身体を起こしている。 「セナ、さっきの約束、ちゃんと覚えてるだろうな?」 「ええ…でも…」 「でも、何だよ」 「本当に、この国のことは…」 やっぱりまだ心配か、とクリスは苦笑する。 それとも信頼されていないのだろうか。 「セナ、俺は言ったよな?人間界では、人間はみんな平等だって教わったし、それが真実だって」 「はい」 「だからさ、俺が死ぬまでには、この国は王様の居ない国になってるぜ?」 「え?」 クリスの言葉に驚いて、セナは目を見開く。 「確かに、今はこの国に王様は必要なんだろうさ。だけど、それが正しい姿かどうかは別だろう。俺はみんなが平等な世界を作る。俺やお前も、この国の人たちもみんな平等だ。身分差なんか、ありはしない。今は仕方ないにしても、あと、何十年か掛かるかもしれねぇけど、それでも、俺が死ぬまでには、この国を、王様の要らない、みんなが平等な国にしてやるよ」 「クリス…」 「つーことで、俺は結婚しない。問題ない。王様がいなくなるんだから世継ぎも必要ない。解かった?」 「…はい」 クリスの言葉に、セナは微笑む。 セナの本当の笑顔で。 「セナ、愛してるよ。誰よりも。俺の恋人は、一生お前だけだ」 「はい、私も、同じ気持ちです」 セナの言葉にクリスは微笑み、そして寝転ぶセナの前に屈み込み、口付けた。 Fin |